泉大津市立図書館SHEEPLA(シープラ)
図書館つれづれ [第107回]
2023年4月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

大阪府泉大津市立図書館SHEEPLA(シープラ)(注1)は、大阪南海線の泉大津駅のショッピングモール4階に、2021年リニューアルオープンした図書館です。開館して1年ほどたった2022年秋に、友人2人と訪ねてきました。

SHEEPLAの名前の由来は、泉大津市のマスコット・羊Sheep(シープ)、see(見る、見て楽しむ、会う)、library(図書館)を合わせて「シープラ」。ぷらりと気軽に立ち寄れる場所になってほしいという思いが込められているそうです。館長は河瀬裕子さん。久しぶりにお会いして活躍ぶりを拝見してきました。今回はアイデア満載の新しい試みを続ける図書館の紹介です。

泉大津市立図書館SHEEPLA(シープラ)の概要

図書館のある建物は、泉大津駅に隣接するショッピングモール。南海線では4番目の乗降率があるにもかかわらず、人の入りが今一つでした。そこで、駅前活性化を図るべく、4階に図書館が整備されました。図書館のアプローチは泉大津駅から建物の2階へ直結していますが、地下にある駐車場から上がってくるエレベーターは奥まった場所にあり、動線は決して良くはありません。近くに住む友人は、建物の色々な場所がビニールシートで覆われていた頃を目にしていたので、「こんなところに図書館をつくって、安全面で大丈夫かしら?」と正直思っていたそうです。そんな心配を払拭すべく開館した図書館は、すべての市民が新しい価値を創造する図書館として、活動の3つの柱を掲げています。

  • 学び:市民自らが地域課題を解決できる支援
  • 協働:多世代、多文化、各種学校、企業協働の支点
  • 創造:新たな価値の創造

サービスの3つの柱は、

  • 発信:ビジネス支援サービスの充実
  • 交流:多種多様なイベントの実施
  • 連携:企業、学校との連携強化

河瀬裕子さんのこと

河瀬さんの地元は熊本。学校図書館を皮切りに、今までに3館の図書館の立ち上げに関わってきたそうです。私が最初にお会いしたのは、指定管理者として「くまもと森都心プラザ」の副館長をされていたときで、ビジネス支援を軸に先進的な活動をされていました。指定管理の任期終了に伴い仕事を探して、泉大津市の図書館館長公募が目に留まりました。サービスの柱として掲げられているうちの2つ「ビジネス支援と学校支援」ならば、自分の経験が貢献できるのではと手をあげました。それにしても果敢なチャレンジ。今は大阪で単身赴任生活をしています。そのあたりは、市長との対談YouTube(注2)に詳しく紹介されています。久しぶりに会った河瀬さんは、熊本にいた頃と同じようにユニフォーム姿でさっそうと登場。全員がエプロンではなく制服を着用しているのは、「ビジネス支援を謳うからにはお客様と対等に接したい」という強い意志があり、開館当初から予算化してもらったそうです。「ナンパが趣味!」と公言する河瀬さん。ナンパした方々を巻き込んで、図書館でさまざまな活動を展開していました。

図書館のサービス

駐車場から4階に上がって長い動線の最初に目にするのは、「はじまりのウォール」。壁一面の、泉大津市立図書館の前身である1949年開館当時からの古典籍コレクション「朴斎文庫」の紹介に始まる和漢書の展示は、博物館との連携です。学芸員との連携では、『新古今和歌集』、『六百番歌合』など約8,000冊を入れ換えながら紹介しています。生涯学習課や織編館(注3)とも連携して、地元産業である毛布の生産工程から敗戦以降まで繊維の街として栄えた移り変わりを展示。景気の良かった頃は、一織りで万円稼いだ「ガチャ万景気」の時代もあったのだそうな。沿線の南海電鉄との連携では「旅なぞtrain」コーナーを設けていました。

