小さな図書館の大きな図書館サービス
図書館つれづれ [第40回]
2017年9月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

6月に秩父で開催された第64回図書館問題研究会全国大会(注1)に参加してきました。 今回は、友達が発表とのことで、「小さな図書館の大きな図書館サービス」と題した分科会に参加しました。小さい図書館だからこそできる、地域に密着した図書館の事例を幾つか紹介します。

1. 小さな図書館の貸出アップ作戦(黒部市立図書館宇奈月館(注2)) 内山香織氏

黒部市は人口約4万人、黒部峡谷や宇奈月温泉で有名な観光地ですが、YKKなどの企業誘致も盛んな市です。宇奈月生まれで図書館が大好きだった内山氏は、司書資格を取得して宇奈月町役場に就職したものの、教育委員会やケーブルテレビなどの部署に配属されました。平成18年に黒部市との合併後も上下水道課へ。黒部図書館に配属されたのは平成24年、入庁から12年の長い道のりでした。そして、図書館の実践的イロハを身に着けた3年後、宇奈月館へ異動しました。

着任した宇奈月館は、長年司書不在の運営で、課題は山積みでした。選書はハーフベルに頼っていたため穴だらけの蔵書構成で、図書館にあるべき本がありません。除籍は行われずに書架はパンパン、彼女が小さいころに読んでいた30年前の漫画も棚にありました。貸出数は年間2万冊前後と横ばい状態でした。

選書や除籍をすることで魅力的な棚づくりをしたいけど、ローマは1日にしてならず。「このままでは図書館の存在価値をアピールできない」と感じた彼女は、図書館の必要性を示すための1つの指標として、「めざせ貸出30,000冊!」の目標を掲げ、2年間のロードマップを作成しました。貸出アップの実績を作り、資料費アップの交渉で蔵書の充実を図り、宇奈月館を活性化する作戦でした。「人手も、予算も、時間もない」中での最初の取り組みは、限られた資料費予算を乳幼児連れ親子と高齢者にターゲットを絞って選書をし、他の分野は黒部館に任せました。

更に、黒部館の書庫にあった、るるぶ、住宅地図、赤ちゃん絵本など300冊の所蔵変更をして、1冊も買わずして蔵書の充実を図りました。乳幼児連れ親子が気軽に来られるようにと、赤ちゃんが寝ころべるコーナーを利用して「赤ちゃんタイム」を設けました。赤ちゃんタイムに理解を求めたチラシは、赤ちゃんだけでなく図書館を利用しなかった市民の目にもとまり、来館開拓では一番効果を発揮したとか。また、黒部館から期間限定で借用した本の企画展示では、様々なテーマを設定し、本を手に取ってもらえる工夫もしました。

システム更新中も開館して手書きで貸出したのは、システム提供ベンダーからすればリスクのある話ですが、それだけ継続開館への思いが強かったのでしょう。小さな図書館だからこそできたことです。「図書館の本は全て読みつくした」という方には、読みたい本の聞き取り調査をして他館から取り寄せる、読みつくし支援をしました。大規模図書館では、こんな細やかなサービスはできないと思います。

市内の文化施設からお借りした鉄道模型で「鉄道模型で遊ぼう」イベントや、クリスマス会やアニメ上映会は、図書館はイベント通知をしただけですが、多くの子どもたちが集まってくれ来館のきっかけになりました。人の集まる公民館のラウンジでは、「出前うなづき友学館」と称して、本を並べお茶をだして、新しい利用者開拓をしました。芸術関係の方が多いことに目を付け、近隣の美術館などの協力を得て、アート関連の本を借りるとスピードくじで招待券プレゼントなんて企画もしました。

