自治体における「NFT」活用と「DAO」の可能性
~新たな時代のデジタル化と変革を考える~

ポストコロナ時代の「シン・デジタル化戦略」 [第10回]
2023年2月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

最近、よく話題になる「NFT(Non Fungible Token)」という言葉、我々が目にする機会が増えたのは、いわゆる仮想通貨のベースである「ブロックチェーン」の存在が大きいと思われます。

「ブロックチェーン」は、インターネット上の取引データを「ブロック」という単位で適切に記録して、鎖(チェーン)のように繋いで管理する仕組みです。データはチェーンのように繋がっているため、一つのブロックを変更するだけではデータの改ざんができないことから安全性が高く、「NFT」の取引に「ブロックチェーン」技術が使用されています。

「NFT」は、日本語では「非代替性トークン」と訳されますが、非代替性というのは代わりの利かない(唯一無二の)ものという意味で、「トークン」はブロックチェーン技術を使用して発行した暗号資産です。

そして、「トークン」については、商品券・図書券をデジタルに置き換えた「引換券」のようなイメージです。この「トークン」をインターネット上の「ブロックチェーン」に乗せることでデータを管理し、監視するという機能によって「NFT」は成り立っています。

インターネット上で唯一無二の「NFT」暗号資産を発行することで、デジタル上で制作したアート作品や音楽に紐付け、資産がオリジナルであることを証明できる「証明書」のような機能を実現しているのです。

デジタル入場券「NFTチケット」の登場

自分以外に同じデータを持つ人が存在しない「NFT」の特性を活用した、デジタル入場券「NFTチケット」は、2022年7月にサッカーチーム「パリ・サン・ジェルマン」が来日した際の試合にも発売されるなど、大規模イベントの際の決済手段として注目されています。

チケット発券の手順としては、イベント参加者は専用アプリなどで入場券・チケットに代わる「デジタル入場券(QRコード)」を「NFT」から生成し、イベント当日はこれを入場ゲート等で提示して、イベントに参加することになります。

イベント主催者が「NFTチケット」の導入に期待を寄せているのは、世界で唯一無二のデータ「NFT」の利点を活用することで、「NFTチケット」保有者だけに特典を発売するなど、イベント参加者に限定した付加価値を提供する「メモリアルNFT」の発行など、チケット購入者へのベネフィット提供が大きいと思われます。

自治体が「NFT」を活用するメリット

「定住人口」(移住)でもなく「交流人口」(観光)でもない、特定の地域に様々なかたちで関わる人々「関係人口」を増やす取り組みが、人口減少が進む地域社会の課題を解決するための手法として近年注目されています。

今すぐUターンは無理、しかし「何らかのかたちで地元に貢献したい」、「お気に入りの土地を応援したい」、「NFT」は、このような思いを持つ人々にアプローチする際の理想のツールともいわれています。

過去に居住・勤務などで地域との縁があり、その後も継続的に関係性を保つ人達や、観光で訪れた際にその地域が気に入って、再び来訪する機会の多い観光リピーターなど、企業でいう「ロイヤルカスタマー」のような地域のファンが存在すれば理想的です。

しかし、そのような人達を一朝一夕で激増させることはできません。そのため、「観光以上・定住未満」の人々、つまり「関係人口」の獲得に活路を見出すための方策として、自治体での「NFT」活用の機運が高まっているのです。

インターネット上に存在する「NFT」が持つ特性として、居住する地域・場所等の物理的制限がないことが挙げられますが、国内・国外を問わずどの地域に住む人々に対しても、「NFT」による「デジタルアート」などをネット上で提供できることは大きなインパクトを秘めていると思われます。

「ご当地NFT」と「デジタル御朱印」

楽天グループ株式会社が運営する「Rakuten NFT」に、地方自治体が「NFT」を販売する「ご当地NFT」の第一弾として、京都市の広報キャラクター「京乃つかさNFT」が販売されています。

バーチャル開催されたイベント「京都国際マンガ・アニメフェア2022(京まふ2022)」で、一枚11,111円 限定111枚で販売され好評でしたが、「ご当地NFT」は今後拡張される予定で、ゆくゆくは自治体が販売する「NFTコンテンツ」を「ふるさと納税」の返礼品として活用できる仕組みも計画されています。

また、三重県明和町では、同町にある竹神社の御朱印をデザインした「NFT」による「デジタル御朱印」を制作し、参拝者に無料配布する実証実験を実施しています。

現地を訪れた人限定の「NFT御朱印」は、参拝記録としてデジタル上に残しておくだけではなく、一年を通して12回絵柄が変わることで、「NFT」を収集したくなる仕掛けもあり、昨今の「御朱印」集めのブームと先端技術を掛け合わせた、ユニークな事例となっています。

