緊急時における事業継続性の確保に向けて
~「サテライトオフィス」の可能性を考える~

新時代に向けた地域情報化政策の方向性 [第4回]
2020年5月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

「新型コロナウイルス(COVID-19)」の猛威が止まりません。日本国内だけではなく、世界の国々で社会不安が拡がり株価が乱高下するなど、経済状況を悪化させるとともに、各種のイベントが延期・無観客開催になるなど、我々の日常生活にも大きな影響を与えています。

しかし、それよりも恐ろしいのは、我々の思考が停止してしまう事ではないでしょうか。社会不安によって多くの人々の視野が狭くなっていますが、今は下を向いている時ではありません。いまこそ、上を向いて全身全霊で思考を回転させ、暗闇の中に光を見出す時ではないでしょうか。

もちろん、疾病が永遠に続くことはありませんので、時が至れば「対処可能」となるはずです。しかし、それまでの間に社会経済に与える影響は甚大なものとなり、我々が築き上げてきた様々な枠組みを崩壊させるほどのインパクトを秘めていると思われます。

現在の状況を打開するには、まずは社会的ダメージを最小限に抑制することが肝要です。大変厳しい状況ではありますが、我々は前に進まなければなりません。いまこそ、勇気を持って反撃ポイントを探り、有効な反攻手段を展開することが求められているのです。

いまこそ「テレワーク」を推進しよう

「テレワーク」については、1980年代後半に「サテライトオフィス構想」が提唱され、その後様々な議論が繰り返されてきました。職場スペースの削減、文書等のデータ化による業務効率の向上、通勤時間の短縮、多様な働き方を認めることで優秀な人財を確保できるなど、そのメリットは多岐にわたります。今回の「新型コロナウイルス」への対応など、緊急時・災害時における「BCP(事業継続計画)」遂行の観点からも、より積極的に推進すべきではないでしょうか。

今回の「新型コロナウイルス」への対応として、米ツイッター社は更なる感染拡大を防止するため、早々に世界各地で働く全社員を原則「在宅勤務」にすると発表しました。いまこそ、我々の働き方の中に、「テレワーク」を取り入れる時期を迎えたのかもしれません。

「新型コロナウイルス」が終息した後も、今後また新たなインシデントが発生することも考えられます。今回を機に、「テレワーク」「リモートワーク」を強化していく流れは必然のものになると考えられます。緊急時の対応に備えて事業継続性を確保するためにも、何処でも仕事が出来る環境を構築する、我々の働き方を更新する時期に来ているように思います。

「テレワーク」は、本来の勤務地である事務所など以外の場所から、ICT(情報通信技術)を活用して仕事を行う業務形態をあらわす総称です。時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方として、ワークライフバランスの実現や、人口減少時代における労働力人口の確保など、その効果やメリットは認識されていますが、導入に際して課題があることも事実です。

セキュリティ対策とコミュニケーションの課題

自宅やサテライトオフィスなどで仕事をする「テレワーク」では、業務用パソコン・タブレット端末等をモバイル環境で使用することが前提になりますが、端末の紛失や盗難の危険性、外部のネットワークから接続することによる情報漏えいなど、普及を阻む要因を克服する必要があります。

これら課題への対応としては、セキュリティが担保されているクラウドサービス基盤の活用や「VPN」、「仮想デスクトップ」、「データの暗号化」、「生体認証」によるログイン機能など、モバイルPC等の盗難・紛失リスクを回避することが可能となる仕組みを構築することが肝要です。

また、職場に出勤して業務を行う従来の働き方であれば、互いに顔を見合わせることで情報の共有やコミュニケーションが円滑に行えました。しかし、従来型の雇用形態や働き方とは大きく異なるテレワークの場合、コミュニケーションが希薄になり、テレワーカーの孤立や、チームとして職場全体の組織力低下が懸念材料となっています。

総務省の「平成30年版情報通信白書」社内でのコミュニケーションに用いられるICTツール(ビジネスICTツール)の導入・利用状況調査によると、「ビデオ会議システムの導入(49.0%)」、「チャットシステムの導入(39.6%)」の回答率が高く、職場においてビジネスICTツールを利用する方が働きやすいと感じている人の割合が多いことが判明しています。これらの結果がコミュニケーションの課題解決の参考になると思われます。

「サテライトオフィス」の活用

「サテライトオフィス」は、組織の本拠地から離れた場所に設置されたオフィスの呼称で、以下の3つに大別することができます。

  • 都市内の複数の拠点にオフィスを設置する「都市型」
  • ベッドタウン等にオフィスを設置し、通勤時間の短縮や介護・育児との両立を目的とする「郊外型」
  • 地方自治体等が自らの地域にオフィスを誘致し、二地域就業による雇用の促進を目指す「地方型」

