三度目の「維新」の先にある「スマートシティ」
~「Society5.0」時代の地域情報化を考える~

「令和」元年に思う自治体情報システムの本質 [第6回]
2019年10月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

時代が「平成」から「令和」へと遷移し、超スマート社会実現へ向けたキーワード「Society5.0」が注目を集めています。情報通信技術の進展によって我々の住民生活が飛躍的な変化を遂げた「平成」の時代、その根底には「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」から「情報社会」へと連綿と続く社会の進化がありました。

モノとモノが「IoT(モノのインターネット化)」でつながり、集積されたビッグデータを「AI(人工知能)」が分析することで新たな価値を創り出し「サイバー空間とリアル空間の融合」が牽引するこれからの「令和」の時代、先端技術の導入による社会課題の解決と、持続可能な地域社会の確立を目指す「Society5.0」社会の実現へ向けた動きが注目されているのです。

「Society5.0」について、内閣府では次のように説明しています。


「Society 5.0」で実現する社会は、IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。


しかしその一方で、我々の目前には「急速な人口減」や「未知の高齢化」、「長引く低成長」など、多くの課題が山積していることも事実です。「Society5.0」時代に向かって、これから実現したい未来の姿をどのように描けばよいのでしょうか。

三度目の「維新」に直面する日本

ここで言う「維新」とは、それまで信じてきた既存の仕組みが何らかの要因によって過去のものとなり、「倫理観」「価値観」が大転換することで、住民の暮らしや社会全体が激変する現象を表してします。

近世の日本にとって、一度目の「維新」は徳川幕藩体制が崩壊した、文字通りの「明治維新」です。二度目の「維新」は、第二次大戦によって日本の国土が焦土と化した敗戦による「維新」です。勤勉な日本人は、一度目の倒幕による「維新」では、富国強兵と殖産興業によって「強い日本」創出し、二度目の敗戦による「維新」では、戦後の成長経済による「豊かな日本」を達成しました。

ところが、今では戦後の成長経済による「豊かな日本」を目指した時代の戦略「少品種大量生産」は過去の遺物となり、ビッグデータを活用することで顧客のターゲティングが可能となった現在ではビジネスモデルが「多品種少量生産」へと移行しています。

この時代の変遷によるビジネスモデルの変容は、「水平展開型」の事業展開を主流とした「規格大量生産」時代の終焉と言い換えることもできます。その結果、かつては事業展開を強化するために国境を越えて市場の拡大・統合を目指した欧米各国は、いまでは「自国ファースト」へと大きく政策を転換し、イギリスは「EU」からの脱退を目指し、米国のトランプ政権は「アメリカ・ファースト」を標榜しています。

三度目の「維新」を乗り切るために

このように世界の状況が大きく変動する中、「平成」から新たな時代「令和」を迎えた日本では生産性人口が縮小していく一方です。2020年には団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、年金・医療費等の膨大な社会保障費が必要となる大転換期、三度目の「維新」を迎えることになります。

1970年代に提唱された「日本列島改造論」では、本社機能を首都圏に置いて地方に工場を配置する、東京一極集中型の国づくりが推奨され、首都圏の発展は現在も続いています。しかし、今後リニア中央新幹線の開業によって地域間の短時間移動が可能になることで、より利便性の高い都市に向けて人口の流入・集積が加速するなど、新たな人口流動が発生する可能性も示唆されています。

また別の動向として、地方の自治体においては、高齢者を中心にショッピングセンターへの「買い物」や、病院・医療機関への「通院」など、アクセス等の利便性の高い地域へ人口が集中する現象が自然なかたちで進展することも考えられます。

「明治維新」の際、明治政府は大政奉還の段階で271藩あったものを、廃藩置県によって、全国規模での府県の大統合を行い75府県にしています。今後激変する社会環境に対応するためには、「平成の大合併」の時のように自治体は地域本来のすがたを再度見直し、現在1,741ある市町村の枠組みや自分達の生活圏についても、財源と権限の再配分について、もう一度考え直す必要があるのかもしれません。

