第58回北海道大会から、「北海道は広くて狭い!」
図書館つれづれ [第30回]
2016年11月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

9月8,9日に札幌で開催された第58回北海道図書館大会(注1)に、dlibを出展してきました。dlib(ディープ・ライブラリー・プロジェクト)は、昨年から私も関わっている、「公共図書館をはじめ様々な利用者に、もっと専門図書館を使ってもらおう!」というプロジェクトです。dlibの紹介は後日として、今回は北海道大会と、その先でつながった人々と図書館のお話です。出展だけで行くのはもったいないと、大会参加の前に、まずは札幌市中央図書館の訪問から始まりました。

札幌市中央図書館(注2)

中央図書館は、札幌の中心部にあるのではありません。数年前の改修で、郊外にあるのを逆手に取り、フォレスト(森)をアピールすべく、木材をふんだんに使った図書館へと変身しました。突然の訪問にも関わらず、知人の淺野隆夫氏が案内してくださいました。

図書館入ってすぐの木材で囲まれた電子書籍コーナー“デジタル本の森”には、市民の皆さんの目にできるだけ触れるようにと、電子書籍を読めるタブレット端末4台とパソコン2台、子どもも使える大型ディスプレイが配置されています。ビジネス支援コーナーでは、平成30年秋に札幌時計台近くにオープン予定の図書・情報館を意識した実験を繰り広げています。職業案内ガイドブック、資格取得やキャリアアップに役立つテキストなど仕事に役立つ情報のほかに、金融や法律などに関する各種関連機関と連携したパンフレットも配架されています。

ICチップ搭載の棚では、本の動きを調査していました。「職場のトラブル対処法」など人間関係やコミュニケーション関係の本が、意外にも動いているそうです。人には今更聴けない「インバウンド」、「フェアトレード」、「クラウドファンディング」などのA4両面の情報ガイド(ミニパスファインダー)も司書の方々が作成していました。確かに、知っているようで実は・・・という言葉です。

図書館の会議室では、各種団体とコラボしたセミナーが開かれています。訪問直後の共催セミナー「女性起業者向けセミナー」では、定員20名のところ35名の方々が参加。しかも図書館来館経験者はたった2名という快挙でした。このセミナーも、図書館が直接足を運び、コラボを要請して実現しました。まさに、一昔前の「足で稼ぐ営業」です。図書館をまだ知らない人たちを発掘するために、手を変え、品を変え、「来訪者に、制限をつくらず、面白がって、何らかのアクションが起こせるような環境ができたら!そのためにできることが、たくさんありそう」と、淺野氏をはじめ図書館の奮闘は続きます。

特記したいのは、闇雲に動き回る営業ではないのです。予算交渉も抜群の能力を発揮。でなければ、自治体予算が厳しい中、図書館の改修や連携費用など、図書館に関わる予算なんて簡単にはつきません。この交渉力は見習うべきです。予算獲得のための研修が、図書館の司書向けにあってもいいのでは、と思ったりしました。

第58回北海道図書館大会

第6分科会「高齢者や図書館利用に障がいのある方々へのサービスのために」から

実は図書館システムと関わり始めたころ、新宿区高田馬場にある日本点字図書館のシステムを手掛けたことがあるのです。もう20年以上昔の話です。当時の主流は録音テープ。1冊の本を複数の分冊にして吹きこみます。全国へ配送する作業だけでも、職員の方々には重労働でした。

利用者は全国に散らばっているのだから、点字図書館こそ個別のシステムを使わずに全国の点字図書館のデータを統一すればよいのにと、当時から思っていました。今は、日本点字図書館がシステムを管理し、全国視覚障害者情報提供施設協会が運営する「サピエ(注3)」で実現しています。

サピエは、視覚障害者を始め、目で文字を読むことが困難な方々に、さまざまな情報を点字、音声データなどで提供するネットワークです。そのメインサービスが「サピエ図書館」です。サピエ図書館は点字図書や録音図書の全国最大の書誌データベース(約90万件)として、広く活用されています。

