第7回情報ナビゲータ交流会(注1)
図書館つれづれ [第52回]
2018年9月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

ビジネス支援図書館推進協議会主催の情報ナビゲータ交流会は、全国の公共図書館や専門図書館等の情報サービスを扱う機関の職員が集い、より広域な人と資料のネットワークを構築する目的で、7年前に第1回交流会が開催されました。今年も151名の参加があった情報ナビゲータ交流会の様子をお伝えします。

企画1 行政説明「社会教育行政の最新動向」

文部科学省生涯学習政策局社会教育課連携推進係長 道川貴生氏

公立社会教育施設の所管の在り方等に関するワーキンググループ(注2)で話し合われた報告で、要は、図書館を教育委員会の配下ではなく首長部局下に置くのも首長の采配によるとの話でした。お話を聴いていて、?????がいっぱい並びました。既に首長部局下の図書館があるのに、なぜ今この話題を取り上げるのかよくわからなかったのです。

先日幾つかの図書館を訪問する機会がありました。私の疑問をぶつけ、色々な方の話を集めて、やっと何となく理解できました。以下は私が理解できたことです。私の理解が間違っているときは、是非、ご指摘お願いします。

行政の組織は、教育委員会と首長部局と大きく2つの組織で成り立っています(というか、それさえも知りませんでした。恥ずかしい!)。理由は、教育が政治に翻弄されてはいけないからと聞き、なるほどと納得。まさに、NHKの「チコちゃんに叱られる!」でした。

ところが、社会教育を取り巻く環境は随分と変化し、実情は随分と形がい化してきているそうです。例えば、以下のような状況があります。

  • 高齢化社会が進む中、本来教育は教育委員会の配下で行うものですが、需要に追い付かず、ヘルパーの養成講座などは首長部局課で行われているなど、実態が合わなくなっている。
  • 限られた教育委員会の予算の中では、学校司書を学校に配置する予算を捻出するのも難しい。教育委員会は、社会教育も大事だけど、まずは子供たちの学校教育を優先したい。
  • 図書館は本来の「知の拠点」のほかに、「まちづくり」「賑わいの場」としても注目を浴びている。新しい「学びの場」として、公民館、図書館、博物館の社会教育施設が、首長部局と連携して運営整備をしたほうが効率的な面がある。etc

今までも首長部局と教育委員会で人的交流がなかったわけではありません。ただ、図書館は暇な部署だと思われているのか、人事交流にも問題があったと指摘される方もいました。

ということで、社会情勢の変化を背景に、公立社会教育施設(図書館を含む)は、政治的中立性や継続性・安定性を担保する条件付きで、地方公共団体の判断で地方公共団体の長が所管することを可能にして良いのではという調査報告書でした。平たく言うと、文科省にはお金がないし、図書館は首長部局で運営したほうが効率的という考えもあると理解しました。

以前、地域EXPOのイベントに伺ったことがあります。人もお金もかけているのは一目瞭然。お金はないのではなく、ある所にはあるのだなあと感じたことがありました。図書館はお金を生まないといいますが、まわりまわって税金を納める人を生んでいるのになあとも思ったりします。ところが、富裕層は本を直接買うから、図書館は利用しないのです。一方で、利用者を掘り起こそうと、各種イベントに出かけてみても、来ている方はいつも同じ。関心が高い人は黙っていても図書館を利用します。今までのように中間層をターゲットにした図書館運営ではなく、今まで図書館を利用してこなかった層を如何にして開拓するかが今後の課題などの話もでました。首長部局に入れば選書に検閲が入るのではなど、話はあちこちに展開して、図書館現場の実態を私も学ばせていただきました。

いずれにせよ、この傾向が加速すると、また波乱を呼び起こすかもしれません。

企画2 パネルディスカッション「元図書館員が語る図書館の姿~図書館の外の行政からこんな風に見えてますよ~」

コーディネータ :豊田恭子氏(ビジネス支援図書館推進協議会副理事長、バーソン・マーステラ)
パネリスト   :石田ひろ氏(豊中市財政課)
         北澤梨絵子氏(長野県塩尻市人事課)
         堀行徳氏(元菊陽町立図書館長)

民間企業に勤める豊田氏をコーディネータに、現在図書館を離れた3人が語るパネルディスカッションでした。

北澤氏は、ある飲み会で、「もっと泥にまみれる仕事をしたほうがよい」と言われたのが、図書館を離れるきっかけでした。接する相手が図書館利用者か職員かの違いだけのはずなのに、図書館の外に出てみて、行政には色々な仕事があるのに気付いたといいます。今は、図書館を離れたことをチャンスととらえ、図書館と人事課をつなぐ役割を意識して働いています。

石田氏は、財政課に異動になりました。役所は人のネットワークで動いているところ。図書館の司書としては優秀でも、行政のほかの部署に異動すれば、「事務処理一つできない年だけ食った無能な一人、話が通じない専門職」(と、見られている)と感じました。図書館は図書館の利用者だけを見ていればいいけど、他部署では、様々な個人の利害関係に応じた対処が必要で、市民サービスの共通の目的が見つかりにくいといいます。

堀氏は、35年の役所人生の中で、半分は生涯学習部門に配属。3年間の図書館勤務で感じたのは、図書館員同士のコミュニケーションがとれていないことでした。担当者が頻繁に変わる上に研修制度がないことを指摘されました。

石田氏と北澤氏がともに感じたのは、自分が行政職員であるという自覚が足りなかったこと。図書館は自治体の一組織であること。自治体の総合計画の中で、地域課題や町のミッションを知ることは、その町が抱えている問題やサービス対象を知ることです。図書館は用事がなくても誰でも来ることができる敷居の低い窓口です。潜在的なニーズをくみ取りフィードバックすれば、行政に活かせるものはあるといいます。図書館の価値観だけを振り回さず、町全体を見る視点を養い、客観的視野の中で、図書館のポジションはどこなのかを見極めなければならない。そのために、図書館の専門性(レファレンス機能)を活かし、図書館とそれぞれの部署をつなぐ役割を果たしたいと話されました。

では、図書館は、今後どうあるべきか?その対応法として、堀氏はSWOT分析を推奨しました。図書館という専門性の弱みと強みは何なのか?レファレンスの強みは自治体の中でアピールされているのか?役所に人的ネットワークを持っているのか?行政マンとしてのプロ意識はあるのか?

図書館は生き残るために、まちづくりや地域コミュニティの拠点としての役割がクローズアップされています。一方で、組み込まれ過ぎる不安感もあります。地域の文化を守りながら、地域に根差した拠点になるために、「変わる」を「変える」にしなければならないと結びました。「図書館員は外に出ろ」と言われながら、状況は少しも変わらない中、実際に図書館以外の部署に出られた方々のお話は、皆さんにどんなふうに響いたのでしょうか。

最近「井の中の蛙」で思うことがあります。私はFacebookを情報源として利用していますが、基本はお友達の情報がほとんど。ということは、世の中の反対意見は素通りしている感があります。図書館はとても閉ざされた場所です。色々な団体に所属して学んでも、しょせん「図書館第一」という価値観は同じ。図書館の外に飛び出す知人は、行政のほかの部署へ行き、価値観を共有していない相手と話すと自分の枠が見えてくるといいます。図書館員が自治体の中で存在をアピールできないのは、その根拠となる説明が飛躍し、外から見ると論理的説明が弱いからだと分析していました。今回のパネルディスカッションに同じ趣旨を感じました。

ミニプレゼンタイム

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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