天草市立中央図書館と天草市立天草アーカイブズ
図書館つれづれ [第84回]
2021年5月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

天草は不思議な縁でつながりました。2014年の夏に、金子邦彦副市長から「Webコラム読んでます」といきなりFacebookでメッセージをいただいたのです。ちょうど天草市の新しい複合施設構想が始まっていた頃でしょうか。情報収集していて目に留めてくれたのだと思います。それ以来、水産加工の女性起業家や牛深の高校生のハイヤ節などNHKのドキュメントで「天草市」とあると、不思議に反応して見てしまいます。“アマビズ”(注1)の存在もその時知りました。アマビズの正式名称は「天草市起業創業・中小企業支援センター」。名前の通り、起業や創業、自営業のスタートから、すでに事業を営んでおられる方々の、無料相談所(産業支援拠点)で、業種を超えたハブの役目もしています。

2020年12月、長崎県南島原市の口之津港からフェリーで熊本県天草市の鬼池港に渡り、世界文化遺産の崎津(注2)集落や天草コレジヨ館などを見学し、天草市役所にもお邪魔して、天草を堪能してきました。崎津でいただいた杉ようかんは、稲田浩二・前田久子編著『天草河浦町の民話と唄・遊び』手帖舎、1993、「はいや節」に、「名所名物数々あれど 崎津教会世界一 いもん ほしもん 杉ようかん」(p.162)と出てきます。その杉ようかんの復活にも副市長が関与しているとのことでした。後日、同行した友人から、「稲田浩二先生に学生時代習った!」とメールがあり、これまた縁があったのだなあと感じました。

今回は、そんな天草市の天草市立中央図書館と天草市立天草アーカイブズについて紹介します。

天草市立中央図書館(注3)

天草市立中央図書館は、2020年4月に開館した複合施設「ここらす」の中にあります。駐車場の奥の、カラフルな移動図書館(BM)が出迎えてくれました。「ここらす」は旧本渡中学校跡地に立てられました。建物の裏側は、平時には地域の憩いの場として、災害時には避難場所としても機能する芝生広場「おおらかな庭」が広がっています。「へ」の字のような屋根は、天草産の杉と檜の木造りで、懸垂曲線(糸を垂らした形)に近い独特な形状をしており、「ここらす」のマークはこの屋根を表現しています。外の広場を建設現場にして、組み立てたのだそうです。

建物はブーメランのような滑らかな湾曲した形をしています。最近は四角い建物ははやらないのですね。中に入ると、丸尾焼の陶板の案内が足元にありました。丸尾焼は、水瓶・味噌瓶・醤油瓶・蛸壺などを作る天草の瓶屋でしたが、今は食器や日用品の陶器も作る地場産業で、同じ設計事務所が建てた市役所の中にも使われていました。1階は生涯学習課・本渡地区公民館・男女共同参画課・市民活動センター・中央保健福祉センターなどに加え、会議室・音楽室・調理実習室・和室があります。図書館は2階にあり、なだらかな曲線の階段が自然に導いてくれ、階段の上には新型コロナウイルス対策関係の注意が書かれていました。1階は少し天井が低く感じたのですが、2階には吹き抜けの広い空間があり、図書館が2階にあることに納得しました。機械室も2階にあります。

階段を上がって左側が児童コーナーで、書棚が低く全体が見渡せます。おはなしの部屋は、カーテンで仕切れるようになっています。寄贈本コーナーには、30年間毎年寄贈してくださる企業もありました。お酒の本の棚には、館長の飲み干した久保田の空瓶が飾られていて、こんなディスプレイは親近感を覚えます。

照明は、一般書・児童書ともに、間接照明です。棚の案内板は丸尾焼の陶板です。地元の雑誌スポンサーも充実しています。高森敦子館長や福本律子課長補佐自ら声掛けしているのだとか。教科書の棚や職員お薦め本のコーナー、学習席など、さまざまな箇所で、場所に応じた椅子が置いてありました。

天草の歴史資料には、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産に関する子供向けパスファインダー(調べ方案内)も用意されていました。地元のことを伝え残すって大事です。初心者を対象に、地域に眠る古文書の発掘と解読する古文書学習会も、月に一度開催しています。

カウンターの奥にある事務室は閉空間ですが、明り取りの窓がありました。設計の段階から、動線や棚の配置など、司書の皆さんの意見を聞き入れてもらえたそうです。

案内してくださった高森館長と福本課長補佐は、ともに司書です。二人であちこちの図書館を見学するのが趣味だとか。牛深図書館に勤務する吉田悦子氏は、同行した友人が研修先で知り合った方で、崎津でお会いすることができました。後日、前出の本について、都立図書館が所蔵していることも調べてくれました。さすが司書!

副市長も月に5冊の本を読むというこのまちの環境が、新しい図書館をつくりました。副市長は図書館運営のこれからを気にされていました。具体的なお話は聴けませんでしたが、複合施設の利便性を活かした、これからの図書館の伸びしろが楽しみです。

天草市立天草アーカイブズ(注4)

市レベルでアーカイブズを持っているのは珍しいということで、天草市立天草アーカイブズを訪問しました。と言っても、正直私にはよくわからず、アーカイブズに関わる諸々の違いを友人にレクチャーしてもらいました。

まず、刊行物と行政資料(公文書)の違いから。刊行物(図書館でいうところの行政資料)は日の目を見る印刷された役所作成の資料ですが、行政資料(公文書)はそれを作成するために内部で作成・収受される文書も含みます。現用文書とは役場に保管されている文書で、歴史的公文書はアーカイブズに保存されています。

天草市は、本渡市・牛深市・有明町・御所浦町・倉岳町・栖本町・新和町・五和町・天草町・河浦町の2市8町が合併し、2006年3月27日に誕生しました。天草市天草アーカイブズ(以下、アーカイブズ)は天草市の公文書館ですが、市町村合併前の本渡市の時代に設置されていた歴史を持っています。

アーカイブズを案内してくださったのは、今福真澄館長と松野恭子氏。天草市では、歴史的公文書とするかどうかの判断はアーカイブズがおこないます。役所で保存期間が過ぎた公文書等は、基本的にアーカイブズにやってきて、そのあと選別に掛けられます。そうして残ったものが歴史的公文書として、アーカイブズで見ることができます。他にも行政の刊行物(年報、白書、市史など)や、古文書等の地域資料も保管されていました。アーカイブズへの入口がわかりにくかったものの、興味があった友人は食い入るように見ていました。

その後、私たちは市役所に移動し、現用文書の保管書庫も見せていただきました。ここで期限が過ぎた公文書等がアーカイブズで選別され、保存されることになるのだと、帰ってから、やっとつながりを理解した次第です。

普段は、図書館見学にとどまるのですが、今回は、たまたま副市長と知り合ったことで、まちの中での図書館の役割や、役場の公文書との関係なども知ることができました。ビジネス支援でアマビズとも積極的に図書館が関われるようになればいいなあと、個人的に思った天草の旅でした。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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