ところで、国立国会図書館にも、「国立国会図書館サーチ 障害者向け資料検索」(注4)があり、国立国会図書館関西館の廣田美和氏から紹介がありました。2つのサービスの違いがしっくりこず、後日廣田氏や公共図書館の方にお聞きしました。

まず、収集対象が違います。サピエ図書館は長い歴史の中で、点字図書館の会員施設・団体とボランティアの方々が作成した資料が対象です。そこで、サピエの対象から抜けている国立国会図書館をはじめ、公共図書館、大学図書館、学校図書館などが作成した資料を収録したのが国立国会図書館のコンテンツです。サピエのコンテンツ数は25万件、一方、国立国会図書館は9000件と件数に違いがあるのは、後者の収集は2014年に始まったばかりという歴史の浅さなんですね。

どちらも、音声DAISY、マルチメディアDAISY、テキストDAISY、点字データのコンテンツが利用可能です。加えて、国立国会図書館は、プレーンテキストも利用できます。ちなみに、テキストDAISYは、普通のテキスト(プレーンテキスト)に、見出しが検索できたり、ページのジャンプなどの機能があるのだそうです。私も使ったことがないので、違いがはじめてわかりました。検索にも多少の違いがあります。サピエからだと、国立国会図書館の書誌の検索とコンテンツの利用が可能ですが、国立国会図書館の横断検索では、サピエ図書館の書誌は検索できるけど、サピエのコンテンツは利用ができないとのことでした。お互い収集データがだぶらないように、微妙に住み分けされています。

2つのデータベースをどう使われているのか現状をお聴きするために伺った公立図書館では、どちらもあまり利用せずに、利用者の要望に応じて自館で録音図書を作成していました。

国立国会図書館では、利用者のより多くの要望に応えるために、今後、公共図書館のみならず、大学図書館や学校図書館、ボランティア団体等で製作されたデータを積極的に収集し、提供するデータの量や内容を充実させたいとのことでした。

一方、国立国会図書館にアップロードする際に、幾つかのステップを踏む場合もあります。大会に参加していた北海道大学では、資料電子化サービス(注5)を提供していますが、Wordにテキストデータを入れての提供のため、プレーンテキストデータへの変換が必要になります。その作業も近日中に開始して、近々アップロードを予定しているとのことでした。

分科会ではグループに分かれてワークがありました。白内障になりやすい高齢者に向けての対策として、「キーワードは、眼科医との連携」という報告もありました。

8日の懇親会に集まった方々は、当然北海道の方々が大半でした。名刺をいただいても、広い北海道ゆえに、地理感が湧きません。なんせ、札幌から函館だって320km(東京から豊橋あたり)も離れているのです。お会いする方々が全て初対面に近く、とても新鮮な会でした。友達から紹介された函館市中央図書館の丹羽秀人館長は、4月に函館に着任する前は、石狩市民図書館にいました。図書館の立ち上げから深く関わっていた方で、大会終了後に訪問を予定していた石狩市民図書館へ、「念のため」と、わざわざ連絡してくださいました。そして大会終了後、私たちは石狩市民図書館へと車で向かいました。

石狩市民図書館(注5)

石狩市民図書館では、清水千晴副館長が対応してくださいました。「まちに図書館をつくるのではなく、図書館の中にまちをつくる」という理念をかかげて誕生した図書館は、菅原峻氏、植松貞夫氏など錚々たる方々の想いが詰まった建物と聴いていましたが、図書館の設計は意外にシンプルでした。だからこそ、なのかもしれません。動線も効率よく設計されているのです。書架の棚は総じて低く、コーナーごとに色分けされてシンプルに配置されています。最初から滞在型図書館を目指していて、椅子の数が半端じゃない。子どものコーナーには、可愛い花柄の形と色使いの椅子。コーナーの用途に応じて配慮がされています。

