クパティーノ図書館からの報告
サブコラム:忘れえぬ人々
図書館つれづれ [第11回]
2015年4月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

クパティーノ図書館からの報告

アメリカにいる息子の家族のもとへ行ったので、近くのクパティーノ図書館を訪問してきました。館長にお会いして、通訳を付けていただき、お話を伺うことが出来ました。少し長くなりますが、日本との違いなどを紹介します。

図書館概要

クパティーノ図書館は、アメリカの西海岸サンタ・クララ・カウンティ(市より上の郡に相当)のメンバーになっている市で構成されるサンタ・クララ・カウンティ・ライブラリー・ディストリクト(略してSCCLD)という1つの母体で運営されるライブラリーの1つです。サンタ・クララ・カウンティには、8つの図書館(厳密にいうと、7つの図書館と1つのブランチ)とBM(Book Mobile:移動図書館)があります。日本の市町村をまたがった広域図書館をイメージしてみてください。職員の人事異動はカウンティ内でありますが、辞令形式ではなく、本人の希望や状況により、試験と面接のプロセスを経て異動したり、昇進したりします。

建物はクパティーノ市の所有なので清掃などのメンテナンスは市が負担しますが、図書館に関わる運用はSCCLDになります。図書館の財源は、州やカウンティ、市の税金のほかに寄付やその他の収益もあり、とても複雑です。詳細は英文がありますので、興味のある方はWebで見ることができます。クパティーノ市の人口は59620人。図書館利用者登録数は41339人で、登録率は70%近くあります。蔵書数は37万冊弱。日本の雑誌は、SCCLD内で、“ミセス”と“文芸春秋”を定期購読していました。

クパティーノ図書館の開館時間は、

月曜日から木曜日
10:00~21:00
金曜日と土曜日
10:00~18:00
日曜日
12:00~18:00

SCCLD内のライブラリーによって違いますが、休日は開館時間が少ない傾向があります。

図書館の雇用形態

図書館で働く職員の形態は、大きく3つに分かれます。

  • ライブラリークラーク:主に貸出・返却などの業務をおこなう
  • ライブラリーページ :本の排架や整理など
  • ライブラリアン   :リファレンスなどを担当

職種により雇用形態や勤務時間も様々です。クパティーノ図書館では51名の職員のうち、ライブラリアンは16人。対象サービスごとにライブラリアンが割り振られています。

ボランティアの運用

図書館を支援するボランティアには、大きく4つのタイプがあります。

  • フレンズ・オブ・ライブラリー
    除籍した本を売る日本の図書館ボランティアをイメージしてみてください。年に数回行われる本のセールのほかに、図書館を入ってすぐの場所にフレンズ・オブ・ライブラリーの棚が設けられています。Used BOOKは格安で、購入したい場合は、通路の反対側の貸出カウンターで購入することができます。フレンズ・オブ・ライブラリーの会計は、図書館とは別に管理されます。
  • クパティーノ・ライブラリー・ファウンデーション(注1)
    クパティーノ図書館固有の組織で、ロータリークラブなどへの資金集めをします。全く別の話ですが、クパティーノ図書館の入り口には大きな水族館のような水槽があります。これも個人の寄贈と聴いてビックリしました。
  • ライブラリー・コミッショナー
    クパティーノ市から任命され、市と図書館のかけ橋を担当します。市と図書館がコラボする行事には、人も資金も必要です。コミッショナーは、ライブラリーの職員と協働して実現します。
  • ティーン・アドバイザリー・ボード
    ティーン・サービス・ライブラリアンと協力して学校連携をはかります。
    図書館の中庭には、ボランティアと一緒にティーンエイジャーが野菜を作っています。作られた野菜は、別の団体を通して、食べ物を必要とする人たちの元へ支給されていきます。社会の仕組みや繋がりを、子どもたちが図書館の中で学んでいきます。

