図書館問題研究会システム分科会「MARCとデータ移行」に参加して
図書館つれづれ [第28回]
2016年9月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

日販図書館サービスが提供しているNS-MARCが2017年3月末で終了します。MARCの変更は、書誌の一貫性を考えると、図書館システムの変更より大きな影響を与えます。
7月3日、名古屋市のアイリス愛知で開催された第63回図書館問題研究会の第8「システム」分科会「MARCとデータ移行」に参加してきました。難しい問題が微妙に絡まっていますが、私が感じたことを紹介します。

概要

「システム」に関することを討議するシステム分科会は、毎年少人数で開催されるのですが、今回は30名以上の参加があり、MARC(注1)の今後に対する皆さんの不安の大きさを感じました。
当初NS-MARCは2016年3月末に提供を終了予定でしたが、図書館の強い要請を受け、2017年3月まで延長されました。この間に、有志で国会図書館書誌部を訪問し、公共図書館の現状を説明した経緯も報告されました。

国会図書館の全国書誌データ(注2)(以下、全国書誌データ)は、国会図書館に納品される本の書誌を作成したMARCです。ダウンロードも可能ですが、以下の問題点があります。

  • スピードの問題:本が出版されてから平均で10~14日かかるため、選書には不向き
  • NDC分類が付与されないケースがある:公共図書館が使う本のNDC付与率は86%
  • 巻号問題:各巻書名がないため、上下本などは1つの書誌で作成され、表示形式が揃わない

その他にも、カナがない、現物採録、叢書名は不統一など、公共図書館が使用する書誌MARCとの違いがあります。とはいえ、南三陸町では、現在全国書誌データがメインで使われています。人口規模や地域や本の選書方法によっても違うから、一概に不適切ともいえないのです。

ドイツでは、発売3か月前に出版関連非営利団体が流通書誌情報を登録し、国立図書館へは無償で提供します。国立図書館は流通用書誌情報と出版社より納品された書籍を元に、図書館に必要な項目を付加して公立図書館に無償で提供していて、日本とは事情がかなり違います。

公共図書館が、NS-MARCに代わる全国書誌データ以外の民間書誌MARCを採用する場合は、TRCやトーハン、OPLなどのMARCが考えられます。MARCの置き換えは、採用MARCの精度や価格の他に、見計らいをしているかどうかも大きな問題になります。物流が絡み、MARCがないと本の受け入れができないからです。

以前、同じ市内で、物流ルートが違う複数の書店と契約し、各々の書店から本を納入している図書館がありました。採用MARCと違う物流の書店には、MARC番号を送っても意味がないため、MARC番号の代わりにISBNをスリットに書き込む対応をしたことがあります。

図書館が本を購入するケースは、書店を通さずに見計らいする図書館もあれば、見計らいに頼らない選書をしている図書館など、本当にまちまちです。見計らいは、自治体規模にもよりますが、リスト発注に比べ手間がかかるし、返品率が高ければ書店の経営も圧迫します。それでも、一番よい選書方法だと考えている図書館員は多いと聴きました。

書誌MARCを変更する際は、データの整合性を重視し、それまでの過去のデータも一緒に置き換えるかどうかも関心事です。ISBNだけで置き換えるのはリスクが高いので、ISBNとMARC番号で置き換えたケースが紹介されました。全ての書誌の置き換えは、工数や費用の問題もあり、時には図書館側の割り切りも必要です。トーハンMARCついては、システムに直接取り組む対応のベンダーと、トーハンMARCをNS-MARCに変換するツール提供のベンダーがあるようです。

本の発注はアマゾンでもできるけど、アマゾンには図書館に必要なNDC分類がないんですね。それでもアマゾンから購入する図書館ってどんな時なのかしら?知人は、購入はしないけど、関連書籍や内容は参考にすると話していました。

日本図書館協会 図書館システムのデータ移行問題検討会(注3)

システムに関わっていた身としては申し訳ない思いでいっぱいですが、システム更新の際には、データの不整合や各種トラブルがあとを絶ちません。日本図書館協会では、2015年10月1日から2017年3月31日と期限付きで、図書館システムのデータ移行問題検討会を設置しました。移行をスムーズに行うべく、移行データの最低限の項目の洗い出し、システム調達時の標準仕様などを目指しています。

また、貸出/返却/受入/移送中/回送中などのローカルデータのステータスや、書誌、所蔵(ローカル)など、全国の図書館の用語を統一するのではなく、技術用語としての統一を図り、仕様書での記載事項に誤読が発生しないようにするのを目標としています。区分コードに関する記述がないなどの指摘はありますが、日本図書館協会がシステム委員会を設置したのは、まず一歩かと思います。

