そらとだいちの図書館(新宿区立中央図書館)
図書館つれづれ [第98回]
2022年7月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

東京都新宿区立中央図書館(以下、中央図書館)が元中学校跡地をリノベーションして開館したのは2013年7月。閉架書庫は別棟の体育館を活用。新館ができるまでの暫定措置とはいえ、当時の司書の皆さんの苦労は計り知れないものがありました。そのような中、手付かずでいた旧校庭部分に、「みんなの居場所と出番がある」を合言葉に、2021年、「そらとだいちの図書館(注1)」が誕生しました。今回は、2年の努力が実り、新宿区から部長賞を表彰された、住民ボランティアと図書館の連携のお話です。

経緯

1.図書館の苦悩

司書の萬谷ひとみ氏は、中央図書館の現在の場所への移転や、元中央図書館跡地に下落合図書館の開館などを手がけた、新宿区立図書館のエキスパート。エキスパート職員とは、一般職員人事異動基準にとらわれず、特定専門分野の職場に長期の在職を可能とする新宿区独自の制度です。だからといって胡座をかいているわけではありません。だからこそ、責任も大きくて、人一倍アンテナも張ります。萬谷氏は、これから図書館はどの方向に向かうのかを学ぶべく、2018年に公民連携プロフェッショナルスクールの次世代図書館専門課程(注2)を私費で受講しました。草がボーボーと生える旧校庭部分を活用して何かできないかと想いはあっても、新中央図書館ができるまでの暫定活用という期間限定の制約に頭を悩ませていたのです。

2.ボランティアからの思わぬ提案

2020年6月、戸山団地内にて多世代で食を共にする家族食堂の企画運営を行う「えんがわ家族(注3)」の渡辺萌絵氏、千葉県流山市で障がい者雇用のための農業ビジネスを提案し「えか自然農場(注4)」を運営する小野内裕治氏、障害者福祉センターの館長である矢沢正春氏が図書館を訪ねてきました。3人は、大久保地域センターの伝手で、旧校庭を畑や広場にして、地域のにぎわいや緩やかな繋がりをつくり出す場にできないかとの相談に来られたのです。

「畑なら建物を建てるわけではないから期間限定でも大丈夫かも」と、萬谷氏は閃きました。自治体が何でもやる時代から、新宿区の今の図書館に求められている「多様な学習機会の提供」と「ボランティア活動の促進」にも、全てのタイミングが合いました。さっそく非常勤を含めると60人を超える大所帯の組織内の課題を1つずつ潰し、各関係部署との調整が始まりました。そこに壁が立ちはだかります。「なぜ図書館がこれをやるのか?」と、公共施設としての既得権や公平性を問われたのでした。経費、官民連携の役割分担、将来のビジョンなどを明瞭化し、3度目の企画書で「主体は図書館だが、活動はボランティアに任せる」を謳い、12月に承認されました。価値の主張を盛り込んだ企画の見せ方はスクールで学んだことが生かされました。

ワークショップから、オープンイベントまで

2020年12月から2021年1月にかけ、新宿区立図書館内にポスターでボランティア募集を募り、スタートメンバー18人が集まりました。参加の動機もさまざまでした。参加者の1/3は図書館を普段使っていて、「図書館に恩返ししたい」方もいれば、「イチから居場所作りをする機会があるなんて滅多にないから」という方も。新宿らしく多様な方々が集まり、事業への想いが伝わったのが何より励みになりました。

活動の前に、行動指針や何を目指すのかを、みんなで決めていかなければなりません。ワークショップの講師を探さねばと思っていると、なんと、渡辺氏はファシリテーションにも長けた方だったのです。予算化できていた範囲内で、2月から4月にかけて3回のワークショップを開催し、名称と概要が決まりました。

2021年3月、いよいよショベルカーで校庭の土を掘り起こしたところ、大小さまざまな石が出てきました。これらを取り除く作業は、多くの図書館職員も就業後に手伝ったとのこと。約2カ月かけて、近隣住民ボランティアや農場の方などの協力もあり、ついに畑が完成しました!

