「図書館の未来を拓くスキル」ウェビナーからの報告
第2回「ヒト・モノ・コトをむすぶ場づくりの実践」

図書館つれづれ [第77回]
2020年10月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

前回のコラム(第76回)で紹介した未来の図書館研究所(注1)主催のウェビナー「図書館の未来を拓くスキル」第2回目のテーマは、「ヒト・モノ・コトをむすぶ場づくりの実践」。講師は前回と同じく図書館と地域をむすぶ協議会の太田剛氏。太田氏のオンライン環境はさらにパワーアップし、モニターは合計4台に。太田氏の自宅の回線が一瞬ダウンしてパソコン再起動のハプニングもありましたが、今回もワークショップを交えながらの充実した時間の報告です。

研修内容

1) 図書館が個人知と世界知をむすぶ

図書館での新型コロナ感染症の対応は、地域によって随分差が出ています。それは、首長の決断力、情報力、そして地域のレジリエンスがいかに発揮できたかの差だといいます。「図書館はどんなとこ?」の問いに、図書館の定義は図書館法第2条を根拠にします。その中でも太田氏が重視しているのは、「本を借りるところ」ではなく、「教養・調査研究・レクリエーション」へ関与する部分です。

地域には必ず神社があります。太田氏が図書館に関わるとき、必ずその地域の神社にお参りし、どの神を祭っているのか探ります。神社は、長い歴史の中の権力闘争や明治維新、市町村合併など様々な試練を乗り越え生き抜いてきた、その町の成り立ちを教えてくれる「まちの歴史」そのものといいます。

私たちは、それぞれに興味・関心が違います。それが個人知です。個人知は、コミュニティが生成される家庭・学校・会社・地域の中で共同知を育んでいきます。古来より人はコミュニティの情報(共有知)を共有し、世界知と個人知をつないできました。地元の祭りは、図書館の蔵書点検と同じように、地域の物語(=アーカイブ)を再生し、メンテナンスし、再インストールしているとの解釈には説得力がありました。

ところが、近代化が進むと供に、共同知が失われていく中で、インターネットが登場し、個人知が世界知と直接向き合わざるを得なくなりました。これでは、個人知にしがみつき、引きこもりやニートになって自己防衛するしかない。図書館は、個人知と世界知をむすぶ共同知を育み、物語を編み、事を起こす場所だといいます。それなのに、図書館はNDC分類規則のもと、どこに行っても同じ棚の配置です。太田氏は、「これでいいの?」と疑問を投げかけます。検索はシステムに任せて、編集工学を使い、個人知と世界知をつなぐその町に寄り添った共同知の棚づくりの話になりました。

図書館の場所づくりを実現するために、編集工学は2つの心得を提供します。1つは、「関係の発見」。もう1つは「方法の冒険」です。個人知と共同知と世界知は、それぞれ三角錐のコーンのような情報環境構造で示されます。

3つのコーンを横断する方法が編集です。コーンは上に行くほど隙間があり、この隙間を埋めるのがコミュニティを生み出す力です。

即ち、自発的意思の力と編集力を発揮しながら3つのコーンをつないでいくのが編集力で、それはまさに、人とのつながり、人と人をつないでいくことです。

2)編集のコツ:コンパイルからエディットへ

世の中のあらゆる事象にアプローチする編集的方法は2種類あります。コンパイル(編纂)は、客観的な正しい定義に基づく編集方法で、図書館の棚に例えると、NDC分類による棚です。もう一つのエディット(編集)は、コンパイルからさらに、自分の経験や教養でイメージを膨らませた解釈を加えた編集方法をいいます。エディットは司書の力でひと工夫したそのまちの共同知の棚といった感じでしょうか。この2つを使い分けて相手が求めているものを提供する編集力は、図書館のカウンターでも求められる力です。編集には、“=”ではないエディットのとりわけ“もどき”の感覚が大事とのことでした。

3)Zoomのブレークアウトルーム「おかしな私、たくさんの私」と編集の3要素(機能・要素・属性)

参加者がグループに分かれて、ちょっとだけZoomのブレークアウトルームも体験しました。「おかしな私、たくさんの私」というテーマで、自分をお菓子に例えてひとり1分ずつ話しました。

