「デジタル田園都市国家」の先にあるもの
~2023年以降のトレンドを予想してみた~

ポストコロナ時代の「シン・デジタル化戦略」 [第9回]
2023年1月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

2023年以降、自治体を取り巻く環境はどのような未来を迎えているのでしょうか。「デジタル田園都市国家構想」のその先になにが待っているのか、近い将来の公共システムをめぐる動向について「予想」してみました。

「カーボンニュートラル」を目指す動向

いま、ヨーロッパ諸国を中心に「脱炭素・循環型社会」を目指す、いわゆる「GX(グリーントランスフォーメーション)」が注目されていますが、欧州委員会は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする上で重要となる今後10年間の法案を発表しています。

EUではこの時代に生きる世代を気候変動対策に手を打てる最後の世代と位置づけ、新たな社会経済への移行を進める戦略「欧州グリーンディール」を掲げて、気候変動にとどまらずサステナビリティの分野においてルールメーカーになろうとしています。

グリーン先進国と呼ばれるデンマークは、デジタル化先進国でもあります。政府が公共分野のデジタル化を強力に推進することで、日本のマイナンバーに相当する「CPR」と電子IDの「NemID」をすべての国民が持ち、情報は電子私書箱で受け取り、公金の支払いや給付、各種の決済はオンラインで行える環境が提供されています。

また、デンマークでは「GX」推進のソリューションとして、スマートメーター(電力メーター)によってデータを収集・検証することで、電力消費量等を見える化し、CO2削減やコスト低減に繋げる、エネルギーの管理制御を行うプラットフォームを構築しています。

そして、これらの取り組みをサポートするようなかたちで、自治体がインフラの先行投資や長期的な地域産業戦略の立案、企業誘致などを積極的に推進しています。今後は、我が国においてもこのような「脱炭素・循環型社会」を目指す動きとともに、社会全体のデジタル変革が加速すると思われます。

サイバー空間と融合した「デジタルツイン」の進展

近い将来、行政サービスの分野においても、リアル空間とサイバー空間が融合した、生活支援サービスの提供が予想されますが、地域におけるエネルギー利用の効率化や防災等の観点からも、自治体や様々な企業で実証・実装がスタートしています。

既にサイバー空間を活用している行政サービスに加えて、ゴミ収集や道路整備など物理的に存在するモノを自治体が扱うサービスについても、「デジタルツイン」としてサイバー空間上に様々な情報が複製され、「EBPM(エビデンスに基づく政策立案)」に活用するなど、新たな施策推進が期待されます。

トヨタ自動車が静岡県裾野市で展開する、実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」では、自動運転や「MaaS」、スマートホームなどを取り入れたスマートシティの実証に向けて「デジタルツイン」を活用しています。

また、東京都が推進する「デジタルツイン実現プロジェクト」では、センサーなどから取得したデータをもとに、建物や道路などのインフラ、経済活動、人の流れなど様々なフィジカル空間(現実空間)の要素を、サイバー空間に「双子」のように再現することを目指しています。

「Web 3.0」の進展

「Web 3.0」の特徴として、データの管理主体が非中央集権(分散型)であることが挙げられますが、これまでの大手プラットフォーマーに情報が集約されてしまう既存のインターネットとは異なり、ブロックチェーンを利活用することで、透明性が確保された状態でデータの分散管理が可能になると言われています。

分散型Webである「Web 3.0」の登場によって、非中央集権型の分散処理が可能になり、自立的で参加型の社会が実現すると思われます。主権(ソブリン)を確保しながら、「他者の干渉」を受けずに「自らの意思決定」を行う、そのような社会が「Web 3.0」によってもたらされるのではないでしょうか。

「Web 3.0」の特性を活かした施策としては、人口比率の50%以上が65歳以上を占める「限界集落」とも呼ばれる、新潟県長岡市の山古志地域(旧山古志村)において、デジタル化による新たな取り組みとして、「観光客以上」「移住未満」の人々「関係人口」の増加政策「仮想山古志プロジェクト」を進めています。

ブロックチェーン上に構築する誰でも参加可能な組織「DAO(分散型自立組織)」を創設することで、国内外問わずに多様な人材を集めることで、新たなアイデア、価値を生み出すことを狙う取り組みです。

この「山古志DAO」プロジェクトでは、「錦鯉(にしきごい)」をシンボルにしたデジタルアート「Colored Carp」を発売していますが、このデジタルアートには電子住民票の意味合いを持つ「NFT(Non-Fungible Token)」が含まれていますので、保有者を「デジタル村民」と呼称することで関係人口の増加を図っています。

