2022年は「メタバース」躍進の年となるのか
~バーチャル空間の可能性について考える~

afterコロナ社会における地域情報化戦略 [第10回]
2022年2月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

2021年10月28日「Facebook」は社名を「Meta」に変更し、メタバース市場への参入を発表しましたが、同日マーク・ザッカーバーグCEOが公開した「創業者からの手紙 2021」の中では、「今後10年以内に、メタバースを10億人にリーチさせ、数千億ドル規模の電子取引を提供、数百万人規模のクリエイターや開発者の雇用を支える」としています。

そして、翌月11月には米Microsoftが、「メタバースへの入り口」として、独自の「immersive space(没入型スペース)」環境の構築が可能な「Mesh for Teams」の提供を2022年から開始すると表明するなど、いま「メタバース」は、一部の業界にとどまらず様々な業界から注目を集めています。

「メタバース(metaverse)」とは、「meta(超越、高次)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語で、ネットユーザーが設定した自分自身の「分身」を表すキャラクター「アバター」を介して仮想世界にアクセスすることで、そこで提供されるサービスの利用や、他のユーザーとコミュニケーションを図ることができる、インターネット上の仮想空間サービスの総称です。

いま流行りのバズワードのように思われている「メタバース」ですが、この言葉が最初に世に出たのは、アメリカのSF作家ニール・スティーヴンスンが発表した1992年の作品『スノウ・クラッシュ』に登場する、ネット上の仮想世界の名称が始まりとされています。

「メタバース」をめぐる動向では、米国のLinden Lab社が2003年から提供を始めた、仮想空間内での交流を目的とした「Second Life(セカンドライフ)」が「メタバース」の先駆けになるサービスと言われています。「Second Life」では、物品・サービスの購入・売買にゲーム内の通貨が使えることや、ゲーム内の土地を高額で転売できることが話題になり、最盛期には月100万人のユーザーが利用したと言われています。

バーチャル空間での新たな試み

新たな「SNS」の展開として有力視されているのが、音声通話アプリ「パラレル」です。仲の良い友人や家族とオンライン上にバーチャルな「会話する場」を作り、友人と会話をしながら自宅で過ごす、新しい形の生活が広がり、2019年8月のサービス開始から1年半経った2021年3月時点で、累計登録者数は100万人を突破しています。

利用者のうち70%は10代後半から20代前半の「Z世代」で、1日の通話時間が平均3時間と非常に長いことも特徴です。月の総通話時間は4億分におよぶとも言われています。コロナ禍で、人と会うことが制限される状況が追い風となり、口コミを中心に利用者が増え続け、オンラインとオフラインが融合した生活が定着しつつあるのかもしれません。

また、バーチャル上の街づくりで新たな試みを重ねているのが、一般社団法人渋谷未来デザイン、一般財団法人渋谷区観光協会等を中心に、2020年5月にオープンした東京都渋谷区公認の仮想世界プラットフォーム、「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」です。

「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」では、2021年にもバーチャル渋谷でのハロウィーンイベントを開催し、コロナ禍でも唯一許された人が集まれる「密な空間」の出現に対して、21年10月16日から31日までの期間に、延べ55万人を動員するなど、集客力の高さを示しています。

ハロウィーンイベントの期間中、アバタープラットフォーム「AVATARIUM(アバタリウム)」と連携し、「アバター」制作のできるスキャンブースを渋谷区役所庁舎などに設置しています。3DCGの知識がなくても自分のアバターを誰でも簡単に制作できる環境を提供し、アニメ映画『名探偵コナン』とのコラボでは、自身のアバターにキャラクターのコスプレをさせるなど、バーチャル空間での楽しみ方の幅を広げています。

「メタバース」2つの方向性

「メタバース」関連の事業展開では、企業が「自社単独」でシステムを構築し、サービス提供を行う「クローズド・メタバース」と、他の企業が提供するサービスとの「相互運用性」を確保した「オープン・メタバース」の2つの方向性が示されています。

米国Roblox社が2006年から提供を開始したゲームプラットフォーム「Roblox」は「クローズド・メタバース」の構築を目指していますが、「Roblox」内では、独自のシステム「Roblox Studio」を利用して、ユーザーがゲームを簡単に作ることや、他のユーザーが作成したゲームをプレイすることができる、オンラインプラットフォームが提供されています。

ゲーム内での決済は「Robux」と呼ばれる仮想通貨を用いて行われ、オンラインでユーザー間でのチャットも可能です。2010年代後半から急激にユーザー数が増加し、2020年8月時点で月間アクティブユーザー数は1億6400万人を突破し、アメリカ国内の16歳未満人口の半数以上がプレイするなど、現在最も「メタバース」の実現に近い企業のひとつであると言われています。

