地域に貢献する図書館をめざして
 ~研修会と図書館ツアーから

図書館つれづれ [第3回]
2014年8月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

今回は、薬袋秀樹先生(前・筑波大学)の研修会と、九州図書館ツアーで訪問した幾つかをお伝えします。

薬袋先生の「図書館の未来(これから)~今、図書館を考える」研修会に参加して

図書館法の第2条に、「図書館とは図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、リクレーション等に資することを目的とする施設・・・」とあります。1963年に発表された中小レポート(『中小都市における公共図書館の運営』)以降、公共図書館は貸出重視の姿勢をとり、貸出を基本に発展してきました。

確かに、公共図書館は市町村にまで行きわたり飛躍的に発展しましたが、業務委託や指定管理者制度の導入に見られる図書館運営の効率化が急速に進んでいます。その背景には、自治体財政の逼迫のほかに、インターネット技術の急速な発展など図書館を取り巻く環境が大きく変わったことも見逃せません。

先生の講義は、図書館が周知されるようになった今、「公共図書館の最終目的は、本を提供すること」でよいのでしょうか?との問いかけから始まりました。そして、この問いかけが、私をいきなり数年前へとタイムスリップさせてしまいました。



指定管理者制度が進む中、私は2007年にシステム提供者が指定管理者になるビジネスチャンスもあるのではと考えて、聖徳大学で司書資格を取得しました。さらに2008年には、筑波大学大学院図書館経営管理コースを受講しました。そこで総務省と文科省から来られた先生の講義を受け、戦慄させられました。

  • 図書館関係者は、図書館が自治体の一組織であることを忘れている。
  • 図書館の存在は「よいこと」だけで、どこでも無条件に評価されると、思いこんでいる。
  • 客観的に行政職が納得する理論展開を持っていない。
  • 図書館関係者以外の人たちとの交流をせず、図書館の中だけで主張をする。


薬袋先生の講義から当時に近い衝撃を受けました。図書館の方々は、「予算をくれない!人をくれない!」と愚痴をこぼしますが、これを「くれない族」と呼ぶのだそうです。「蔵書の管理や調べ物は司書の仕事」だった時代と今は違い、本をスキャンするだけで貸出ができ、司書しかできなかった技術の相当部分はインターネットが代りにしてくれます(勿論すべてを信用するのはリスクがありますが)。

公共図書館の最終目的が「読書の保証や資料提供」では、今の時代の市民には通じません。何よりも住民生活や自治体の仕事と結びついていません。

現在の公共図書館の最終目的は、「住民生活の向上・充実、地域の活性化、地域の振興」と考えてよいのでは、との提案がありました。これは、地方公共団体の行政の目標であると共に、地域社会の目的でもあります。地域振興には、それを担う人づくり、人材の養成と地域振興の活動に対する支援が必要であり、人々の読書と学習が必要になり、まさしくそれこそ図書館の役割ではないかとのことでした。

既に、この考え方は、岐阜県図書館のホームページ(注1)で見られるミッションステートメント「岐阜のひとづくり、ものづくり、まちづくりをささえます」に表現されています。

図書館政策・経営方針には、図書館の資料・情報提供が地域振興に役立つことを明確にし、行政部局や関係団体と連携し、Webを中心にした広報活動を展開する。またインターネット社会に対する対応策として、情報データベースの提供、情報リテラシー講座の開催、そして、その人材確保のためにも非正規職員の待遇の改善を提案されました。

これからの図書館職員は、「理論を自ら作り、組織は自分たちで盛り立てていく。生き残りたいと思ったら自分で動くしかない。Webの集合知を使って知恵を集めよう」と締められた言葉が印象的でした。薬袋先生は、今後、つくばリポジトリに「図書館入門」と全体の「読書案内」を掲載する予定だそうです。

九州図書館見学ツアーから

6月15,16日と、知人に声をかけ、九州の図書館見学をしてきました。4図書館を見学した中で、今回は小郡市立図書館と諫早市立図書館について紹介します。

小郡市立図書館(注2)