図書館での貸出状況

第9回のコラムで紹介したアリゾナ州の図書館と同じようなものが貸出されていました。一部貸出していなかったものに×を付けました。

  • 博物館や催し物のチケット
  • 録音図書
  • DVD
  • 写真コレクションonline(×)
  • 先祖の情報
  • 年齢を問わない催し物
  • 望遠鏡(×)
  • 高額商品の購入助言
  • 調査研究支援
  • 無料コンピュータ教室
  • 集会室(×)
  • 各種のゲーム
  • 電気自動車の充電(×)
  • 家庭で使う道具類
  • 同人誌

資料は、通常3週間の貸出ですが、映画DVD、ベストセラー本やベストセラー録音図書については、雑誌と同じ1週間の貸出制限。音楽CDは3週間です。良く借りられる資料は、貸出カウンターの近くの別室「NEW BOOKS MEDIA NEW MAGAZINES & NEWSPAPERS」に置かれています。
子どもコーナー以外の延滞本については1日25セントの延滞料が発生します。貸出カウンターで支払われ、フレンズ・オブ・ライブラリーとは別会計で処理されます。

利用者カードの再発行は、以前は1ドルだったそうですが、現在は無料です。
SCCLD以外の利用者は、年80ドルの会費が必要でしたが、この7月からは無料になります。
予約本の貸出も日本とは違います。クパティーノ図書館は予約数が多いので、予約本の確保票は曜日ごとに色を変えて印刷しています。貸出カウンターの隣に、カラフルな票を挟んだ確保本は並べられていて、利用者は自分で予約した本を取り出してきてカウンターで貸出処理をします。

図書館コンピュータシステムと相互貸借

SCCLD内は同じシステムを使用しています。SCCLD内の図書館(BMを除く)では、利用者はどこで借りても返却しても構いませんし、資料の取り寄せも可能です。このあたりは日本と同じです。返却は自動返却機で選別されていました。

SCCLD 以外の図書館からの貸借は、ILL(Inter Library Loan)という相互貸借の有償サービス(4ドル+追加料金)を使います。サンノゼ図書館は同じカウンティですが、SCCLDには属していないので、組織もコンピュータシステムも別なんだそうです。だから相互貸借はILLでおこないます。

多民族サービス

クパティーノは中国人が多くて、中国語の本は充実していました。リファレンスカウンターには、20か国にも及ぶ言葉で、自国語の箇所を指すと、自国語が話せる人と電話でつなげてくれるサービスがありました。日本ではせいぜい英語、中国語、韓国語にとどまります。このサービスはクパティーノ図書館運用のサービスではなく、別組織によるサービスとのことでした。

Webデータベースの提供

前回紹介したアメリカンセンターが提供するサービスに匹敵するWebデータベースサービスは、図書館の利用カードを持っていれば、一部のデータベースを除き(Ancestory.com) 自宅でも利用することができます。図書館の利用カードがなくても図書館内のコンピュータなら全てのデータベースサービスを受けることができます。更に、雑誌はタブレットでも読むこともできます。電子ブックを利用する場合は、日本と同じく同時アクセス数制限を設けています。

クパティーノ図書館が目指しているもの

今でも利用者登録数は人口の70%近くありますが、85%の利用者登録率をめざし委員会も作られています。アウトリーチイベントと称し、図書館周知のために色々な場所に行き、ノベルティを配布して図書館を宣伝しています。私も素敵なボールと保冷バッグをいただきました。

SCCLDが目指しているものは、単なる本の貸出だけではなく、コミュニティ・アンカーの位置づけでした。
英語に自信のある方は、Mission and Values(注2)を参照ください。

失業者の支援対策やヘルスリテラシー教育などのリテラシー教育の場として、地域に根差した、特に教育中心のシステムラーニングプログラムには力をいれています。
英語を母国語としないESL(English Second Language)教育は、毎週金曜日に60人前後の方が図書館を利用します。クラスも、ビギナー・中級・上級と3つに分けられ、ボランティアによって運営されています。そのほかにも他の曜日に小規模によるESLクラスもあるそうです。ESLについては、図書館以外に大学でも無償で受講できる制度もあるようで、息子のパートナーはどちらも利用していました。

