九州の図書館からの報告
(宇佐市民図書館と平戸市平戸図書館)

図書館つれづれ [第24回]
2016年5月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

「宇佐神宮に行きたい」と、かねてから言っていた友人たちと、九州の図書館を見学してきました。
今回は、その中から、宇佐市民図書館と平戸市平戸図書館について紹介します。

1.宇佐市民図書館(注1)

図書館のホームページを見られた方は、トップページの図書館の写真のオブジェに首をかしげませんでしたか?宇佐市は、全国に4万社あまりある八幡様の総本宮である宇佐神宮のある街です。私たちが「ロールケーキ」と勘違いした図書館前のオブジェは、古い書物をイメージした「巻物」でした。しかも、この巻物、建物の裏側まで続いていました。それだけ長い歴史があることを表現しているのだそうです。歴史の古さだけでなく、図書館内は色々な工夫がされていました。

まず、図書館入り口の図書館案内の横に貼られた月間忘れ物表が目につきました。聞くのは恥ずかしくても、これなら忘れ物の確認がとれます。

図書館内は、車いすでもゆったり通れる通路が確保されています。椅子は北欧製。2階の閲覧ラウンジは、微妙に椅子の向きを変え、お互いの視線を感じないような細かい配慮ある配置がされていました。川を眺めながら座ってみると、本当にくつろげます。

郷土スペースにも工夫があります。郷土資料本は並んでいても、はて誰について書かれた本かわからないことがありませんか?宇佐では利用しやすいように、其々の本の背には、誰の関連資料か記されています。郷土の棚の一部はスライド式になっていて、隠し戸棚から現れたのは貴重な「主婦の友」の雑誌コレクションでした。

2007年に宇佐出身の主婦の友社創業者である石川武美氏の企画展・講演会を開催した際に主婦の友社から出版物も頂き、雑誌は買い集めたそうです。創刊号は復刻で、それ以外にも抜けはかなりあります。それでも皆さん羨望の眼で眺めていました。

郷土スペースには、宇佐神宮に関する本以外に「怪盗ルパン」でおなじみの南洋一郎氏の親族からいただいた相撲関連資料の雑誌があります。宇佐は第35代横綱「双葉山」の出身地でもあるのです。戦時中、海軍航空隊もあったそうで、海軍や太平洋戦争全般に関するものは「 海軍関連コーナー」に置いています。デジタルライブラリーは、平成23年の緊急雇用創出事業(デジタルアーカイブ化事業)で、双葉山の生誕100周年の年に整備しました。今後は、図書館所蔵の絵画や古文書なども登録していく予定だそうです。

ビジネス支援コーナーも設けています。医療・健康情報に至っては、其々病名が更に細かい分類で分けられています。例えば、癌でも、乳がん・リンパ腫など細かな病名別に分けられて、特定の病気に関する資料が手に取れるよう配慮がされています。

図書館でちょっと本を手にして、「はてどこにあったっけ?」と返し場所が分からないときは、「かえすところがわからない本は、ここへかえしてください」との表示と、下にラックが設けられています。無理やり返さなくても、子どもでも返せる場所が確保されていました。またこどもスペースには、小学校の国語の教科書に掲載・紹介されている本の紹介コーナーもありました。1年生から6年生まで色分けのシールで区別しています。教科書は4年の周期で検定・採択使用開始を繰り返します。手のかかる作業です。

2階には、宇佐市の農業振興に寄与した渡辺綱雄氏の寄付金により併設された渡綱記念ギャラリーがあります。その関係か、宇佐市の美術品などの貴重な作品は2階の分厚い扉の保管庫に納められています。

そんな図書館の悩みは予算の確保でした。ほぼ毎年多額の寄付をしてくださる方がおられ、自治体の財政とは別物なのに、一般財源の資料費予算がそのぶん削られた時期もあったそうです。寄付に頼りきるのも問題なんですね。

図書館を案内してもらって感じたのは、郷里への強い愛です。司書が集まる全国大会の集会では、宇佐のお酒や特産品を土産に宇佐市のPRを欠かしません。私たちが今回お邪魔したのも、このPRに動かされてのことでした。後日、ホームページの「ご意見箱」にアンケート依頼が届きました。図書館の中にいると、つい日常の業務に追われて視野が狭くなりがちです。見学した皆さんがどんな感想を持たれたのか意見を反映させたいとのことでした。何を伝えていくか、どう使ってもらうか、そんな想いが詰まった図書館でした。宇佐は美味しいお酒の宝庫です。宇佐神宮参拝をかねて、図書館へも足を運んでみてください。

2.平戸市平戸図書館(注2)

