佐世保市立図書館からの報告
図書館つれづれ [第46回]
2018年3月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

長崎県佐世保市立図書館(注1 以下、図書館)は、クジラをイメージして設計された図書館で、2年ほど前に伺ったことがあります。2017年12月は、2度目の訪問でした。皆さんの中には、新しく建設された図書館でなければ新しいことはできないと思っていらっしゃる方もいるのではないでしょうか?今回は、佐世保市立図書館の素敵な変身ぶりを紹介します。

1. 図書館のBefore→After

2年前に伺ったときと今回の違いを、Before→Afterで少し紹介します。

地元作家コーナーと図書館入口

Before

図書館の1階は駐車場です。最初に訪れたとき、入り口が分からなくて連れて行かれるままに動いていくと、村上龍をはじめとする地元作家コーナーの中2階が現れました。佐世保の年表と作品が並べられていましたが、村上龍の写真の前は何故だか他の人の作品が並んでいて、とても違和感を覚えました。作品と写真がずれていなければもっと見やすいのに、ちょっと残念な気がしたのです。更に驚いたのは、2階にある図書館の児童室や一般室に行くためには、エレベーターを使わず階段を利用する場合は、防火扉を開けて非常階段を利用するのです。これにはビックリしました。

After

中2階の作家コーナーは、整理をして、市民を巻き込んだ市民ギャラリーとして一部を開放していました。とても好評で、1年先まで予約が入っているそうです。鍵もかかるショーケースなので警備の心配もいりません。暖房も入っていました。

エレベーターを使わないときは非常口を利用して図書館へ行くのは変わらずですが、天井に大きな書道ガールズの力作が出迎えてくれました。この作品は、2017年11月に開催された佐世保市のイベント、『させぼ文化マンス』で市内5校の書道ガールズがライブで作成した作品です。2日間しか日の目を見ないのは惜しいと館長が借り受けて、天井にワイヤーでつるしたそうです。作品は何回かに分けて披露されたそうです。非常口のドアには取っ手がつけられていて、ずいぶんと開けやすくなっていました。非常階段はディスプレイの場所に変身し、階段を昇りながら、図書館のお薦め本のチェックができます。図書館の入り口には、「英語deおはなし会」のポスターが出迎えてくれました。対象は小学生(家族同伴は可)。アメリカ国防省報道機関太平洋地域AFN佐世保報道局勤務職員によるお話会です。佐世保は基地のまちなのです。図書館との連携が始まっていました。

雑誌コーナー

Before

盗難が多い雑誌の最新号は、以前はピンクの紙を置いていて、見たい場合はカウンターに申し出る仕組みでした。新聞最新号もカウンター保管で利用者にも職員にも不便でした。

After

1年前くらいから、半年分が開架で、最新号も全号雑誌コーナーに出しています。自由に手にとってもらえるようにと思い切って開架にしましたが、いま少しずつ破損雑誌が発生しているとか。一部の利用者のマナー違反、どこの図書館も悩まれているんですね。トラブルの元になっていた新聞も、限りあるスペースで、持ち出し切り取りなどを防ぎつつ、自由に新聞を手にとってみてもらうには、全紙が掛けられる新聞ホルダーが良いと職員が考え、館長が手作りしました。現在最新号トラブルはほとんどありません。

3階コーナー

Before

3階は講座室と視聴覚室です。講座室は学習室として開放されていましたが、視聴覚室は行事がないときは鍵がかかっていました。

After

視聴覚室は、この一年は大活躍でした。毎週のように職員総出でイベントのために机椅子をだし、午後は机椅子を戻して学習スペースとして開放しました。この机や椅子がとにかく重い。そんな使われ方をするとは想定外だったのでしょう。3階のフロアーのデッドスペースだった場所は、ワイワイガヤガヤできるグループスタディコーナーができていました。

そして、極め付きは、なんと利用者カードも変わっていました。佐世保在住作家のにしむらかえさんのデザインです。ちょっと見ただけでも、素晴らしく変身した図書館は、2016年4月に新しい館長が赴任してからの様変わりです。館長はどんな想いで活動をされているのか気になり、突然にもかかわらずお話を伺うことができました。

2. 前川直也館長へのインタビュー

館長が図書館に着任したのは2016年4月です。「祝日開館&開館時間の延長」というミッションが与えられての着任でした。開館時間の延長=民営化というのは、一般的な筋道です。図書館民営化の波は、佐世保市内部でも例外ではなく、以前から論議されていましたが、体制見直しなど職員の協力や執行部の理解を得て、2017年4月から祝日の開館と土曜を含む平日の20時までの開館時間延長(以前は木・金曜日以外は18時まで)を直営での運営を継続しながら実現しました。図書館には、正規・非正規ともにスキルの高い職員が揃っています。「民営化でもサービスの最低限の維持は可能だったかもしれないけれど、この職員が残る直営を継続できたことで、今後さらなる進化の可能性が広がった」と、館長は話してくれました。

