「女性」から考える非正規公務問題シンポジウムに参加して
図書館つれづれ [第68回]
2020年1月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

非正規公務員が増えています。その4分の3は女性で、多くは婦人相談員や司書・保育士・学校給食調理員・女性関連施設などの業務に従事しています。その中の多くの方が年収200万円前後で、ワーキングプアといわれる水準です。2019年9月22日に<「女性」から考える非正規公務問題>と題したシンポジウムが東洋学園大学にて開催されました。今回は、会計年度任用職員制度や相談支援業務から女性の貧困まで、図書館で働く非正規公務員以外にも非正規で働く人たちの実態を知ることができたシンポジウムの報告です。なお、本コラムは、私の個人的見解に基づいて書いています。ご了承ください。

なぜ<女性>をテーマにするのか

最初にコーディネータの竹信三恵子氏より、非正規公務員は男性だっているのに、あえて「女性」からの非正規公務員問題にアプローチする意義が説明されました。以下に幾つか挙げます。

  • 非正規公務員の4分の3は女性で、相談員・保育士・司書・学校給食調理員など女性が担ういわゆる「ケア的」公務が多いということ。
  • 男性の扶養下にある女性の働き手は、低賃金でも構わないという風潮も一因している。
  • 直接住民に接するサービスが低賃金の女性を中心に担われ、十分な研修などもおこなわれていないため、公共サービスの劣化を招いている。
  • その結果起きている非正規公務員の低待遇が、男性非正規にも影響を及ぼしている。

等々

婦人相談員の現状と「非正規公務員」問題

お茶の水女子大学名誉教授の戒能民江氏からは、婦人相談員の現状と非正規問題の講演がありました。婦人相談員と言われて、知っている人はどれくらいいるのでしょう?現在婦人相談員として働く女性は、全国に1500人ほど。その発端は1956年に制定された売春防止法に法的根拠を持つ、婦人保護事業の1機関だそうです。

驚いたのは、最初から「非常勤」が規定されていることです。「社会的信望があり、職務を行う熱意と識見を持っている者のうちから」委託するとうたわれているのです。だから、サービスは「行政行為」であるが「活動」であって、「業務」ではないのです。言葉ってちゃんと使い分けられているのですね。報酬も「給与」ではなく「手当」です。実は私、退職後、一度だけハローワークの薦めで婦人相談員の募集面接を受けに行ったことがあるのです。面接は、現場の婦人相談員ではなく管理職の正規職員がおこないました。講演を聴いていて、その時の空気感を思い出してしまいました。

利用者と直接対峙する相談員は、ナーバスな問題を扱うため傾聴力も決断力も必要な職業ですが、専門職として認められていません。一方で、やりがいを感じている方は、なんと8割を超えるのです。勤続年数は、「0-3年」が4割以上、5年以上は4割と勤続年数の両極化も見られます。待遇をとるか/ステイタスをとるか、そこが「活動」と言われる所以です。

婦人相談員が支援する対象は、DVやストーカーの被害女性、生活支援、子育て支援など複雑化多様化しています。にもかかわらず仕事の評価は低く、雇い止めもあり、研修の機会もなく…と、聞いていると、図書館で働く非正規職員と同じような状況にあるのだなあと感じました。自活できる労働条件を確保することは、対象サービスの質の向上にもつながるのですが、「やりがいがあるからこそ、労働者性を認識しにくい形になっている」との戒能氏の言葉でした。

現在、全国婦人相談員連絡協議会では、厚生労働省に対して、売春防止法の見直しや、DV防止法を含めた法制度の整備と、専門職化や待遇改善を求めて「困難な問題を抱える女性への支援の在り方に関する検討会」へ意見書を提出しているとのことでした。詳細は、平成31年厚生労働省子ども家庭局の「婦人保護事業について」(注2)を参照ください。

公務の間接差別の状況と会計年度任用職員制度の問題点

公益財団法人地方自治総合研究所の上林陽治氏からは、現在の非正規採用の状況と会計年度任用職員制度が説明されました(詳細は、第64回コラムを参照ください 注1)。

追加して、会計年度任用職員制度の問題点の指摘からは、同一労働同一賃金と同一価値労働同一賃金の違いが示されました。隣で聴いていた友人から、今までは司書資格を持っている人と持っていない人では、若干でも賃金格差があったのに、「同じ仕事をしているから」と、その差は撤廃された話を耳打ちされました。同一労働同一賃金を、そんなふうに飛躍して解釈すれば、資格の有無を問わない条件が成り立つわけです。

