第17回図書館総合展フォーラムから
図書館つれづれ [第20回]
2016年1月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

第17回図書館総合展フォーラム

2015年11月10日から12日まで横浜パシフィコで開催された第17回図書館総合展に行ってきました。今回参加したフォーラムの中で、気になった幾つかを紹介します。

1.「地方創生と図書館-紫波町の事例を中心に」

  • パネリスト:藤原孝(前紫波町長)
          岡崎正信(オガールプラザ株式会社 代表取締役)
          手塚美希(紫波町図書館 主任司書)
  • 司会:猪谷千香(文筆家、ハフィントンポスト記者)
  • コーディネーター:岡本真(アカデミック・リソース・ガイド株式会社 代表取締役)

紫波町のことは、コラム第17回でも紹介しました。今回フォーラムに参加したのは、図書館の視点ではなく公民連携の視点で岡崎氏の話を聴きたかったからです。そして、期待以上に興味深い話でした。

岡崎氏は都市開発機構や建設省で、多くの制度や箱モノをつくってきた人です。
家業を継ぐため地元に帰ってきて、初めて制度によるまちづくりは失敗だったと気づき、公民連携手法を学びました。町長に土地開発の相談を受け、図書館を中核にしたまちづくりに挑みます。図書館には全く興味がなく、利用者カードすら持っていない彼が注目したのは、図書館の不動産価値でした。強烈だったのは民間経営の減価償却の考えを持ち込んだことです。

例えば、木造建築の図書館の減価償却期間は24年。建物に10億円かかるとすれば年間4000万円の計上となり、それに維持管理が6000万円かかります。毎年1億円が町民の負担となるわけです。もし年間10万冊の貸出の場合、1冊の貸出コストは1000円。この貸出コストを200円まで引き下げることを目指しました。

「図書館は不動産事業!」と断言し、図書館の維持管理費の一部は、周囲の複合施設のテナント料(固定資産税・賃借料)で賄われています。当初は、「図書館をコストだけで話して恥ずかしくないのか!」と、凄いバッシングも受けたそうです。図書館の価値をこんな切り口で話されるのを聴いたのは初めてで、私にはとても衝撃的でした。図書館が税金で賄えないなら、税金に頼らない工夫をする、それが公民連携です。公民連携は従来の委託業務とは違います。

PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)エージェントとは、町から委任され町に代わってまちづくりを行う組織です。紫波町では、オガール紫波株式会社がそれに当たります。民間の利点はスピード感。そのために、町は民間がワンストップで町と協議できるように、図書館の管轄を教育委員会から離し公民連携室にしました。大事なのはコスト意識。民間の事業で大切なのは、つくることよりつくったあとにどう稼げるかという視点です。補助金にはその視点がありません。お話を聴きながら、作ったら絶対に潰さない強い意志を持つことは「カーネギー・フォーミュラ」に通じるものを感じました。

岡崎氏の周りの人たちの共通点は、みんな美味しいお酒と食べ物が好きなこと。人間の欲望に素直に生きている人は信頼できるといいます。PPPが成功する秘訣は以下の2つ

  • 最初から、どうせ無理とあきらめないこと
  • 公は民に委ねる覚悟、民は行政に頼らない(税金を稼ぐ)覚悟

外からの指定管理には頼らずに、地域の人が強い意志を持って取り組まないと公民連携はリスクも大きいのです。紫波町がどう生き残っていくのかは、声を発しない住民の声をどれだけ聴けるかであり、「右に志、左にそろばんを持て!」と締められた言葉が印象的でした。

岡崎氏の話を主に書いてきましたが、それも町長の強い覚悟があればこその実現です。まちから大学に人をだし、試行錯誤しながら公民連携室を作ったのも、地道に役場のみなさんが積み上げてきた結果でした。前町長は、町の皆さんと一緒に、「仕事への誇り、町のほこり」を、追い求めていたのかもしれません。

改めて、人を動かすのは人であり、繋がりであり、強い想いであることを感じました。興味を持たれた方は、「地方創生と図書館-紫波町の事例を中心に」のページ(注1)より、動画記録をご覧になってください。

2.「こんなに使える!社史の魅力~社員教育、営業、就職活動、レファレンスツールまで、社史の活用・魅力を事例紹介を交えてご紹介~」

  • 講師:村橋勝子(社史研究家)
  • 事例発表:広沢久美子(株式会社中村屋 CSR推進室広報グループ)
         大田吉一(日本水産株式会社 経営企画IR室広報IR課)

