地域と図書館と出版社のコラボ:本気BOOKフェス2019
図書館つれづれ [第69回]
2020年2月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

2019年の秋晴れの日、千葉県佐倉市立志津図書館前の萌の広場で開催された「本気BOOKフェス2019(注1)」に行ってきました。本気BOOKフェスは、志津という地域を舞台に様々な切り口から本の魅力を実感、再発見してもらおうという、本を通した地域交流イベントです。2回目の今年は「スローライフ」をテーマに、図書館と書店が協力し,18の出版社と県立佐倉高校文芸部も加わって,フードの出店やコンサートなど賑やかなイベントが繰り広げられました。今回は、地域と図書館と書店(出版社)がコラボしたイベントの紹介です。

本気BOOKフェス実行委員会

京成線志津駅に隣接するステーションビルにある書店「ときわ書房志津ステーションビル店(以下、「ときわ書房」)」は、駅前とあって図書館職員も個人的によく利用します。ときわ書房の日野剛広店長はとても気さくな、地域のネットワークも広い、兄貴分肌の方です。図書館と出版社の間では「図書館の無償貸出」について何かと話題になりますが、決して対立するだけではありません。本を介して一緒にやれることがあるのではないかと、志津図書館では数年前から書店とのコラボを試行錯誤していました。

宇津木麻里氏は、2017年4月に、武家屋敷などの文化財施設を管理・運営する文化課から図書館へ異動してきた一般事務職の若いエネルギッシュな方です。それまでの彼女は、図書館をあまり利用してもこなかったし、利用する必要性も感じてなかったといいます。図書館職員との温度差に戸惑いながらも、自分がそうだったように、「今まで図書館を利用していない人が、それぞれの動機から図書館に足を運んでくれたら嬉しい」と、<ライブラリー×ラボラトリ>と題したコラボによるイベント企画を提案しました。文化課は利用促進や普及啓発のためにイベントをおこなうから、イベントは彼女の十八番。でも、突然の提案に、図書館職員は当初、かなり面食らったのではないでしょうか?予算をやりくりしながら実施していた<ライブラリー×ラボラトリ>に、2018年から予算もつきました。そこで、ときわ書房の日野店長、地元で一箱古本市を定期的に開催しているブックリンサクラの河村淳司氏、そのほか有志の方と、「本気BOOKフェス実行委員会」を立ち上げました。

2018年の本気BOOKフェスは、一箱古本市、ブックトーク、ハワイアンシンガー・うすいなおこさんによる音楽ライブなどが開催されました。

そして今回は、地元のお店や県外の出版社も巻き込んでの企画が始まりました。今回のテーマは、「本を読む、ゆったりとした時間」ということで、「スローライフ」にしました。青空の下に野外図書館を設置し、音楽家がBGMを演奏する中で読書を存分に楽しんでもらい、出版社も出展して選りすぐりの本を紹介して販売。もちろん食べ物や飲み物の出店もあります。話を聞いただけでも、様々な困難な課題が浮かびます。自治体からは、「どうして図書館が実行委員会の一員になる必要があるのか」なんて、真っ先に言われそうです。出版社業界は、ますます効率化を求められている中、利益の見込み薄のイベントに参加してくれるのか? 食べ物屋さんが出店するということは、個人営業だとお店を休んでまでイベントに参加することになります。それって本当にできるの? できない理由を並べたら、山ほど出てきそうです。それでも、それを、図書館と日野店長が仲介役になり、担当してくださる皆さんにつなぎ、一つずつクリアして実現しました。部誌の定期発行など積極的に部活動している佐倉高校文芸部に声掛けしたところ、出店参加に手を挙げてくれたのは、本当に嬉しかったそうです。

当日の本気BOOKフェス

当日は、まさに秋晴れ。「スローライフ」をテーマに11時から17時まで、大きく5つのメニューが用意されました。

1)読む

野外のツリー図書館が、この日限定で開館しました。木の下なのに、なぜか木陰にはならずに職員の方は汗だくに奮闘していました。夕方の16時からは、以前図書館内で開催した宮内優里氏のBGM演奏会が好評だったため、今回は初めて宮内氏による野外での音楽会を試みました。夕日を浴びながら本を読むも良し、おしゃべりも良し、心地よい空間でした。

2)出会う

気鋭の出版社18社が出店しました。もちろん初の試みです。本を作った出版社さんとの会話を楽しみながら本を選ぶなんて、普段は経験できないことで、皆さん楽しそうに選んでいました。佐倉高校の皆さんが急きょ書き下ろした小冊子は、なんと90部売れたそうです。

図書館のロビーで開催されたビブリオバトルは、体験会・マンガの部・一般書の部と3回行われました。普段は会議室で月に一度活動する「志津ビブリオ」の皆さんが全面協力しました。予想に反し50人近くの方が毎回参加してくれて、椅子を足す嬉しい誤算もありました。

