「みんなで学ぼう!学校司書講座2020オンライン研修」からの報告
「学校図書館の検索のイマ!」

図書館つれづれ [第79回]
2020年12月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

カーリルが学校図書館に対して、「COVID-19:学校向け蔵書検索サービス(注1)」を始めたのは、本コラム75回でも少し紹介しました。その実態がどうなっているのか知りたくて、2020年8月1日に開催された「学校図書館の検索のイマ!」と題した東京学芸大学附属学校司書部会と附属図書館共催のオンライン研修に参加しました。今回は、カーリルの吉本龍司氏を講師に、東京学芸大学附属図書館の高橋菜奈子氏を総合司会とし、東京学芸大学附属世田谷中学校司書の村上恭子氏を聴き手にした、学校図書館の研修報告です。

カーリル学校支援プログラムの紹介

カーリルの学校図書館支援プログラムは、現行のWebOPACに対抗する意図で開発されたものではありません。きっかけは、4月の緊急事態宣言後の公共図書館でのCOVID-19による影響調査でした(ちなみに、この調査はのちにsaveMLAKに移行し、カレントアウェアネスでも報告されました(注2))。カーリルでは、検索サービスは最低限提供されるべきと、Web上での蔵書検索を停止した公共図書館のバックアップをしました。

COVID-19で96%の公共図書館がcloseした中、カーリルでの蔵書検索の利用は60%減にとどまりました。みんな、図書館へ行って本を読めないのに検索はしていたのです。

その後、文部科学省から、休館した学校図書館の取り組み事例として「電話とFAXで受け付けて郵送等による配達貸し出し」が発表されました。この対応を支援すべく、これまでの技術を応用して、検索サービスの無償提供を開始したのです。現在、当日の数字で、申し込みベースで225、実際は200の学校で利用されているとのことでした。

カーリルが支援するシステムのコンセプトの幾つかを記すと、

動かして迅速な展開をすること

打ち合わせ(コミュニケーション)は除外し、数をこなし、動かしながら設計・展開しています。

データのある程度の均質化

元データはバラバラですが、自由なデータ形式(CSV/エクセル)で受け入れます。書誌は最低限ISBNがあれば作ることができます。システム未導入の図書館にはバーコードリーダーを貸し出し、蔵書の ISBN を読み取りエクセルファイルを作成し、検索サイト名と説明をまとめて送れば、最短1日ぐらいで検索サイトが完成します。

予約やレファレンス票が欲しければGoogleフォームを利用し、Googleアカウントで認証したければGoogleログイン連携をし、動かしながらみんなが協力しあった柔軟なサービスは、まさにレジリエンスそのものでした。

公共図書館のWebOPACを家で利用するのは当たり前と思っていますが、その「当たり前」に学校図書館の方の反応には大きな違いがありました。

村上氏は、子どもたちが家から自分のスマホやPCで好きな時に検索できる良さを、なぜ今まで学校図書館では考えなかったのだろうと衝撃を受けたそうです。そこで、日ごろから学校図書館の活用を一緒に考えている国語の先生と、家から検索ができるようになった良さを活かした課題を一緒に考えてみました。子どもたちからは、今までの「自分が興味ある本の分類を調べる」などの学校内での使い方とは明らかに異なる、「検索で何をチェックしたか、OPACの良さ、棚の良さ、どの言葉が有効か、検索方法」など、より深いレポートがあがってきたのです。そのほかに、小学校では保護者に貸し出したり、小中学校の先生が検索に使うなど、色々なアプローチがあったそうです。

連携によってできること

今回の支援プログラムは、カーリルのUnitrad APIというインフラを使用しているため、地域の学校との連携だけでなく、公共図書館や県立図書館、青空文庫のような電子書籍に、レファレンス協同データベースへの横断検索も可能にしました。例えば、同じ自治体の学校であれば、相互貸借のための検索サイトを立ち上げることもできます。青空文庫も国立国会図書館のNDLサーチに既に登録されているので、横断検索で検索は可能になります。凄い時代になりましたね。

次の段階の課題にあがるのが、連携することの合意形成です。吉本氏は、「あることをしらない」と「あるのはわかるけどアクセスできない」は違うと言います。「Web上に公開しているのだから、敢えて承諾を取る必要はない。承諾を取っていると先に進まない。」と、“公開≒合意”と解釈して、連携して既成事実をつくり、勝手に使ってもよい雰囲気をつくるのが連携のコツと語りました。ここで、「学校がWeb公開していない場合は問題あるけど、公開していれば問題なし」との意見がある一方で、「小中学校の蔵書は備品扱いだから公開しても良いのか?」という意見がありました。それに対し、学校名と明確に紐づけせずに、小中学校ごとに蔵書検索する総合サイトも一案との意見が出ました。また、「青空文庫を一緒に検索すると自館の本と間違ってしまうリスクがある」、「横断検索の対象を広めるとノイズが多くなる」などの意見もありました。

