2019年は「QRコード決済」飛躍の年になるのか
~キャッシュレス決済と地域活性化を考える~

「まちづくり」と言う名の自治体ブランド戦略 [第9回]
2019年3月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

市場調査会社「ICT総研」の「2019年 モバイルキャッシュレス決済の市場動向調査」によると、2018年度におけるスマホアプリの電子マネー利用者(アクティブユーザー数)は前年比29.6%増の1,157万人となり、2021年度末には2,000万人規模にまで利用者数が拡大しモバイル決済市場が急成長すると予測しています。

このような動向に対して、経済産業省では「キャッシュレス・ビジョン」を策定し、2025年の大阪・関西万博までにキャッシュレス決済比率を40%まで引き上げ、将来的には世界最高水準の80%に到達することを目途に、2018年7月には「キャッシュレス推進協議会」が設立されました。

キャッシュレス化の推進については、「現金輸送や管理コストの削減」「レジ締め業務の簡略化」「お金の流れを明確にする」などの利点が考えられます。このほかにも、事業者側から見ると煩わしい小銭の管理や、両替のためにATMへ出向く行為から解放されるなど、様々なメリットが考えられます。

アジア圏内では中国の都市部を中心に、独自の文化や社会的課題を背景として「QRコード決済」が爆発的に普及しています。そして、日本国内においても中国人観光客向けに同様のサービスの導入が開始されるなど、スマホアプリによるモバイル決済市場は急速な進展を見せています。2019年は我が国における「QRコード決済」飛躍の年になるのでしょうか。

QRコードの仕組みと「QRコード決済」

QRコードは1994年に我が国で開発された2次元バーコードの総称であり、データを素早く読み取ることをコンセプトにしたことから、「クイック・レスポンス」の頭文字を取ってQRコードと命名されました。

仕様がオープン化されていることや、2000年代以降は携帯電話にQRコードの読み取り機能が搭載されたことで利用者が拡大しました。2010年の法改正において銀行以外の事業者も送金業務が可能になったことから、「LINE Pay」「楽天ペイ」「Origami Pay」「PayPay」など、新たな「QRコード決済」サービスが誕生しています。

また、QRコードの情報は専用のQRコードリーダーのほか、携帯電話・スマートフォンに搭載されたカメラで読み取ることが可能です。つまり、リーダー等の専用機器が必要でないため、事業者側に対する参入障壁を一気に引き下げたともいわれています。

このQRコードを利用した決済システムでは、店舗側が提示するQRコードを顧客がスマホで読み取る方式と、顧客側のスマホアプリに表示されたQRコードを店舗が読み取る方式の2通りの方法があります。ユーザーは銀行口座やクレジットカードをQRコード決済アプリと紐づけすることで、現金を持ち歩かなくても買い物ができるようになり、中国の国内では新たな決済手段として市場が拡大を続けています。

この「QRコード決済」サービスが急速に進展する状況から、いまでは中国はキャッシュレス先進国と呼ばれるような存在となり、百貨店やコンビニはもちろん、小規模の個人商店や自動販売機でもスマホ決済が日常的に利用されています。そして、日本を訪れるインバウンドの主流として中国人観光客が存在感を強めていることから、地域活性化・観光政策の観点からも中国国内と同レベルの「QRコード決済」環境の整備が喫緊の課題として挙がっています。

中国で急拡大する二つの「QRコード決済」サービス

中国で急速に進展するキャッシュレス化の背景には「紙幣の質が悪い」、「偽札が多い」、「紙幣が汚く不衛生」など、人々が現金に対して持つネガティブな印象が根底にあるといわれています。そのような中、日常的な決済サービスとして「Alipay支付宝(アリペイ)」と「WeChat Pay 微信支付(ウィーチャットペイ)」二つのサービスが定着しつつあります。

「Alipay支付宝(アリペイ)」は、中国版の楽天市場とも言われているネットショップ「淘宝網(タオバオ)」を運営する、「阿里巴巴集団(アリババ集団)」が展開する決済サービスの名称です。

「Alipay(アリペイ)」での決済は、利用者が自分のスマホアプリに表示されたQRコードを店頭で提示し、店舗側がこれを読み取ることで、利用者のアカウント残高から支払いを行う仕組みです。このQRコードは1分ごとに切り替わることでセキュリティを確保しています。なお、屋台などの小規模小売業では店舗側が提示するQRコードを読み取って購入金額を利用者が入力し、決済完了画面を店員に見せて支払いを行う仕組みも併用されています。

