ミライon図書館と大津町立おおづ図書館
図書館つれづれ [第83回]
2021年4月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

2020年の12月、長崎空港から熊本空港まで、天草の世界遺産を旅しながら図書館見学をしてきました。訪れた図書館の中から、今回は、大村市にある長崎県と大村市が共同で運営しているミライon図書館と、熊本県大津町立おおづ図書館を紹介します。

1. ミライon図書館(注1)

長崎空港からミライon図書館へ向かうと、急きょランチをご一緒することになった鹿取久美子氏が玄関で出迎えてくれました。(本来「ミライon」は建物を指しますが、以下、便宜上「ミライon図書館」を「ミライon」と記述します。)20数年前から大村市で市民活動をされている方で、ミライonになった後も引き続き活動をされています。その日は、ミライonで暮れに上映予定の映画会のチラシを見せてくれました。

ミライonは、建物全体が大村湾を意識した「湾型」の形状で、「ひとつ屋根」が大らかに包み込む広大な吹き抜け空間で、1階から4階までの各フロアがひな壇状に連なる「段状ライブラリ」といった設計コンセプトを持つ施設です。中に入ると、建物の西側一面が明るい芝生広場に面したメインストリートで、当日は、図書館と長崎県花振興協議会鉢物部会との共催事業で、たくさんのお花が飾られていました。お花は売り物ではありませんでしたが、市場や一坪店舗などとして活用したら面白そうな空間でした。館内の案内図を見てもらうとわかるのですが、この吹き抜け部分は全体の3分の1ほどにも感じられる、ゆったりとしたスペースです。入口は建物の両端に1か所ずつで、コインロッカーはサブエントランス側(メインエントランスとは反対側)にあり、目立たない場所に設置されている自動販売機の案内ともども死角で見逃してしまいました。ひな壇状の「ブックカダン(花壇)」と呼ばれる閲覧空間には、花々を植えるように書架やキャレル、閲覧室が配置されています。各階を横断し独立した動線を持つ管理諸室や閉架書庫のコアは図書館サービスを供給する基地・心臓部として位置づけられ、造船業の歴史が長い長崎という土地柄にちなみ「ブックドック(船渠)」と名付けられています。大村湾のさざ波をイメージしたという模様のカーペットは、言われるまで気付きませんでした。子どもたちのトイレや授乳室は充実していて、こどもしつ(児童書の開架閲覧室)内のトイレは3種類あり、保護者が外で見守ることができる形態のものもありました。

1階は、大村市歴史資料館、200名収容できる多目的ホール、開架4万冊のこどもしつです。こどもしつにしては、棚はちょっと高めに感じました。外観の建物同様に、2階の104席ある学習スペースもゆるやかに湾曲しています。吹き抜けの各所には防火シャッターが備えられています。3階は21万冊の一般資料開架スペースで、車椅子対応の閲覧席も用意されています。県立図書館所蔵の地域資料は長崎市に設置される郷土資料センターに置かれているため、大村市立図書館としての所蔵資料、すなわち大村市の歴史やゆかりのある人物についての資料がミライonにある地域資料になります。現時点での所蔵冊数は、閉架含めて約128万冊です。

本棚は一般書も児童コーナーも間接照明です。こどもしつの間接照明はちょっと出っ張っていて、不注意で頭をぶつけました。濃い目のブラウンがミライonのイメージカラーで、本の案内もブラウンで統一されています。落ち着きはあるものの、見にくい感が残ります。

蔵書予算は県市別々です。長崎県立長崎図書館と大村市立図書館では資料収集方針が異なるため、選書も別々に(とはいえ、複本の発生を回避するなどの調整をしながら)行い、本の装備も変えています。しかし、開架では県市の蔵書は混排されており、利用者は県市の区別を意識することなく利用可能です。貸出窓口の手前のテーマ展示コーナーや闘病記コーナーなど、今話題の棚が工夫されていました。閉架書庫の通路の長さに、国会図書館関西館の閉架書庫を思い出しました。

