回想法の紹介
図書館つれづれ [第33回]
2017年2月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

回想法ってご存知ですか?「年寄りの自慢話大会」と揶揄する人もいるようですが、産業カウンセラーの講座で回想法に出会い、回想法ライフレヴュー研究会主催の回想法トレーナー養成講座へ参加してきました。いま、認知症予防にも効果があると、図書館でも取り組みが始まっている“回想法”とはどんなものか紹介します。

「老いの繰り言」には、実は意味がある

昔から「老いの繰り言」と言われるように、お年寄りから何度も昔話をされて閉口したことはありませんか?実は、この繰り言には、ちゃんと意味があるというのです。

少し横道にそれますが、発達心理学者のエリクソンは、対人関係や社会との関係には、人が成長する年齢に応じて8つの発達課題があると唱えました。各々の年齢の中で、人は、プラスの側面とマイナスの側面を経験しながら成長を続けます。

年齢 心理的課題
乳児期(0-2歳) 基本的信頼 vs. 不信 特に母親との関係で、基本的信頼関係を確立
幼児前期(2-4 歳) 自律性 vs. 恥、疑惑 トイレトレーニングなど通して、選択や意思の制御を学習
幼児後期(4-5 歳) 積極性 vs. 罪悪感 自分の活動に、方向性や目的があることを学習
児童期(5-12 歳) 勤勉性 vs. 劣等感 勤勉性の意識と好奇心を発達させる
青年期(13-19 歳) 同一性 vs. 同一性の拡散 自分の中に一定の思想を持つ姿を求める
初期成年期(20-39 歳) 親密性 vs. 孤独 自分を自分以外の人と関わらせるようになる
成年期(40-64 歳) 生殖 vs. 自己没頭 子どもを持ち世話をする、仕事をする
成熟期(65歳-) 自己統合 vs. 絶望 自分の人生は有意義であったか?

年齢については今の時代に少しそぐわないかもしれませんが、成熟期は、仕事も子育ても終え、目の前が一旦リセットされる時期です。記憶力や体力も衰え、老いを受容できずに攻撃的に出たり、自分に対して悲観的になったりする時期でもあります。

1963年、アメリカの精神科医ロバート・バトラーは、高齢者の回想を、現実からの逃避などという否定的なものではなく、死が近づいてくることにより自然に起きる心理的過程であり、過去の未解決の課題に再び目を向けさせる積極的な働きがあることに気づき、回想法を提案しました。

回想法とは?

回想法は、人生を振り返り思い出を語り、自分の過去-現在を見つめることで、脳の活性化にもなり、これからの残りの人生(未来)を前向きにとらえることができる、穏やかな心理療法の一つといってもよいでしょう。

回想法には個人を対象とした個人回想法と、グループ回想法があります。個人回想法は、対象は必ずしも高齢者とは限らず、個別なケアが必要な臨床心理的な面が強く、リーダー(聴く側)の傾聴力や技術力が問われます。これからの話は、高齢者を対象にしたグループ回想法について、具体的にお伝えします。

グループといっても、多くの人数を対象にするには向きません。普段でもじっくり人と話そうと思ったら、6人前後が限度ではないでしょうか。グループ回想法は、6人~8人の参加者が、定期的に集まって、過去を思い出す行為や仲間との新たな人間関係を作る過程の中で、乗り越えてきた人生に対する本人の肯定感を高めていくのです。

その進行をサポートし、参加者同士の相互交流を促す役目は、“リーダー”と呼ばれます。難聴であったり声が小さかったり援助を必要とする参加者がいる場合は、“コ・リーダー”が隣についてサポートします。

回想法は、リーダー、コ・リーダー、参加者が円形に座り、懐かしい話や思い出を話してもらうのですが、大きく2つの特徴があります。一つは、毎回「テーマ」があることです。みんなが思いのままに話す井戸端会議とは違うのです。

テーマは毎回参加者に合わせて決めていきます。生まれてからの時間の流れにそったテーマもあれば、年中行事や季節や日常生活などの非時系列のテーマもあります。話すテーマは、最初は無難なものから始まり、必ず未来についてのテーマで終わります。頻度や時間は参加者の構成によっても変わりますが、週1回1時間を通常8回で終了します。リーダーやコ・リーダーのスタッフは、傾聴するのが基本です。

そして、回想法のもう一つの特徴は、話のきっかけに、毎回ツール(道具)を使うことです。ツールには、写真や地図などの出版物、おもちゃや行事に使われた道具、テレビやビデオの映像、食べ物など、五感を刺激するものが使用されます。

以下は、回想法の各回のテーマと道具の一例です。

  テーマ 道具
第1回 ふるさと 日本地図
第2回 子どものころのあそび お手玉、めんこ
第3回 遠足のおもいで 水筒
第4回 お風呂 石鹸、手ぬぐい
第5回 夏の食べ物 スイカの写真
第6回 若いころの楽しみ ブロマイド写真
第7回 仕事 そろばん
第8回 これからしたいこと 参加簿

例えば、「ふるさと」のテーマでは、一人ひとりの話を聴きながら、ふるさとの確認に日本地図を使います。各回のツールは、一度にいくつも必要ありません。参加者は、ツールに直接触ったり匂いをかいだり五感を刺激することで、イメージを膨らませます。私たちが何かを思い出すとき、例えば、絵葉書やお土産があれば、その時のことを思い出すきっかけになるのと同じです。