一方、「クローズド・メタバース」の対局にある考え方として、「オープン・メタバース(Open Metaverse)」の存在がありますが、米国Epic Games社が2017年に公開した、マルチプレイ型オンラインゲーム「フォートナイト(Fortnite)」がその代表格とされています。

「フォートナイト」はいわゆる「生き残りをかけて戦う」サバイバルゲームの一種ですが、その特徴は建築(クラフト)要素を持つことです。プレイヤーはマップ内から集めた素材で壁・階段・屋根・床などを作り、バトルに活かすことができる戦略性の高いゲームとして人気を博しているようです。

また「オープン・メタバース」には「相互運用性」があり、いくつものプラットフォームを相互に行き来することが可能になっています。言うなれば、同じアバターを使って「Roblox」も「フォートナイト」もプレイできるような環境の提供が目指されています。

なぜ「メタバース」が注目されるのか

これまでの「メタバース」の動向を見ると、ゲームの仮想空間が主流のように感じるかもしれませんが、ゲームはあくまでも「メタバース」が実現する一分野に過ぎません。中でも注目されているのが、ビジネス分野での「バーチャル会議」や「ワークスペース」としての活用です。

例えば、現Meta社であるFacebookが2021年8月にリリースしたメタバースサービス「Horizon Workrooms」は、「VR」を利活用したバーチャル会議などのビジネス上のコミュニケーションを目的にしています。Microsoftの「Mesh for Teams」も、ビジネスコラボレーションのためのツールとしての利用を訴求しています。

「仮想空間を仕事場にする」という発想は、研究者や技術者の間では以前より語られてきましたが、正直なところ、過去のものは実験的な領域を出るものではなかったのです。しかし、ここ1~2年で環境は激変、今では十分に実用的なレベルに達していると感じられます。

Meta社の「Horizon Workrooms」は2021年8月後半にスタートしたMetaのバーチャル会議室です。バーチャルリアリティ用デバイス「Oculus Quest 2」(以下、Quest 2)を使って、ネット内に用意された会議室に入り、遠隔地にいる人間同士が対話できる仕組みが提供されています。

簡易な造形のキャラクター「アバター」であっても、「Quest 2」の「手認識機能」によって、身振り手振りなどの仕草が相手に伝わります。頭の位置から自分の向いている方向がわかることで目線が合うような感覚もあり、「Workrooms」での会議は既存のビデオ会議では実現できない、対面で会話している感じが実現されています。

さらに「Workrooms」には、ユーザーのPCにアプリを入れることで「Quest 2」と連携して「PCの画面」を仮想空間の中に表示できるだけではなく、PCやホワイトボードを認識させて仮想空間へ「持ち込む」ことが可能になっています。

この機能では、「Quest 2」がPCやホワイトボードを画像認識して、現実世界の目の前にあるPC・ホワイトボードと同等のものを「仮想空間」に再現することで、PCからの資料を貼り付け、そこに書き込みをすることも可能です。そこで共有されたデータは独自のWebサービスと連携して、VR会議の参加メンバー内でシェアされます。

「メタバース」上のオフィスで働く

急速な進展を見せる「メタバース」の世界ですが、もちろん今後の普及へ向けた課題もあります、VRゴーグル「Quest 2」の重さは500g以上あり、電源などの制約からも、装着し続けることは非現実的です。

そして、「メタバース」を構成する要件としては、以下の4つの要素が考えられます。

  • 3次元の「仮想空間」環境を提供する
  • 自分自身を投影するオブジェクト「アバター」が存在する
  • 複数「アバター」が同一の「仮想空間」を共有することができる
  • 「仮想空間」内にオブジェクト「アイテム」を創造することができる

VRゴーグルの重さ問題など、デバイスに起因する課題がクリアされた後には、ユーザーが自分自身を映した「アバター」を介して、現実の世界とは異なる「メタバース」内で日常的に活動する、リアルなコミュニケーションが「仮想空間」上のバーチャルな世界に代替されていく、そんな時代が到来するのかもしれません。

「meta(メタ)」という言葉は、「beyond」(越えて)を意味するギリシャ語に由来し、「さらに構築すべきものが存在していることの象徴」でもあります。

自宅に居るにもかかわらず、別の「独立した空間」に居るような感覚になれる、「メタバース」での人とのコミュニケーションは、自宅での「自分だけの環境」にありながら「職場で同僚と一緒に働く」ことを両立させ、「メタバース」上のオフィスで働くことを実現させる可能性があります。

今後、オンライン上での様々な体験をより現実世界での体験に近づけるために、「メタバース」の活用が期待されています。遠い将来、過去を振り返った時、2022年は「メタバース」大躍進の年と言われているのでしょうか。

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執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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