気になったのは、3階にある窓のない事務室です。利用者に快適な空間を提供するのは良いことですが、働く人にとってはやはり辛いのかなあと思いました。

案内いただいた渡邉斉志館長にお話を伺うことができました。渡邉館長がミライonに着任したのは、建物が竣工した後、開館半年前の2019年4月だそうです。国立国会図書館の方ですが、石狩市民図書館(北海道石狩市)の館長として基礎自治体の図書館の運営にも携わった経験があります。渡邉館長は、ミライon図書館長であると同時に長崎県立長崎図書館長でもあるので、郷土資料センターの開館準備などのためもあり、長崎市にもたびたび足を運んでいるそうです。

ミライonには副館長が二人おり、ひとりは県立図書館副館長、もう一人は大村市立図書館長です。県市一体型図書館を一口で言えば、長崎県と大村市が共同で運営し、それぞれの図書館機能を明確にしながら連携を図り、利用者は県市の区別を意識することなく利用可能な図書館、ということになります。実際にこの1年どんな活動をされてきたのか、数字を拾うと以下のようになります。(数字は2019年度。旧長崎県立長崎図書館が通年開館していた2017年度と対比)

  • 入館者数 1,887人/日 (2017年度比86%増)
  • 課題解決支援サービス講座などのイベント 31回3,064人 (2017年度比454%増)
  • 視察・見学 1,626人
  • マスメディアでの紹介 130回

新たな取り組みとしてはオンラインでレファレンス受理処理を行うためのシステムを構築し、Web経由でのレファレンス質問受付・回答を開始しました。音声拡大読書器の導入、サピエ図書館の会員登録、国立国会図書館視覚障害者等用データ送信サービスへの参加など、視覚障害者向けサービスについては今年度急ピッチで取り組みを進めました。また、県教育庁の事務職員向け研修、司書教諭や学校司書向け研修などへの参画を通して、学校教育との連携を図っています。県教育庁生涯学習課との連携においても、今後さらにミライonが貢献できる部分があるだろうとのことです。危機管理を意識して、公式ツイッターによる情報発信も始めました。県内の大学と連携して、渡邉館長と県立図書館職員が講師になり、学内での情報リテラシー教育への協力にも着手しています。情報リテラシーについて小学校から大学まで学校教育で正確に学べる機関がない今、とても大切なことだと感じました。

渡邉館長は、着任以降、ミライon開館準備や、開館直後の繁忙の合間をぬって、お休みの日は県内の市町を回って市町立図書館の状況を頻繁に見て回っています。県立図書館の職員による日常的な連絡調整・相談業務と併せて、館長どうしでも気軽に情報交換を行えるようになることで、市町立図書館とより一層密な関係を築くことができるとのことです。

いろいろ取り組んできた1年ですが、課題としては、何はなくとも県市の職員の一体感の継続的な確立が最重要です。ミライonの開館を一緒に乗り切ったことで、県立図書館職員と大村市立図書館職員の間の連帯感は大いに深まりましたが、県立図書館の職員は司書採用ではないそうなので、数年で図書館外に異動する場合もあります。人が入れ替わる中で仕事の質を維持・向上させ、同時に県市職員の信頼関係を築き続けることが、ミライon運営の一番のポイントになりそうです。渡邉館長は「県の職員は、1年で担当部署の仕事は全部覚え、2年目で後任に引き継ぎができるよう、覚悟を決めて取り組むこと。そして、県市それぞれの職員がお互いを心から尊重できるような組織風土を維持してゆくこと。そういう気持ちを職員の皆に持ってもらうことが図書館長である自分の役割のひとつ」と言います。数年で異動になる県の職員に対し、サービス面で中心的な役割を担う市の職員は司書職採用。このあたりもバランスを取っているのかなと思いました。

