自治体「DX」のプラットフォームとして
~テレワークと電子決裁の連携を考える~

afterコロナ社会における地域情報化戦略 [第7回]
2021年11月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

新型コロナウイルス感染症の拡大にともない「afterコロナ」、「ニューノーマル」など、新語とも言えるキーワードが次々に誕生しています。そして、新たな言葉の登場に象徴されるように、これまでの考え方や社会の仕組みが過去のものとなり、さまざまな観点から見直しが求められるようになりました。

多くの企業・団体、自治体では感染症拡大防止の観点から、「職員の出勤7割削減」などの目標が掲げられ、テレワーク・リモートワークなど、新たな生活様式に対応した働き方が強く奨励されるようになり、「afterコロナ」時代における働き方の模索はいまも続いています。

このような状況の中、厚生労働省では「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を2021年9月7日に公表していますが、このガイドラインでは『テレワークはウィズコロナ・ポストコロナの「新たな日常」、「新しい生活様式」に対応した働き方であると同時に、働く時間や場所を柔軟に活用することのできる働き方として、更なる導入・定着を図ることが重要である』と記載されています。

しかし、テレワークが働き方改革の有効な解決策の一つとして期待される一方で、自治体の現場での状況は、起案文書や支出命令書等への押印など、文書処理のために出勤する必要があるなど、決裁・承認プロセスに課題があり、テレワークの導入により効率的な働き方が実現したとは言い難いのが現状です。

「BCP」事業継続計画としてのテレワーク

2011年の東日本大震災発生を契機として、事業継続計画「BCP(Business Continuity Plan)」策定の重要性が指摘されてきました。そして、2020年初頭から世界中で蔓延した新型コロナウイルス感染症の拡大が、テレワークの普及を加速化させると同時に、事業継続性確保の観点からも、再びテレワークへの関心が集まっています。

ICT(情報通信技術)を利活用し、本来の勤務場所以外の自宅やサテライトオフィス等の場所で業務を実施する柔軟な働き方は、パンデミック発生時のカオスな状況の中でも、事業の継続性を確保する「BCP対策」として有効であるとの考え方です。

地震・台風など大規模な自然災害の発生や、新型コロナウイルス感染症による拡大等の緊急時において、職員全員が登庁できない状況下でも、テレワーク・リモートワークの仕組みを業務継続のプラットフォームとして活用することで、一定レベルの事業継続が可能になると思われます。

これまで、テレワークは「働き方改革」「生産性向上」等の手段として捉えられてきましたが、今後は、平常時には「働き方改革」の一環として、緊急時・災害時においては「事業継続性確保」の観点から行政運営を支える仕組みとして、テレワーク・リモートワークに対する認識を改める必要があると思われます。

テレワークと電子決裁の連携

総務省のデータによると、2020年3月26日時点における全国自治体でのテレワーク導入状況は、47都道府県では「44団体(93.6%)」、20政令指定都市では「14団体(70.0%)」が導入しています。しかし、市区町村1,721団体においては「51団体(3.0%)」の低率にとどまり、コロナ禍を機に民間企業で一気に導入が加速したテレワークが、地方自治体では進展していないのが実情です。

自治体業務では個人情報を取り扱うだけに、セキュリティ対策を重要視する観点から、従来の働き方から踏み出すことが難しい状況です。各自治体では新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、緊急対応として部署ごとにテレワークを開始したものの、個人情報を保護するため、在宅でのテレワークでは、文書の集約作業等の業務と資料作成など、庁内データにアクセスする必要がない業務に限定されているのが現状です。

とはいえ、今後の新たなウイルス等によるパンデミック発生を想定した時、現状の仕組みを継承しながら、本庁舎以外の公共施設にサテライトオフィスを整備するなど、リモートワーク・テレワークを可能とする環境の構築を図りながら、現状において可能な業務改革の打開策を見出す必要があると考えます。

なお、自宅やサテライトオフィスなどで仕事をするリモートワークでは、業務用パソコン・タブレット端末等をモバイル環境で使用することが前提になりますが、モバイル端末の紛失や盗難の危険性、外部のネットワークから接続することによる「情報漏えい」のリスクなど、普及を阻む要因を克服する必要があります。

これらの課題はクラウドサービス基盤の活用や「VPN」、「仮想デスクトップ」、「データの暗号化」、「生体認証」等による「ログイン認証」など、各種の要素技術を利活用することでリスクを回避することが可能になります。

また、「ログイン認証」機能については、「顔認証」「指紋認証」など人間の身体的特徴を用いて認証を行う「生体認証」を採用することが基本になります。さらに、「顔認証」システムとマイナンバーカード等による「個体認証」を併用する「二要素認証」を行うことで、PC搭載カメラによる顔面画像と、マイナンバーカード内の顔面データを照合するなど、より強固なログイン認証が実現できると思われます。