フォーラムの関係者から、「聴きに来てね」と誘われなければ縁のなかったフォーラムですが、こんな出会いもいいですね。視野が広がります。社史は一般の書籍流通ルートに乗ることが少ないのですが、6000社以上の社史があるそうです。と言うことは、6000人の企業家の物語があるということです。社史の楽しみ方を幾つか紹介してくれました。

1)読み物として楽しむ(村橋氏のお奨め)

  • 帝人の50年史『帝人の歩み』:経営陣の本音が見える
  • ホンダの50年史『語り継ぎたいこと』:社長の奥様の視点から気さくな語り、社員のおしゃべり
  • 『トヨタ自動車20年史』:子どもでも読めるような配慮
  • 『福助足袋の60年』:風俗史として読んでも面白い
  • キッコーマン醤油史:お金の歴史と醤油との関係を読む
  • めんづくり味づくり:明星食品30年のあゆみ

2)企業教育

  • 社員教育や、リクルートなどの広報に活用

3) 営業・就職活動に生かす

  • 営業マンは、取引先企業の社史を営業活動に活かす
  • 学生は、 会社ができた経緯や社風、仕事内容を就活に生かす

その他にも研究資料やレファレンスにも社史は活用されるそうです。

事例発表されたお二人は、まさに上記の社史の活用事例でした。商品のパッケージ一つにも会社の想いがこもっていて、興味深く聴き入りました。商品パッケージを見る目が少し変わりそうです。Webで探したら、所蔵している公共図書館は少ないですが、社史の保存で有名な神奈川県立川崎図書館は流石に上記の社史は全て所蔵していました。「社史・技報・講演論文集検索」ページ(注2)も用意されており、企業名・団体名からの検索が可能です。

社史17,500冊の所蔵がある神奈川県立川崎図書館ですが、今移転にからみ機能縮小が危ぶまれています。「公共図書館は地元の企業の社史をぜひ集めてほしい。それが地域の活力の源泉のひとつになる」と、専門図書館の知人は語っていました。ちなみに、社史の目次や索引などを登録した渋沢社史データベース(SSD)(注3)もあります。社史もレファレンスツールと改めて認識しました。

3.「使える専門図書館、つながる専門図書館~女性、防災、グローバル~」

  • 講師:森未知(国立女性教育会館)(注4)
  •    堀田弥生(防災専門図書館)(注5)
  •    澤田裕子(アジア経済研究所図書館)(注6)
  •    結城智里(機械振興協会)(注7)
  •    鈴木良雄(専門図書館協議会)

日本には公開型の専門図書館は980館以上あります。その中で、今回のフォーラムでは、生活に深く関わっている「女性」「防災」「グローバル」をテーマとする専門図書館から、各々の図書館での所蔵や活動状況が発表されました。

機械振興協会の結城氏からは、「ディープ・ライブラリープロジェクト」(注8)の発表がありました。実は、昨年の機械振興協会BICライブラリと市政専門図書館の横断検索の実現に、私も少しだけ関わっていました。その縁で、専門図書館の存在を初めて知り、公共図書館にもっと専門図書館を知ってほしくて、コラムの第5回で幾つか紹介をしました。

「公共図書館や一般利用者が、もっと深い(ディープな)情報を持つ専門図書館を知る手掛かりになるツールがあるといいね」と、関係者の間では想いをあたためていました。そして、昨年の総合展が終わった頃に、専門図書館の特徴や情報を横断検索できる仕組みを作ろうと「ディープ・ライブラリープロジェクト」が発足しました。私も実行委員のメンバーとして関わっています。ディープ・ライブラリープロジェクトは、産声を上げたばかりです。協力していただける参加館の募集と、リンクを貼っていただける公共図書館を募集しています。

システム開発の手法も、在職中に手掛けた受注方式の手法とは異なる発想です。戸惑うこともしばしばですが、今はこんなトライ&エラーを続けながら進化する方法もあるのかなと見守っています。システムは1年半後に評価し、次のステップへと繋がれていきます。

私も関わったフォーラム「今そしてこれからの『場』としての図書館」も、聴きごたえのあるものでした。内野安彦氏から、「朝から晩まで自分の図書館をカウンターの外から見てみる」「PlaceからFieldへ」など、幾つかの興味深いキーワードが話されました。こちらもフォーラムの紹介ページ(注9)に動画記録が公開されています。



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高野 一枝(たかの かずえ)氏

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