図書館総合展フォーラム2015 in 富山
図書館つれづれ [第18回]
2015年11月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

図書館総合展フォーラム2015 in 富山

今回は、9月19日に富山で開催されたフォーラム“図書館総合展フォーラム2015 in 富山 - 地域資料の活用とデジタルアーカイブ -”の様子をお伝えします。

第一部 パネル討論「北陸の図書館最新事情」

  • パネリスト: 鷲澤淑子氏(石川県立図書館 利用サービスグループ専門員)
           早苗忍氏(鯖江市図書館 副館長)
  • 司会:岡本真氏(アカデミック・リソース・ガイド株式会社 代表取締役/プロデューサー)

図書館設置率が高い北陸地域。2つの図書館の現状報告がありました。

提言 鷲澤淑子氏: 図書館で「pまつり」を楽しもう

石川県立図書館(注1)は、明治45年開館の100年以上の歴史を持つ図書館です。特色あるサービスとして、東海北陸ブロックへの無料宅配サービスや貴重資料のデジタル化をあげられていました。

「pまつり」って、聞かれたことありますか?実は、私も初めて耳にしました。勉強不足ですね(笑)。
「pまつり(ページまつり)」はSNSから生まれた遊びです。ルールは簡単。まず、偶然性のある番号を決めます。参加者は、好きな本のそのページから好きな一文を抜書きするだけ。パネリストがFacebook上でおこなった「pまつり」は、開催者が突然当日の月日を組み合わせたページを指定し、その日の終わる夜12時までに、友達同士で投稿数を競うゲームでした。友人の読んでいる本や自分の蔵書にも再発見があり好評だったそうです。

そこで、パネリストは、これを図書館で開催できないかと考えました。題材の本は目の前にあるので、まさに、「リアルpまつり」。今回の話は、SNSの遊びを、図書館イベントとして初めて取り入れた、5月4日に開催した「54pまつり」の報告でした。

好きな一文は、図書館が用意したA3の用紙を縦に半分に切ったものに書いてもらい、番号を振ってロビーの掲示板にまとめて紹介しました。展示のキャプションとして目録を書く紙は、歴史100年の図書館に残っていた目録カードを使い、紹介された本とコーナーに展示して貸出へと繋げます。利用者は、ロビーで気になった一文を目にしたら、同じ番号が振ってある目録カードへたどり着き、本を借りるという流れです。目録カードは、本が貸出中の時のお留守番書誌情報となり、当然予約もできます。

これなら敷居が低くて誰でも楽しめそうですね。石川県立図書館では、更に工夫して今後も開催予定で、他の図書館でも自由に開催してもらい、「pまつり」の輪を広げていきたいとのことでした。

提言 早苗忍氏: さばえライブラリーカフェ

鯖江市図書館では色々な取り組みをしていますが、ライブラリーカフェの紹介がメインでした。ライブラリーカフェについては、第16回の図書館コラムで紹介しましたので、そちらをご覧ください。

図書館に直接関係はありませんが、メガネ・繊維・漆器のまち鯖江市(注2)では、「ゆるい移住」と銘打って、「家賃無料でとりあえず住んでみる」という企画にも取り組んでいるそうです。午後の部で紹介されたオープンデータへの取り組みなど、何かと気になる街に伺って、また皆さんへレポートしたいと思っています。

第二部 記念講演「学び続けること - 本を通して、地域を通して -」
山本一力氏(作家)

山本一力氏の講演ということで、この時間帯は一般の方々も大勢聴講されました。富山で偶然出会った女学生の“人を気遣うしぐさ”に感動したエピソードから話が始まり、言葉は自分の想いを相手に伝える大切なツール。英語を覚えることより伝えるものを持つことが大事と、本や地域を通して学ぶことの大切さを話されました。講演の前に立ち寄った富山市立図書館本館の山本氏の特設コーナーで、山本氏に偶然遭遇。記念写真を一緒にとっていただきました。自慢話でごめんなさい(笑)

第三部 共催館報告「富山市立図書館(注3)の開館にあたって」
橘真理子氏(富山市立図書館 館長)

8月22日、富山市に「TOYAMAキラリ」という、ガラス美術館と図書館本館の複合施設がオープンしました。建築は、かの隈研吾氏が手掛けた独創的な建物です。私も事前に見学させていただきました。館長から紹介のあった本館の特色を幾つか紹介します。

  • ガラス美術館との複合施設:ガラスの街づくりと本の文化の共存
  • 開放的な斜めのスパイラル・ボイド(吹き抜け)のゆったりした空間
  • 500タイトルの雑誌、1階の情報コーナーでの新聞・雑誌閲覧などの資料の充実
    (雑誌500タイトルの内、300タイトルは市内150社の企業がスポンサーになっている)
  • セルフ貸出、自動返却、予約システムの導入、Wi-Fi環境などの利便性向上
  • ビブリオバトルなどの読書推進プログラムやガラス美術館とのコラボ

街中の新たなにぎわいの拠点を目指してオープンした本館の詳細は、(注3)を参照ください。お話には、「約500タイトルの雑誌の登録作業や装備などの維持管理が大変」などの苦労話もあり、図書館の奮闘に、かえって親近感を抱きました。

