「COVID-19パンデミック」の先にあるもの
~「ポストコロナ時代」の動向を考える~

新時代に向けた地域情報化政策の方向性 [第5回]
2020年6月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

振り返って見ると、我々の歴史はまさに「ウイルス」「感染症」と人類との戦いの歴史でした。強力な「感染症」の出現は社会を変える契機となり、ヨーロッパにおいては中世社会を終焉させています。この度の「COVID-19パンデミック」も、世界を激変させるようなインパクトを秘めているのでしょうか。

「新型コロナウイルス」の感染者数が増加することによって、企業の「テレワーク」や外出自粛による家庭内での動画視聴の影響で、データ通信量が飛躍的に増加しています。NTTコミュニケーションズによると、国内の3月最終週平日の通信量は2月上旬と比較して最大4割増加しています。また、「インターネットの現状」を四半期ごとに発表している米国アカマイ・テクノロジーズのデータでは、世界中で在宅勤務や休校が拡大し、遠隔での会議や動画視聴の機会が増えたことで通信量が跳ね上がり、世界のデータ通信量は1~3月に前年同期の2倍以上となる毎秒160テラ(1兆)ビットを記録しています。

また、ウェブサイト等のトラフィック分析を行う、米国シミラーウェブによると「新型コロナウイルス」の影響で各企業がテレワークを実施したことを背景に、「Zoom」「Google Hangouts Meet」「BlueJeans」など、テレビ会議クラウドサービスのトラフィック量が3月後半に入ると急激に増加し、今年1月との比較では、3月第3週には600%増化しています。そして、生鮮食料品のデリバリーサービスを展開する「Costco's Same-Day」「Fresh Direct」「Peapod」等のWebサイトも、3月には利用が急増し、3月第3週目では1月の3倍を超える325%の増加を記録するなど、インターネットのアクセス状況が大きく変動しています。

いまこそ必要な連携と強調

いま私たちは「新型コロナウイルス」の猛威によって、公衆衛生、経済活動、社会行動などの多方面において、世界的な危機に直面しています。我々がこれからどのように行動するのか、それによって今後の社会全体の在り方や経済・文化も含めて、「ポストコロナ時代」の世の中の仕組みが形成されると思われます。

どの地域においても、自分達の地域だけを完全に守ることは出来ません。「COVID-19パンデミック」への対応は人類が直面しているグローバルな問題であり、世界が現在直面している課題なのです。そのように考えると、今こそ地域間の連携・強調が必要であり、自国のみを優先するのでなく自らが持つ情報を積極的に公開・共有し合って、お互いの知見やリソースを補完し合う国際協調が必要と考えられます。

そして、これは国家間の協調だけではなく、日本国内の各地域においても同様です。ウイルスに国境という概念は通用しません。自国ファーストの政策を推し進めるのではなく、互いに協調・連携することの重要性は、2002年の「重症急性呼吸器症候群(SARS)」発生や、2013年に「H7N9型インフルエンザ」が発生した際にアメリカと中国が共同で研究を実施して成果を挙げたことが示しています。

素直に考えると、短期間で「新型コロナウイルス」を駆逐することは困難な状況であり、ワクチンや治療薬の開発は当面先になると思われます。また、ワクチンが開発されたとしても、「新型コロナウイルス」自体は存在していますので、我々は「ウイルス」と共存していることを認識する必要があります。

大規模な自然災害の発生や、再び「新型コロナウイルス」のような感染症が発生することを想定するべきではないでしょうか。そのため、感染症への対策や災害発生時の対応等、緊急時における「事業継続性」の確保は、全ての地域において恒久的に取り組むべき必須の課題ではないでしょうか。

事業継続性の確保を考える

今後、各地域においては緊急時にどのような仕組みで「事業継続性」を確保するのか、既存事業のオペレーション、サービスデザインを見直し「ゼロベース」から再構築する必要があると思われます。そして、このような取り組みを地域全体で展開していることを「見える化」し、内外に向けて情報発信していくことが重要になります。

今回のコロナショックは、1929年に始まった「世界大恐慌」以来の経済悪化になるのではと懸念する意見もありますが、当時の状況と大きく異なる要素として、我々にはネットワークシステムという強い味方があります。

私達の日常生活は一変しましたが、学生たちは学校が休校になってもスマホを使って元気に過ごしています。クラスや学校の友達と会えなくても彼ら・彼女たちには「SNS」があります。「LINE」や「Instagram」でメッセージを交換し、スタンプをやり取りすることで、友達とは24時間スマホでつながっていることが出来るのです。

我々は「新型コロナウイルス」によって、究極の感染症対策は、他者との物理的な接触を極力避けることであると気付かされました。「事業継続性」確保に向けて求められるのは、各業務のネットワーク化の促進であり、何処でも事業展開が可能なリモートワークの推進ではないでしょうか。