グループ回想法の進め方と注意事項

1. 準備

まず、回想法の目的を明確にしておきます。仲間づくりやレクレーション、療法など、回想法は参加者の構成によっても目的が変わります。そして、参加者の状況を事前に調査し、配慮が必要な方などを把握しておきます。

参加が決まった方々には、招待状と参加簿を送ります。実は私、最初は子供だましの様で、招待状には抵抗があったのです。そういえば、歳をとると、結婚式やパーティに招待される機会もすっかりなくなりました。だから、自分の名前が書かれた招待状には、とても意味があるのだそうです。

参加簿は、これからの各回のテーマの確認と参加記録になります。認知症の方などは以前参加したことさえ忘れていたりして、この参加簿が記憶をたどるのに役立ちます。

[図]招待状例と参加簿例

2. オリエンテーション(回想法の説明と同意)・自己紹介

最初の回は、回想法の趣旨を説明し、自己紹介の後に、以下のお願い事項を伝えます。

  • この場所を出たら、話されたことは、口外しないこと(守秘義務)
  • 他の人の話を否定しない
  • 話したくないことは無理に話さなくてもよいし、嫌になったら席を立っても構わない(拘束しない)

3. 各回の進行

リーダーは、毎回挨拶の後、その回のテーマを紹介し、ツールを見せて、参加者に質問して回想を促します。参加者同士の横やりはもちろんOK。話が横道にそれたときは、必要に応じて軌道修正しながら、参加者同士の相互交流を促します。リーダーは、回を通じて、全員が発言できるように配慮します。そして各回終わるときは、話し合ったあとの「今」の感想を聞き、次回の案内をします。

4. 最終回

これまでの感想などを振り返ります。グループ回想法には、グループの相互交流が生み出す力があります。参加者がこれからの人生をいきいきと暮らすために、新しいグループを作って自ら活動するケースも出てきます。これからの未来に向かってポジティブに生きる、回想法の究極の姿でもあります。

5. 注意事項

リーダーは傾聴が基本です。話をするときは相手の呼吸に合わせます。なかなか難しい技術ですが、普段のコミュニケーションにも使える技法だと思いました。席順も重要で、リーダーの隣には、おしゃべり好きな人と穏やかな人を配置します。最初にお話してくれる方は、一番抵抗の少ないおしゃべり好きな人。最後まで待てる方は穏やかな人というわけです。

援助が必要な方の横にはコ・リーダーがサポートしますが、体験談では、難聴の方とおしゃべり好きな人を隣り合わせにして大失敗した話などもありました。認知症の方と一般の方を一緒には無理かと思っていたのですが、話し方やリズムを認知症の方に合わせていると、社会的な判断ができるのか、グループが形成されていくとのことでした。話をする力を引き出したり、人に合わせてClose/Openな質問にするなど、リーダーには聴く技術はもちろんですが、参加者を尊重する謙虚な気持ちが大切なのだと感じました。

終わる際は、必ず現実に戻すことが大事です。特に認知症の方などは、現実にうまく戻れないと、興奮状態になったり、帰宅願望がでたりマイナス効果もあります。

現実に戻すためのクールダウン法は、「今日はxx年xx月xx日です」と言って、一緒に手を叩いて終わります。

いま、何故回想法?

日本の総人口は平成26(2014)年10月1日現在、1億2,708万人、65歳以上の高齢者は過去最高の3,300万人、今や4人に1人は高齢者の時代です。高齢化率はますます上昇し、平成72(2060)年には4人に1人が75歳以上という高齢化社会へ突入します。そこで回想法の出番です。

回想法は、健常者だけでなく認知症高齢者にも効果があり、発語が増えたり、表情が豊かになったり、情緒が安定するなどの症状の改善がみられます。これまで回想法は、デイサービス利用者や認知症高齢者などを対象に、看護職・福祉職・介護職・理学療法士などが活躍する、福祉や医療の分野でおこなわれてきました。それが、活躍のすそ野を広げています。

例えば北名古屋市は、昭和時代の日常生活用具を保存している歴史民俗資料館とコラボして回想法スクールを立ち上げ、昔を思い出して楽しく語り合うことで、介護予防や認知症予防に役立っています。更に、思い出を共有し一緒に語らううちに受講者の間に絆が生まれ、受講後にグループを作り、お花見に出かけたり、保育園や小学校に出向いて伝承教室や世代交流も生まれています。回想法によって生み出された活力は、高齢者の居場所づくりや役割づくりの原動力となっているのです。

現役世代1.3人で1人の高齢者を支える社会が到来します。これからは、健康な高齢者が高齢者をサポートし、老人力を生かした活動をすることで、若い方々の負担を少なくする努力が求められています。

図書館には回想法で使えるツールがたくさんあり、資料提供のコラボなら直ぐにもできそうですよね。そして、回想法でお年寄りが話す内容は、まさに地域のアーカイブ。すでに幾つかの図書館で、回想法への取り組みが始まっています。いつか、機会があれば、回想法の実体験と、図書館での具体的な取り組みや、回想法の可能性など報告できたらと思います。

回想法の参考図書を紹介していただきました。

  • Q&Aでわかる回想法ハンドブック
    語りと回想法研究会+回想法ライフレヴュー研究会編集 中央法規
  • 「コミュニケーション・ケアの方法」 思い出語りの活動
    フェイス・ギブソン著 的野瑞枝訳 筒井書房
  • 「写真で見せる回想法」
    志村ゆず 鈴木正典 弘文堂
  • 「回想法とライフレヴュー」 その理論と方法
    野村豊子 中央法規

トピックス

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

上へ戻る