図書館問題研究会第47回研究集会 in Zoom
図書館つれづれ [第85回]
2021年6月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

図書館問題研究会は、住民の学習権と知る自由を保障する図書館の発展を目指して活動する図書館員、住民、研究者など図書館に関心を持つ人たちによる個人加盟の団体です。2021年2月、午前10時から午後6時半まで、図書館での実践や研究をまとめた第47回研究集会(注1)がZoomで開催され、非会員の私も参加させていただきました。今回は、盛りだくさんの発表なので、エッセンスだけお伝えします。なお、発表はあくまで発表者個人の見解で、所属する団体は関与していません。発表者の支部名や自治体名は省略させていただきました。

発表

質疑含め一人30分、11の発表がありました。

1) パスワードの安全度を高め、図書館システムが変わっても移行できるようにする提案について(米田渉氏)

2019年に出版されたJLA Booklet no.5の『図書館システムのデータ移行問題検討会報告書』に基づいての発表でした。図書館システムはベンダーが違うと、データの持ち方から用語まで大きな違いがあり、移行時のリスクは大きいのです。用語の標準化は、私も少し試みたことがありますが挫折した経験があります。この発表では図書館システムの中で個別に管理されるパスワードを、システム変更時にスムーズに移行するための仕様書案が提示されました。図書館は紙の書籍だけではなく電子書籍も扱い、益々複雑化しています。一方で、最近は図書館システムから撤退するベンダーもいて、今後の図書館システムをどう標準化していけるのか、ベンダーも含めて討議の場が欲しいとの意見には、私も共感しました。

2) 職員問題委員会報告 会計年度任用職員について(清水明美氏)

会計年度任用職員制度が施行されてほぼ1年。働く皆さんにどんな影響が出ているのか、会計年度任用職員制度の条例化(注2)や具体的な数値の報告がありました。館長を会計年度任用職員にという条例や、司書は会計年度職員しか採用しない自治体もあり、司書の皆さんの待遇を思うと胸が痛みました。今まで動きのなかった日本図書館協会(日図協)では、理事長からも要望があり、次年度は中心的なテーマで取り組むとの話も出ました。

3) 滋賀県における有害図書指定と図書館に関する調査報告(天谷真彦氏)

有害図書は、「青少年の健全育成に関する条例」で、図書の内容が「性的感情を刺激するもの」「粗暴性または残虐性を助長するもの」「犯罪または自殺を誘発するおそれのあるもの」に該当する図書で、各県によって条例の違いがあるようです。有害図書は指定解除・指定申請も出せること、かつては通学路に自販機があったなどの話も聞くことができました。図書館として問題視されるのは、大人にも制限をかけるのは閲覧の自由に反するのではという視点です。そもそも指定図書のハガキは図書館に来ているのか、本の保管やOPACでの表示がどうなっているのか、皆さんの図書館ではどんな対応をされているのか、システム上での管理も気になりました。図書館の方は、自分の館の方針を再確認してみては如何でしょう。

4) 図書館における新型コロナウイルス感染症対応ガイドラインとその実践(鬼頭孝佳氏・西田喜一氏)

コロナ禍では、日図協のガイドラインのもと、各図書館で対策が施されています。滞在時間やマスクの着用などについて、科学的根拠の観点と、権利権限の観点から発表がありました。事情があってマスクを着用できない方、レファレンスのやり取りなど、職員が対応に困っている様子がチャットからうかがえました。入館時の体温測定や入館票は、各自治体での考えや部署の横連携でやっているとのこと。補助金で除菌機を導入する図書館が増えています。返却本を72時間保管して貸し出しをしない図書館もあります。最近の研究で接触感染は実は少ないという発表もあり、エビデンスに基づいた対策実施が必要とのことでした。聴いていても、行政組織は難しい…が実感でした。

5) 「コロナ禍でのホームレスの公共図書館利用に関する私的レポート〜支援ボランティアとしての交流をもとに〜」(山口真也氏)

1年間NPOと共に活動し、ホームレスの方々が図書館に何を求め、何をあきらめてきたのかの話は、まさに映画「パブリック 図書館の奇跡」を彷彿とさせる話でした。ホームレスの課題は、高齢者の事情・ニーズと大差がなく、行政の横連携の必要性を感じるし、図書館の「公共性」や「公費での運営の意味」も考えなくてはいけないとの意見が出ました。新型コロナウイルス感染症対策で図書館が閉館したことで、公共性という観点から、図書館のWi-Fiを24時間つけっぱなしにした図書館があります。地方だと、駐車場をWi-Fiスポットにするだけで様々な面で助かる人は多いそうです。成人後の諸事情や失敗からホームレスになった方もいます。一方で、「ホームレスは怖い」という利用者からの意見もあり、ホームレスにも人権や権利があることをどう伝えるか。恐怖を取り除く第一歩は、まさに「知る」ことだとの意見が交わされました。行政における住民サービス全体の問題にも関わっていく課題と感じました。

