第18回図書館総合展から
図書館つれづれ [第32回]
2017年1月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

2016年11月8日から3日間、横浜で図書館総合展が開催されました。毎日たくさんのフォーラムがあり、その中で、私が参加して気になったフォーラムのいくつかを紹介します。

人と文化と施設を結ぶ公共施設

講師:西川太一郎(東京都荒川区長/特別区長会会長)
講師/パネリスト:堀裕美子(荒川区地域文化スポーツ部 複合施設準備室長)
パネリスト:伊東直登(松本大学図書館長、教授)
コーディネーター:太田剛(図書館と地域をむすぶ協議会/ゆいの森あらかわアドバイザー)

まず荒川区長より、平成29年3月に開館を目指して整備中の、「ゆいの森あらかわ(注1)」について、これまでの経緯と概要が紹介されました。図書館の老朽化に伴い、新しい読書空間の検討は、平成17年から始まりました。そして、吉村昭氏との出会いがきっかけで、図書館の中に若い世代も親しめる文学館の併設が、平成18年から検討されます。ちょうど台東区の池波正太郎記念文庫のイメージでしょうか?

更に、子どもの理科離れや子育ての孤立防止のためにと、図書館の青写真に、子供の夢を育む拠点が追加されました。検討のさなかに東北の震災が発生したこともあり、乳幼児を中心とした避難場所などの、災害時に役立つ施設機能も追加されます。こうして、中央図書館、吉村昭記念文庫、ゆいの森子ども広場が一体となった「ゆいの森あらかわ」が生まれました。名前は、「人と人、本と人、地域と人が結びつき、楽しみ、学び、安らげる、豊かな森のような施設」をイメージしてつけられました。

区長は大の本好きです。個人でも5万冊を所蔵されていて、区長室には300冊の本棚があり、本は自由に借りられるとのこと。柳田邦男氏と出会い、「人生に3回絵本をよめ」との言葉に感銘を受けます。そして、区長に当選後、まず最初に、学校図書館に予算を付け、学校図書館図書標準を達成し、その後、34校全てに学校司書を配置し、調べもの学習やこどもの読書推進の充実を図りました。荒川区は、東京23区の中で唯一図書館に窓口業務委託や指定管理者制度を採用していない区です。学校連携にも非常に力を入れているのも納得できました。

その後、準備室長の堀裕美子氏から詳細な説明があり、元塩尻市立図書館館長である伊東直登氏からは、塩尻での取り組みなどが紹介されました。新しい時代のニーズに合わせて、職員にも意識改革が必要である一方で、ゆっくりと変化しない図書館には守るものもあると話されたのが印象的でした。

でも、私の中で特筆すべきは、開館に合わせて、荒川区で、国立国会図書館書誌データが管理書誌として活用されることでした。国立国会図書館書誌データは税金で作られた書誌データです。作成タイミングが遅いため、公共図書館では選書・発注に間に合わず、今まで使用されずにきました。

ほとんどの公共図書館は、市販の書誌データを購入してきたのです。これが、税金の二重使いではないかとの指摘があり、活字文化議員連盟による「全国書誌情報利活用に関する勉強会」が〈これからの全国書誌のあり方について〉という答申を出しました。その答申の参考資料では、地元書店と図書館の関係づくりの好例として“幕別モデル”(本コラム第28回を参照)も紹介しています。

荒川区の試みは、大都市の大規模図書館で国立国会図書館書誌データを本格的に利用する初の事例です。本が発売された翌日には本を求める利用者に、果たして“ゆいの森モデル”が通用するのか、とても気になるところです。実現すれば、資料費が圧迫される昨今、図書館の予算の使い方にも大きな変化があると思われます。荒川区の今後の挑戦を見守りたいと思います。

公共図書館の総合目録の将来像を考える

パネリスト: 福島幸宏(京都府立図書館)
      井戸本吉紀(三重県立図書館)
      吉本龍司(株式会社カーリル代表取締役・エンジニア)
コーディネーター:原田隆史(同志社大学教授)

目録規則は、森羅万象の全ての本を整理するために、書名・著者・出版社・出版年、分類などを記録し、本の保管場所を決め、本の検索に使われてきました。インターネットが無い時代は、目録規則をいかに極めるかが図書館学といっても過言ではなかったかもしれません。本の情報と一言で言っても、例えば、書名一つでも、書名、副書名、叢書名、各巻名などたくさんの書名があります。最近の本は、やたらと長い書名や、様々な文字の大きさや色の書名らしき文字が並び、書名の取り方一つとっても市販の書誌マークによっても違うのです。

公立図書館では所蔵本の検索を提供していますが、都道府県立図書館では更に、県下の所蔵状態を把握するシステムが提供されています。その都道府県立図書館の横断検索システムにも違いがあるって、ご存知でしたか?このフォーラムでは、京都府立図書館と三重県立図書館の横断検索の違いについて紹介され、総合目録から見えてきた問題点や将来像が話されました。