電子決裁・ワークフローシステムの導入に向けて

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、一気に拡大したテレワークですが、ネットワーク上で電子決裁が可能となる仕組みと連携させることで、オフィスワーク・テレワークの垣根を超えた情報の共有や意思決定の迅速化、業務の「見える化」が実現され、業務プロセスの変革につながると考えられます。

テレワークの推進と共に、「決裁・承認・押印」等の処理がオンライン上で可能となる、電子決裁・ワークフローシステムの導入は、今後、職場でのオフィスワークと在宅でのテレワークが共存していく中で、働き方そのものが大きく変容していくことを考えると、これからの自治体「DX」の推進に向けて必須の仕組みではないでしょうか。

電子化・ペーパーレス化に関連した法改正については、2019年のデジタルファースト法(デジタル手続法)による行政手続きのオンライン化から、電子帳簿保存法では、「重要な国税関係書類(領収書、契約書等の資金やモノの流れに直結する書類)を過去に遡ってデジタル化保存を可能にする」税務関連書類の電子化、2020年には「領収書の代わりに電子データを利用可能とする」など、規制緩和の流れが年々加速しています。

迅速な事務処理を実行するには、「決裁・承認」の電子化・迅速化が不可欠な要素になると思われます。事業の推進においては、政策の策定や予算編成の際、決裁・承認の行為がプロセスとして必須ですが、行政事務の処理速度を向上させるためには、このプロセスをいかに素早く進展させるかが重要になります。

テレワークと電子決裁システム(ワークフローシステム)の導入によって、庁内の文書や記録の電子化を進めるとともにペーパーレス化を実現し、ネットワーク上で情報共有を行うことで、意思決定の迅速化や業務の「見える化」が可能になり、一連の仕事のやり方の変革が業務プロセスの革新につながると思われます。

既存の紙ベースによる決裁処理では、承認・決裁者が在席していないと、決裁行為そのものが遅延・停滞することになりますが、文書決裁を電子化することで、承認・決裁者の出張時や在宅勤務時においても、ノートパソコンやタブレット端末等を用いて文書決裁システムにアクセスすることで、承認・決裁行為を行うことが可能になります。

文書決裁システムの導入によって、決裁処理時間の短縮と決裁文書の進捗状況の可視化、決裁情報や報告事項の共有が容易に行えることや、電子データ化された文書の検索が容易にできるなど、業務を電子化・ペーパーレス化することで、組織全体の業務効率化の促進が期待できます。

自治体「DX」のプラットフォーム

電子決裁・ワークフローシステムを自治体「DX」の観点から考えると、システムの導入によって業務そのものを変革し、継続的に利活用することで業務プロセスや組織を革新し、意思決定に関わるコミュニケーションの資産化によって、自治体経営を時代に即したものに変容させていくことができます。

ワークフローシステムの導入によって、一部局の業務から庁内横断的な業務まで、あらゆる業務が電子化され、効率化を図ることが可能になります。そして、その仕組みを継続利用することで、意思決定や情報共有の流れが可視化され、業務プロセスの最適化が促進されます。

さらに、ワークフローシステムを中長期的に運用することで、庁内全体の施策立案から事業の実施までの過程と決裁・承認に係る結果が集約されます。そして職員それぞれが保有するナレッジ・知見が集まり意思決定されることで、行政サービスの質的向上が図れるとともに、政策策定から事業の実施までの所要期間が短縮されます。

電子決裁・ワークフローシステムでは、起案文書に対して決裁・承認が得られていくプロセスを経ていく中で、さまざまなノウハウ・知見が申請に対して反映されるという過程を辿ります。つまり、決裁がデジタル化されることで、起案から決裁される過程において、ナレッジが集積され経営資産が形成されていきます。

このように情報やナレッジが蓄積され「資産化」することで、より良い政策展開が可能になり、自治体運営の精度向上につながると思われます。さらに意思決定プロセスを見ることで、自分たちが何を大事にしているのか「コアコンピタンス」の重要性に気付き、新たな「答え」を導き出すことが可能になります。

いま求められているのは、どのような「働き方」で限られた人的資源を効率的に活用していくのか、大規模自然災害等のインシデント発生時において、どのような「働き方」で行政機能を維持していくのか、今回のコロナ禍の経験を糧に、試行錯誤を繰り返しながら前進を続ける強い意志ではないでしょうか。

今後、各自治体において緊急時にどのような仕組みで「事業継続性」を確保するのか、既存業務の運用体制・オペレーションを見直し再構築するためには、自治体「DX」のプラットフォームとして、テレワークの推進と電子決裁・ワークフローシステムの導入が求められていると思われます。

afterコロナ社会における地域情報化戦略

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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