学校連携や、指定管理者から直営に戻った図書館として全国的に有名な図書館です。その実績は、私の言葉より永利館長の書かれたものを読まれた方が伝わると思い、幾つか資料を紹介します。
館長自身が指定管理者にも関わっていたので、色々な視点から問題点や課題も伝わってきます。そして、学校連携にとどまらず、介護保険課や健康課など図書館から飛び出した他部署との連携には、きっとどの町にも使えるヒントが隠されていると思います。

小郡市の指定管理者制度について

  1. 「指定管理者から直営へ移行した図書館長の図書館運営私論~小郡市立図書館の事例から~」『図書館雑誌』2011年,7月号, p.434~p.437.
  2. 「指定管理者から直営へ~その変化と課題」『指定管理者制度のいま~指定管理者制度連続学習会 記録集~』図書館問題研究会神奈川支部 2013年,p.12~p.30.

公共図書館と学校の連携・支援について

  1. 「公共図書館の学校支援~小郡市の実践からの検証~」『図書館評論』2012年,第53号,p.1~p.12.
  2. 「小郡市における「家読」推進事業からの一考察」『図書館評論』2013年,第54号,p.53~p.64.

ホームページの“図書館のとりくみ”下の図書館要覧や25周年記念冊子もあります。日本図書館研究会発行の図書館界5月号(Vol.66 No.1)に2013年度図書館学セミナーの特集が出ていて、その中のP21からP29まで「九州地区の経験から~福岡県内と小郡市を中心に~」と題して、1980年代以降の福岡県内の図書館と小郡市立図書館の運営形態の変遷について館長がまとめた文章が載っています。こちらも参考にしてみてください。

諫早市立図書館(注3)

平成の大合併で、諫早市と周辺5町(多良見町、森山町、飯盛町、高来町、小長井町)が合併したのは平成14年です。あれから10年が経ちました。
当時、諫早市が合併して、どの部署よりも早くに予算化してくれたのは、図書館システムの統合でした。「休館日無しで実現できること」が条件で、教育委員会へ提出するスケジュール表や作業の説明資料を作りに諫早へ伺いました。出来上がった資料を渡して空港へ向かったものの、タクシーの中で幾つか気になる個所がでてきて、そのまま図書館へ引き返したこともありました。

合併時のシステム統合の一番の壁は、どこも資料のバーコード体系が同じなので、混乱を避けるためにはバーコードの張り替え作業が必要なことでした。諫早市も例外ではなく、旧森山町と諫早市の一部のバーコードが重なっていたのです。合併ではどうしても大きな市の意見が強くなりますが、森山町ではなく諫早市の本のバーコードの張り替え作業をすることで協力体制ができ、システム統合もスムーズに行うことが出来ました。

合併直前に開館した“たらみ館”は、諫早市のサーバを共有する形式で最初は稼働し、合併後に改めてデータ統合をはかりました。久しぶりに目にする図書館に、休館日をずらしながらシステム統合をしていった想い出が、走馬灯のようによみがえりました。

今回の見学を出迎えてくれた中には、長崎県立図書館の方や近隣の図書館の方もいらっしゃいました。日頃から関係を密にしている姿に、同行した皆さんも感激していました。諫早市は図書館ボランティア活動が活発で、初めて議員に当選した方は、図書館友の会との会合を必ず開くのだそうです。どんな話をされるのかは、皆さんの想像にお任せします。

そのほかに伺った図書館でも、みんな素晴らしい活動を続けていました。そして、地域に貢献する図書館を目指す姿がそこにありました。

次回は、九州図書館見学ツアーでの武雄市図書館と伊万里市民図書館の紹介と、7月2日に開催された「菅谷明子さん×猪谷千香さんクロストーク」についてお伝えします。

注釈

トピックス

  • 「未来の図書館をつくる座談会」 新しいウィンドウで開きます
    前国立国会図書館長の長尾真氏が発表した「未来の図書館を作るとは」を、「図書館」や「本」にまつわる仕事をしている若い世代がどう受け止めているのか座談会が開かれました。
    図書館の可能性を一緒に探ってみられては如何でしょう。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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