第102回全国図書館大会から
図書館つれづれ [第31回]
2016年12月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

2016年10月16日、青山学院大学にて開催された、第102回全国図書館大会に参加してきました。今回は、記念講演と、参加した第13分科会(利用教育)についての報告です。

記念講演 「地域創造と図書館の未来」 ―わたしたちが継ぐもの―

講師は、森田秀之氏(株式会社マナビノタネ(注1)代表取締役)。せんだいメディアテーク、武蔵野プレイス、瀬戸内市民図書館もみわ広場などの開館支援にかかわった方です。

自己紹介で、自らを「文化施設の便利屋さん」と名乗る森田氏ですが、それまでには様々な変遷がありました。1991年三菱総研に入社した森田氏は、1999年、ハイブリッド水族館の実験に関わりました。実験のイメージはこんな感じです。まず、子供たちが、葛西臨海水族園の特設ウェブサイトにアクセスし、事前に魚の生態や能力を学習し、見学コースを選びます。そして、来園時は、水族園側で貸し出す携帯端末を持ちながら園内を観察します。

端末には、自分のいる水槽の位置に合わせてマルチメディアコンテンツ(目の前の水槽内の魚の説明)が表示され、端末がバーチャル説明員として個人に合わせた適切な説明や解説のある水槽への誘導をおこないます。ふりかえり学習にもつながる効率的な学習方法の実験でした。

2005年に開催された「愛・地球博」のサイバー日本館も手がけました。「かけがえのない地球が永遠に続くこと」がテーマのはずが、「たとえ大昔の生活に戻しても100年は灼熱地獄、地球の温暖化は止まらない」「毎年未曾有の台風が来る」「地球規模の食糧難になる」など、専門家の話を聴けば聴くほど環境問題は相当に深刻だと感じ、混乱をきたしたそうです。サイバー日本館は、対象を子供たち中心のコンテンツに替え、ハイブリッド水族館手法にポイント遊びの要素を加え、多くの参加者でにぎわいました。

この出来事が契機になったのでしょうか、2007年に退職して信州に移り住みます。しかし、一万年以上森と共生してきた地方でさえ、この50年で森離れがおきていました。まず、無農薬の田んぼつくりを始めました。ほどなく準絶滅危惧種の生物が戻ってきた上、自然が発するメッセージを読み取る能力が少しついたといいます。「田んぼの中から、イチョウウキゴケをすぐ見つけることができるようになりました」と、講演会場の笑いを取りました。

本当に多くのことを学ぶことができる稲作をみんなに伝えたいと、2010年に、“通い稲作塾”業を始めました。そこでは、「ひとりが生きるには、教室ぐらいの広さが必要です」と、動機づけして取り掛かってもらい、「自ら気づき、見つける」稲作の体験をしながら、人との出会いも生まれています。大事なのは、どの地域にも固有の文化や風土があり、地域は一般社会の共通の物差しでははかれないということです。

図書館は、「表現したもの」を集めて「知る」を支えてきました。いま、地域の記憶や知恵を受け継いでいくための「知る」が必要で、しかし、それを「表現したもの」がなければ、図書館は使命を果たせないといいます。地域の生業、環境、知恵、文化を継ぐための「情報編集機能」を持った図書館の必要性を説かれました。最近「図書館の編集機能」という言葉をよく耳にするのですが、実は以前から言われていた言葉だと、知人が教えてくれました。例えば、「まちおこし」が一例で、町の記憶を残して再活用するために、図書館が核になり、図書館の職員自らが出かけ、町の人を巻き込んで、情報を収集し、郷土資料の作成を支援します。

「表現する」ことを支えていく地域図書館の例として、石巻市復興まちづくり情報交流館(注2)を挙げました。石巻のまちは津波で流されてしまいましたが、まちは地形や自然でできているのではなく「記憶でできている」と言います。交流館は、なくなったまちの、一人一人の記憶を集め、集合的記憶として伝えることで、地域で守り伝えていくべき「大事なもの」を確認し合い、活動や創造のきっかけをつくり出していく施設として、現在5館がオープンしています。

展示・発信・共有する情報は「資料」と呼ばれ、地域やカテゴリーでまとめておく場所は「資料室」。さらに「資料室」が集まった各々の館を「ミュージアム」と呼びます。これらの情報は、ハイブリッド水族館やサイバー日本館で手がけた技術を進化させた「エコミュ」で管理され、「街の将来像」「復興事業の進行状況」「地域の取り組みに関する情報」などに編集され、公開されています。

「自立できずにいるひとの支援こそ、行政が行うべき」と、公平に関しても言及されました。図書館の公平さは、頑張れない人、助けなければならない人に対して、数は少ないかもしれませんが、アプローチし、自立を助け、本を借りたり、調べたりできるようにしていく手厚い支援の量を同じにして、幸せを平等化していくことではないかなと問われました。

そのために図書館は、貸出冊数だけをはかるのではなく、資料や空間・環境・ノウハウなど館が持っている資源を多くの人に提供することが公平につながると語り、萌書房「『藤里方式が止まらない』弱小社協が始めたひきこもり支援が日本を変える可能性?」菊池まゆみ著の本にも触れました。引きこもりなどの支援を、福祉の視点を変えて、地域全体が地域のために出来ることをしていく過程が書かれた本のようですが、実は私もまだ読んでいません。

