岐阜メディアコスモスと多治見市図書館
図書館つれづれ [第29回]
2016年10月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

最近の私は、何故だか“まちライブラリー”づいています。ある集会で、「岐阜メディアコスモスのまちライブラリーに行きたい!」という方と出会い、多治見市図書館も含んだ日程をその日に決め、伺ってきました。今回は、話題の2つの図書館の報告です。

みんなの森 岐阜市立中央図書館(注1)

岐阜市の中央図書館を含む複合施設「みんなの森 ぎふメディアコスモス」の館長公募をWebで見たのは2014年の12月でした。館長に就任されたのは吉成信夫氏。宮沢賢治が大好きで、「石と賢治ミュージアム」を作ったり、「ハコモノは変えられる!―子どものための公共施設改革」の著述もあります。でも、図書館は未経験。決して処遇もよいとはいえない図書館へ・・・。何故?私の興味はそこにありました。

2015年7月の開館に向け、館長が着任したのは4月1日。職員は、70名を超す大所帯です。開館する図書館の具体的なイメージさえできていない3か月前に、突然舞い降りた館長が最初におこなったのは、職員の「やらされ感」を一掃し、一体感をもつための秘策でした。

  • 館長の想いを伝える明日のためのキーワード
    その時の言葉で開館の前日まで、毎日そのとき沸き起こった言葉を文面化し、壁に貼ってジャブを打ち続けました。毎日ジャブを打たれれば、そりゃ、色にも染まります。
  • コミュニケーションを誘発する仕組みづくり
    みんなで朝のブックトークを毎日5分。初日は館長が五味太郎の「馬鹿図鑑」をトーク。みんな笑うどころか無反応の能面だったとか。最初は嫌がっていた職員も段々と自分を出せるようになり、思わぬ一面を発見する機会にもなりました。
  • 司書の主体性を尊重
    どんな図書館にしたいかグループワークで話し合っていく中で、本の並べ方や手作りのポップなど一人一人の意欲が生まれてきました。館長は企画・アイデアを出すだけで、選書には入りません。

2015年7月18日オープンした図書館には、こんな素敵な言葉が記されていました。



「子どもの声は未来の声」私たちの図書館では、本を通じて子どもたちの豊かな未来へとつながる道を応援したいと考えています。・・・・
だから、私たちは館内で小さなお子さまが少しざわざわしていたとしても、微笑ましく親御さんたちといっしょに見守ります。・・・・・
そして、小さなお子さまのお父さま、お母さまにもお願いです。ここは公共の場所です。遊び場、運動場ではありませんので、公共の場所でのマナーをお子さまに教えていただく場としてもご活用いただければ幸いです。みんなでお互い様の気持ちを持ち寄る場所にしていきましょう。



メディアコスモスの館内は、“グローブ”と呼ばれるランプシェードのお化けのような照明が天井から幾つかぶら下がっています。私は岐阜提灯のイメージかと思ったのですが、設計者は金華山に登って閃いたとか。グローブは、間接照明と採光の他に、人の流れを仕切ったり、空気の入れ替えもおこないます。グローブには、小さなお家(スペース)の役目もあり、人が集い、屋根のある公園を目指しているとのことでした。

一番真ん中に、市民のために開放された“まちライブラリー”グローブがあり、訪問時は市民が作った常設本棚のスペースになっていました。グローブの外は司書の領分。内と外で、お互い程よい緊張感があるのだそうです。司書が作成した地元のマップもありました。館内の本棚は特注です。天井に多くの木材が使われているため、棚は一部コンクリートを使って燃焼を防ぐ工夫がされていました。

目を見張るのは、児童コーナーの雰囲気です。館長曰く、「学校教育の匂いを消したかった」とのこと。まちの商店街に見立てた“本棚商店街”演出が仕掛けてありました。銭湯ののれんがあって、ポストがあって。ポストに投函された手紙は館長へ届き、返事も書いて館内に貼り出します。

本のお宝帳(読書通帳)は子どもたちが自分で書きたくなったら書きます。ページ毎に、ちっちゃな館長のメッセージ付き。例えば、「好きなものが1つあれば生きていけるよ。ひとつでいいんだ」。クマモンを作った会社に発注したワンコカートには200冊の本が載せられます。館長は、このカートを押して、館内のあちこちに出没し、読み聞かせをするのです。それも従来ではタブーとされている身体の実感を体現しての読み聞かせです。“読み聞かせのバイブルで育った司書”対“館長”のこのマッチ、ちょっと見逃せません。

YA(Young Adult)コーナーもアイデアいっぱいです。レファレンスの質問と回答は館内に貼り出されていて、中にはこんな回答もありました。

こんな返しをしてくれる司書がいるなら、ティーンズも頑張って図書館通いをしますよね(笑)。

館長に、「どうして公募に応募したのですか?」と直球の質問を投げてみました。「公共政策、まちづくりの中の図書館の位置づけにトライしたかった」と返ってきました。9世帯しかない岩手の山奥の廃校で13年間「森と風の学校」に関わり、もう一度街に出て、図書館を単体としてではなく、地域と深く関わり、自治体の組織として何ができるか模索したかったといいます。

メディアコスモスには、図書館のほかに市役所の国際課、市民交流センターなどが併設され、お互いの垣根を越えての協働も挑戦できます。その想いは、東北の被災地の図書館を建て替える際に、「この失敗も成功も全てをフィードバック」へと繋がっていました。「宮沢賢治が大好き」という館長らしい、東北への熱い想いを感じました。

学校図書館を元気にするために、リテラシー教育が目的で“こども司書制度”も作りました。

開館から1年。今は、ベビーカーを押した若い世代の利用が多くなり、40歳までの利用が6割になりました。「常にざわざわ、本を介してまちに広がる図書館」を目指して、館長の挑戦はまだまだ続きます。でも、司書の仕事っぷりもお忘れなく!