カーリルが提供したデモシステムを使ってみた国際中等教育学校の感想は、次のようなものでした。

  • 7月から実施。生徒からは自宅から検索と予約できるので大好評。帰国生が多いので、言語項目で検索し(例えば「韓国語」と入力すると一覧で表示される)予約ができるようにしてもらったことで、帰国生には特に歓迎されている。
  • Googleフォームで予約だけでなく、レファレンスも受け付けられるようになった。ただ、デモ版の検索画面では「自館のみ」と表示されているので、検索して表示された本が所蔵している本か青空文庫なのかはクリックして開くまでわからず、生徒は少し混乱するかもしれない。しかし学校によって活用は違うし、青空文庫も含むかどうかは運用次第。

県立図書館との横断検索についても、「最初はノイズのクレームがあったけど、使い方がわかってくると相互貸借が増えた」という意見もあり、更に、相互貸借があるということは、必要な本が買えていなかったということで、蔵書予算を増やすのにも一役買ったそうです。

「これしかない」から発想を変えてみる連携は、広げ過ぎるとノイズも多いですが、俯瞰的に見えることで利用者が賢くなり、どう対応するか新しい動きにつながります。連携でできることは、各々の試行錯誤から生まれます。

検索需要の危機

Googleが世に出るまでは、ツリーのように段々と絞っていく検索方法が主流でした。Googleが登場しフリーワード検索ができるようになり、「リンク数が多いサイトは重要」というアルゴリズムが主流になりました。ところが、最近は、検索すらしない若者が増えているそうです。アマゾンのレコメンドサービスもそうですが、便利になって信頼した瞬間に、自分で考えることをやめてしまうのです。検索しなくてもFacebookのように流れてきた情報で満足する利用者もいます。「年齢の高い人ほどGoogleしか利用しない」には、思わず苦笑しました。

一方で、YouTubeのように、ユーザーの意志でアプリ内検索の利用は増えています。ユーザーは達成感を感じないと検索しないとのこと。吉本氏が、「カーリルは便利と言われると、Googleと同じ運命をたどるのでは?」と危機感を持っていたのは意外でした。ロングテールの問題やスマホでは見える件数が少ないだけなのに、検索されたと信じ込む刷り込みや、出てきたもので間に合わせてしまう課題の話も出ました。

学校図書館の最適な検索とは

昔の図書館システムは半角カナでしか検索できず、私たちも様々な工夫をしていました。例えば、「船橋」を「フナバシ」と読むのか「フナハシ」と読むのかで検索結果が違ってきます。長音も一つではありません。ノイズは多くなりますが、確実に検索するために、濁点や半濁点や長音を無視した検索も一つの方法で、私は、「バーバパパ」は半角カナの「ハハハ」で検索できるから、「バーバパパ仕様」と呼んでいました。この仕様だと、半角カナの「ハリ」で検索すると「バリ」も「パリ」も同じようにヒットしてしまいます。

今回ISBNで抽出した書誌データにはカナが含まれていませんが、日本語形態素解析エンジンでカナは自動付与しています。もっとも信頼度は今一つ。記号の除去、漢数字の数値化や空白の除去などもインデックス作成時におこないます。

必要な情報をできるだけ上位に表示する並び順序はとても重要な要素です。所蔵館が多い本や最近買った本は優先順序を上げるなどの工夫をされています。

また、検索しない、キーワードによるブックリストは、目録や選書・廃棄にも役立ちそうです。

統括:検索のイマから明日へ

吉本氏がやりたいのは、「図書館とインターネットの垣根をなくすこと。検索で動く本/棚で動く本を技術で解決できることは解決し、人的資源は実践しながらメリットを知り、実践のレポートや無理な使い方など情報の共有をはかること」。例えば、OPACの検索以外のところでバーチャルな棚を作っても良し(実は私、閉架書庫を動画で見せてはとずっと提案しています)。例えば、手間をかけずに目録リストを作成する。その方法に館種はそれほど変わらないといいます。公共図書館システムの子ども用OPAC不要論も出ました。ほかでも耳にした話ですが、子どもは2回やれば難しい漢字だって覚えるのだそうです。検索の体系化を業者任せにせず自分たちで考えてみたいと、とても前向きな発言もありました。

とりあえず2年と公表したサービスですが。いつまで続けるのか質問がありました。カーリルからは、「2年は、インターネットにつながって、その先の活用を考える検証に必要な時間。なくても良くなればなくなる。コストは変わらない。一気にやったから投資もできた。今後は一緒に考えていきたい。」との返答がありました。

オンライン研修を受講して

研修の冒頭で、「どんなOPACをつくるかみんなに相談する会」と目的を明記していたように、より良い方向へ導いていくための多くの意見を聴くことができました。

学校図書館と一口に言っても実は大きな格差があります。友人である山本みづほ氏の著書『蛾のおっさんと知る衝撃の学校図書館格差』には、自治体によって信じられないような教育格差が紹介されています。今回の司会者や聞き手は、いわゆる自治体の小中学校の職員ではありません。教育格差は、更に広がっていくのではと懸念する私に、村上氏がこんな返信をくれました。

「今回もかなりの公立小中の司書さんたちが参加してくださっています。私は、私立の比較的裕福な学校だけでなく、公立学校でも、横断検索ができて電子の総合目録を選書や除籍に活かせるなら、資格や経験のない人ではなく、専門性を大事にして人を置いてくれないかと、望みをいただいています。」

学校と公共、市立と私立、どんな垣根もなくしていけるような工夫をみんなで考えていかなければいけませんね。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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