また「Alipay(アリペイ)」には無料で友人へ送金できる機能があり、友人に買い物を依頼して、その場で送金することも可能になっています。その他にも出前の注文、映画のチケット購入、タクシーの配車、飛行機・ホテルの予約などにも利用できることから、人々の生活シーンに密着したサービスとなっています。

SNSアプリを基盤に普及した「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」

中国版LINEともいわれる「WeChat 微信(ウィーチャット)」は、約6億人のユーザーが利用する中国で最も有名なSNSです。テキストと音声でチャットすることが可能で、文字を入力する手間が省けることもあり、人々がスマホに向かってメッセージを吹き込む光景が日常的なものになっているようです。

また「WeChat(ウィーチャット)」が持つユニークな機能として、日本の「お年玉」「おひねり」のような、中国の伝統的な風習に対応した「紅包(ホンバオ)」という送金機能があります。「WeChat(ウィーチャット)」に登録しているメンバー全員や特定の人物に対して、0.01元~200元までを限度にお金を配ることが可能です。一定金額ではなくランダムな金額を送金することもできますので、受け取った側は開封しないと金額が分からないため「ラッキーマネー」と呼ばれています。

この「WeChat(ウィーチャット)」が提供する決済サービスが、「Wechat Pay 微信支付(ウィ―チャットペイ)」です。2014年からサービスを開始し、いまでは「Alipay(アリペイ)」と肩を並べる「QRコード決済」二大勢力のひとつです。

決済の手順は「Alipay(アリペイ)」とほぼ同じで、店頭に掲示されたQRコードを利用者がスマホで読み取り、その後、店舗側から聞いた金額をスマホに入力することで、利用者のアカウントに紐づけられた銀行口座から引き落としを行います。

後発の「Wechat Pay(ウィ―チャットペイ)」が「QRコード決済」として急速に普及したのは、約9億人のユーザーが日頃からコミュニケーションツールとして活用する「WeChat(ウィーチャット)」に決済機能を付加したことが大きな要因と考えられます。

キャッシュレス化が目指すものは

キャッシュレス化の先進国としては、北欧のスウェーデンが有名です。国全体でキャッシュレス社会への切り替えが進展した理由の一つに、犯罪・防犯対策があることは既存の事実で、一般の店舗や公共施設などに現金を置く必要がないキャッシュレス化に期待する世論の後押しがありました。

これに加えて、人口と比較して国土が広いため、冬季に遠隔地へ現金を搬送する際に輸送コストが増大する課題も抱えていました。このスウェーデンの事例から見ても、他国のキャッシュレス化の状況と、段階を経てキャッシュレスインフラが整備されてきた日本の現状を単純に比較するのには問題があると思われます。

日本国内で日常使いのキャッシュレス決済としては、交通系ICカードに代表される「非接触(NFC)」決済や「おサイフケータイ」が利用されていますが、既存の決済システムだけに依存していては限界があります。「QRコード決済」は、既存の決済サービスと対立するのではなく、お互いが補完・連携することで、さらなるキャッシュレス化が期待できるのではないでしょうか。

「QRコード決済」は数ある決済手段の1つにすぎません。既存の「非接触(NFC)」決済や「おサイフケータイ」などと、互いの長所を活かしながら連携することで、利便性を向上させることが可能になると考えます。

デバイス(端末機器)に依存しないことも「QRコード決済」のメリットです。「非接触(NFC)」決済や「おサイフケータイ」を利用するには、スマホに「FeliCa」チップが内蔵されている必要がありますが、「QRコード決済」であれば基本的にどの機種でも使用が可能になります。地域活性化の視点から見ても、外国人観光客が持つ個人のスマホで利用できる「QRコード決済」はインバウンド需要の拡大にも貢献できると思われます。

ビジネスモデルの観点から考えると、「Alipay(アリペイ)」では手数料が1%未満と安価に設定されていますが、決済システムがプラットフォームを形成することで、決済を起点に他の各種サービスにつなげるなど、手数料収入に依存するのではない、他の領域で収益を確保する仕組みを作り上げたことに注目すべきです。

キャッシュレス化そのものは結果で、キャッシュレスが目的ではありません。目指すべきところは「社会の効率性向上」と「ユーザーへの便益提供」です。今後は「決済機能」をプラットフォームとして、利用者にどのようなサービス・ベネフィットを提供できるかが事業者側に求められるのではないでしょうか。

「まちづくり」と言う名の自治体ブランド戦略

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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