2022年夏、名古屋市図書館ここにもライブラリー「シバテーブル」と豊橋市まちなか図書館
図書館つれづれ [第103回]
2022年12月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

和歌山で遊んだ帰りに名古屋で寄り道し、名古屋の皆さんと懇親会合流しました。その席で、名古屋市図書館「ここにもライブラリー」事業の取り組みの話を聞きました。今回は、名古屋市図書館ここにもライブラリー「シバテーブル」と、豊橋市まちなか図書館の報告です。

愛知県名古屋市図書館「ここにもライブラリー」

2017年から名古屋市図書館には、「ここにもライブラリー(注1)」という、地域と名古屋市図書館が協力し合い、人と本とが出会う場所を創る緩やかな取り組みがあります。「本がある場所に、人が集まり、交流が始まり、コミュニティがうまれる。そんな場を皆さんの身近なところに創っていくことを目指しています。」と、チラシの文言もいたってアバウト。声がかかれば、お話を伺い、トライ&エラーで取り組んでいる事業なんだそうな。現在市内3か所で、読書イベントや本の貸出をしています。現在担当しているのが懇親会で同席した鶴舞中央図書館の齋藤森都さんだったので、これも御縁と、翌日齋藤さんに「シバテーブル」を案内していただきました。

名古屋市図書館ここにもライブラリー「シバテーブル(注2)」

「シバテーブル」は、名古屋市南区柴田商店街にあります。柴田地区は、1959年に伊勢湾台風の被害を受け、その後災害復興をとげたものの、現在は商店街に空き店舗が目立つようになりました。そこで、柴田商店街振興組合は、街を活性化させようと、名古屋市の空き店舗を魅力あるカタチでオープンすることを目指し事業プランを創るワークショップ「商店街オープン2019」に応募し、選定されました。旅に同行していた阪口泰子さんは元名古屋市南図書館長で、オープン前、南図書館にボランティアの学生が来訪し、色々話をしたのを覚えていました。そして2021年、「シバテーブル」ができました。

商店街の中にあるレンタルスペースで、本棚にあるPOPは開館時、地元の中学生が作りました。乳幼児向けの絵本を中心とした本は、担当の齋藤さんが選定し、地域の方々と月1回入れ替えをしています。

中にはキッチンもあり、キッチンの棚は、引退した地元のお年寄りの作と、一つひとつに物語があります。テーブルでは、小学生二人がWordを使いこなして修学旅行の栞を作っていました。ベトナムの親子が一組。子どもは学校や保育園で自然に日本語を覚えていきますが、親は中々覚えられないし、コミュニティに参加するのも難しい。シバテーブルを切り盛りしている白上昌子氏の知人が開発した日本語教材があって、なぞると音声も聞けます。「1日に1つリンゴを食べた」。同じ文字なのに読み方が違う、日本語は難しいのです。そんな学習環境の受け皿にもなっています。

ほどなく、商店街のおじさんが、何やら持ち込んできました。牛乳パックの表面のコーティング(印刷)面をきれいに剝ぐと、和紙のような風合いがあって、それに絵を描いて、夏祭りの燈明にしたいのだそうな。しばらくして、ネパール料理店の方が来て、ナンとカレーの差し入れ。ベトナムのお母さんからジュースをいただき、私たちのランチとなりました。ここには、家族以外の点と点を結ぶ、気にかけてくれる居場所がありました。

白上氏は、キャリア教育コーディネーターという肩書で、学校と地域をつなぎ小学生から大学生までを対象に、多様な出会いと挑戦の場を提供してきた方です。海外の学校を視察した際、生徒が自由に自分のスタイルで学べるフィンランドの小中学校と日本との環境の違いに衝撃を受けました。「どんな環境下でも、学校卒業後も学び続けられる場所を作って、誰もが学びあえる環境を町の中に作りたい」そんな時に商店街の空き店舗活用「シバテーブル」の話が持ちあがり、手をあげました。商店街のイベントのほかに、習い事の場所提供や、コミュニティとコミュニティをつなぐハブの役割をしています。学びのスタイルは人さまざま。白上氏が意識しているのは、「子どもが育つ環境をデザインする」こと。それは、学校だけでなく、大人も子どもも、年齢に関係なく、地域の中で実践し、その文化を学校に戻していく。希薄になっている地域の絆や自発性を「シバテーブル」を媒体にして育んでいけたらと思っています。そして、夏休みのイベントの話に齋藤さんが割り込んできて、「では、次回は星や昆虫などの図鑑を用意してきますね」と話すのを聞いて、図書館も地域に役割を持っているのを感じました。

愛知県豊橋市まちなか図書館

2021年に誕生した豊橋市まちなか図書館(注3、以下、図書館)は、豊橋駅東口から徒歩5分の複合施設の2階と3階にあります。案内をお願いしていた『ROCK司書の図書館ライブ』の著者である大林正智さんは、子ども向けの本と子育て情報が集まるキッズスペースでイベントを見守っていました。豊橋市SDGs推進パートナーの花王グループカスタマーマーケティング株式会社 社会コミュニケーション部門の方が、手洗い及び消毒の正しい方法を親子で楽しく学べる講座を開催していたのです。こういう企業との連携イベントは、盛んにおこなわれているようです。