非代替性トークン「NFT」の可能性

「NFT」という言葉が話題になったのは、デジタルデータの「NFTアート」が当時の価格で、6,940万ドル(約75億円)で落札された、2021年頃からではないでしょうか。

そもそも「NFT」非代替性トークンとは、インターネット上にあるデータと紐づいて、証明書のような役割を果たすもので、本来は複製可能なデジタルデータに唯一性を付与するための仕組みです。「NFT」の事例として挙げられる「NFTアート」など、美術作品の世界では、古来その唯一性であるオリジナリティーを価値の源泉にしてきました。

我々が世界で唯一の美術品・絵画・彫刻などを見るために、美術館を訪れ長蛇の列に並ぶことや、オークションで驚くような金額が提示されるのも、ひとえにこの唯一性を前提にしています。そして「NFT」の世界では、ネット上に存在するデジタルデータ作品に、唯一無二の価値を与えることができます。

このように「NFT」の仕組みは最先端のように見えて、ある意味古典的とも言える特性を持ちながら、最新技術を駆使したまったく新しい価値観の提供とも言えます。このように考えると、普遍性と革新性を同時に保有する「NFT」は、この二面性が持つ未知の可能性を秘めていると思われます。

「デジタル田園都市国家」の先にあるもの

「デジタル田園都市国家構想」が目指すものは、地方と都市の差を縮め、都市の活力と地方のゆとりの両方を享受できる仕組みを作り出すことにありますが、「人間中心のデジタル社会」の実現に向けて、デジタルインフラなどの共通基盤の整備や、地方を中心にしたデジタル技術の実装を進める取り組みでもあります。

近未来の自治体経営では、「極超高齢社会」の到来とも言える「高齢化率」28.9%を超える状況の中、確実に予測できる社会構造の変化「人口動態のシニアシフト」を考慮しながら、人口減少型社会への移行に伴う「税収減」にも対応していく必要があります。

そして、このような状況下において、これまでの「住民サービスの向上」や「行政事務の効率化」「生産性の向上」等の取り組みに加えて、地域住民と自治体職員がともに同じ地域の中で、暮らし価値を高める「TX(トータルエクスペリエンス)」社会の実現が求められます。

このような、かつてない厳しい状況を克服するためには、デジタル化によって地域全体の「DX」を図る新たな取り組みが必要になります。

これまで、自治体内部の各業務部門で断片的に管理されていた各種データを、集積・統合化してデータベースシステムを構築し、蓄積した各種情報を、グラフ・図表・地図情報等にして情報公開することで、新たな住民サービスの提供に繋げることができると思われます。

再生可能エネルギーの分野では、電力を大量消費する地域に対して、消費量よりも多く発電した余剰電力を互いにシェアリングするような需給関係の構築や相互連携の推進が考えられます。

さらに、「ビッグデータ分析」によって得られた解析データを「オープンデータ」としてWebサイト上に公開することや、そのデータを活用したアプリの開発など、住民に向けた新たな生活支援サービスの創出にもつながっていきます。

「官民連携」による新たな公共の誕生

我々はコロナ禍を経験したことで、テレワークやWeb会議の常態化など、リアルとバーチャルの混在が一気に日常化しましたが、近未来の自治体では、「リアル空間とサイバー空間の融合」と「Web 3.0」が進展したその先に、新たな公共システムの出現が予想されます。

近未来の「官民連携」を実現するためには、データを一箇所に集約する「集中型」ではなく、信頼性のある自由なデータ流通の概念に基づく「分散型DFFT(Data Free Flow with Trust)ツール」の整備など、官・民が連携したデータ流通の仕組みづくりが不可欠になると思われます。

リアル空間とサイバー空間が融合し「Web 3.0」が進展した、「自治体3.0」とも言える世界では、データやサービス、ソフトウェアの主権そのものが大手プラットフォーマーに帰属するのではなく、ユーザー側の地域住民や自治体に移行していることも想像されます。

これに加え、地域内の事業者や非営利団体等が提供する生活支援サービスの情報や、医療機関・介護施設情報など、最新のデータを集約することで、医療・介護サービスの向上と効率化を同時に進めることや、地域の課題解決を加速させることも可能になると思われます。

そして、官・民が連携することで、各々のプレーヤーが保有する社会的リソースをシェアして「共有」する概念へ転換し、地域住民の「デジタルジャーニー」を加速させるような、新たなサービスモデルの創出を目指すべきではないでしょうか。

ポストコロナ時代の「シン・デジタル化戦略」

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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