内山氏がいつも留意していることは3つ。まず、イベントは欲張らず、継続可能なものは、利用者に待つ楽しみが生まれるよう、毎年同じ時期に開催します。2つ目は、限られたリソース(時間、人手、予算)をどこに投入するかを見極めること。最小のリソースで最大の効果を心掛けています。そして最後に一番大切なことは、結果は遠慮なくアピールする。知られていないサービスはやっていないのと同じ。成果を見せることで、議員や図書館応援団など様々な人を巻き込みながら図書館は発展していきます。自前のブックカバープレゼント企画は新聞にも掲載されました。

他の部署で培った統計力で分析すると、この2年間で貸出冊数は59%、延べ人数51%、実人数28%とアップし、当初の目標値を超えました。人や予算を獲得するためには数値による説明が不可欠です。この数値を裏付けに、人員や資料費アップを交渉しました。やってきたことは、地道なことの積み重ね。小さな図書館には予算も人手もないけれど、思いついたらすぐに取り掛かれる小回りの良さがあります。デメリットをメリットに活かしました。

今後のやるべきは、除籍をすること、郷土資料コーナーを充実させること。自分がいなくなっても運営できるようスタッフの育成も欠かせません。「何より黒部館と一緒に発展することが市のサービスの充実につながる」と話す内山氏に、図書館は自治体の一組織ということを改めて気づかされました。

2. 大きな森の小さな図書室(群馬県上野村図書館(注3)) 武部裕子氏

上野村は、1985年に日航ジャンボ機が墜落した御巣鷹の尾根のある、面積の95%が森林の森の郷です。哲学者の内山節(たかし)氏が一年の半分を生活している場所としても有名なのだそうです。元々は5000人ほどいた人口が、今は1300人と過疎化?と思いきや、実は人口の20%はIターンの20代から30代の若者が暮らすユニークな村です。ダムの固定資産税が入り財政的に豊かな上野村は、過疎から脱却するために、「持続する地域社会」として村の存続を目指し、人口対策を最重要課題に掲げてきました。キノコセンターや木材加工施設などの雇用の場を確保し、村営住宅を整備。若者が多い異例の人口構成はその功で、図書館建設も定住促進対策の一つの柱でした。

図書館は、小学校の敷地内に2012年にオープンしました。円形の外見以上に珍しいのは、1階は村の図書館(蔵書2万冊)、2階は学校図書館(蔵書8000冊)という造りです。2階の学校図書館は、連絡通路で小学校の校舎と繋がっています。嘱託司書の武部氏は、午前中は2階の学校図書館、午後は1階の村の図書館という変則的な働き方をしています。

村の図書館には、就学前の絵本はありますが、児童書はありません。何故って、2階に上がれば学校図書館と繋がっているからです。蔵書は、村の生活と仕事に役立つ本を中心に収集し、NDC分類ごとの配架ではなく、「林業/草木染/山ぐらし/郷土資料/木工」などカテゴリごとに配架されています。毎年ベストリーダーに鹿肉本がランクインする山深い里なのです。

出生率は年間10人。知り合いが誰もいない心細い若いIターン移住者を対象に、様々な利用者サービスに取り組んでいます。月2回、ペレットの暖炉の前で、専門の講師が就園前の子どもたちに読み聞かせやわらべ歌・親子あそびなどを支援しています。司書も週に1回実施していますが、専門講師は別予算を確保しています。図書館は、村の伝統行事や祭りのことなどを古老から聞く場としての、生涯学習機能も兼ねています。

昔は羊を飼っていた家庭が多く、毛糸は生活に大きく関わっていました。図書館にある本を使って初心者に編み物を教える「ニットカフェ」は図書館の中でおこなわれます。終わった後はお茶を出してティータイム。入園入学用の絵本バッグなどは、学校の家庭科室のミシンを使い、図書館資料を参考に、できる人が手ほどきします。地区の行事である郷土料理の伝承も、学校の家庭科室を使いお年寄りから教えてもらいます。子どもは遊びながら、大人はしっかり交流する、図書館はそんな場所なのです。