館長が着任して、まず感じたのは、「勿体ない!」でした。職員は素晴らしく努力をして良いイベントなどもやっている。しかし、児童室のイベント1つとっても、図書館に足を運ぶ人以外にはほとんど知られていないのです。広報担当経験のある館長は、市民25万人を対象とするために、来てもらう努力から始めました。マスコミ各社を自ら訪問し、まずは挨拶して回りました。

「前川館長になってから一番変わったのは外部への情報発信です。広報が大変上手なので手作りの壁新聞以外に、個人のFacebookで、図書館のイベントをアピールします。市役所や各関係機関などいろいろなところでいろんな方に積極的に図書館や図書館職員をPRしてくれます。おかげで2017年の新聞掲載は12月時点で約40件ありました。新聞だけの件数です。新聞、テレビ、ラジオ、地元のミニコミ誌、市のFacebookの各担当者と個人的に積極的に繋がってらっしゃるので、各イベント担当者が報道投げ込みした後にも、個別にメールされます。おかげで図書館イベントには必ずと言ってよいほど、どこかしらのメディア取材があります。館長がきっかけをくださったのだと思います。」とは、館長に内緒で聴いた、職員の感想です。

館長の、「図書館は真似をし合っても良い施設」という言葉も気になりました。観光などと違い客を取り合うわけではない。良いことは真似し合ってお互いに地域住民のためにサービスを高めていくことができるので、ほかの図書館で参考になりそうなことは積極的に取り入れているそうです。

2016年は、図書館のボランティア団体1つと図書館員で、「第1回図書館まつり」を開催しました。2017年の第2回まつりでは、FacebookやHPでボランティアの参加を呼びかけ、9つのイベントをボランティアらが企画して行いました。具体的な図書館サポートのボランティア団体の組織化までには至っていませんが、水面下ではバックアップしたい声もちらほら聞こえてきました。種は蒔かれ、あとは自発的な市民の参加を待っている状態です。

館長が普段から気を付けているのは、「職員と一緒に動くこと」。館長という立場でしなければならないことはもちろんですが、それ以外にも準備段階から関わるようにしています。特に図書館は女性の比率が高いので、力仕事などは率先して引き受けています。館長の強みは、読書家でも図書館のヘビーユーザーでもなかったこと。一見弱点のようですが、本を読まない人や図書館に来ない人の気持ちがわかるという点で強みだと言うのです。本のプロのスキルや図書館経験を生かした素晴らしいアイディアは職員達がたくさん持っている。それらのいろいろなアイディアを積極的に取り入れながら、自分だったらどうすれば図書館に行こうと思うか、本を手にするかという視点で判断したり、新たな案を打ち出します。

職員との棲み分けも明確です。職員は良い案はあっても具現化の方法が分からない場合があります。その場合は、役所や外部などの交渉を館長がサポートして実現可能にしていくという役割分担ができています。でも、職員という宝を発掘したのは館長です。館長がいなくなったら、元に戻るのではという私の意地悪な質問には、「石油資源が湧き出たのに止める人はいない。スキルを持った職員という資源があったからできたことで、僕は少しボーリングをしただけ。スキルと言う資源は、増えはしても枯渇はしない」と、力強く返ってきました。

館長が着任して、ずっと目標としてきたのは、「市民が作る図書館」です。そのために、1年目は、この図書館に気軽に来てもらおうと「そうだ、図書館へ行こう!」をキャッチコピーで動きました。2年目のキャッチコピーは、「アウトリーチ」。持ち前の行動力で、率先して図書館から外に出て知らせました。学校での読み語りや調べる学習の講習、商業施設や文化施設などでの出張図書館やビブリオバトルなどの館外でのイベントを開催し、それらを通して、市民への広がりができてきました。

私が、以前CDを送った、弓削田健介さんの曲「図書館で会いましょう」は、図書館員がゲスト出演している『はっぴいFM』という佐世保のコミュニティFMのなかの『図書館日和』というコーナーのテーマ曲として毎月使われているそうです。

2018年は、3年目に突入です。キャッチコピーは「市民とともに」。図書館自体のサービス計画を作るのを目標にしています。そのために、今まで行ってきた利用者アンケートのほかに、無作為に市民アンケートを実施したいとのこと。図書館を利用していない方々の声を聴くためです。次々と仕掛けられる活動は、動きながら観察し、化学反応が起きてくるとターゲットを定めているのだそうです。何が足りないかは動かないと見えてこない。あきらめない底力を感じました。

でも、全てがバラ色というわけではありません。以前は図書館整理日で休館だった毎月第3金曜日は、全職ミーティングや研修、展示の入れ替えや図書の移動などをしていましたが、その日も開館日になりました。システムを担当していた身としても、整理日はとても大事な日でした。だけど、館内整理のための休館の意味を、中々外にはわかってもらえないんですね。非正規の雇用期限の問題も残っています。

「勿体ない!」 館長が言ってくれた言葉に、職員が感激しないはずがありません。その言葉が職員のモチベーションを支えています。館長と職員による二人三脚の改革です。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

上へ戻る