まず、自分が知っているお菓子を頭に浮かべ、そのお菓子の形や味や特徴などを分析し、そのイメージを連想してリスト化します。同様に、自分の体形や性格や立場などをリスト化し、自分のイメージと合いそうなお菓子を一つ仮留めします。そのとき自分に合わない部分はひとまず置いといて、自分に合う部分に注目し、機能・特性・要素などの情報と関連付けていきます。仮留めの自己に無理が出てきたら捨てればよいだけのこと。これが編集力です。普段からどれくらい対象物(お菓子)を見て、多くの情報を得ているか、知っているか(これが教養)であり、その情報を豊富にするために読書は必要なのですね。

「卵」のキーワードを例に、編集の再構築の話もありました。ものごとを3つ(機能・要素・属性)に細分化して意味のネットワークをつなげていきます。そうすると、下のほうのレイヤーでどこかがひっくり返ることがあって、そこが編集の再構築の突破口になるのだそうです。それが図書館の棚にも活かせるといいます。ものごとを3つに分ける連想癖をつけていると、世の中のあらゆる事象を、連想・類推・推論していくことができ、新たなアウトプットにつながるのです。だから“もどき”なのですね。

ウェビナー後の懇親会

Web飲み会も初体験でした。ここで話題になったのは、本の物流です。書籍は雑誌の売上げに支えられて全国津々浦々の書店に配達されていました。ところが、雑誌が売れなくなると物流を支えるのが困難になり、さらにインターネットの普及により、書店が次々となくなっています。地方の書店は教科書も扱っているので、教科書の物流にも影響が出ているのです。理想は、図書館がその地域の教科書も取り扱えるようになるのが一番ですが、教科書は利益率が低いうえに利権が絡んでいて一筋縄ではいかないようです。本には必ず流通が伴います。岩波書店は買い取りが基本なので地方では手に入りにくいこと、本を発注して実際に手に入るのは約6〜7割程度ということなども話題になりました。図書館関係者に、もっと物流を学んでほしいとの要望もありました。

第2回研修を終えて

後日、「図書館」をコンパイルとエディットで説明する宿題が出ました。文字数制限がなかったので、1ページにも及ぶ力作の図書館像が勢ぞろいしました。皆さんが考える図書館のコンパイルとエディットはどんなイメージですか?

「図書館」を3要素(機能・属性・要素)で分析する宿題も出ました。もちろん正解はありません。よかったら一緒に考えてみてください。細分化した下のレイヤーで、それぞれが重なるキーワードに注目して再構築をしていきます。二人の参加者の、分析の経過図と、キーワードが交わる個所に注目した図が、プロセスのイメージがわかりやすかったので、本人たちの了承を得て紹介します。

同じ講義を聴いていた図書館で働く友人の感想は、解釈の切り口が微妙に違いました。個人知が違うから当たり前なのですが、編集のポイントの一つに思えたので、紹介します。

「コンパイル」「エディット」について

公務職場の中では、市民から「お役所仕事」と批判を受ける場面が多々あります。公共性には一定のルールが必要なわけで、誰か一人を優遇するわけにもいかず、批判は甘んじて受けつつも折れることができなかったりもします。これを、私も含め周囲の雰囲気は、「お役所仕事と言われても、お役所だから仕方ないよねえ」という感じでした。でも、「コンパイルが必要なところでエディットで臨むと「ふざけている」と言われ、エディットが必要な場面にコンパイルで臨むと「お役所仕事」と言われる」は実際に言われた場面を振り返って腑に落ちるものでした。エディットの感覚で臨むには、対象への興味・関心が不可欠となります。普段、市民と向き合っているつもりでも、まだまだ自分は無関心で、多くのことを流してしまっていたなあと反省しました。

ブレークアウトルーム「おかしな私、たくさんの私」と、「卵」の話について

私たち司書にとって、関連付けの対象となるのが「人」や「地域」と「本」。普段からいかに人や地域を見ているかが大変重要だと改めて思いました。資格の有無にかかわらず、毎年本庁から何人かが異動してきます。本の知識や図書館学についての知識を持っていることが少なくても、「自治体の情報」を持つ彼らは、やはり図書館にとって必要な人材であると普段から本人たちに伝えていますが、今回のお話を材料にしたら、もっと説得力を持って伝えることができるのではないかと考えました。

どうですか?やはり図書館職員の感想は深いですね。いくら研修(input)を受けても行動(output)に移さなければ何も変わりません。最後に、研修の締めの言葉「そのひと手間を惜しまない」をお伝えして終わります。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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