6) 公立図書館における情報リテラシー支援と地域資料のデジタル化(図書館笑顔プロジェクト)

情報リテラシー支援として、公共図書館では地域資料のデジタル化、学校図書館では図書館情報学のシラバスに加える提案がありました。学校図書館では、情報を教える先生は、数学科の免許を持っている方が多いとのチャットの書き込みがありました。「情報」の科目は大学で実装するべきか、それとも生涯学習として図書館等で実装するべきかの質問に、図書館が両方に対して講座をやる想定で行うことを提案しました。また、所蔵する地域資料・戦前資料のデジタル化を含めた予算取りや優先順位の質問に関しては、バイアスがかからないように対処し、粘り強く意志表明し予算化する努力が必要とのことでした。更に、地域資料のデジタル化は、資料保存・資料防災、事業継続計画の観点からも非常に重要とし、個人のホームページを永代供養のようなサーバで見える化してもらえれば嬉しいなどと、質疑応答が続きました。

7) WikiGapウィキペディア上のジェンダーギャップを埋める活動(田子環氏)

インターネット上の百科事典ウィキペディア(Wikipedia)については、以前当コラム第43回、第48回、第60回でも紹介しました。WikiGap(ウィキギャップ)は、「インターネットの男⼥格差を埋めよう(let's close the internet gender gap)」のスローガンを掲げ、Wikipediaでの⼥性やジェンダーに関する記事の充実を図るためにスウェーデンで始まりました。⽇本のジェンダーギャップは、指数 0が完全不平等、1が完全平等としたとき、2020年の⽇本の総合スコアは0.652、順位は153 カ国中121位、スウェーデンは4位、スコア0.820だったそうです。WikiGapの具体的な活動事例として、2019年3月に開催された神奈川県⽴図書館「ひなまつりWikipedia ⼥性×かながわ」では、豊富な⼥性関連資料を使って、神奈川県にゆかりのある⼥性や、⼥性に関することがらの記事を執筆しました。WikiGap の活動も図書館で広がっていくといいですね。

8) 除籍という保存作業における必要な視点(星野盾氏)

毎年8万冊ほどの新書が生まれる中、棚から古い本を抜き出して新しい本の場所を確保する除籍作業は、図書館の大切な仕事です。では、どんな本を廃棄するのでしょう? 多くの図書館では除籍基準を設けて除籍や廃棄を行っていますが、その基準は図書館によってまちまちです。その地域それぞれで、10年後、50年後に必要かどうか、という視点は、当然、選書や発注時にも必要で、除籍段階までシステム的に引き継がれていきます。多摩地域では、地域で除籍の参考になる本の検索システム「TAMALAS多摩地域公共図書館蔵書確認システム(注3)」が構築されています。過去のベストセラーは社会情勢を映すものとして保存しますが、近隣のどこかが保存すればすむこと。しかし、地域資料は古いからといって廃棄はできません。県レベルで保存するか、ラストワンをどうするか、除籍についてのスキルは、学問的にきちんと成り立っていないし、技術が継承化されていかない現状もあるようです。ちなみに、システムで支援していた内容には、最終貸出年月日や、年度ごとの貸出累積回数などがありました。

9) 脱・20世紀の子ども観(滋賀支部 明定義人氏)

児童サービスは、1970年代には、児童図書館員が子どもたちに読ませたい「良書」が主体で、サービスの対象はいわゆる健常児でした。ところが、世の中が少しずつ変わり、障がいのある人(子)も市民権を得るようになり、子どもの個性が認められるようになりました。「子どもはこうあるべき」と大人の視点から子どもの本を選ぶのではなく、子どもの個性に従って本を選書してはとの意見が述べられました。チャットには、「全ての県立学校の図書館に司書が配置されている神奈川県でも、特別支援学校には配置されていません。話を聞いて、その理由がわかりました。…『マンガの中にも良書主義がある』にも納得しました。」との意見もありました。

10) saveMLAKが実施したCOVID-19の影響による図書館動向調査の分析(子安伸枝氏)

saveMLAK(注4)の取り組みは、当コラム第74回でも紹介しました。今回の発表は、その後の調査結果にグラフも添えての発表でした。皆さんからのチャットには、休館から電子リソースの導入までにはタイムラグがあること、JLAガイドラインの悪影響、Webでの発信が弱いなど、さまざまな意見が寄せられていました。制限付きの開館で苦労していたのは、電話応対だということがよくわかりました。また、「災害時はTwitter発信のほうが、更新されないWebサイトよりはまし」という意見に、「図書館からの情報発信:SNS時代において」のようなブックレットがあればいいとの意見も出ました。一番意外だったのは、休館と感染者数に相関関係がないという点でした。saveMLAKの調査はまだまだ続きます。協力できる方は是非参加してみては。