図書館内にカーペットの色がちょっと違うコーナーがあり、地場産業の商品を売っていました。市と商工会議所で「シティプロモーション」会社を設立し、図書館は地場代を貸している形式をとります。伺ってみて、図書館内での売買の仕掛けに納得しました。

ちなみに、会議室は高校生でも借りられる金額ですが有料で貸出。館内どこでも飲めるコーヒーもこの会社に委託して、図書館は現金を扱わない工夫があります。

オレンジのフロアは食事を許可するゾーン。ネーミングもサインもチャーミングです。例えば、

  • 「たべるん」:食べ物OKコーナー
  • 「つくるん」:水場もある工作などができるコーナー
  • 「のぼるん」:小さな子どもの隠れ場所コーナー

というようなネーミング。

児童書は、子どもが特にお気に入りの「ウンチ」や「おばけ」などはテーマ別に展示。

2本柱のビジネス支援コーナーには3Dプリンターやホットな話題の本が並び、特にページを見せたい展示本は、特注の‘本の台’の上に載せてページを見せています。ビジネス支援で使える商用データベースは、新聞の他に、法令、経営、医学、農業の9種類。静かに本を読みたい人には、スタディルームやラーニングルームが用意されています。

貸出カウンターやレファレンスは一カ所にして、職員はその分館内をマメに見回って利用者との交流を図ります。黙って借りていきたい人は、奥の自動貸出機で対応。カウンターで発見したカプセルトイ(通称:ガチャポン、ガチャガチャなど)の中には通帳の引換券が入っていて、本の通帳を販売しています。職員は現金をさわらないし、なにより発想がにくい!

最近ファミレスでも見かけるロボットの企業(注4)が、同じビルに入っていて、図書館と密な連携を図っています。実証実験中ですが、OPACと連動して棚番号まで導いてくれたり、本の返却に一役かっていました。

細かな配慮はトイレにも。男性用/女性用/バリアフリートイレは香りで分けていて、バリアフリートイレは右開き・左開きの2カ所用意されています。実際の設計ではわからなかった「扉が重い」との意見もあるようですが、このような配慮は聞いたことがありません。生理用品を無料で提供するOiTr(注5)と連携し、利用者がアプリをダウンロードしてかざせば、ナプキンが無料で出てきます。こういう社会貢献事業をしている会社もあるんですね。

学校との連携もしています。同じシステム内で学校図書館のデータを整備し、検索を可能にしています。但し、利用者情報は別管理。学校には、ブックトークやアルマシオンなどの出前授業にも出向きます。学校以外の連携も積極的で、議会図書室支援に行政支援と、「誰にも図書館と関係ないとは言わせない!」のだそうな。

館内にはオープンスペースがあり、ラジオ体操や講演などの各イベントに使われます。ヨガも行われますが、ヨガマットは駅前のスポーツジムの無償提供。館長にナンパされた方々による地域連携が盛んで、毎日なにがしかのイベントが開催されています。

一緒に見学した友人は館内の床の高低差が気になったようで、質問しました。トイレやキッチンなどの水場は、底上げをしなければいけないため床に高低差が出たのだそうです。既成の建物の流用は、天井の高さや重量制限など、やはり気を使うのですね。

図書館協議会メンバーには、図書館界の錚々たる顔ぶれが揃っています。協議会が開催されるときは、事前に資料にチェックをしてもらい、座った瞬間から2時間に及ぶ熱い討議が始まります。一般利用者にも少人数限定ですが公開されています。気になった方はWeb上で図書館協議会の報告をご覧ください。

見学を終えて

図書館効果は早くも波及しています。2023年にはビルの5階に保育園ができるそうで、駅前の活性化に拍車がかかります。市長は以前、くまもと新都心プラザを見学されたことがあるそうで、そのときから種を育んでいたのかもしれません。人との縁はどこでどうなるかわかりませんね。

不安材料もあります。館長をはじめ2人の副館長と3人の係長は、いずれも5年間の任期付き正規職員です。残すところあと2年余り。今後の図書館の動向もですが、働く方々が正当に評価され、この待遇が続くことを願ってやみません。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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