デジタル改革関連法案の可決成立に寄せて
~2021年は自治体「DX」元年と呼ばれるか~

afterコロナ社会における地域情報化戦略 [第3回]
2021年7月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

政府の看板政策と言われる「デジタル改革関連法案」が2021年5月12日、参院本会議で与党などの賛成多数により可決成立しました。この法案は、2021年9月に発足するデジタル庁の設置根拠や役割を規定した法案を含む、以下の6つの法律で構成されています。

1.「デジタル庁設置法」

デジタル社会の形成に関する行政事務の迅速かつ重点的な遂行を図ることを任務とするデジタル庁を設置することとしています。内閣総理大臣をデジタル庁の長および主任の大臣として、内閣総理大臣を助けデジタル庁の事務を統括するデジタル大臣を置くとともに、デジタル大臣に進言等を行い、庁務を整理し各部局等の事務を監督する内閣任免の特別職デジタル監を置くとしています。

2.「デジタル社会形成基本法」

2000年に制定されたIT基本法を見直したもので、デジタル社会を形成するための基本理念を定めています。

3.「デジタル社会形成整備法」

個人情報保護法など関連法を統合するとともに、地方公共団体の制度についても全国的な共通ルールを設定し、行政手続きでの押印廃止や、医師免許等の国家資格に関する事務へのマイナンバーの利用範囲の拡大、電子証明書等のマイナンバー機能のスマートフォンへの搭載や、郵便局窓口における電子証明書の更新・発行業務実施など多数の法律が改正されました。

4.「公金受取口座登録法」

希望者がマイナポータルから金融機関の口座登録を可能とすることで、緊急時の給付金や児童手当などの公金給付の簡素化・迅速化を図っています。

5.「預貯金口座管理法」

本人の同意を前提として、給付金支給などに活用できるようマイナンバーと預貯金口座を紐付け、相続時や災害時等において、手続きの負担を軽減する仕組みを創設しています。

6.「自治体システム標準化法」

2025年度の目標期限を設定して、地方自治体のシステム標準化と政府クラウドへの移行などを規定してします。

デジタル改革を成功させるために

政府では、デジタル庁の設置に先立ち「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」(デジタル手続法)4条に基づく整備計画として「デジタル・ガバメント実行計画」を2020年12月25日に閣議決定し、2026年3月31日までを対象期間とする国・自治体のデジタル化に向けた具体的な実行計画を示しました。

そして、総務省の「自治体デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)推進計画」では、2026年3月までを対象期間に、自治体「DX」を推進することで「データが価値創造の源泉であることについて認識を共有するとしています。さらに、データの様式の統一化等を図りつつ、多様な主体によるデータの円滑な流通を促進させ、統計や業務データなどの客観的な証拠に基づく政策立案「EBPM(Evidence Based Policy Making)」によって、行政の効率化・高度化を図るとしています。

IT事業者の業界ではこれまで、「BtoC(企業対個人)」サービスを進めてきたeコマース(電子商取引)を主とする事業者と、「BtoB(企業間)」取引を中心にシステム開発してきた業務系ベンダー、そして省庁や自治体のシステムを構築・運用してきた行政業務系を得意とする事業者など、業界縦割りの構図でシステム開発・運用してきました。

しかし、我々の生活シーンの中では、民間事業者が提供するサービスと行政系のサービスが混在しています。さらには、教育・医療・福祉など地域住民が受給する様々なサービスも共存しています。行政・社会の「DX」推進についは、「すべてがつながる」ための標準化や共通化、業態を横断するような「コネクテッドモデル」の構築が求められているのではないでしょうか。

「UI」統一とポータルサイトの役割分担

システムの標準化・共通化を図るとともに、まずは「UI(ユーザーインターフェース)」の統一を検討することが必要ではないでしょうか。

全国の自治体が構築・運用する、ホームページ等のWebサイトの数は、2021年5月時点の自治体数1,724以上のサイトが、ネット上に開設されていると思われます。レスポンシブ(スマートフォン対応)等はもちろん、ライフイベント毎に情報を整理するなど、各自治体が創意工夫を凝らした構成にはなっていますが、残念ながら自治体毎にレイアウトや階層が異なり、利用者・閲覧者の視点でアクセシビリティに配慮した構成にはなっていないのが現状です。

例えば、ある自治体では市役所までのアクセスについて、サイトマップをたどれば行き着くものの、トップページにはその記載もなく、転入する際など初めて市役所を訪れる遠方からの来訪者には、使いにくいサイト構成のホームページも存在しています。

このような状況を改善するためには、自治体が運用するホームページ等のWebサイトの「UI」の仕様を統一・標準化した「自治体ホームページ等標準化システム(仮称)」を開発し、この仕組みを各自治体が共同で利用すれば、全国自治体のWebサイト構築・運用に係る経費の削減にもつながります。そして、アクセシビリティが向上するとともに、本来の目的である行政情報の発信についても充実が図れると思われます。

また現在、国主導で構築・運用されているマイナンバーカードを利活用した「マイナポータル」では、子育てに関する手続きなどが可能ですが、利用者側の住民は日常の手続きでは、地元自治体のホームページ等を利用し、特定の手続きを行う場合のみ「マイナポータル」にアクセスしています。一般の市民が日常の手続きで、中央省庁を直接訪ねることはまずあり得ませんが、なぜかデジタル上では現状のようになっています。