この度の「新型コロナウイルス」など、緊急時・災害時における「事業継続性」を確保する観点からも「サテライトオフィス」の活用には大きな期待が寄せられています。それに加えて、職住近接による「通勤時間の削減」「時間の効率化」にともなう「経費の削減」や、通勤・移動時間の削減分を業務に充てることで「生産性向上」と「ワークライフバランス」の実現が可能になると思われます。

これまでの業務体系は、セキュリティ確保とデバイスの性能面での制約等からオフィス内での勤務が一般的でした。しかし、働き方改革が急速に進展する中で「リモートワーク」、「コワーキングスペース」等の新たな取り組みや、既存の職場においても「フリーアドレスオフィス」の導入など、生産性を高める「スペース」として「職場」の在り方を見直す動きが加速しています。

「テレワーク」普及の課題として、オフィスとオフィス以外の労働環境の格差による業務効率の低下が挙げられていました。しかし、近年における高速ネットワーク整備や軽量・高スペックのモバイルノートPCの登場に加えて、高セキュリティなクラウドサービスの台頭も「テレワーク」推進を後押しする要因になると思われます。

安全な「テレワーク」の確立に向けて

「テレワーク」「リモートワーク」を導入する際のセキュリティ対策としては、「通信の保護」と「端末の保護」そして、悪意を持った第三者のアクセスから防御するため強固な「ログイン認証機能」を持った仕組みを作り出す必要があります。

「通信の保護」では、「VPN(Virtual Private Network)」環境を構築して、安全な通信を確保するのが一般的です。「VPN」はその名称のとおり、仮想のプライベートネットワークによって、認証されたユーザー以外は接続できない通信環境内でデータのやり取りを行うことが肝要です。

「端末の保護」については、業務で使用するモバイルPCのローカルデータを暗号化することが基本となります。この際に留意すべきは、「TPM(Trusted Platform Module)」と呼ばれるセキュリティチップの存在です。

「TPM」はCPUとは別にマザーボードに直接取り付けられているセキュリティ用のチップで、OSが「Windows 10 Pro」であれば、OS標準のデータ暗号化機能「BitLocker」によって、端末内のドライブを暗号化することが可能になります。この機能によって、モバイルPCが盗難・紛失に遭った際でも、データを読み出すことは出来ず強固なセキュリティの実現が可能になります。

「ログイン認証機能」については、「顔認証」「指紋認証」など人間の身体的特徴を用いて認証を行う「生体認証」を採用することが基本です。さらに、「顔認証」システムとマイナンバーカードによる「個体認証」を併用する「二要素認証」を行うことで、PC搭載カメラによる顔面画像と、マイナンバーカード内の顔面データを照合するなど、強固なログイン認証が実現できると思われます。

「テレワーク」の作業環境については、モバイルPC端末からオフィス内に設置したデスクトップPC等の端末を遠隔操作・閲覧する「リモートデスクトップ」方式と、ネットワーク上の仮想PCに接続してこれを利用する「仮想デスクトップ」方式に大別されます。

モバイルPC端末にデータを保存しない点はどちらの方式も同様ですが、オフィス内の端末とモバイルPCの複数のデバイスが必要な「リモートデスクトップ」と比較して、オフィスに端末を用意する必要がなく、サーバー上で仮想PCの管理が一括して可能な「仮想デスクトップ」方式にメリットがあると思われます。

緊急時における事業継続性の確保に向けて

我が国では海外の諸国とは異なり、職場の空間・時間を職場全体で共有することが「働き方」の中で重要な位置付けとして認識されています。同じ仕事をする仲間として、勤務時間内に本音の話ができないと職場の一体感を保てないと考えられてきましたが、「ジョブ共有型」マインドからの脱却が必要なのではないでしょうか。

全てのスタッフが「テレワーク」をすることは無理でも、各業務を見直しセグメント化することで、常駐スタッフを削減することが可能になります。ネットワークが発達した現代、オフィスに集まって勤務することで、無駄な時間やコストが発生することにも気付くべきではないでしょうか。

我々には多様な働き方が求められていますが、これは我が国の人口問題とも大きく関係しています。今後、生産性人口が減少していく状況の中で、人材の確保は最優先事項ですが、生産性人口を構成する若年層の人口は「育児・介護のダブルケア」を担う世代でもあります。「サテライトオフィス」「在宅勤務」の運用など限られた人的資源を効率的に活用することによって多様な働き方を見出し、生産性向上を促進出来なければ、今後の日本経済には暗雲が漂うのではないでしょうか。

元号の「令和」の「令」を、「零(れい=0)」と読み替えると、「令和」は「零(ゼロ)にして和する」と、言い換えることもできます。

いまこそ、仕事のやり方を見直し、原点に立ち返って「零(ゼロ)」から再起する。

そのようなことを想起するのは私だけでしょうか。

新時代に向けた地域情報化政策の方向性

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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