専門図書館(大宅壮一文庫、三康図書館、旅の図書館)の紹介
図書館つれづれ [第96回]
2022年5月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

専門図書館とは、民間企業、各種団体、官庁、地方議会、大学、調査研究機関等で設置する図書館をいい、第5回のコラムで紹介したことがあります。公共図書館の方や利用者にはなじみが薄い専門図書館ですが、なかなかどうして見ごたえがあります。今回は専門図書館を3館紹介します。

大宅壮一文庫(注1)

「つまらん本ほどいいんだ。一時大衆の間に圧倒的に受けて、今はもうゴミダメの中にあるものがいいんだな」とは、大宅壮一氏の言葉です。本人が「雑草文庫」と称して明治から集めた膨大な雑誌の数々は、1971年に独自の分類と索引をつけ、世田谷区八幡山に「大宅壮一文庫」として一般に公開されました。所蔵タイトルは約12,000種類、創刊号約7,000誌、今も年間約800タイトル1万冊が増加する雑誌の専門図書館です。利用者の大半はメディア関係者だそうで、開館50周年を迎えました。

閲覧室のある2階に上がると、窓の外は公園です。一般利用者は、書庫には直接入ることはできません。窓口もしくはオンライン検索で見たい雑誌を紙の申し込み用紙に記入し、係の人が書庫から持ってきてくれます。雑誌検索データベースシステムは独自にシステム開発されたもので、雑誌の内容にいたるまで言葉を拾い上げています。雑誌記事の登録や出納など多くの職員が働いていました。「1冊10円の雑誌でも、カードをとるのに、まる1日はかかる。本を買えば、収容する設備も人件費もかかる」とは大宅氏の言葉。彼は維持をしていくのが大変なのはわかっていました。

書庫は通常非公開ですが、事前に申し込みをすれば案内付きの見学も可能で、私たちは鴨志田浩氏に案内していただきました。地下の書庫は、当たり前ですが、分け入っても分け入っても雑誌の本棚! 公共図書館のように面出しがあるわけでなく、本はどうやって探し当てるのだろうと思います。手前に引き抜かれている本は、その左側に今取り出している本があることを示します。全く形相が変わらない本を元に戻すのって難しい。迷子になったら迷宮入り間違いなしです。雑誌の重さで棚板が曲がっている個所もありました。もちろん、今は見ることのない雑誌も揃っています。書棚のタイプもいろいろで歴史を感じます。大宅氏はサプライズが好きな方だったようで、隠し階段があったりします。階段の両サイドにもあった本棚は、さすがに危ないと潰したそうです。館内案内図の消火器がある場所が〇で囲まれてい消火器の位置が一目でわかるようになっているのは初めて目にしたかもしれません。通路をふさぐように置かれている段ボールは、新しい棚を置くスペースを確保するために、整理して段ボールに入れます。段ボールが増えて、通路が通れなくなると、埼玉県越生町にある分館に送るのだそうです。

司書の皆さんに書庫は魔物。「生まれた年の雑誌だ!」「この雑誌、夢中で読んだ!」と声が上がり、いつものように動かなくなりました。お見せできないのが残念ですが、みんなが釘付けになったのは、大正時代に発刊された「百年後の日本」の特集記事。現代の技術や人口をほぼ言い当てていたり、人間想像力の貧弱とぐさりと突き刺さる指摘があったりと興味が尽きることがありませんでした。案内してくれた鴨志田氏によると、今も「100年後のxxx」という切り口の本は結構あるのだそうです。100年後に生きている人たちは、私たちのように媒体を介して100年前を知ることができるのか? その時の媒体は、紙なのか、電子なのか。100年後の今を語るタイムカプセルを、みんなで書いてみても面白いかもと思いました。

数年前に経営状態が逼迫してクラウドファンディングの募集を募ったことがありましたが、今は、大宅文庫パトロネージュでの支援制度をホームページでも呼びかけています。

三康図書館(注2)

場所は東京都港区芝公園。東京タワーの目の前、増上寺の裏手に、ちょっと敷居の高さを感じる門構えの、旧大橋図書館の蔵書を継承して昭和39(1964)年に発足した図書館です。引き継がれた資料は約18万冊。戦前の大衆雑誌、児童書、古典籍資料、戦前の入試問題や学校案内、文学、政治、経済、観光、心理学、工業、語学、自然科学の図書まで揃っています。そもそも私は大橋図書館がわかりません。

(画像をクリックすると拡大表示します)

ホームページによると、1902年~1953年、都道府県立図書館の規模で、公共図書館としての役割を担っていた私立図書館で、明治期最大の出版社である博文館創業者の大橋佐平の意思を受け継ぎ、息子の新太郎が創立した図書館だそうな。現在は仏教関係の資料を中心に収集しているというから、ますます頭がこんがらがってきます。ところが、司書がこの図書館の閉架書庫に入ってしまうと、帰る時間を忘れてしまうお宝が満載の図書館なのです。