まず、2つの都道府県立図書館の横断検索の違いを見ていきましょう。

京都府立図書館が公開する“京都モデル(注2)”は、Googleの検索に似ています。私が関与するdlib(ディプライブラリープロジェクト)も、カーリルの同じUnitradAPIを採用しています。検索された結果をキャッシュに保存し総合目録を作成する“横断検索型”のシステムです。総合目録作成のコストおよび市町村図書館の負担もほとんどなく、検索スピードがとても速いのが特徴です。

一方で、実際にはあまり検索されないロングテールはヒットしないというばらつきがあります。当初、全てを網羅していないので、「これは検索ではない」と、私も戸惑いを感じていました。それでも、検索されれば目録になるわけですから、相互貸借を目的として利用されるほとんどの方は、これで満足できるのです。「横断検索は、実装しても遅くて使えない」という声が多い中、ほとんどの方が満足して使われる横断検索の方式は、一理あるのかなと思います。ロングテールのデータも、時間をかけて検索されていけば対象となっていきます。

一方、三重県立図書館が公開する“三重モデル(注3)”は、国立国会図書館サーチ(注4)でも採用しているプロトコルOAI-PMHを利用してデータを収集する“データ集約型”のシステムです。市町村立図書館が書誌を登録すると同時に、この収集プロトコルが自動的に三重県立図書館へデータ登録を行うのです。

この方式は、収集されるデータは標準化されているので、網羅的な収集が可能ですが、県立図書館に登録するために、公立図書館のシステムに取り込んでもらう必要があります。そのため、システム提供会社の技術に負うところも多く、システム更新時期などに予算申請の必要もあり、実用的な総合目録ができるまで時間がかかる難点があります。また、総合目録作成コストは比較的高いため、市町村の図書館への協力・サポートも必要です。

2つの都道府県立図書館が何故その方式を選んだのか、それまでの経緯や歴史的な背景もありました。そして、その結果、見えてきたことがあります。

まず、出版コードといわれる“ISBN(注5)”のある一般に流通している本でも、同一書誌として認識されないということです。これは、先に述べた市販の書誌マークの違いにもよります。「ISBNが同じなら、同一書誌とみなせばよいではないか?」と安直に考えるところですが、実は、ISBNが同じでも同じ本とは限らないという厄介な問題もあるのです。

そして、もっと大きな問題は、地域資料の問題です。地域資料は市販の書誌マークに頼らず各市町村が個別に入力していることが多く、市販の書誌マーク番号のように同一書誌とする手がかりさえありません。2つのモデルは、方式こそ違え、想いは一つ、「利用者に使っていただく」のが目的です。それが書誌割れして利用者には、とても使いにくくなっているのです。

総合目録が整備され、将来、都道府県内で1冊しかない本がわかれば、都道府県内の保存体制の実現も可能になります。また、地域資料の全てとは言いませんが、必要なものは書影と目次をデジタル化していくことで、地域資料が可視化していきます。これらの課題は、先に述べた国立国会書誌データの行方とも、今後大きく絡んでくると思われます。

図書館の検索方式も一歩Web方式に近づき、目録の扱われ方も今大きな岐路に来ています。カーリルの吉本氏から、「すべてのデータをオープンにして、市町村のOPACで日本の本をすべて探したい!」という壮大なるロマンが述べられて、フォーラムは幕を閉じました。

図書館で変わる!地域が変わる!~編集力が生む新しい図書館像~

講師:太田剛(図書館と地域を結ぶ協議会チーフディレクター/慶應義塾大学講師)

実は、今回のフォーラムの中で一番興味があったフォーラムです。なぜかといえば、「図書館には編集力が必要」と言われる意味が、私にはまだ理解できていなかったからです。

最初に、ある本の帯に書いてあった「今だけ、金だけ、自分だけでいいですか?」というキャッチフレーズを、「“自分だけ”を、“図書館”に置き換えてみてください」と、提案がありました。「今だけ、金だけ、図書館だけでいいですか?」皆さんは、何を思い浮かべますか?図書館を取り巻く社会環境が変化していく中、図書館だけが生き残ればいいのですかという問いかけに聴こえました。

それから先は、400枚にも及ぶ用意した資料を示しながら、ほとばしり出る言葉に圧倒され、残念ながら私の頭はついていけませんでした。辛うじてメモできたことは、編集工学では“主客転倒”という言葉があること。世の中のあらゆる事象をインプットし、主語ではなく述語に置き換え、連想・類推・仮想して、「らしさ、みたい、もどき」を極め磨いていくのが編集力なのだということです。

図書館での編集による地域づくりとは、個人知を図書館という場を生かして共同知にすることで、やがては社会も変えていくソーシャルイノベーションになっていくそうです。図書館が潜在的に持っている空間の力/人材の力/本棚の力に、ネットの力やデザインの力を掛け合わせ、幕別町にせよ、「ゆいの森あらかわ」にせよ、循環型の経済を構築していくのが目標と感じました。今はこんな報告しかできずにすみません。もう少し整理がついたら、いつか紹介したい「図書館の編集力」でした。とりあえず、松岡正剛氏の本を読んでみます。

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図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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