人間関係に使えるスキル
 ~クレーム対応セミナーから

図書館つれづれ [第1回]
2014年6月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

はじめまして。ライブラリーアドバイザーの高野一枝です。
私は、20年間、図書館システムの開発に関わり3年前に会社を定年退職しました。
通信で司書資格を取得したのがきっかけで、日本図書館協会のステップアップ研修にも4年程関わらせていただきました。

在職中は、「システム提供業者は図書館のパートナー」を肝に銘じてきましたが、トラブルで迷惑をかけたことも数知れません。それでも、図書館の皆さんと協働して、「利用者のために良いシステムを作ろう」という姿勢で仕事をしてきました。

これから連載させていただくコラムが、システム提供業者と図書館をつなぐ懸け橋に、少しでもお役にたてれば幸いです。

数か月前、近くの図書館で、職員が利用者にしきりに謝っている光景を目にしました。この対応姿勢に違和感を抱いていた時に、知人からクレーム対応セミナー(講師:横浜のデパートの相談室でクレーム対応をされていた川合健三氏)のお誘いを受けました。

図書館でも十分活用できると思いましたので、紹介させていただきます。

クレームは最初の対応がカギ

クレームとは何でしょう?
何が理由かはわかりませんが、とりあえず相手は何かに怒っているのです。そして、そのことを伝えようとしています。
私達が最初にクレームの対応する場面は、幾つかあります。

  1. メールや葉書で、クレーム内容が送られてきた時
  2. クレームの電話を受けた時
  3. 目の前でクレームの応対をする時

アメリカの心理学者メラビアンは、人物の第一印象は初めて会った時の3?5秒で決まり、その人物を評価する情報との関係を唱えました。

総合評価=言語情報(7%)+声のトーン・口調や速さ等(38%)+表情やしぐさ等(55%)

この第一印象の評価方法をクレーム対応に当てはめると、顔の表情も声のトーンもわからないメールでのクレームが一番厄介だと考えられているのも頷けます。

クレームは、最初にどう応対するかがカギになります。

クレームの申し出では、お客様の勘違いや思い込みをしている場合が少なくありません。
だから、応対する側は、相手の話をさえぎってでも、「丁寧に説明してあげなければ」「正しい答えを教えてあげなければ」という態度になってしまいます。では、クレームを言う側は、どんな思いで言っているのでしょう?

  • 期待外れの不平や不満
  • 「これはおかしい!」と、本人は絶対的自信を持っている(多分に思い込み?)
  • 今まで信頼していたからファンだからこそ、あえて、言っている
  • 怒りや失望や悔しさをわかってほしい

一方で、「『こんな些細なことで』と思われるかしら?」「うまく話ができるかしら?」と、不安な気持ちもあるのだそうです。クレーマーは、自信と不安が入り混じった複雑な心境なのに、応対者に威圧的に対応されては、良い結果が生まれるわけがありません。

応対者は、「最初の出会い」で自分たちの正義を主張してはいけません。
お客様は、回答が欲しいわけでも何かを説明してほしいわけではなく、気分よく文句を聴いてほしいのです。クレーム対応の大前提は、貴重で大切な意見や感想を提供してくれるお客様を尊重し、認め、応対することから始まります。

クレームも、「ピンチはチャンス」と考えれば、立派なビジネスチャンスです。では、「お客様は全て正しくて、神様なのか?」といえば、それも違います。相手が、応対者の人格を否定したり、暴力をふるったり暴言を吐く場合は、実務的/法律的な応対も勿論あります。

お客様の声を聞き入れる姿勢

そこで、お客様対応について質問です。お客様が2冊の本を持ってきました。
「どっちが面白いですか?」と、尋ねました。さて、あなたはどう答えますか?

「好きずきですね」と答えたあなた、お客様への応対として考えた場合は、失格な応対になるかもしれませんね。お客様への応対では、相手の言い分を“受け容れて”、“共感して”、そのまま相手に返すことが求められます。

人とのコミュニケーションを円滑に行うには、一連のサイクルがあるのです。

図:コミュニケーションを円滑に行う一連のサイクル

このサイクルを回すために必要なことは、まずは、相手との信頼関係を構築することです。心理学では“ラ・ポール”と呼ばれています。ラ・ポールは、傾聴(受容と共感)の繰り返しから生まれます。

[相手]  昨日買ったんだけど、シミがついてるのよ
[こちら] 昨日お買い上げいただいたのですね
[相手]  そうよ、今朝、着ようと思ったらシミがついてるのよ
[こちら] 今朝着ようと思ったらシミがついてるのに気づいたのですね

と、ひたすら相手の言うことに忠実に同じ言葉を繰り返して聴いていく、これが傾聴です。
間違っても「そんなはずはありません。あなたがどこかでシミを付けたのではありませんか?」なんて言ったら、相手はますますエスカレートしていきます。

相手の言い分を、疑問を挟まずに、ありのままに聴きいれる姿勢を、“受容と共感”といいます。
自分の価値観を横におけなくて、先入観や思い込みや早とちりなどがあると、中々相手を受け入れることができません。

私も心理学を学びたての頃は、「相手の言葉の反復をして何になるの」と反発ばかりしていました。
でも、ひたすら相手の言い分を十分に聴いていくうちに、相手は「私の気持ちがわかってくれた」と安心感や安堵感を抱くようになります。
相手に溜まっていたマグマを丁寧に吐き出してもらうことができたら、もうしめたものです。

怒りや不安の中にいるお客様に、落ち着いていただく3つのスキルがあります。

  1. うなずき
  2. あいづち
  3. 繰り返し

この3つのスキルを、組織全体で、同じ意識で、同じ行動で共有化することがクレーム対応には必要とのことでした。

組織をあげた総合的な判断と対応

「あなたはそう思っているのですね」と共感し相手を受け入れることは、こちらのミスを認めたわけではありません。
責任を認めるときは、以下を総合的に判断します。

  1. こちらに瑕疵・欠陥・過失があるか?
  2. その結果、お客様に多大な損害が発生したか?
  3. 「瑕疵・欠陥・過失」と「お客様の損害」との間に相当な因果関係があるか?
  4. お客様の要求が損害に比べ過剰ではないか
  5. お客様のクレームに対する態度は?

特に、ハードクレーマーへの対応は、組織をあげて、一貫した態度が必要です。

  1. 先ず自分の名前を名乗り、場合によっては相手の氏名をメモに書いてもらい、ベテランに対応を引き継ぐ
    (相手が氏名を書くことを拒否した場合は、すぐにメモを引っ込める)
  2. 承認を確保するため、一人ではなく複数で聴く
  3. 事実関係を収集し、相手の要求を確認し、その事実を確認する
  4. 組織で事実関係との対応を検討し、その事例を共有化する
  5. “No”は明確に伝える(曖昧な返答はタブー)

テレビで、どんな質問にも、ただひたすら詫びている姿を見たことはありませんか?
あれは、「ブロークンレコード」と言って、立派なクレーム対応なのだそうです。

「受容・共感」はクレームに限らず、職場の人間関係にも大いに使えるスキルです。
私も在職中にもっと早くに学んでいたら、もっと充実した人間関係が築けたのにと、今頃悔やんでいます。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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