もう一つ、駅前分館も。岐阜に特化したファッションライブラリーなど素晴らしい挑戦をしています。

多治見市図書館(注2)

多治見市図書館は、多治見市文化振興事業団(注3)が2006年から管理者となり運営している図書館です。館長は熊谷雅子氏。20年ほど前に多治見市文化振興事業団へ入職し、まず公民館で地域の人と共に活動を経験しました。さらに、学芸員としてキュレーションに携わり、まちづくりイベントをプロデュースし、足元を固めて図書館長になりました。

巻きスカートのような“サロン”を素敵に着こなす素敵な館長が、最初に見せてくれたのが、エリック・カールの「はらぺこあおむし」。それも、布団サイズの布絵本で、手づくり絵本の会の皆さんの作品とのこと。凄いド迫力で、虫食いの穴に身体を通してみたり、私たちは子どものように大はしゃぎしました。エリック・カールが来日した際に、この布団(失礼!)を担いで、直接布絵本にサインを書いていただき著作権をクリアした優れもので、布を1枚1枚染めるところから始めたというこだわりの逸品です。はらぺこあおむしの布絵本も含め、それ以外の作品も、どなたでも自由に使えるように図書館に預けられています。機会があれば、是非触ってみてください。

2016年のLibrary Of The Year大賞で高く評価されたのは「陶磁器資料コレクション」でした。多治見は陶磁器のまちで、陶器の学校が3校あり、県外から学びに来る社会人も多いそうです。そんな人たちが必要な情報を探そうとした時、地域にツテが ないので最初に行く場所として図書館が役に立つのではと思ったのがきっかけだったそうです。

11年前から収集を始めるにあたり、地域の方々のアドバイスをたくさんいただきながら、美濃焼の街の図書館として陶芸辞典や入門書、陶芸史などのほか、全国の美術館や百貨店で発行された展覧会図録やカタログなど計8000点を集めて、陶磁器の展示コーナーもありました。

図書館の中に郷土資料室があり、市史の編纂も行われていました。郷土資料コーナーでは、昔の写真をパネルにして、学校へ貸出したり、高齢書の健康増進計画の一環で回想法資料としても活躍しています。昔の写真をパネルにして回想法ツールとして扱うのとは!ちょっと斬新な発想でした。私が個人的に受講した回想法講座でも、資料収集に図書館が大いに役立ったという話をお聴きしました。図書館には、まだまだ可能性が潜んでいます。

子育て支援の育児の棚には、妊娠中のおかあさんに手に取ってほしい本が並んでいました。子育てはお腹にいる時から始まっています。選挙前だったので選挙の棚や、マイナンバー、介護や医療介護のほかにも英語多読コーナーなど、今が旬の棚がズラリと用意されています。それを引き立てているのが館内にある素敵なモビールやディスプレイです。聞けば、職員の中にプロのアーティストがいらっしゃるとか。今の図書館には、魅せる演出家が必要なんだなあと、改めて思いました。

多治見市文化振興事業団は、図書館の運営だけを手掛けているのではありません。公民館、児童館、ミュージアムなど、教育や福祉全般に関わっています。図書館活動は外へも向けられ、例えば、多治見瓦版を定期的に発行し、観光案内所へも配布し、街全体の文化へ貢献しています。

こんなに頑張っている図書館ですが、悩みもあります。図書館の運営を決めるプロポーザルは5年に一度。複合施設としての役割を問われる総合施設としての公募だから、ビルメンテや旧受託型の会社では無理があります。さりとて、頑張って、頑張って評価をいただいても、次のプロポーザルでは、それ以上のことを望まれるとのこと。「これができるのは私たちしかいない」との自負がある一方で、事業を継続していくことの大変さも話してくださいました。私も図書館システムをサポートしていて、脚光浴びる新機能より、実は裏方の日々のサポートの大切さを感じていたから、共感できるものがありました。

熊谷館長は、実は以前から私のことを知っていたそうです。利用者からのクレーム処理で精神をすり減らしていた時に、Web上で、第1回図書館つれづれの「人間関係に使えるスキル~クレーム対応セミナーから」を目にし、読んでくださっていたのです。「利用者に寄り添うことは、へつらうこととは違う」と、コラムに勇気をもらったと言います。「誰もが幸せに暮らすためにどんな情報を提供すべきかを常に考え、これからの多治見を支える子どもや若者の育成を担う図書館を目指したい」と語る図書館の姿勢に、「図書館はまちの中の一組織」である自負を感じました。

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