全国どの図書館にとっても認知度の向上は課題ですが、郷土資料センターができた暁には、長崎や大村ならではの地域の魅力を、所蔵資料、そしてミライonや郷土資料センターの施設を使って全国区で発信していきたいと。そのために今は、「楽しく考えよう!」と、職場内に研究会を立ち上げたほか、若手中心に自主ゼミなども行っているのだそうです。

産声をあげて1年。ミライonの成長はこれからです。

2. 熊本県大津町立おおづ図書館(注2)

大津町は、熊本空港から車で15分ほどの菊池郡に属する、昔は宿場町として栄えたまちです。人口3万人ほどの町ですが、1960年代に一時人口減少したものの、1980年代からは熊本市のベッドタウンとして、また本田技研工業熊本製作所の企業城下町として人口が増加しています。大津町に本社を置く企業もあり、国道のバイパス沿いは商業施設で賑わっています。2016年の熊本地震で被害を受け、災害に強いまちづくりを進めています。

図書館の入り口には、大津町の話題と新型コロナウイルス感染症の状況がしっかりと貼られていました。机には、駅の時刻表と一緒にご意見箱。通路では、大津町図書館友の会と図書館が共同運営する本の駅と、菊池市をはじめ近隣の図書館との情報交換が出迎えてくれました。本のリサイクルコーナーはコロナ禍で常設に変更されていました。

大津町の特産品は「からいも」(甘藷・さつまいも)。毎年「からいも」フェスティバルが開催されていますが、2020年は残念ながら中止になりました。図書館のショウウィンドウには、本田技研工業熊本製作所のアイデアコンテストから生まれ、大津町に寄贈された「からいもCub」が飾られています。本物のオートバイで、マフラーの熱で加熱することで、おいしい焼き芋が作れるそうです。

消毒液のすぐそばに、キッチンペーパーのマスクと作り方の案内がありました。こんな細かな配慮が図書館内の随所に見られました。県内には2校の高校があり、県下のほかの学校案内も揃えています。「大津の小さな作家たち」のコーナーは、毎年町内小中学生に絵本や物語を募集して、優秀作品は図書館で製本して貸出をします。もちろん最初に借りられるのは、書いた本人。素敵な取り組みだなあと思いました。それに、絵も文章も本当に素敵なのです。2018年からボードゲームも貸出しています。色々な討議の末に、ゲームは子どもだけでなく、大人も楽しめるということで、貸出に踏み切ったそうです。機械産業の棚は、「HONDAの本棚」とうたわれていて、地元産業にも配慮しています。子どもが喜びそうな「知識の秘密基地」には科学関係の本が並んでいました。

ボランティア活動も活発です。布絵本はボランティアの手づくりです。ボランティアの皆さんが作った牛乳パックの椅子も大活躍でした。

同行した友人が注目したのは、案内のUD(ユニバーサルデザイン)フォントです。新しくできた図書館でもなかなかお目にかからないのだそうです。本を読みづらい方へのコミュニケーション支援ボードも幾つか種類があって充実していました。カウンターへの動線にカーペットを敷いています。騒音がするからとのご意見箱の意見を取り入れての処置だそうです。

私たちを案内してくれたのは、今年4月に学校司書からおおづ図書館に異動になった古澤理恵副館長。大津町には2つの中学校があり、専任の学校司書が各学校にもいます。学校の衛生歯科技師とのコラボで実現したコーナーもありました。今後、学校との連携は増えていきそうです。

閉架書庫には以前イベントで使ったステッカーが貼られていて遊びこころがあり、最後に見せていただいた移動図書館(BM)みらい号は車椅子仕様でした。BMの車椅子仕様を見たのはたぶん初めてです。2020年12月からは電子図書館サービスも始めました。

図書館における利用の実態や満足度を把握し、今後の図書館運営に活かすため、来館者アンケートを実施していて、その結果はホームページで公開されています。

私が「枯れた図書館」と表現したら、怪訝な顔をされましたが、まちの人の意見を取り入れながら長い年月をかけ育んできた、小さなまちの図書館だからこその創意工夫をたくさん感じた図書館でした。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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