ふるさとで出会った人々
図書館つれづれ [第27回]
2016年8月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

おらが自慢の人々

私の生まれ育ったふるさとは大分県の県南のまちです。高校を卒業してふるさとを離れ、もう40年以上経った今、ひょんなことで知り合った方々がいます。図書館に直接関係ない方もいますが、今回は、ふるさと大分県でつながった「おらが自慢の人々」を紹介します。

日出町でまちつくり支援に挑むひと

小野町子氏は、NPO法人パワーウェーブ日出(注1)の代表者です。ITを活用し情報技術やその活用能力の向上、人的ネットワークづくり等の支援を行い、地域住民の潜在能力の発見や福祉および地域社会の活性化の役に立ちたいと設立しました。同じ年とお聞きして二度ビックリの小野氏との出会いは、日出町立図書館(注2)に大きく関わっています。

専業主婦だった彼女の人生を大きく方向転換させたのは50歳代に発覚した癌でした。寛解後、マイクロソフトの社会貢献事業のIT教室を手伝います。そこで、小さなお子さんをもつお母さん方も技術取得ができるようにと、講義室の傍らに幼児の保育室設置を手掛け、やがて地域の活性化へとつながっていきました。

日出町が図書館も含めた総合施設を計画した際に、子育て支援の一員として参加します。でも、図書館のあり方も気になっていました。そこで、以前から知り合いだったARG(アカデミック・リソース・ガイド)の岡本真氏に連絡し、図書館に関わる情報を収集し、地域と未来の図書館に大変興味を持ち、図書館との関係を深くしていきました。2015年6月1日にオープンした日出町立図書館と同じフロアーに、小野氏の「子育て支援室」があります。小さなお子さんがいても、ママが気兼ねなく本が読めるようにとの配慮で、利用金額も負担にならない設定です。日出町が発行する「おおいた子育てほっとクーポン(注3)」の利用も可能でした。

図書館のこと、子育てのママ支援のことなど、全ては日出町の活性化につながっていきます。地方での人口減少が著しい中、日出町では県内唯一公立学校の廃校もまだないとのこと。子どもたちの声が聞こえるのは、まちに未来があることです。私の田舎は、市と呼べないほどの人口減少が起きています。「まちのため、ふるさとのため」という小野氏の姿に、ふるさとを捨てたわけではないけれど、今の生活に安住していなかったか?小野氏との出会いは、ふるさとを見直すきっかけとなりました。

杵築に第2の人生を見出したひと

下河原浩介氏は、東京の大学で教鞭をとられていた植物学専攻の理学博士です。杵築で「世界農業遺産」に関わる仕事をしている大学時代の友人を訪ね、遊びに来たのがきっかけで、杵築のまちと出会います。そして、22年間勤めた大学を辞め、4年前に、縁もゆかりもなかった杵築へ移住してきました。

私が東京でたまたま知り合ったのは、杵築へ移住した直後で、頂いた名刺には、「農業見習い、漁業見習い」と書いてありました。あとで発覚するのですが、彼の友達の奥様は、その頃くにさき図書館に勤めていて、私も知っている方でした。縁とは不思議なものです。「田舎に帰った時に遊びに行きます」と伝えてから、3年後、地元にすっかり溶け込んだ下河原氏とお会いしましたが、それまでには長い道のりがありました。

移住当初は、大学で教えていた方だから、非効率なやり方が何かと気になりました。ついつい指導的な話し方になっていて、地元の方には「上から目線で話す偉そうなやつ」と、総スカンを食らった時期もあったそうです。やがて、「これではまずい!」と気づき、「郷に入れば郷に従え」と、皆さんから教えを請うという気持ちに切り替えました。今では漁師の資格も取り、町の皆さんから慕われている様子が、一緒にいても伝わってきました。

移住から約4年の充電期間を経て、今年3月に会社を設立しました。農業支援や漁業支援をおこなう会社です。始めに手掛けたのは、国東半島の国見で作られるパクチーの栽培指導・栽培技術開発・生産管理システムのアドバイザーです。パクチーは大手食品メーカーの「かけるパクチー」として新製品にまでこぎつけました。

地熱を利用したハイテク農場でトマト、パプリカを始め様々な野菜類の生産技術開発や、病虫害防除の研究をとおし、地域の農業支援にも関わっています。補助金を受けながらの事業は、技術公開もして、農業全体の底上げに貢献していくとのことでした。

先日伺ったときに、「大分の農業が発展しないのは、大学に農学部がないからだ!」と鋭い指摘も受けました。「田舎暮らしは、ワークライフバランスを楽しめるし、何より、都会の人は田舎の良さをもっと知ってほしい」と話してくれました。下河原氏のそれまでのキャリアが、田舎で十二分に生かされています。

田の口で限界集落に挑むひと

最近の私の朝は、Facebookで知り合った小野信一氏がアップする野草の写真と、「おはようございます」の一言から始まります。小野氏は、先に紹介した下河原氏のFacebookの投稿が縁で知り合った方で、過疎地になりつつある地元を活性化する運動をされています。

場所は、大分県大分市田ノ口。と言われても、実は私もピンときません。大分市も市町村合併で大きくなっているのです。限界集落に何とか歯止めをかけようと奮闘し、コミュニティレストラン「森のごはんや」の開店のためにクラウドファンディング(注4)で資金調達をしました。

実は、小野氏も一時はふるさとから去った人でした。高校を卒業し、田舎が嫌で、大分市の市役所に勤めました。定年後、戻ってきた故郷の様子にショックを受けたと言います。同時に、今まで見えなかった故郷の魅力に初めて気づきました。木々の緑、名も知れぬ草花、田んぼのあぜ道。まちでは味わえなかった清々しさが、こころを癒してくれました。

子どもたちや大人にも、田舎の良さをもっと知ってほしい。でも、何ができるか?
代々受け継がれた土地に、人が集える場所を作ろうと思い立ちますが、資金がありません。そんなとき、クラウドファンディングを知りました。見ず知らずの人たちの協力で資金も何とか集まりました。インターネットがなければ知り合うはずもなかった方々が、大分まで訪ねてくれるのだそうです。

実は、私もその一人。久大線の駅もない地区に、「森のごはんや」はありました。お会いした小野氏から、「僕には50万冊の書斎があるんだ」と言われ、そして、気づきました。大分市立図書館の所蔵数でした。図書館を身近に感じている人ってどこにもいるんですね。

熊本地震の影響で建設が遅れていた「森のごはんや」も、やっと開店にたどり着きました。地元の大学で講義をされたり、農業の楽しさを知ってもらうため田植えなどの体験型農場も実施されている小野氏の、新たな挑戦が始まります。

人が集う場所には、色々な仕掛けがあります。美味しいもの、体験型農場のほかにも、「まちライブラリー」という“本”を切り口にした仕掛けもあることをお伝えしました。これから皆さんと一緒に、どんな集いの場所を展開していくのか楽しみにしています。

4月に起きた熊本地震は、大分の観光にも大きな打撃を与えました。誰にお願いされたわけでもないのに、両小野氏も下河原氏も、湯布院や別府など大分県下の状況を毎日のように発信し続けました。その姿に感銘し、私にも、ふるさとへの愛着が芽生えてきました。

皆さんのまちにも、ふるさと愛する人がいます。図書館の外へ飛び出して、素敵なサポーターを発掘してみませんか?遅まきながら、ふるさとへ、私もできることを考えてみようと思います。

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執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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