老朽化した図書館を公園内に移転・建設 地域支える情報拠点の新しいあり方を探る

地域を支える情報拠点として、図書館の新しい機能やあり方が各自治体で模索されるなか、板橋区立中央図書館の再整備計画が注目を集めている。

同図書館は施設や設備が老朽化し、ユニバーサルデザインへの対応の遅れなどが指摘されてきた。これを受け、区は新しい中央図書館を緑豊かな公園の中に建設し、移転する計画を推進。レファレンスサービスの充実やICT化、学校との連携、地域振興への貢献など、新たな図書館像に則した取り組みも強化する予定だ。

館長の大橋氏に、これまで図書館が抱えていた課題や今後のビジョンなどを聞いた。

ハードとソフトの両面を刷新し “緑と文化”を象徴する施設へ

中央図書館が抱えていた課題はなんですか。

中央図書館は昭和45年の開館で、建物は建設から50年近くが経過しています。そのため、施設や設備の老朽化が進んでいるうえ、ユニバーサルデザインへの対応が遅れていることが課題でした。例えば、エレベーターがないことや、「本が古い」といった声が住民との意見交換会の機会などで指摘されていました。

またサービス面では、高度な専門書やレファレンスに対応するには収蔵容量が足りていないといった課題がありました。

図書館は区の中でも特に多くの方が利用する施設でもあるため、早急に整備する必要性がありました。

現図書館外観

どのように対応したのでしょう。

平成25年度「中央図書館機能のあり方検討会」における図書館機能の整理をはじめ、平成26年度には「今後の中央図書館の施設等検討会」で施設規模、改築場所の検討を行いました。その後、平成27年度に「板橋区立中央図書館基本構想」で基本理念や目指す図書館像の設定を行い、平成28年度にはテーマ別の事業・サービスをまとめた「板橋区立中央図書館基本計画」をそれぞれ策定しました。

現在は、ハード・ソフトのデザインを進めているところで、基本設計を完了し、実施設計を進めているところです。中央図書館は平成32年度中に「板橋区平和公園」内に移転し、新たに開館する予定です。

なぜ公園の中に設置するのですか。

今後、区の図書館の中で中心的な役割を持ち、魅力ある施設として運営するには、一定の規模、面積が必要になりますが、現在地で改築する場合、建築基準法などの関係から十分な面積を確保できません。そして検討の結果、「板橋区平和公園」の敷地内に新しい図書館を建設することが妥当とする判断に至りました。

板橋区平和公園はもともと、旧東京教育大学(筑波大学の母体)の寄宿舎の跡地で、平和希求の目的で地域の署名により昭和61年に公園として誕生した経緯があります。約1万8,600㎡の敷地内にはイチョウやサクラなどの木々が植えられ、緑を感じられる空間となっています。また、イベントや避難訓練などに使われ、住民に親しまれている公園でもあります。中央図書館は、公園の近くにある「教育科学館」とも連携することで、これまでできなかった取り組みも叶えていきたいです。

また、先ほど経緯でもお話ししましたが、設計に至るまでにおよそ4カ年をかけてビジョンとミッションの構築を行いました。「板橋区立中央図書館基本構想」に示した基本理念と重点テーマです。

どのような基本理念でしょう。

「未来をはぐくみ、こころの豊かさと新しい価値を創造し“緑と文化”を象徴する図書館」です。そして、基本理念や中央図書館の現状、課題をふまえて、5つの重点テーマを設けています。

まず、「生涯を通じこころの豊かさを支える図書館」として、あらゆる人々に読書の機会と必要情報を提供していくこと。次に、ただ書籍を貸し出すだけでなく、レファレンスサービスの充実を図るなど「課題解決型図書館」であることです。

3つ目は「学校・家庭と連携する図書館」で、新しい中央図書館の地域の中での位置づけを設定。4つ目は「地域のコミュニティ形成を支援する図書館」として、イベント開催や区民が情報交換を行う場を提供するほかにも、災害時の地域の防災拠点としての役割も果たしていくことを掲げています。5つ目は、「板橋の魅力“緑と文化”を象徴する図書館」。水や緑などの環境と調和した読書環境や、海外の絵本の展示など、区の魅力を発信していきます。