図書館を取り巻く環境は、今大きな岐路に来ています。人口の減少や社会環境の変化の中、今までと同じ図書館を存続させることは難しくなってきました。でも、「強いヤマメは渓流で頑張る、海にいったヤマメはサクラマスになる」ように、図書館が今の形で存続しなくても、これまでとは違う環境に順応した、図書館の遺伝子をもった次代の施設種へ継がれていくと話されて、最後は、以下のメッセージで終わりました。森田氏の人柄を感じる講演でした。

なぜ、わたしたちは、本や資料を継ぐのか
名づけようもない大事なものを
現代から次代へつらなる
すべての愛すべきひとへ
渡していくために

第13分科会(利用教育)

情報リテラシーとは、幼児期から高齢期までの生涯にわたり「社会を生き抜く力」、狭義には、コンピュータやネットワークを活用して情報やデータを扱うための知識や能力のことをいいます。

この分科会では、高大接続、キャリア教育、職場体験などをめぐって館種を超えた図書館界全体として何ができるかを考える会だったようですが、私自身はそんな大それたことは何も考えなくて、軽い気持ちで参加しました。たまたま隣の席に居合わせた知人は、私立中学・高校や大学、専門図書館などにシステムを導入されている方で、彼女はまさに情報リテラシーの“いびつ”さを感じて参加したとのこと。そんな意識の低い私ですが、特に興味深かった講演・報告を2つ紹介します。

椙山女学園大学図書館の天野由貴氏の講演

「高大接続する学力-情報リテラシーのカギは問う力とレポートにあり」

50歳を過ぎて通信教育で司書資格のレポートを書いた私は、天野氏の話を、当時に重ね合わせて聴いていました。そうなんです。大学生はレポートが苦手なのです。私もしかり。「レポートは、作文や感想とは違う」としつこく言われ、書き方の説明をされたのを思い出していました。

レポートは、序論があって、本論、結論とつながるのが普通です。でも、思考は実は、結論→本論→序論と逆思考でないと書けないのです。だから、レポートを書くためには、問いをつくるプロセスに時間をかけないと焦点が見えてこないのです。問いをつくることは、考えるトレーニングにもなり、調べる原動力、自分を知ることにも通じます。探究学習のカギは3つの問い(What?Why?How?)から始まり、問いから焦点化して調査し、深く掘り下げた後に情報を整理し、表現して共有するのがレポートとのことでした。

そういえば、こんなこと高校時代に習わなかったなあ?大学は、「大学生なら知っていて当り前」と指導するけれど、今の高校生は習うのかしら?それをいつ学ぶのか、まさに情報リテラシー教育の“いびつさ”につながる一例でした。

さて、公共図書館の役目は何処でどう発揮されるのでしょう?
皆さんの図書館では、どんな支援をされていますか?

東京学芸大学附属小金井小学校司書の中山美由紀氏の報告

「小大連携の試みと『先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース』」

東京学芸大附属小金井小学校では、学年ごとに、図書館利用指導・目標案を設けていて、学校図書館における具体的な指導内容をホームページ(注3)に掲げています。

例えば、小学2年生の読み比べでは、絵本「たんぽぽ」を題材にして、甲斐信枝(金の星社)と平山和子(福音館書店)の本を読み比べます。同じタンポポの生態でも、叙情的な表現の絵本と科学的表現の絵本では、捉え方や視点が違うので、タンポポの見え方がガラリと変わってきます。絵本といえば、想像力を掻き立てる絵本しか読み聞かせしないと思い込んでいた私は、大きな衝撃を受けました。知人に聴いたら、今はブックトークなどで比較して読み聞かせるケースもあるとのこと。特に知識絵本は、男の子の食いつきがよいとのことでした。

3年生の総合的な学習の時間と連動して、(学校裁量の)図書の時間に、図鑑の目次と索引の違いについて演習も含めて学びます。NDC(日本十進分類法)は、“分類=仲間”の視点から、遊びの要素たっぷりに4年生で。図書館がしっかり支援しての授業です。「インターネットにだまされない学び方」の授業では、中央大学の梅澤貴典氏をゲスト講師に招き、世界の図書館と情報リテラシーを学びました。教員のアイディアと協力のもと、大学図書館見学というイベントも行われました。もちろん日常的に読める本は少ないけど、多くの専門雑誌、多様な分野の参考図書に目を輝かしたそうです。

「鉄は熱いうちに打て」というけど、これこそ情報リテラシー教育ではないかと感銘を受けました。これまでの学校図書館を活用した情報を蓄積して「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース(注4)」は、Webで公開されています。学校図書館での授業実践事例や実践例等を収集・公開したデータベースです。外からは見えにくい学校図書館の活動を、対外的に明らかにしている取り組みを継続して行っていることを評価され、図書館総合展Library of the Year 2016の優秀賞を受賞しました。中山氏をはじめ、附属学校の司書は全員非常勤の職員です。処遇の改善を訴えつつも、図書館と子供たちへの熱い想いに、プロの司書の誇りを感じました。

トピックス

  • Library of the Year 2016
    大賞は伊丹市立図書館ことば蔵が、オーディエンス賞は紹介した東京学芸大学学校図書館運営専門委員会が受賞しました。おめでとうございます!

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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