図書館は、2階と3階をつなぐ中央に階段(中央ステップ)が位置し、大型スクリーンを使用したトークイベントや多様な企画に使われ、普段は座席として利用しています。コミュニティ型の図書館では、最近よく見かけます。2階の中央ステップの前に地元企業運営のカフェがあります。巷のカフェと同じく学割にマイボトルにモーニングセットまであり、テーブルや椅子が配置され、好みにあった場所で飲み物や食事を楽しんでいました。どこかで見た光景?と思ったら、「ショッピングモール」だと気づきました。私の第一印象は、カフェを中心にした本のショッピングモールです。

館内の丸い木枠をかたどったお洒落な案内図や天井のデザインは、豊橋の手筒花火をイメージしているそうな。ちなみに、手筒花火は愛知県東三河地方を中心に伝わる花火で、450年以上の歴史があり、豊橋市の吉田神社が発祥といわれているそうで、勇壮な煙火をテレビで見たことがあります。

館内は以下の5つのゾーンに分かれていて、NDC分類ではなくテーマ配架をしています。

  • ウェルカムゾーン:魅力的な空間に導くエントランス
    入ってすぐのマガジンスペースと、本の返却口に予約本棚。予約本は取り出して普通に貸出をします。中央ステップとカフェは、もちろんこのゾーンです。
  • アクティブゾーン:さまざまな分野で活動する人々との出会い、交流
    館内全ての棚に目を引くポップがありますが、全部でなんと1,000枚作ったのだそうな! 地元豊橋のバスケットボールチームの棚もあります。

パフォーマンススペースには、近くに芸術劇場があり、上演される演目の資料などを展示して応援する棚もありました。スクリーン・プロジェクタ―も備えていて少人数の講演も可能です。

  • グローアップゾーン:子どもや中高生が楽しみながら本の世界へ
    テラスへも出入り可能。
  • リラクゼーションゾーン:落ち着いてじっくり本の世界に浸れる空間
    ゆったりした座席のほかに、更にゆっくりとしたい方はラウンジも用意。
  • ラーニング・クリエイティブゾーン:新しい知識、技術の取得による自己研鑽の場
    ビジネス支援コーナーのほかに、動画編集などもできるメーカーズラボもあり、まさに今どきの図書館です。

豊橋市のような大きな街でもドーナツ化現象は進んでいて、図書館は駅前再開発の一環として造られました。図書館を造っても果たして利用者が来てくれるか内心不安だったそうですが、予想に反して多くの方で賑わっていました。ここは本のショッピングモール、「静かに!」なんて看板はどこにもありません。お茶して、ショッピングを楽しむように本の棚を楽しんで、気に入った本があれば借りていく。ぶらりと歩いて回遊するような動線設計です。3階へとつなぐエレベーターもとってもお洒落。長場雄氏の絵が描かれています。

「地域資料はここだけなんです」と豊橋手筒花火が置かれたコーナーを指して恐縮していましたが、この場所には手筒花火があるだけで十分だと感じました。ちなみに、豊橋市図書館は2023年1月15日(日)に開館110周年(注4)を迎えるそうです。

大林さんは、会計年度任用職員。開館1年前の「会計年度任用職員」に応募して、「まちなか図書館開館に携わって自分のやれることを試したい」想いが叶い、まちなか図書館開館準備室に配属されました。豊橋市は彼の故郷。「生まれ育ったまちの図書館に貢献したい」想いが後押ししました。カフェで話を聴いている合間にも同級生が声をかけてきて、地元で働くことをちょっぴり羨ましく思いました。

図書館は、「管理運営グループ」と「企画連携グループ」に分かれていて、彼は後者に属しています。地域の人や、市の他部署、いろいろな団体や企業と連携して、イベントを企画運営するなどが仕事です。図書館で人と人がつながり、情報を受信・発信する、まさに彼にはうってつけの仕事。また、公募で東京から移住してきた種田澪(おいだみお)館長を含む企画連携グループの中で、ただひとりの司書として、イベントと資料を関連付けること、イベントも視野に入れた蔵書構築には力を入れているとのこと。自由にのびのびとやりたいことをやっているかと思いきや、やはり悩みもあるようです。ひとことで言えば、やりたいことに対して人が少ない。特に開館したばかりで注目が集まっている現在、たくさんのやりたいことの中から何を残して何を削るか、嬉しい悲鳴をあげながら頭を抱えているとのことでした。

図書館が目指すのは、従来の図書館とは違う「新しい、おもしろい」、それでいて、「ここは図書館」と納得させる図書館。会計年度任用職員というしがらみの中でも実現できることがあることを、大林さんは身をもって体現しています。

見学を終えて

今回の旅では、前回のコラムで紹介した2つの図書館も見学することができました。改めて思うことは、そのまちが必要としている図書館の形態はまちのニーズによって違うこと。そのまちの人が考え工夫し、そのまちの図書館は造られていくのかなあと感じました。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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