ほかに特徴的な取り組みはありますか。

現在は本町にある「いたばしボローニャ子ども絵本館」を同時に移転し、新しい中央図書館に併設することです。ボローニャ子ども絵本館は、北イタリアのボローニャから寄贈された世界約100カ国、約2万6千冊の絵本を所蔵しており、都内の大型書店でも扱っていないような貴重な書籍に触れることができます。同じフロアに設ける児童図書コーナーと合わせると、児童向けの図書はほかの図書館と比べて群を抜く規模になるでしょう。

また、再整備を機に、ICT化も一挙に進めたいと考えています。例えば、ICタグを図書に付けることで、蔵書の管理や利用者支援を強化。貸出の自動化を行います。また、閉架書庫から資料を自動で出納できる自動化書庫も導入予定です。

絵本館やカフェ、屋外テラスも併設 利用者の新しい交流の場に

建物の構造や各フロアについて教えてください。

地上3階地下1階の建物で、延べ床面積は現在の中央図書館の1.5~2倍程度となる規模を想定しています。

建物の1階部分は、公園とつながり、にぎわいと活気のある「動」のスペース。ここには、子どもが声を出して本を読める児童図書のスペースを広く確保します。ボローニャ子ども絵本館を併設するのもこのフロアです。また、図書館と公園の利用者のための交流や飲食の場として、カフェや屋外テラスも設けます。さらに、映画会や講演会などのイベント開催、「ボローニャ・ブックフェアinいたばし」をはじめとする多目的の展示スペースの設置もする計画です。

2階は一般図書のフロアで、いわゆる一般的な図書館のイメージになるのがこの階でしょう。エレベーターの前には、新刊や話題の本を面陳列するなど、書店のようなレイアウトを取り込みながら、書架に誘導します。青少年向けのコーナーもこの階に設け、「中央図書館に行けば何かが得られる」といった期待に応えていけるようにしたいです。これまで、公園近隣の中学校の生徒にはヒアリングやワークショップも実施しており、その要望も反映させているのです。具体的には「おしゃべりができる空間が欲しい」という要望が多かったために、一般の開架エリアとは仕切られた学習室も設けます。

3階は「区民の書斎」がコンセプト。区の公文書館などに所蔵されている資料をここで展示するなど、板橋区の歴史や文化を体感できる空間にしたいと考えています。例えば、板橋区に住んだ民俗学者の櫻井徳太郎氏のコーナーをつくるといったことを検討中です。

図:西側外観イメージ

西側外観イメージ

今後のビジョンを教えてください。

新しい利用者や、蔵書が増えることによる貸出数の増加を想定したうえで、年間の入館者数を現在の約42万人から80万人に増やすことを目指しています。ここ数年の入館者数は、人口の増加などを背景に微増で推移してきました。若者の読書離れが指摘されていますが、図書館の利用者には、雑誌や新聞を読むだけという方もいるので、決して人々が図書館に出向かなくなっているという状況ではありません。新しい図書館には、カフェやイベントギャラリーが設けられ、図書を読んだり借りたりする以外の目的を持った人も集まると想定できるため、その機会をしっかりと捉えていきたいと思います。

新しい試みでは、ICT化などの先端技術が目立つと思います。これにより、効率化を図るのは実際に大事なことでもあるのですが、同時に、図書館利用の中での「人間味」を置き去りにはしたくないとも考えています。サービス提供の交流の機会などを活かして、利用者の皆様のさまざまな暮らしに寄り添って、重点テーマの一つにもある「こころの豊かさを支える図書館」をしっかりつくっていきたいです。

板橋区立中央図書館長
大橋 薫(おおはし かおる)氏

板橋区

  • 人口:56万4,362人(平成30年5月1日現在)
  • 世帯数:30万6,865世帯(平成30年5月1日現在)
  • 予算規模:2,092億7,000万円(平成30年度当初)
  • 面積:32.22km2
  • 概要
    東京23区の北西部に位置し、北部は埼玉県に接する。江戸幕府によって整備された五街道のうちのひとつ、中山道の一番目の宿場が現在の下板橋に設けられ、大都市江戸の出入り口として繁栄した。現在も沿道の歴史資源を活かしたまちづくり・商業振興が行われている。明治からは工業も発展。 現在、製造業の事業所の数は減少の一途をたどっているものの、製造品出荷額など(平成27年)は3,914億円で、東京23区では大田区に次ぐ2位の規模となっている。