富山市立図書館には本館含めて26の図書館(分館)が存在します。中でも、富山駅前のCICビル4階にある、「子育て支援センター」と「こども図書館」が一体となった施設「とやまこどもプラザ」は、行政が横軸で運営する珍しい試みの図書館です。図書館の内装は、ブルーナのミーフィーを思わせる世界。機会があったら、是非自分の目で確かめてみてください。

パネル討論 「地域資料の活用とデジタルアーカイブ」

  • パネリスト:加藤達行氏(富山市立図書館 前館長)
          島崎毅氏(射水市立図書館 前館長)
          牧田泰一氏(鯖江市政策経営部 情報統括監)
          田山健二氏(TRC-ADEAC株式会社 代表取締役社長)
  • 司会:岡本真氏(アカデミック・リソース・ガイド株式会社 代表取締役/プロデューサー)

歴史と文化の地域資料を、デジタルアーカイブする図書館が増えてきました。資料のデジタル化・アーカイブの可能性やオープン化についての発表と討論がありました。

紹介 田山健二氏:「射水市新湊博物館のデジタルアーカイブシステム」(注4)

射水市のシステムを手掛ける時、博物館から2つの要求“字が読めること・郡ごとの絵図が見れること”があったそうです。確かに、高解像度で撮影されているので、どんなに小さくしても字が読めますし、古文書や現代語訳など重ねて体系的に見ることができます。

ちなみに、地図と言えば、「伊能忠敬」を思い浮かべますが、同じ時代に北陸には、「石黒信由」という測量家がいました。新湊博物館の資料の多くは、石黒信由に関するものです。今の地図に遜色ない石黒信由の地図を、デジタルアーカイブで実感してみてください。

提言 加藤達行氏: 富山市立図書館のデジタル資料

富山市立図書館では、富山の置き薬のパッケージ、古地図、山田孝雄文庫所蔵の一部を電子化。デジタル資料は拡大表示も可能ですし、通常の所蔵資料としても、検索が可能です。

提言 島崎毅氏: 「地域資料のデジタル化を進めよう」

射水市新湊博物館のデジタルアーカイブシステムは、図書館振興財団からの助成金により、藩政期の歴史資料「高樹文庫」をデジタル化しました。デジタルアーカイブの可能性に触れられました。

  • 好きな時に、好きな時間だけ見れ、文字が読める
  • 地方創生、地方の活性化のために郷土の歴史を知ることは大事
  • デジタル文字は角度を変えて読める
  • 土地の名称など変遷しているが、昔の事例がわかる
  • 古地図大判のものは、現物だと乗っかってみるしかないがデジタル化されたものだと手軽に見ることができる。

そして、デジタル化できた要因は、それまでの地道なデータの蓄積があったからだと述べました。
一般に流通していない郷土資料や地域資料のデジタル化を通して、地域の図書館の果たす役割は重要になっていくと結ばれました。

提言 牧田泰一氏: 「オープンデータムーブメント」

Webは情報を共有する場として発明されましたが、本当に世界を変えましたね。今やインターネットを利用しない世界は考えられない時代になりました。オープンデータとは、「Web上にコンピュータが読めるデータ形式で誰でも使えるライセンスで公開すること」で、鯖江市の取り組みが紹介されました。

発表を受け、司会の岡本氏より、オープン化が再投資につながると、「例えば、京都府立のオープンデータ“百合文庫”のデータを、Tシャツのデザインに使っても構わない」などの具体的な二次活用事例が紹介されました。

デジタルアーカイブの課題点について、皆さんから幾つか出ました。

  • 一番は予算の問題。図書館単独での予算は難しい。観光課・博物館・地域振興課など関係機関と組み合わせる。
  • 古地図をデジタル化しても、家庭でのプリント不可が大半。プリントできるようにすると来館者が減ってしまう危惧と、どんなトラブルがあるか未知数のため踏み切れなかった。
  • デジタルデータが、どんな使われ方をするのか予測できない。行政の責任をどこまで追及されるのか不安がある。
  • 古地図のオープン化には、差別地域が記載されていたりすると、差別を助長する不安もある
  • 古いものがあるからできるのではなく、学芸員の研究があってからこそ、できるのが前提

特に、公開することに対しては、市民が損害を被るのではという不安があげられました。それでも、今失敗するから次の時代があり、冒険が次の世代を引き継いでいくと前向きな発言がありました。地域資料の現物は、どんどん劣化していくため保存の必要が急がれています。

デジタルアーカイブの面白い点も挙げられました。

  • 古地図と今の地図を重ねわせる
  • 別のアーカイブと組み合わせる(例えば、家康の絵をクリックすると、家康の地図へリンク)

アーカイブのデータは、目録データ、画像データ、テキストデータの組み合わせでできています。でも、標準化されていないのが現状です。更新時の縛りにならなければと、個人的には危惧しています。
最後に、「デジタルアーカイブを実現するためには、人間ネットワークも必要」を強調し、フォーラムは幕を閉じました。

(高野責)



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執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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