内野安彦氏の「図書館活用術」講座 in 船橋市中央図書館
図書館つれづれ [第51回]
2018年8月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

2018年5月13日、船橋市中央図書館(注1)にて内野安彦氏による図書館講座ビジネス支援「図書館活用術」が開催されました。一般利用者が対象でしたが、伺ってきました。内野氏曰く「図書館員には釈迦に説法」と謙遜されていましたが、発見もたくさんありました。

図書館は何をするところ?

図書館の本が無料で貸出するようになったのは、いつからかご存知ですか?実は、1950年に制定された図書館法以降なのです。図書館法の第3条には、「図書館は、図書館奉仕のため、土地の事情及び一般公衆の希望に沿って、更に学校教育を援助し…」と続きます。すなわち、図書館が何をどう収集するかは具体的には書いていないのです。言い換えれば、何を提供するかは、その自治体に任せられているということになります。

図書館で提供するものもアメリカでは事情が違います。アメリカのニュージャージー州の図書館を例に、日本のように本や雑誌を貸すだけでなく、講座はもちろん、芝刈り機まで貸してくれる状況を話されました。アメリカの図書館事例は、第11回のコラム「クパティーノ図書館からの報告」(注2)でも紹介していますのでご覧ください。大きく感じるのは、図書館はコミュニティの中心にあるということです。

図書館サービスの認知度

皆さんは、図書館のサービスってどのくらい認知されていると思いますか?平成29年に実施された「東松山市立図書館市民アンケートから」で、市民に知られていない図書館サービスの数字が提示されました。

サービスの内容知らない人の割合
図書館が所蔵していない本をリクエストできること53.6%
図書館でCDやDVDを借りることができること30.7%
図書館で調べものの相談ができること75.5%
図書館で託児サービスをやっていること83.3%

ちょっと意外な数値でした。託児所サービスをやっている図書館はさすがに少ないですが、最近は、「赤ちゃんタイム」などを採用している図書館も増えています。しかし、多くの市民にとって、依然として、図書館は「本や雑誌を借りる場所・閲覧する場所」であり、「お喋りしたり騒いだりしてはいけない場所」という意識は変わっていないようです。

図書館はどのくらい市民に利用されているのか

ある自治体の貸出実績分析によると、「カード保持者は市民の20%だが、年に1回でも貸出サービスを利用したものはその半数であり、その中の1割の利用者が9割の貸出図書数を占めていた」とのことでした。即ち、図書館は市民の1%のヘビーユーザーによって使われているということです。この数値、どう受け止めますか?大量に持ってくるリクエストに制限をかけているのかどうか、図書館界のそんな数値も知りたくなりました。

先日もある方とレファレンスの話をしていたら、「それって、極々特別な人が受けてるだけでしょ?」と言われました。「極々特別な人が利用している」と思われているレファレンスとリクエスト。出版社の方々が過剰サービスと指摘するサービスでもあります。

図書館を政策にする自治体、しない自治体

図書館の予算は、自治体の社会教育費の中に組み込まれています。内野氏が関わったことのある同じぐらいの人口規模の都市など(松本市、塩尻市、長野市、鹿嶋市)の数値で、自治体の図書館予算の違いを説明されました。図書館の予算は、自治体の全体規模から見たら、大きな予算ではありません。どの都市も社会教育費の中の図書館費の割合にはあまり差異はないものの、社会教育費が自治体の予算に占める割合は、14%~38%と大きな差異がありました。自治体の財政が潤っているから図書館が充実しているかというと、それも違います。図書館費は、首長が図書館を政策に掲げるかどうかで決まってくるのです。予算を獲得するためには、図書館職員が地域を巻き込んで活動する必要があるとのこと。「図書館はお金を生まない」といわれます。ところが、塩尻市立図書館は、「図書館は市のブランドになった」と高く評価されるまでになっています。なぜか?視察が多くて、地域にお金を落としているからです。地域活性化の同じ現象として、武雄市図書館のことを思い出しました。これも一つの施策です。

図書館のツールを知る

図書館は館種が違えば存在目的が違います。また地域によって選書方針やサービスが違うため、1つとして同じ図書館はありません。内野氏が事前調査した船橋市の周りの県立図書館や大学、民間のNPO団体などが紹介され、用途に応じて使い分けが可能なことを紹介しました。最近は、近隣の公共図書館と大学との連携も進んできて、生涯学習にも力を入れています。その時に力を発揮するのが司書なのです。司書に声をかけないなんて、もったいない話です。是非、図書館の司書に声をかけてください。きっと世界が広がります。

図書館には本や資料のほかに色々なツールがあります。国会図書館や公共図書館の貴重なデジタル資料もあれば、館内で使えるデータベースもあります。図書館によっては電子図書館サービスもあります。地域資料の電子化が進んでいます。それも、情報のもとになる紙の地域資料があればこそ。でも、現実には公共図書館がない町村の自治体はまだまだあります。「大事な地域資料は誰が守るのか」、塩尻時代に近隣の図書館の地域資料を受け入れた話をされました。

自分は図書館を使いこなせていると思わないで、絶対に司書に聴いてください。それも、「XXの資料ありますか?」というYES・NOで答える質問ではダメ。「~のような」とか「~に関する」といったオープンクエスチョンで聞くと、司書は奉仕の精神で動きます。もちろん、「その資料はありません」と教えてくれることもあります。でも、そこであきらめないでください。自分の図書館にない場合は、近隣を探したり、次のステップへと導いてくれるのです。何故って、司書は、資料に精通して、たくさんの知識があり、何より奉仕の精神が旺盛だから。みんな、「質問してほしい」「聴いてほしい」と思っているのだそうです。

内野氏の講演のまとめ

「図書館で出会うものは、本だけではありません。司書も、無形の商用データベースなどの情報も使い倒していただきたい。図書館は、資料と利用者が出会う場所であり、イベントに参加したり、おしゃべりをしたりすることで、新たな発見ができるコミュニティ(居場所)である」と締めました。

お話は平易でわかりやすく、でも、如何せん、やはり一般利用者の参加は少なかったのです。素敵なイベントも利用者が参加してもらうために何をすべきか。話の中にもありましたが、図書館の利用者は特定されています。図書館を利用しない人にどうアピールしていくのかが最大の課題だと感じました。

そして、もう一つ感じたことがあります。船橋市は西館以外は指定管理者で運営されています。講演があったのは中央館でしたが、直営の西館の館長やほかの職員も聴講にいらしていました。終わった後の懇親会にも参加され、直営・指定管理の見事な連携を垣間見ることができました。指定管理者運営といっても、選書は任されていないケースもあることを懇親会で聞き、一言で指定管理運営といっても内情は自治体によってそれぞれ違うことも知ることができました。

以前、ある市立図書館館長で今は指定管理の館長をされている方が、「直営、指定管理と分け隔てするのではなく、いかに利用者により良いサービスをしていくか、一緒に考えていきたい」と言われた言葉が印象に残りました。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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