行政のデジタル化に向けて、様々な取り組みが試行されている中、今後は基礎自治体と国の役割をどのように棲み分けるのかが重要なポイントになると思われます。地域住民が日常生活で直接接点を持つのは地元の自治体であり、自治体「DX」におけるファーストコンタクトは、地域ポータルと位置付けることで、全国共通レイヤーとなる各省庁が構築するプラットフォームのポジションと範囲を設定するなど、地域ポータルとの役割分担が検討されるべきではないでしょうか。

自らが「オプトイン」する考え方

民間事業者が提供する各種サービスでは、ポイントが貯まる仕組みに紐づいた購買履歴などのデータは、個人情報を含まない形でマーケティングデータとして利用されます。したがって、データを提供した購入者個人に対して、個人情報を反映させたパーソナライズしたサービスの提供はされていません。

これまで、消費者向けビジネスを展開する多くの企業は、マーケティングデータを集めるために多くのサービスを連携させてきました。この蓄積されたデータを、改めてユーザーの承諾「オプトイン」を得た上で、パーソナライズデータとして利活用することができれば、社会全体をデジタル化するためのビッグデータ整備に要する時間は大幅に短縮すると思われます。

「オプトイン」とは、サービス利用者から事前に承諾を得る行動を表しています。サービス受給者が自らの意思で家族や地域、そして次世代のために地域のデジタル化に貢献する目的で「オプトイン」することで、サービスレベルが向上し、より受給者に寄り添ったパーソナライズされたサービスを受けることが可能になると思われます。

災害発生時・緊急時等の対応では、事前の「オプトイン」として、自身のスマートフォンの位置情報を有事の際に提供することを承諾しておけば、出張先や旅行先などを含めて、自分がどこにいても、現在の場所から最も近い避難場所への誘導や、危険な状態になった場合のピンポイントでの救助が可能になるなどの運用が考えられます。

また、保健福祉の分野では、自らの健康情報を医療機関と共有することで、パーソナライズされたレコメンデーションが得られ、疾病の早期発見や予防医療のための考え方や行動が促され、健康長寿の実現につなげることも可能になります。地域全体としては予防医療体制にシフトすることで、糖尿病等の重症化予防や医療費の適正化など、地域医療に変革を起こすことも期待できます。

データ連携とアーキテクチャの創生

データは使われてはじめて価値を創出するという観点から、世界が「データ駆動型社会」へと進展する中で、EU諸国では2020年2月に公表された「EUの新デジタル戦略」において、「データガバナンスに係る法的枠組の提案(2020第4四半期)」、「データ法の提案」(2021)を掲げ、「リアルデータ」の利活用が活発化しています。

そして、日本国内では、感染症拡大防止などの公益に寄与するデータの利活用が叫ばれている一方で、プライバシー問題やデータの収集・加工・蓄積に関して、どのような目的のデータ活用を「公共性の高いデータ活用」とすべきか、公共性とデータ提供者の利害とのバランスをどのように図るのか、公共性の高いデータへの公的機関や研究機関によるアクセスの在り方など、関係省庁が連携してデータ活用の在り方について検討がなされているところです。

データの利活用は、これから最重要の競争領域になると思われます。イノベーションが持続するデータ駆動型社会を実現するためには、官・民が連携して、公共性の高いデータの運用・流通・利活用について、データ戦略の基本的考え方を策定することで、データドリブンな政策立案が実施できる体制の確立を目指すべきではないでしょうか。

行政分野においては、全国の自治体は2025年度の目標期限へ向けて、自治体システムの標準化を目指すことになります。これまで、既存システムの運用課題として、各自治体のシステムは個別に特化したもので、他地域への横展開が難しく、業務毎にデータが独立しているため、業務間を横断したサービスが困難であることや、システムの拡張性が低いため、継続的にサービスを進化させられないなどが指摘されてきました。

しかし、これらの課題を克服するため、これからの自治体システムに求める機能として、自治体間のデータ・サービス等の連携や、地域内外の様々なデータを仲介して連携させるデータ流通体制の確立、各自治体における成果の横展開を可能にすることなど、新たな「アーキテクチャ」の構築が求められています。

「アーキテクチャ」とは、元来は建築分野における設計思想や建築様式を示すために用いた用語ですが、情報システムの分野では、システムの設計方法、設計思想、およびその設計思想に基づいて構築されたシステム構造などを意味しています。

換言すれば、「アーキテクチャ」は「共通な土台」と捉えることもできます。新たな行政サービスとして「アーキテクチャ」の共通化による住民サービスの共有、例えば、スマートフォンアプリの共通基盤上で、各自治体が地域の課題に対応したサービスを組み合わせて提供し、サービス利用者はスマートフォンだけで、いつでも・どこでもサービスを受給することができる環境の構築などが想定されます。

9月にデジタル庁が創設されるいま、本来あるべき「アーキテクチャ」を創り出す絶好のチャンスが訪れています。将来、今年を振り返ってみると、2021年は自治体「DX」元年と呼ばれているかもしれません。

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執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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