司書に限らず非正規で働くほかの業種の方々も、専門的な技術力をもって働いています。賃金反映に本当に必要なのは職務評価に伴う同一価値労働同一賃金なのですが、その評価目標を明記するのがなかなか難しいのです。

現場から見た女性非正規問題-女性関連施設・直接雇用の経験から

埼玉県下の女性関連施設で働く非常勤職員の瀬山紀子氏から、現場の状況説明がありました。会計年度任用職員制度は処遇改善につながるのか?彼女の働く女性関連施設では、制度の適用について説明があり、確かに今まで支給されなかったボーナスは支給されるけれど、毎月の給与が3万円程度減らされて、実質的には3~4%のアップにしかならないとのこと。会場は一瞬どよめきました。月々の給与を大幅に減らされたのでは、そちらのほうが死活問題です。「10月から消費税が10%になるし、月々は手取りが減るなら実質ダウンじゃない!」とこれまた隣で聴いていた友人は憤慨していました。わずかばかり年収は上がるかもしれないけど、格差の解消にはならないようです。

ハローワークの就職支援-今現場でおきていること

ハローワークで働く非正規就労相談員の山岸薫氏からは、ハローワークでの現場の厳しい状況が報告されました。

キャリアコンサルタントという資格があります。私も取得しましたが、この資格はハローワーク担当者の技術力をあげるための資格と言っても過言ではありません。そんな資格を取得しても3年に1度の「公募」があり、雇用打ち切りのリスクといつも背中合わせ。雇い止めの評価基準もないといいます。全国の相談員からは、「旦那さんがいるから雇い止め」という声もあったとか。仕事の力量や住民サービスの視点が感じられない一方で、女性のほうも自分自身を低くみる傾向があるとのこと。シンポジウムのタイトルに<女性>とつけた所以でもあるのかなあと思いました。

図書館業務委託現場でなにが起きているのか?その問題点

図書館現場からは、元NPO法人「げんきな図書館」理事長の渡辺百合子氏から図書館現場の報告がありました。渡辺氏は、以前は区の職員でした。23区で委託・指定管理が進行するならそこに身を置こうと退職した方です。 しかし、「げんきな図書館」は 13年間続けた図書館業務から 2017年3月に撤退しました。低価格競争が進み、小規模業者では安定的運営ができない金額に達しているとのこと。このまま進んでいくと地域に根差した図書館運営をしているNPOが立ち行かなくなるのではないか。行政が安さを求めると、結果的に大手業者に集約されていき、全国一律標準モデルになること、そこで働く図書館員が疲弊していくことを危惧されていました。

会場には240人という多くの方が参加していました。でも、私が一番ショックだったのは、婦人相談員やハローワークの話でもなく、会場に若い方がいなかったこと。多くは非正規雇用を体験してきたリタイアされた方など、かなり年配の方が多かったのです。

現状を身近に捉え真摯に向き合わなければいけないはずの対人援助職の若い方々は、「非正規があたり前」という状況になっていて、既にあきらめているのでしょうか?政治活動の一環と評価され、仕事に差し支えると判断したとも考えられます。

図書館に勤める方は日曜日では休みがとりにくいといった事情もあるのかとも考えられます。でも、学校司書は?と考えていたら、「扶養控除の範囲で働く」という女性の積極的な選択肢も一方であるのです。この問題は図書館だけではなく、非正規公務という枠の中の問題でもなく、さらに委託や指定管理の問題でもなく、もっと広い問題であり、女性の自立は女性だけの問題ではないことを改めて感じた1日でした。

後日、友人がこんな感想を寄せてくれました。

「若い人にとっての非正規って、普通なのかもしれません。正社員になることが‘特別’にも思えた氷河期世代です。正規に非ずという考え方ではなくて、フルタイムで会社が保障してくれる世の中ではなくなっていると思っています。うまく言えませんが、選択の余地がなく、立場によって上下関係(階層)があること、雇用条件の悪さ、あまりにも短期雇用で人生設計ができないとか、単純に非正規=悪ではなく、非正規=どうなってもいい、ということに問題があるのかなと思います。」

非正規雇用は、雇い止めにより人生設計ができなくて、頑張る方向が見つからないことが一番の問題だと私は思うのですが、皆さんは如何ですか?

私たちの時代も決して恵まれた環境ではありませんでしたが、私が考えている以上に厳しい状況を突き付けられた想いでした。若い方々が未来を感じる社会になってほしいと切に願っています。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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