5月の連休に華々しくオープニングイベントのはずでした! ところが、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の緊急事態宣言下で中止。それでも、17名が駆けつけてくれ、野菜の苗を植えました。そして、7月に再度イベントを企画するも、またもやCOVID-19で流れました。

8月、ついに広場をオープンした日、私も伺うことができました。最初に受付で、軍手と「ありがとうポイント」のチェックをしました。受付のテントと広場のベンチは、オリンピック・パラリンピックの整備品の払い下げに応募で当選して確保しました。「そらとだいちの図書館」では、草取り、石拾いなどの広場を快適にするお手伝いをすると、ありがとうポイントを付与しています(1日3ポイントまで)。3ポイントたまると、季節の野菜収穫、お花摘み、種蒔き体験、球根植えや種のプレゼントなどの特典と交換できます。どんなものと交換できるかはその日のお楽しみ。楽しく過ごす仕掛けが用意されていました。

そらとだいちの図書館

「そらとだいちの図書館」は、2つの広場から成り立っています。

菜園広場では、地域のボランティアや子ども達と共に、都心の真ん中で安心安全の無農薬野菜を育てています。野菜の苗植えや収穫など、畑づくりから見守りまで全てを住民ボランティアが行っています。クローバー広場は、パパイヤに囲まれた、くつろぎスペース。のんびり一人で本を読んだり、家族や友人とゆっくりおしゃべりをしたり。毎週日曜日の午後90分間、広場を一般の人に開放しています。雑草取りや広場に遊びに来る生物の観察や野菜の収穫体験などのほかに、これまでに実施したユニークな活動事例を幾つか紹介します。

  • コンポスト(堆肥)づくり
    広場の雑草や収穫の役目を終えた野菜の根や茎の有効活用で挑戦したのですが、なかなかうまくいきません。堆肥づくりには微生物が必要なんだそうです。失敗してもくじけない。楽しくみんなで学びながら再チャレンジです。
  • ハーブガーデン
    旧校庭から出てきた大量の石や瓦礫を用いて、「循環」をモチーフにしたハーブガーデンをアーティストのボランティアを中心に制作しました。
  • パパイヤ越冬チャレンジ
    くつろぎ広場にある31本の南国育ちのパパイヤが越冬できるよう、洋服を巻き付けて試行錯誤をしたものの… 残念ながらパパイヤは越冬できませんでした。そんな失敗や試行錯誤もみんなでやるから楽しいのです。
  • 漂流する図鑑ライブラリー
    数カ月に一度、私の友人も図鑑を携えて、広場の草花の観察会を開催します。草花には名前がちゃんとあって、「雑草」という草はないのです。

活動ボランティア

ボランティアの顔ぶれも多彩です。アーティストもいれば、落語家もいます。お笑い芸人には、Twitter、インスタグラム、FacebookなどのSNSとホームページを担当してもらっています。緩やかな関係だから、みんなが楽しんでいるのです。

図書館が予算化するのは、苗や軍手などの消耗品と僅かな農作業指導料だけ。スコップや鎌は小野内氏のえか自然農場から無期限貸与。図書館の4階にはボランティアの活動部屋があり、ボランティアの方々はニックネームの名札をつけて、自由に出入りができます。「そらとだいちの図書館」ボランティアの皆さんは、ニックネームで呼び合っています。自己紹介ノートには、きっかけや活動してみたいことのほかに、自分の得意分野や知ってほしいことなどがA41枚を9等分してぎっしり書かれていて、皆さんで共有していました。

1年の活動とこれからのこと

ボランティアは、この1年で18人から40人に増え、男女合わせて10代から70代まで多様なメンバーが登録しています。昨年の8月からの8カ月間で、広場来場者延べ数は765人。家族連れも随分と増えました。COVID-19の状況にもよりますが、一日も早く、さまざまな利用者が自由に立ち入り、目的である地域のにぎわいや緩やかな繋がりをつくり出せるようにしたいとのこと。

今後は、収穫体験イベントなどの実施予定とは別に、新しい試みも企画しています。一つは、まちライブラリーの活動を参考にした「本を介した人と人との繋がりつくり」の青空お話会。もう一つは、新宿区立環境学習センターと協働して、図書館を使った「調べる学習」に繋がる取り組みも検討していて、他団体との連携・協働を強化していきたいとのことでした。

まずは、独立して2年目のダリア農家と、土の中に残したダリアの球根を見届けました。

お話を伺って

新しい試みは新しい図書館にしかできないと思っている方が多いかもしれません。でも、きっかけはどこにでも転がっていて、「小さなことから手がけてみる」が、どうやらキーワードのようです。周りを巻き込んでいくことも大事です。

私が一番感じたのは、「図書館はバイプレイヤーに徹すること!」。図書館は森羅万象の情報を扱うところだから、自治体のどの部署との連携も可能です。農園で採れた野菜を子ども食堂へ納める話も実は出ていたそうです。でも、それは、却下されました。子ども食堂の主幹は社会福祉協議会であって図書館ではないとのこと。確かに、横取りされては良い思いはしないですよね。図書館は、スポットライトを浴びる場所ではなく陰の立役者。それが、他の部署との連携を成功させる秘訣だと感じました。

今は図書館の単年度予算の活動ですが、ボランティアが自走できる仕掛けができたら、皆さんにもお伝えしたいと思っています。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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