「スマートシティ」構築と「ユーザー・ドリブン・インベーション」

「Society5.0」の時代は、あらゆるモノがインターネットにつながり、リアルタイムで情報・データのやり取りを可能にする「IoT」が特別なものではなくなります。これにより、経済・社会の広範な領域で横断的に利活用することで、社会的課題の解決を図り「新たな暮らし価値」を創出する「スマートシティ」構築へ向けた動きが加速すると思われます。

「スマートシティ」構築への取り組みが加速するなかで、重要とされる視点が、そこで暮らす地域住民やその舞台となる地域社会をイノベーション推進の中心に据える、「ユーザー・ドリブン・イノベーション」の考え方です。

「ユーザー・ドリブン・インベーション」とは、ユーザーが様々なステークホルダーとともに、新たな技術やサービス・製品開発する場面で、プロトタイプ・実証実験等の試行段階でのレビュー・評価などイノベーションの形成プロセスに能動的に関与することで、より高度なものを目指すユーザー参加型アプローチの総称です。

「ユーザー・ドリブン・イノベーション」のもとでは、アイディアや開発の段階からテスト・改良・製品化の段階まで、ユーザーが直接能動的に関わることを目指します。この考え方を「まちづくり」に活かすことができれば、社会的課題の解決や公共サービスの質的向上などに、住民・ユーザー側の意見を直接反映させることが可能になります。

住民サービスを主眼としたシステム連携基盤の確立

人口減少型社会が進展する中で、地方自治体が既存の発想でこれまでの延長線上の施策展開を続けていくとすれば、住民サービスの提供はいずれ限界に達し、先行きが見えない状況が訪れると思われます。

「ユーザー・ドリブン・イノベーション」によって、ユーザー側の意見を直接反映させることが可能になると、次に重要になるのが、ユーザーを中心とした個々のサービスの連携・コラボレーションです。

少子高齢化や生産性人口の減少等の課題が現実になった今、多くの都市が社会的課題を解決する方策として「スマートシティ」の構築に取り組んでいます。しかし、その多くは、観光、環境、保健医療、公共交通など、一つの分野に特化しているのが現状です。

地方自治体は自らが管理運用するシステムの中に、地域に関連する膨大なデータを保有しています。今後は、それらのシステムに横串を刺すようなかたちの庁内を横断するシステムを構築し、観光、環境、保健医療、教育、公共交通、業務効率化(RPA)、移動手段等の領域について、利用者である住民を中心に考えた、各サービスが連携するプラットフォーム「地域システム連携基盤」と言えるような仕組みを創り出し、運用すべきではないでしょうか。

「ビッグデータ」と「ディープデータ」

「Society 5.0」においては、「IoT」などの仕組みを通じてサイバー空間に膨大な情報「ビッグデータ」が集積され、その膨大な情報を「AI」が解析し、その結果をフィードバックすることで、社会や人々の活動に対し多様な価値をもたらす、スマートシティの実現につながって行きます。

いま海外では、「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」等の膨大なデータ「ビッグデータ」を蓄積している企業が、ユーザーの「属性」や「趣味嗜好」を、より深く詳しく把握できる「ディープデータ(Deep Data)」の重要性に着目しています。そして、顧客から信頼されるサービス提供に向けた「ディープデータ」を活用した戦略に事業の方向性を転換させています。

「スマートシティ」の構築には、「完成」や「終わり」はないと考えます。1つのプロジェクトが完了したら、また次の実証が始まる。そうして永続的に改善を続けていくことがその地域を輝かせることになります。ウォルトディズニーの名言「ディズニーランドは永遠に完成しない。世界に想像力がある限り成長し続ける。」のように、地域を愛する住民と自治体があるかぎり、「スマートシティ」への取り組みにゴールはありません。

真の意味での「Society 5.0」実現に向けたイノベーションを継続させて、その地域に関連するステークホルダーを巻き込み新たなビジネスモデル創出するなど、自治体が中心となった「システム連携基盤」を確立し、地域コミュニティ全体で取り組みを推進する「エコシステム」を形成していくことが重要ではないでしょうか。

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