その他の雑感

図書館に入ってすぐに貸出カウンターがあり、1階は児童コーナー、2階が大人のコーナーで、其々に数十台のコンピュータが設置されていました。1階のトイレには男女の区別がありません。お父さんが女の子の世話をすることもあるし、お母さんが男の子を連れて用をたすこともあるからです。普段は気にもしていなかった細かな配慮が目に留まりました。

図書館の内部も見せていただきました。個人のロッカーのほかに、オープンなメールボックスがあって、そこにはバレンタインのチョコや手紙などが入っていました。個人を尊重するアメリカらしい空間でした。

日本とアメリカでは図書館が育ってきた文化も違いますが、これからの図書館の参考になれば幸いです。貴重な時間を割いてお話しいただいた館長と通訳の方に感謝いたします。

~サブコラム~ 忘れえぬ人々(A市立図書館はシステムの生みの親)

20年前の1月17日の朝、テレビに映し出されていたのは、その頃商談で通っていたA市の高速道路でした。道路が突然分断され、車が半吊り状態のあの光景です。こんな状態では図書館システムの更新どころではないと諦めていたのですが、何とか受注にこぎ着けたのでした。

初めての打ち合わせで駅を降りると、ビルがみんな微妙に傾いていて、私は眩暈がして気分が悪くなりました。まだ多くの家屋は手つかず状態で、瓦礫がそのままのところもありました。にもかかわらずノー天気に出かけてきた不謹慎な自分を恥じたのを、昨日のことのように思いだします。震災当時、A市立図書館は避難場所になっていました。職員は対応に追われ、自宅が崩壊したにもかかわらず、自宅に戻れたのは2週間後だったという話や、東北の図書館の方々がボランティアで応援に来てくださったことなどをお聞きしました。

実はこのとき、私はSEに一つの選択を迫っていました。元々、私たちは図書館SEだったわけではありませんでした。UNIXで初めて作ったシステムが、多大な迷惑をかける状態になり、助っ人要員として駆り出されたSEだったのです。そして、このシステムに当初関わっていた人はいなくなり、残されたのは数館のユーザーと品質の怪しいシステムでした。A市の次の受注が決まっていないのを逆手にとり、「このまま品質の怪しいシステムを保守していくか、導入までの半年大変な思いをするかもしれないけどシステムの見直しをかけるか」と、SEへ判断を迫ったのです。SEは後者を選んでくれました。それからの半年は大変な毎日でした。

皆さんは、同じ処理なのに、途中の展開が違うと、何故か動きが違うなんて経験ありませんか?システムが構造化されていれば、どの処理も同じルーチンを通るのですが、コピーをしてプログラムが作られていると、こんな不具合が起きます。そんなプログラムはどこかに修正がかかると、プログラムによって修正する人も変わり、プログラムも複雑になり、不具合が生じるリスクも高くなるのです。

そのため、全ての処理の見直しをして同じ処理は同じルーチンを通るように、特に画面の入出力に関しては念入りに検討しました。画面の何処に、どの大きさで、何を表示し、表示前や入力後にチェックするルーチンなど全てパラメータで与えるようなプログラムにしました。こうしておくと、不具合があっても、一つのプログラムを修正すれば済みます。最大の課題であったプロセス管理に至っては、他のグループのSEまで巻き込んで完成しました。そして、全ての業務をこんな感じで見直して、A市立図書館へ無事導入することができました。A市が、あの時採用を断念していたら、私たちのシステムはできませんでした。いわばA市立図書館は、私たちシステムの生みの親です。図書館の皆さんも、地震直後の混沌とした中で“作り直す”と言われ、さぞかし心配されたことと思います。

導入時には、休み時間に卓球をみんなで楽しんだ想い出も甦ってきます。移行仕様書で確認していたものの、実際の画面を見ると意図が違っていて、急きょデータを修正するハプニングもありました。
一緒に苦労した図書館ほど想い出は強く残ります。今でも関西に行くと当時の関係者にお会いするのは、あたかも戦友のように「同じ釜の飯を食った仲間」意識があるからかもしれません。



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図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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