11) 図書館とインターネット(今井つかさ氏)

「あなたはどんな手段で情報を得ているか?」の問いかけで、旅行に行くとき、レシピを調べるとき、電車に乗るとき、と質問が続きました。多くの人は、本に親和性が高いと感じる一方で、情報を得るプラットフォームはインターネットを頼っているのではないでしょうか。コロナ禍で急速に進展したのがWeb会議システムです。当日の質問では、Web会議で一番多く使われていたのはZoomでした。中には、月に10回以上会議で使用している人もいました。Web会議は、「同じ料理を食べておいしいと言い合うなどの共感ができない、疲れる」などのデメリットがある一方で、「気軽に参加できる、移動時間が節約できる、地方の会議参加へのハードルが下がる」のメリットも注目されました。チャットには、Zoomの絵本講座では著作権的に本の表紙までしか見せることができないなど、現実的な悩みも書かれていました。デジタル格差=経済格差にならない配慮の課題もあがりました。

ちなみに、今回の研究集会の準備は、対面は一度もなく、LINEやZoomにGoogleドキュメントなどの遠隔操作だったそうです。まだ使ったことがない方は、若い方を巻き込んで是非試してみてください。私も、Zoomの投票機能は今回初めて体験しました。

ライトニングトーク

わずか5分の持ち時間でしたが、実のある凝縮された8トークでした。

1) Twitterにおける、図書館員の危険なtweet(新出氏)

図書館が公式に発信しているTwitterでは、利用者を非難するような投稿、「著作権上、撮影禁止」のような不正確な事例が紹介されました。図書館員個人については、個人名を伏せてはいるものの明らかに図書館職員と思われる人物が投稿している、業務に関係のない誹謗・中傷や差別的なtweet、業務に関しての愚痴や不正確なtweet事例を共有し、お互いの注意を喚起しました。

2) Zoomを使った講座開催について(前田竜一氏)

Zoomを実際に使ってみてわかったこと、これからの課題が発表されました。UDトーク(聴覚障がい者とのコミュニケーション支援)との連携やホワイトボード機能は、私も使ったことがありません。まだまだ知らないことが多いですが、使いながら取得していくしかないですね。課題はやはりネットワーク環境やハードの整備とのことでした。

3) 「地域で<本活>~日常とともにある図書館を」(小廣早苗氏)

当コラム第69回(注5)で紹介した千葉県佐倉市立志津図書館の活動について、主催者側の視点からの発表でした。図書館単独でのイベントではなく、常にだれかと共催する試みです。図書館内で生演奏のバックミュージックを試みた話に、「演奏者を観ないコンサート、すごく面白い!」という感想もありました。

4) 当時の図書館は感染症とどう向き合ったのか(番外編)(加藤孔敬氏)

図書館における感染症の対応の変遷を時系列に説明されました。かつては、「図書館には精神病者、伝染性の疾患のあるもの…入館を許さない」という図書館規則があった県立図書館もあったそうな。こういう文書の保存も図書館の役目なのですね。

5) OPACによる蔵書検索サービスの維持(吉本龍司氏)

新型コロナウイルス感染症対策での臨時休館中にWeb-OPACを停止した図書館についてのカーリルの対応については、当コラム第79回(注6)を参照ください。

6) IFLA児童ヤングアダルト図書館分科会の最近の活動について(中島尚子氏)

IFLA(国際図書館連盟)の児童・ヤングアダルトを対象とした図書館サービスについて、日本からも2名の常任委員が参加して活動しているそうです。興味のある方はWebサイト(注7)を参照ください。

7) 新型コロナウイルス感染症関連リンク集の提供について(根本進太郎氏)

図書館のホームページで新型コロナウイルス感染症関連の情報サイトをリンク集にしたいきさつや現在の状況を、わかりやすい変遷表で発表されました。リンク集は、作るよりもメンテナンスが大変です。リンク切れの多発に苦労したとのことでした。

8) 図書館職員による動画作成の実践と課題(青山志織氏)

当コラム第82回(注8)で紹介した塩尻市立図書館の動画作成の経緯について、図書館側からの報告でした。

ということで、駆け足の紹介でしたが、発表は論文化して『図書館評論』に掲載されます。興味ある方は、一読してください。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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