聞き書き甲子園
図書館つれづれ [第92回]
2022年1月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

友人がFacebookで教えてくれた、以前から気になっていた「聞き書き甲子園」。2021年9月、都合のついた友人を誘い、【聞き書き甲子園20周年企画】『「聞く」と「書く」のあいだ展』に行ってきました。今回は聞き書き甲子園の紹介です。

聞き書き甲子園ってなに?

聞き書き甲子園(注1)は、毎年全国から参加する高校生が、日本各地の森・川・海の名人を訪ね、1対1の対話を通して、その知恵・技・生き方を聞き書きし記録するプロジェクトです。農林水産省、文部科学省、環境省、公益社団法人国土緑化推進機構に加え、NPO法人共存の森ネットワーク(以下、NPO 注2)から構成される聞き書き甲子園実行委員会が主催しています。もう20年も前から存在しているなんて、恥ずかしながら知りませんでした。作家の塩野米松氏がアメリカの「ザ・フォックスファイヤーブック(注3)」をベースにとアドバイスし、立ち上がったプロジェクトだそうな。開始は2002年。現在では、市町村から推薦された名人約80人(立ち上げ時は100人)に高校生が1対1で聞き書きをしています。「名人」には、樵(きこり)や造林業、炭焼き、漁師や海女など、さまざまな職種があります。キーワードは、インタビューではなく、聞きとったそのままを「聞き書きすること」。高校生は名人との対話を録音し、名人の語り口調を活かしながら作品に仕上げます。名人が大切にしてきた自然と共に生きるヒントや知恵を学ぶことで、視野が広がり、自分の将来や進路を考えるきっかけになり、これからの持続可能な社会をつくるヒントを得ることもできます。

高校生への呼びかけは、ホームページのほかに、全国の高校へポスター等を配布して募集します。高校生は参加申込書と参加動機の作文(400字程度)を書いて申し込みます。参加者に選ばれたら、まずは8月に行なわれる研修に参加します。その後、名人にアポを取り、原則2回の取材ののち、聞き書きの作品を仕上げます。作品を仕上げるまでの間、OB・OGの大学生がLINEなどで相談にのります。株式会社ファミリーマートなどのスポンサーが、高校生の研修費用や現地への交通費などをサポートします。宿泊が必要な場合は、訪問する名人宅にお邪魔するケースもあるそうです。

OB・OGには、高校の先生になって自分の生徒を送り込んでくる人もいれば、地域おこし協力隊員になったり、聞き書きがきっかけで林業に従事したり、地域を活性化させる会社を興したりする人もいるそうです。それだけ人生の大きな転機になった経験だったのですね。お話をお聴きしたNPOの峯川大氏も、聞き書き甲子園のOBでした。彼は、群馬に住んでいる山ワサビ農家を訪問しました。そのとき「林業が栄えるような未来にしてほしい」と託された言葉が、今の彼を後押ししています。

聞き書き甲子園20周年企画『「聞く」と「書く」のあいだ展』

高校生は名人との対話を通して、どんなものを受け取ったのでしょう。会場には、現在1,800人にアプローチした、高校生の世代を超えた人間関係の20年の歴史を示す、年度ごとにまとめられた聞き書き作品集が机の上にズラリと20年分並んでいました。冊子は購入もできます。展示に使われていた机は段ボール家具でした。確かに持ち運びも重くないし傷んでもすぐに取り換えられます。高校生が聞き書きしたものの中から抜粋したキーワードが、段ボールでできたパネルに貼り付けられていました。

地下には、映画「森聞き」の上映と、「聞き書き」の作品パネルがずらりと。段ボール展示の穴からのぞき込める、高校生が喜びそうな素敵な仕掛けもありました。「思いついたことがあれば付箋に書いてね」のメッセージがハードルを低くしたのか、たくさんの付箋が貼られていました。高校生の姿もちらほら。「聞き書き」はもちろん、現地に1人で行くのだって初めての経験。1対1で体当たりだから、きっと最初はヒヤヒヤドキドキでしょうが、得るものはどれも計り知れないのだと思います。友人は、自分の子どもを送り込みたいと本気で思ったようです。高校生の活動報告が気になった方は、聞き書き電子図書館(注4)を覗いてみてください。作品の閲覧は登録が必要ですが、名人のプロフィールは無料で見ることができます。

図書館との連携の可能性

数か月前にこの活動を耳にしたとき、図書館との相性の良さを感じました。地域には必ずその道の達人のお年寄りがいます。図書館には事前準備の資料も豊富に揃っています。YA(ヤングアダルト)と言われる中学生以上になると、勉強で図書館を使うことはあっても、図書館の利用はぐっと落ち込みます。一緒に行った友人は、こんな感想を話してくれました。

YA世代向けのイベントを企画しても、参加者がなかなか集まりません。ハードルがどこにあるのか、汲み取るのがとても難しい世代だと思います。

以前、職場にインタビューに来た大学生に「どんなイベントを企画すれば興味がわくと思う?」と聞いてみたところ、「僕たちの世代は、基本的に同世代の誘いじゃないと参加しないかも」と難しいことを言われました(笑)

派手なことをやって人寄せだけで終わるのではなく、なんでもいいからその後のステップになるような企画がしたい。「聞き書き」は、ぴったりなイベントに思えました。

高校と連携して何かできることはあるかなと、2人でそんな話もしながら帰りました。

聞き書き甲子園20周年企画として、すでに全国の図書館などを会場に、パネル展示や映画上映、トークイベントなどが開催されています。気になった方は、是非Webサイトをご覧ください。聞き書き甲子園の参加高校生を受け入れる「協力市町村(地域)」の公募も毎年春から秋にかけて実施しているそうです。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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