自治体が展開する「NFTギャラリー」と「NFTアート」

沖縄県北谷町では、2022年8月に沖縄初の「NFTギャラリー」GALLERY HENZAを開設し、NFTクリエイターやアーティストの作品が展示販売されていますが、これと同時に「NFTマーケットプレイス」OpenSeaにも出店することで、オンライン・オフラインの両面で「NFT」関連施策を展開しています。

「NFTギャラリー」GALLERY HENZAのコンセプトは、このギャラリーを通した沖縄と世界を繋ぐWeb3.0コミュニティの創造で、沖縄のクリエイターやアーティストの「NFT作品」を全国・海外へ向けて発信することで、島民の「NFT」への関心・理解を高めるとともに県外からの誘客効果を狙っています。

大阪府泉佐野市は、ふるさと納税の返礼品に、人気NFTプロジェクト「KawaiiGirl」を手がけるNFTアーティストであるAme-chan氏がデザインするオリジナル「NFTアート」の提供を、2021年7月から泉佐野市ふるさと納税寄付サイト「さのちょく」で始めています。

このオリジナル「NFTアート」は、いつくかのパーツで構成され、風景や登場人物などがそれぞれ異なる組み合わせとなっており、合計50種類の「NFTアート」が返礼品として提供され好評とのことです。

また、埼玉県秩父郡横瀬町は、「NFTアート」の売上収益でまちづくりを進める「Open Townプロジェクト」に参加していますが、自然と歴史的な文化遺産を持ち、観光地としても親しまれている一方で消滅可能性都市の一つでもあります。

そこで、町の未来を変えていく取り組みとして、横瀬町の特徴を活かした「NFTアート」を全世界に向けて販売し、世界中から資金と応援者を集め、町が抱える課題の解決に向けた施策の実行を担えるような自律型のまちづくりを目指しています。

新たな時代における分散型自立組織の可能性

鳥取県智頭町と静岡県松崎町は、株式会社ガイアックス(以下、ガイアックス)と提携し、地方創生の課題を解決する取り組みとして、「美しい村DAO」を推進しています。「DAO」とは、「Decentralized Autonomous Organization」の略で、日本語では「自律分散型組織」と訳され、一人ひとりが主体的に動き、共同所有・管理する組織の総称です。

両町とガイアックスは、「DAO」自走のコミュニティサポートのほか、ブロックチェーン技術を活用した「NFT」販売プラットフォームの開発を開始し、デジタル村民となるための「NFT」や、地方の魅力的なコンテンツを体験できる権利を含む「環境系NFT」が購入できるプラットフォームを作成します。

これらの「NFT」を購入することで「DAO」のメンバーとなり、世界中どこにいても鳥取県智頭町・静岡県松崎の魅力を広げていく企画に参加することが可能になります。「NFT」を購入して終わりではなく、買うことで応援の輪の中に入るという、参加型のプロジェクトによって継続的な関係づくりが形成できることが期待されているのです。

「DAO」の概念が注目されているのは、個々人が誰かの支配下に置かれるのではなく、自分たちの世界を作り始めたからではないでしょうか。本来「DAO」においては、誰かに管理されるのではなく、自分たちだけの世界で自立(Autonomous)する社会を目指すものですが「DAO」が進展することによって、より公共性の高い新たな地域のすがたが見えてくると思われます。

いま、社会全体が激動の時代を迎え、かつてのデファクトスタンダード(業界標準)とされていた様々な仕組みが新たなものに置き換わり、大きな変革期を迎える中で、自分たちの地域を魅力ある「生活圏」にしていくには、高度成長期から連綿と続く既存の概念には収まらない、大幅な発想の転換が必要と思われます。

政府が2021年6月に閣議決定した「骨太の方針」では、「NFT」の活用や「DAO」の利用等の「Web3.0」の推進に向けた環境整備の検討を進めると明記し、デジタル庁では「DAO」の法的位置づけの整理を始めています。

急速に進展する、人口減少やシニアシフトを背景とした、社会構造の変化に対応するためには、既存の概念を突き抜けるような、斬新な発想に基づく「NFT」の活用や、「DAO」の概念を取り込んだ新たな地域社会の創生が求められているのではないでしょうか。

ポストコロナ時代の「シン・デジタル化戦略」

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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