学童保育所は敷地内にありますが、図書館は学童に行かない子供たちの放課後教室としても利用されます。高齢者サービスでは、図書館に来館できない方への本のお届けサービスや、各地区の高齢者サロンへの出前読み聞かせなどを行っています。

毎月15日を家読の日と決め、ノーメディアデイとしています。村民に募集した読書標語は返却日の栞で披露されます。なんだかほのぼのして、今の時代じゃないみたい。夏休みの工作教室、星空観察会、機織り教室などイベントも盛りだくさん。1人で2役をこなす武部氏は、冬には道路の凍結で自宅に戻れず、寝袋で図書館に泊まることもあるとか。楽しいこともたくさんあるけど、大変そうな毎日です。武部氏の奮闘ぶりを拝見がてら、上野村の自然を満喫したくなりました。

3. 「つながる」を生む図書館を目指して(千葉県山武市さんぶの森図書館(注4))
 豊山希巳江氏

豊山氏は、図書館つれづれ第15回(注5)のミニプレゼンにも登場しました。2年前は、エコノミックガーデニングの切り込み隊長として、「とにかくやります」と宣言したのですが、今回の発表は、2年間の彼女の活動軌跡でもありました。彼女の活動は、色々な方々と「つながる」ことで道が開けていきました。どんな人とつながっていったかというと、

  • 利用者とツナガル
  • ボランティアとツナガル
  • 行政職員とツナガル
  • 市内の組織とツナガル
  • 全国の元気な公務員とツナガル

図書館の人たち、特に司書の専門職採用の方は、本庁の方々とパイプを持つのが苦手なようです。素晴らしい活動をしていても、知られていなければ評価もしてもらえず、やっていないのと同じです。豊山氏は、利用者やボランティアの方々と繋がって図書館の活動をアピールし、サークル活動を通して本庁の方々とパイプを作ってきました。でも、何かが違う。図書館の活動は果たして本庁と連動しているのか?自治体のホームページや広報に目を通してきたか?そんな自問自答をしていた時に転機が訪れます。

山武市には、わがまち活性課という部署があり、地域活性化を担っているその部署でエコノミックガーデニングの経済手法を用いることになり、エコノミックガーデニングを日本に持ち込んだ拓殖大学の山本尚史先生がアドバイザーとして迎えられました。彼女も同時期に山本先生の講演を聞いていたので、自分も勉強会に参加したいと申し出ますが、聞き入れてもらえません。思っていた以上に壁は厚かったのです。

そこで、方策を変えました。社会福祉協議会や中小企業経営者、商工会議所に働きかけて、閉館後の図書館を会議の場所として提供することを提案します。会議の場所探しをしなくて済むならと快諾してくれました。会議では、その時課題になった情報や話題に上がった情報を、その場ですぐに図書館内から探して提供しました。やがて皆さんに、図書館がビジネス支援にも役に立つことが認知されていきました。

山武市には3つの図書館があり、例にもれず効率化の話もちらほら聞かれるようになりました。そこで、図書館毎に特色を持たせようと、さんぶの森図書館はビジネス支援を優先にする蔵書構成に変えました。わかっていたことですが、貸出はやはり落ちました。それでも、活動のアピールは大事と、認定司書を取得したことも市長に報告し、地域活性化センターなどにも出向き、様々な情報を入手して、図書館運営の参考にしています。

外に出て、改めて思うのは、図書館関係者に出会うことがないことだといいます。図書館の活動が図書館の中だけで終わっているのではないか。そんな疑問も提示されました。市町村アカデミーでおこなわれた「全国地域づくり人材塾」では、全国の元気な公務員と繋がりました。彼女の案内で、元気な公務員を訪ね、私もツナガル旅をする予定です。さんぶの森図書館の活動は、その時にまた紹介します。

今回の分科会で、「図書館も行政の一組織で、市の組織の一員としてやっているという意識が足りないのでは?」との指摘に、ハッとしました。もしかしたら私自身も付和雷同して軸足を違えていたかもしれないと、自分を戒める機会になりました。

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執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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