3)食べる

地産地消の味を味わってほしいと、キッチンカーやカフェやパン屋に飲食店が美味しい食べ物を提供してくれました。友人は、テーブルの食べ物と本屋さんとの間を行ったり来たり。外で食べるのって、子どものようにはしゃげるから不思議です。

4)動く

ヨガインストラクターのKASUMI氏の指導のもと、広場の木の下で、午前と午後にヨガ体験もありました。私は午前の部に参加したのですが、初心者でもゆっくりと身体を動かせて、秋の空と一体化してリラックスした時間を愉しみました。KAZUMI氏も野外ヨガは初めての試みだったそうです。

5)見る・作る

志津地区で活動している「ティエラアスール・こども造形アトリエ」の作品展「本のアート展」を10日ほど前から図書館内で実施。当日は、子どもたちによるツリー図書館をテーマにしたアートショップや糸つむぎワークショップがおこなわれました。子どもたちがシャボン玉で楽しそうに遊ぶ姿は広場でたくさん見かけました。

本気BOOKフェスの原動力

1日イベントに参加してみて、企業やお店は採算がとれているのか?やはり最初の疑問がふつふつと沸いてきました。そして、何人かに声をかけてみました。

出店した出版社の方は、「売上は正直見合う金額ではない」と本音を聞かせてくれました。それでも参加したのは、日野店長とのつながりが大きかったこと。図書館と一緒にやれること。そして、純粋にもっと本を紹介したい。お客さんと直に接して話が聞きたい。なにより自分自身が楽しいからと話してくれました。

千葉から参加したカフェの方は、普段の土曜日は営業しています。お店を閉めてまで出店したのは、やはり声をかけてくださった人とのつながりが一番だったそうです。そして、新しい出会いを愉しみ、イベント自体を一緒に楽しんでいました。

「志津ビブリオ」の及川氏は、もともと志津育ち。就職後15年ほど川崎に住んでいました。ビブリオバトルは、友人に誘われて、SF文学振興会が日比谷図書文化館で定期開催しているビブリオバトルに参加したのがきっかけです。そんな及川氏は、震災の年に志津に戻ってきました。川崎との文化的環境の違いに戸惑っていたとき、2018年12月に志津図書館で開催されたビブリオバトルに参加した後、地域でビブリオバトルをはじめとする本を通じたコミュニケーションの場を創りたいと数人に声をかけ、「志津ビブリ」を立ち上げました。仲間と月に一度開催するビブリオバトルは、バトルというより「ビブリオトーク」の大切な時間になっているそうです。「ビブリオバトルを知らない人のために資料を用意したほうがいいかも」と、前日はパワポつくりで徹夜したそうです。

後日談ですが、BOOK フェスに出店した出版社の仲介で、佐倉高校文芸部では課外活動の一環で製本講座が実現するようです。イベントは打ち上げたら終わりではなく、あくまできっかけ。次から次へと人のつながりへと広がっていきます。BOOKフェスの原動力は、人のつながりだと確信しました。

図書館が「コラボする」ということ

イベントの主催や責任者はもちろん図書館。でも主体は、市民であり地域の方々です。皆さんに足を運んでもらうために、企画段階から図書館の都合だけを考えずに、さまざまな立場からの多様な意見にできる範囲で耳を傾けるよう心がけています。職員不足と慢性的予算不足の中、職員の意識も一枚岩とは言い切れないかもしれません。ボランティアに対しても、単なる無償ボランティアを求めていると思われては本末転倒です。真意をくみ取っていただき誤解を生まないように伝えるのは、<コミュニケーション能力>が必要です。「人と話すのが苦手だから司書になった」なんて、もはや遠い過去の話です。

さらに、いろいろな立ち位置の方がさまざまな思惑で関わるから、目的を共有するのは大変なのです。今回のイベントも、書店や出版社は「本」に力点があるけれど、図書館からみれば出店はあくまで触媒で地域をどうやって繋ぐかが課題です。意見の一致はなくても、やる意味を主催者である行政(図書館員)が、連絡や調整をしながら着地点を見い出していきました。

今回も多くの方が集まって楽しんだイベントですが、継続開催するためには幾つか不安要素があります。ハブ役で貢献してくれた日野店長は、いつまで志津にいられるか保証はありません。来年度の図書館予算は縮小見込み。職員も異動したらという懸念もあります。実行委員会にもっと地域の方を巻き込まなくてはという課題もあります。

それでも、やる意味があるのは、なにより参加した皆さんが楽しみ、主催者や協力者や利用者が出会うことで、図書館のイメージをくつがえす化学的変化を期待しているからです。まちが活性化することは市民も望んでいること。地域が直面する課題解決の糸口に図書館が活用できる場であることを伝えていきたい。そんな想いが動かしています。

イベントの終了は、次への始まり。同じことを同じように続けていくのではなく、進化しながら続けていく。 年一回の単発イベントに見えるかもしれないけれど、実は大事なことなんだと思います。さて、来年はどんな進化を遂げているのか楽しみです。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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