バックヤードも見せていただきました。日本には珍しい、ゆったりとしたスタッフルームです。働く人が笑顔でいなければ、利用者にも最善のサービスが提供できないとのコンセプト。「この存在のおかげでリフレッシュできているのか、当館のカウンターでのスタッフの接客は、利用者の方々からお褒めをいただくことが多いです。」とは、副館長の弁。素晴らしいの一言です。

目に留まったのは、郷土資料が禁帯資料でないことです。これは開館当初からの信念で、今も、その精神が引き継がれています。伊万里市民図書館もそうですが、「市民」と敢えて付く図書館は、気骨さを感じます。

石狩市民図書館は、平成27年4月に沖縄県恩納村文化情報センターと「友好図書館協定」を締結しています。南と北と、遠く離れた図書館で、どんな情報交換がされているのでしょう。

市立小樽図書館(注6)

友達が前日に鈴木浩一館長に連絡を取ってくれたおかげで、館長自ら案内してくださいました。鈴木館長は、4月に小樽へ着任したばかり。以前は、道立図書館で、市町村支援や議会図書室も経験されています。同行したBICライブラリ(注7)の結城智里氏と専門図書館の話題で花が咲きました。

ここでも縁が繋がりました。実は、私たち、前日の夜は小樽の猫の事務所(注8)の高橋明子さんと夕食を共にしていたのです。高橋さんは、ミニチュア人形作家である高山美香さんの本「一葉のめがね」や「鴎外のやかん」の生みの親でもあります。(美香さんの人形は、小樽文学館にも常設しています)美香さんは道立図書館のヘビーユーザー。「鴎外のやかん」には、道立で開催した展示のことも記載されています。気になる方は探してみてください。そして、その記事を書いたのが、当時道立にいらした鈴木館長。手繰るほどに人が繋がっていきました。

小樽図書館は開館してちょうど100年。中にいると「あたりまえ」のものが、外からみると「あたりまえでない」ことがあります。それは、自分は自分を案外知らないことや、家族や職場の問題も中にいる人には見えないことにも通じます。

館長は、100年を期に、小樽図書館を貸出中心の図書館から脱皮すべく、幾つかの挑戦を始めました。まずは入り口に展示コーナーを作りました。私たちが訪ねた時は、パンに関する展示で、小樽に関わる記事もPR。100年前の新聞にも出会えました。今は人手が足りなくて、2階のレファレンスコーナーには人が配置されていません。「少し落ち着いたら、このコーナーでお客様を迎えるのが僕の夢」と語ってくださった鈴木館長。次回は、レファレンスコーナーで利用者の応対をする館長の姿を見に行きます。

今回、面白いように人が繋がっていったのは、函館や近隣の木古内町の図書室で働いていた友達のお蔭です。奥ゆかしいので、名前は伏せてとのこと。日本図書館協会のステップアップ研修で、私が講師をさせていただいた頃に知り合いました。

そして、彼女を通して函館市中央図書館の丹羽館長と知り合い、先へとつながっていきました。丹羽館長は、懇親会でご挨拶した札幌市中央図書館の千葉真館長、小樽図書館の鈴木館長とは、長年北海道の図書館を支え合った同志でした。北海道は広いからこそ、皆さんの関係は密なのかもしれません。そしてまた、今回の北海道大会でも、新しいネットワークが生まれていることでしょう。

北海道は、広くて、狭い!

函館の丹羽館長は、館長室に、尊敬して師と仰ぐ菅原峻氏の肖像写真を飾っているそうです。いつか訪れてみたいと思います。

トピックス

  • 「図書館落語 楽しんで」委託事業者の提案で開催したイベントです。
    プレスリリースすることで、また新しい図書館利用者の開拓にもつながっていきます。委託される側とする側のコラボです。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

上へ戻る