三康図書館に勤める若い司書の新屋朝貴氏は、バイタリティーに富んだ方です。なんとか三康図書館の存在をアピールしようと、みんなが夢中になる書庫をVR(ヴァーチャル・リアリティ)で体験できるシステムを公開しました。VRでは、仮想空間上の書庫を巡りながら、資料の画像や紹介文を見て楽しむことができます。現在VRで公開しているのは5つある書庫のうちの1つですが、今後は逐次公開していきたいとのことでした。三康図書館のホームページから「蔵書紹介」をクリックすると見ることができます。

上司の浅井真帆氏が「誇れる人」と断言する新屋氏は、港区内に図書館がたくさんあるのに目をつけて、「港区図書館グループ」なる会を作りました。東京都港区内の図書館に勤務する方なら館種を問わずどなたでも参加できます。みんなでアイデアを出しながら図書館を盛り上げていきたい想いが伝わってきます。

余談ですが、ご近所のBICライブラリでは、2021年に港区図書館マップのクリアファイルを作りました。図書館の活動を活性化させていきたい想いはみんな同じなんですね。

旅の図書館(注3)

「旅の図書館」を運営するのは公益財団法人日本交通公社です。歴史を紐解けば、前身は1912年に外国人観光客誘致を目的として設立されたジャパン・ツーリスト・ビューロー。1945年「財団法人日本交通公社」に改称しました。その後、紆余曲折の末、1963年営業部門(現:株式会社JTB)を分離し、旅行・観光分野の調査研究機関となりました。旅の図書館は、「テーマのある旅を応援する図書館」として1978年に東京駅近くに開設。2016年に研究本部とともに南青山に移転し、「観光の研究や実務に役立つ図書館」としてリニューアル開館しました。2017年には、日本で2館しかないNWTO(国連世界観光機関)の寄託図書館に認定されています。専門図書館というとなんだか敷居が高そうですが、実は東京の観光ガイドにも載ってたりします。

青山のおしゃれな一角にある建物は、中に入ると、ラウンジのような光景が広がります。カウンターが事務室を兼ねていて、本の受入や電話の取り次ぎもカウンターでおこないます。最初は戸惑いもあったと、大隅一志副館長が案内しながら話してくれました。

旅に関するごく普通の本もありますが、手に入りにくい各国政府の刊行物(オフィシャルガイド)などは箱に仕切って置かれています。一般財団法人地域活性化センターのふるさとパンフレット大賞もあれば、外国人からみた日本紹介本、もちろん古い資料もたくさんありました。旅には欠かせない航空会社の機内誌は日本にとどまらず海外のものも揃っています。旅のガイドブック「るるぶ」が、実は、旅行雑誌「旅」の別冊から生まれたのだと聞きました。雑誌にもいろいろな変遷があるのですね。古い資料がずらりと並ぶと、その時代の息吹があり、資料を保管する意味をしみじみと感じました。地下のフロアは、残念ながら訪問時には人数制限がありました。COVID-19前は、このフロアで、観光研究者や観光の実務に関わる方々の自由な交流の場として、「たびとしょCafe」が催されていたとのこと。余談ですが、2021年3月15日の「“非”観光地の観光協会のチャレンジ~大分県津久見市観光協会の取り組み~」をテーマとした第22回たびとしょCafeは、なんと私の故郷の話でした。どんな話をしたのでしょう。

旅の図書館に行かないと見られませんが、かなり早い時期に資料のデジタル化もしています。パンフレットには、「観光はそれ自体が文化である」と書かれていました。

調査研究の成果や収集・蓄積した情報を、機関誌『観光文化』(四半期発行)、『旅行年報』(毎年秋発刊)で出版。多くの出版物は、Webサイト上にて全文無料公開しています。「観光文化」第243号(2019年10月10日発行)は、「観光と図書館」特集で、沖縄県恩納村の文化情報センターをはじめ、大隅氏の記事やのコラムが記載されています。さらに、図書館を活かした地域の観光魅力づくりでは、「旅」の視点からジャンルに分けて図書館の紹介記事が記載されていました。少し紹介すると、

  • 観光対象・目的となる図書館:岐阜県高山市図書館、青森県八戸ブックセンター
  • 地域をつなぐ図書館:山梨県甲州市立勝沼図書館、長野県小布施町立図書館、東京都千代田区立千代田図書館
  • 地域魅力を発信する図書館:滋賀県東近江市八日市図書館、長野県伊那市立高遠図書館

記事を読みながら、旅と図書館の相性の良さについて再認識させられました。交流や研究報告の場である「たびとしょCafe」が一日も早く本来のスタイルで復活することを願ってやみません。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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