さらには、感染症対策の観点から公共交通機関の利用を避ける傾向に対して、「カーシェアリング」や「ライドシェア」など、交通系のシェアリングエコノミーが拡大すると思われます。また、ホテルに宿泊する際にフロントを経由せずにチェックインすることが出来る、スマホアプリ「スマートキー」の活用や、飲食店での接触を避けるため「Uber Eats」等のフードデリバリーサービスがより普及し、現金の授受による感染リスクを考えると、キャッシュレス決済がさらに拡大する可能性もあります。

変化するワークスタイル

これまでは働き方改革や生産性の向上などの観点から語られることが多い「テレワーク」「リモートワーク」でしたが、今後は自然災害の発生や感染症の流行など、緊急時における事業継続性確保の観点からも、より重要性が増しています。

「テレワーク」の重要性はこれまでも指摘されてきましたが、総務省の統計によると2019年時点での導入企業は全体の2割以下と、低調な結果となっていました。しかし、今回の「新型コロナウイルス」蔓延では、自宅から外に出ず人と接触する機会を減らすことで感染リスクを軽減させる手法として、多くの企業において「在宅勤務」の取り組みが進み「テレワーク」が積極的に活用されています。

これまで「テレワーク」が普及しなかった背景には、「勤務実態」の把握や外部から接続することによる「情報漏えい」のリスク、端末の紛失盗難等の「セキュリティ対策」など、さまざまな懸念がありました。しかし、これらの課題は「VPN」、「仮想デスクトップ」、「データの暗号化」、「生体認証」などの要素技術を活用することでリスクを回避することが可能になっています。

「緊急事態宣言」の対象が全国に拡大され、不要不急の外出自粛が叫ばれ、出歩く人はなく街並みは閑散としています。我々はこのような時の備えをどうするか、真剣に考える必要があります。

いま世界でいま何が起こっているかを認識し、これから時代がどう変わっていくかを考えることが重要です。コロナ騒動が収束した後に、世の中がどのように変化するのか。それを踏まえた上で、新しい世界の到来に備えて、今、どういう準備ができるのか思考を巡らせる時ではないでしょうか。

変貌する居住地選びの基準

これまで、資本主義社会は効率化を追求して東京・ニューヨークなど大都市に人口が一極集中していました。そして、今回のコロナ危機では、ニューヨークの労働階層の多くの人々がウイルスに感染し感染者が拡大しています。今後は、大都市に一極集中して居住するリスクの高い暮らし方から、地方に分散して住む方向に流れが変わると思われます。

現にアメリカではパンデミックが宣言される前に、「ジェネレーションX」や「ミレニアム世代」と呼ばれる人々が、より安全に生活ができる南部の地方都市へ移動する動きが見られました。これからは、健康面に配慮した暮らし方が、日常生活の中で重要なウエイトを占める要素になると考えられます。

今後、「テレワーク」がより促進され常態化すると、「サテライトオフィス」や「在宅勤務」で仕事することが当たり前になります。出社の必要がなくなれば、生活費が高額な大都市に住むのではなく、より安価で生活ができる地方都市での居住を選択する人々が増加することで、東京など大都市への一極集中が回避される可能性があります。

すでに、ワークスペース付きの賃貸住宅や、シェアオフィス付きの賃貸マンションなどが登場しています。「テレワーク」が普及することで働く場所が多様化し、自宅の一部をオフィス仕様に改装する「自宅のオフィス化」や、郊外のベッドタウンに「サテライトオフィス」設置して、通勤時間の短縮や介護・育児との両立を図る動きが促進すると思われます。

「テレワーク」「在宅勤務」等の言葉が一般にも浸透し、TV・メディアなどで日常的に耳にする機会が増えています。これまでの働き方を変えること、生き方を見直すこと、これはすでに既定路線なのかもしれません。「職」と「住」の距離に関する制約が薄まる中で、職場に縛られない「住む場所の自由化」が進み、都心から地方へと転居する動きが加速していくのです。

いま、多くの人々が「リモートワーク」によって在宅で勤務し、大学生は新学年の初めからオンラインで授業を受講しています。平常時であれば、このような変化は長期間の年月を掛けて緩やかに進行しますが、今は平時ではありません。現在のような危機的状況においては、パラダイムシフトとも言うべき劇的な変化が短期間で達成されてしまうのです。

いずれにしても、いまは目の前にある脅威を乗り越えることが先決です。そして、「COVID-19パンデミック」の嵐が過ぎ去った後、我々はどのような世界で暮らすのか自問すべきです。

過去の歴史を振り返ると、14世紀のヨーロッパでは「ペスト」の大流行で社会状況が激変し、その後に勃興した「ルネサンス」によって、ヨーロッパの社会は新たな時代を迎えています。

「新型コロナウイルス」の蔓延が終息した後、我々は古い時代と決別した新しい世界に暮らしているのでしょうか。

かつて「恐竜」が急激な自然環境の変化に対応できず絶滅したように、新たな環境に適応したものだけが生き延びることが可能なのです。我々はいま、そのような分岐点に立っているのかもしれません。

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執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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