以前私もベンダーによる差異表にトライしたことがあるのですが、途中で挫折しました。ベンダーにより、あまりに概念が違うのです、特に予約に関する流れについては、お手上げでした。もう随分前になりますが、図書館界の長老が、「図書館のシステム化が加速する前に、システムの標準化ができなかったことは悔いが残る」と話してくれたことがあります。図書館とベンダー双方で協力できることがないか探っていけたらと思います。

その他に、文字コード(Shift_JIS、UTF)や外字コードの問題も指摘されました。パスワードの移行については、アルゴリズムを図書館が把握する事で、移行データとは違うレイアーで引き渡せることで解決すべきとの話もでました。私もSEの端くれだったけど、最近の話には時々ついていけません。面目ない話です。

全国書誌情報利活用に関する勉強会

私は単純な人間だから、「各出版社が本を出すときの情報をかき集めて書誌MARCにして、公共図書館へ提供すればいいのに」と、以前から思っていました。ところが、そんな団体がありました。一般社団法人日本出版インフラセンター(JPO)(注4)という団体で、設立は2002年4月。出版情報流通の改善をはかり出版業界システムの基盤整備を目指しています。JPOは、2016年6月15日に「全国書誌情報利活用に関する勉強会(以下、勉強会)」の答申本文と参考資料編をアップしています。その内容を私なりに整理してみました。

活字文化議員連盟というのがあって、国民読書年の継続事業として2010年1月27日の総会で、「文字・活字文化の記録を保存し、国民がいつの時代にも活用できるよう我が国を代表する書誌データの一元化を努める」という方針を出しました。これを受けて、2014年から国会図書館のNDLサーチを通じて全国書誌データが無償でダウンロードできるようになるのですが、前述したように選書・発注には間に合わない速度の問題などが解決していません。

データの無償提供を望む背景には、システム費用や民間MARC代の固定費用が、年々減少する図書館の予算を圧迫していることも挙げられます。特に、資料費の少ない学校図書館では、肝心の資料が購入できないという本末転倒な状態も起きています。そこで、「全国書誌情報の利活用に関する勉強会」を設置し、国立国会図書館書誌データ利活用に関するアンケートを実施し、全国書誌情報をめぐる現状と課題を把握しました。ヒアリングは、書誌情報作成企業5社、公立図書館6館、学校・大学図書館3館、書店5店、出版団体3団体、システムベンダー3社、計25団体の協力の元で行われました。

アップされた答申「これからの全国書誌情報のあり方について-いつでも、どこでも、だれでも使える-」の第1章では、全国書誌情報の利活用と図書館の現状と課題が記載されています。前述した課題の他に、図書館と地域書店との連携の問題や、指定管理による丸投げの拡大がリテラシーの低下を招いているとの警鐘も記されています。

2章では、課題解決のための以下の4つの提言がされています。

  1. 迅速な情報提供に向けた「選書用新刊情報」の作成
  2. 選書用新刊情報に向けた基盤の整備
  3. 普及・啓発活動の推進
  4. 地域書店と図書館の連携強化

新しい書誌情報利活動の流れは、出版社から集められた書誌情報を日本出版インフラセンターで集約し国立国会図書館へNDC分類などを付与して選書用新刊情報として図書館へ無償で提供する試みです。民間書誌情報作成者はその情報に多彩な情報を付加して有償で提供すれば、民間MARCの差別化となります。

今年は、「事前調査」ということで、JPOツールの作成を目指しています。JPOデータは、国会図書館が提供するデータの速度の問題を解決し、アマゾンに近いOPL程度の情報を発売日までの選書データとして確定します。書影もあります。JPOでは、「事前調査」に協力可能な図書館を応募しています。

尚、勉強会の「参考資料編」では、幕別町図書館における書籍購入と装備の流れの一新を「幕別モデル」として紹介しています。以前は、地元の納入会社は実際には何もせず、発注から装備や書誌MARCまで一括して全て東京の装備会社を通じていました。その流れを見直しました。そして、将来的な全国書誌情報への移行を見越して、兼価なMARCに変更しました。

更に、地元書店から優先的に購入し、地域の経済サイクルを活性化しました。装備は福祉施設にお願いすることで、障がい者の雇用創出になり社会インフラ作りに貢献しました。書店や福祉施設とのイベント連携など協働が生まれています。図書館の運用形態や人材育成も組み立てなおしているそうで、新しいスタイルとして注目されています。詳細を知りたい方は、是非資料に直接目を通してみてください。

注1:MARC
MAchine-Readable Catalogingの略称で、日本語では機械可読目録という。主なものとして、全国書誌データ(国立国会図書館)、TRC MARC(図書館流通センター)、NS-MARC(日販図書館サービス)、OPL MARC(大阪屋)、トーハンMARC(トーハン)、日書連MARC(日本書店商業組合連合会)などがある。

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執筆者:ライブラリーコーディネーター
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