平戸は、1550年にポルトガル船が初めて平戸に来航以降、鎖国で長崎の出島に移されるまで、西洋貿易の窓口として栄えたまちです。「煙草・麦酒・カステラ・ペンキ・パン・茶」などは平戸から始まったものだそうです。平戸へは平戸大橋を渡って入ります。

平戸図書館は、平成27年8月1日にオープンした、北部公民館との複合施設「平戸市未来創造館」の中にあります。新しい施設は「つどう」「まなぶ」「つなぐ」をキーワードに次のことを目指しています。

  • あらゆる人々が集う場
  • 生涯にわたる学びの機会提供
  • 出会い、表現し、交流する場(複合施設)

図書館の目の前は長崎県指定天然記念物の黒島が見え、海のテラスに立つと、まるで「タイタニック号」の気分になれる素晴らしいロケーションにあります。海の見える部屋では、読書や調べ物ができ、机を合せてグループ席にもなります。この景色に魅せられて、帰りの飛行機のキャンセルを本気で考えた人もいました。

でも、図書館が出来上がるまでは決して順風満帆ではありませんでした。私たちを案内してくれた山田氏が、縁あって開館準備の途中から平戸に着任したのが2年前。山田氏は図書館のプロではあっても地元の人脈もなく状況も何一つわかっていませんでした。それをサポートしたのが、それまで観光課にいた本岡氏です。地元を知り尽くした本岡氏と図書館のプロの山田氏は、同じ時期に図書館に配属となり、二人三脚で図書館開館の準備に追われることになりました。2015年4月に書架が搬入し、床暖房を備えた建物の引き渡しは5月9日。ダンボール1200箱の搬入は、100名のボランティアの協力のもと、ローラーで流しながらおこなわれました。旧館3階から運び出す本は、流石に専門の引越屋に頼んだそうです。

開館時間は午前10時から午後8時まで。サービスデスクは午後6時で終了です。公民館は6時以降も開いてるため、6時以降は自動貸出機のみの利用になります。人の手配がつかず苦渋の選択でした。利用カードは、平戸市民でなくても作れます。産休や親の介護に帰省している方など、平戸ならではの利用の仕方もあるようです。

資料費は、以前は年間300万円という状態でしたが、2014年度にふるさと納税No1自治体になったことで、5年間は図書館にふるさと納税による資料費(2000万円)が確保されています。5年後が図書館として正念場です。頂いたパンフレットの中には、しっかり納税パンフレットが入っていました。

本棚は免震アジャスター付きで、図書館での採用は初めてではとのことでした。図書館内でひときわ目に着くのが「大きな木の部屋」です。天気が良くてステンドグラスが床に映って、とても綺麗でした。ガラス張りの部屋で、ティーンズ(10代)向けの本やコミックを用意してティーンズにおしゃべりを楽しんでもらう目論みでしたが、何故だかおしゃべりするより静かに利用したい部屋になっているそうです。大きな木は座れるようになっていて瞑想ができそうです。いっそサイレントルームにした方が良いかもなどと話していました。新しい図書館ですから、これから色々なアイデアが出てくることと思います。

郷土資料コーナーには、 平戸にゆかりの人物の紹介や功績などの関係書籍が置かれています。その中の「甲子夜話」(かっしやわ)は、平戸藩主「松浦静山」によって書かれた随筆集で、ファンタジーの原型と言われているそうです。明治時代の諜報活動家の情報を収集した「沖禎介記念図書館」から寄贈を受けた古文書漢籍等は、明治以前のものをデジタル化して公開しています。

ボランティア活動も盛んで、ミニ盆栽や折り紙の鉛筆のカス入れのほか、読書席では100均のボードを使ったプライバシーボードが目に留まりました。カフェを望む市民の声に応えて設置されたのは、スタバではなくドトールの自販機でした。自販機もボランティアによる運営です。飲み物はペットボトルや蓋付きであればOK。食事ができるテラスやエントランスホールでない場所には、食事場所を促すマンガの△立てがたっていて、押し付けでなく微笑ましい光景でした。平戸は、高倉健(主演)の「あなたへ」の舞台になった場所で、その資料もありました。

お話の中で、山田氏の想いを伝える言葉がありました。その言葉は、元高月町立図書館館長の明定氏の文章からの引用でした。私たちのユーザーだったこともあり、明定氏の想いが思わぬところで繋がっているのが嬉しくて、皆さんにもお伝えします。

図書館がめざすもの

「多くの人たちが利用しやすい図書館であれば、
多くの人たちが楽しく利用してくださる図書館であれば、
その地域の暮らしのなかで、特別なことではなく、
変わったことではなく、めずらしいことではなく、
エラソーなことではなく、立派なことではなく、
普通のこととして、図書館があること」

先にも書きましたが、平戸は観光地でもあります。平戸に来られる方は、ゆっくりと観光も兼ねて図書館を訪れることをお奨めします。

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図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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