患者様のクレーム対応のポイント
~患者様のクレームに真摯に向き合う対応こそが患者満足度向上につながる~
病院の患者様へのあり方[第2回]
2013年12月

執筆者:合同会社 MASパートナーズ
    代表パートナー 原 聡彦(はらとしひこ)氏

患者様からのクレーム対応について現場任せになっているケース、クレーム対応マニュアルは整備されているが活用されていない、病院組織として統一したクレーム対応方法が共有されていない等、病院の院長より患者様のクレームに対応する相談を多く受けてきました。

そこで今回のコラムでは患者様のクレームに対して現場職員の力量に左右されない対応をするための組織対応の基本姿勢と失敗しないクレームの初期対応・事実確認のポイントをお伝えいたします。

組織対応の基本姿勢

患者様のクレーム対応に頭を悩ませている院長から下記のような相談を頂きます。

「当院にはクレームマニュアルがない」
「クレームマニュアルはあるがマニュアルどおりに行動できない」
「当院の職員は臨機応変に対応できない」

クレーム対応マニュアルがない事、マニュアルがあるのに活用できていない事、職員個々の対応力を問題にするケースは多いですが、患者様のクレームの対策では、病院組織で決めた対応スキル、手順を組織全体で共有し、現場任せにしないことがポイントになります。

組織対応できない病院には患者様からクレームが発生するとスタッフに対応を押しつけ、スタッフは孤立感を持ち離職につながるという悪循環が起こっています。悪循環に陥らないためにもクレームを組織対応するための基本姿勢を職員全員に示すことをお勧めしております。

弊社のクライアントのクレーム対応の基本姿勢をご紹介します。ご参考にしてください。

  • いかなる暴力も容認しない。被害にあった場合は病院組織として職員を守る。
  • 職員個々の判断で即答しない。常に病院組織で対応する。
  • 相手のクレームと要求を十分確認する。
  • 患者様(ご家族、関係者)に誤解や過大な期待を抱かせるような発言をしない。
  • 相手が経営トップとの面談を要求しても基本的に応じない。
  • 相手の要求に応じて謝罪文・念書などの文書は書かない。
  • 事例検討会を開催しクレームに関する情報共有を行う。

活用できるマニュアルづくりのポイント

患者様のクレームマニュアルを整備されている病院は多くありますが、実際にクレームマニュアルを活用できている病院は少ないように感じます。
マニュアルを活用できている病院の共通項は起こった事実に即して病院で決めたシステムを作り運用しています。もっと簡単にいうとクレームを受けた職員が迷う事なく対応できる方法を病院組織全体で共有している事がわかりました。

多くのマニュアルでは職員が迷うような抽象的な表現が文面に使われています。
例えば、マニュアルの事例でいうと「…を基準として状況に応じて適正に判断を行うもの」「…は慎重に対処する」など、「適正」「慎重」といった抽象的な表現です。

「適正」「慎重」かどうかは個人の考え方によって差が生まれてくるので、クレームを受けた当事者が迷う要因になります。
病院で起こった事実に即して行動できるシステムを確立して頂くことをお勧めします。

失敗しない初期対応・事実確認のポイント

クレームが大きくなる要因として、初期対応が悪いために小さなクレームが大きくなるという事が多くあります。また、事実確認がきっちりできていないために、同じ事を何回も聞かなければならないなどクレームが増長するケースをお見受けします。

クレームの初期対応・事実確認を現場の当事者の対応力に委ねるのではなく病院として統一した基準をもって組織対応して頂く事が起こった事実に即して行動できるシステムづくりの第1歩となります。下記に失敗しないための初期対応・事実確認の事例をお伝えします。

ポイント1:クレームを受け止める

クレームを受けることは嫌な事ですが、クレームを言う事も大変勇気がいりますし嫌なものです。まず、クレームをご指摘してくれた相手に「ご指摘頂きありがとうございます」とご指摘頂いた事に感謝しお礼を伝えます。

そして、気分を害した事や不快にさせた事に対して謝罪する。例えば「ご不快な気持ちにさせてしまい申し訳ございません」「それはお困りでしたね。申し訳ございません」など相手が気分を害されたことに対してお詫びするという姿勢です。
お詫びの言葉選びは、誤解を与えないためにも病院でお詫びの言葉も決めておくことをお勧めいたします。

ポイント2:クールダウンさせる方法を決めておく

相手が興奮状態になっている場合の対応も組織として決めておくことです。下記に事例をまとめております。

  • 対応する職員を替える(対応が10分以上になったら)
  • 場所を変える(対応場所を決めておく)
  • 挑発にのらない
  • 複数で対応する
  • 記録、録音することを宣言する
  • 相手の話を最後まで傾聴する など

特に場所を変える場合はあらかじめクレーム対応する部屋を決めておき、記録・録音ができるようにノートやICレコーダーを設置(2個以上)しておくことをお勧めします。また、病院で決めたクールダウンの方法が機能するかどうか警察署の方など第三者にも参加してロールプレイングを実施して定期的に対応プロセスを見直して頂きたいと思います。

職員は事例をテーマにしたロールプレイングを通じて病院が決めた組織的対応を覚えていきます。これをやり続ける事で、組織全体で組織的対応方法を共有化できるのです。地道な努力が共有化という成果を生み出します。

ポイント3:患者様の話を受け止める(傾聴する)

傾聴のスキルを伝える。

例えば
  • 相手の話を途中で遮らず肯定も否定もせず聴く
  • 相手とまっすぐ向かい合い、相手と目線の高さを合わせる
  • 無意味に笑わない
  • うなずいて、相づちをうつ。「はい」「なるほど」「そうですね」
  • キーワードの繰り返し「…と思われたという事ですね」など
  • 避けるべき対応「そんなことありません」「それは誤解ですね」など
    相手の話を遮ったり否定すること

基本的な傾聴なスキルを院内の職員(管理者やクレーム対応の上手い職員)を講師にむかえレクチャーしてもらう事で教える講師も新たな気づきや今後の行動について襟を正すきっかけにもなるのでお勧めしております。

病院が努力していることを患者様へ「見える化」する

病院が患者様の意見や不満を解消しようとしている努力を「見える化」する事も大切です。例えば、待ち時間を落ち着いて過ごせるよう待合室のアメニティを充実させる事や診察・リハビリの順番が変わる場合がある旨をあらかじめ院内掲示や受付にてお伝えするなどが考えられます。

こういった病院が努力していることを院内掲示や院内報などで患者様に伝える事は患者様との認識のギャップを埋める第一歩となると思います。また、患者様アンケートや意見箱を設置して患者様のクレームなどご意見を聞ける体制を作っている病院も増えてきていますが、アンケートや意見箱の意見について、病院の回答を患者様と共有する機会を作っている病院は少ないように思います。

アンケートや意見箱の意見には「できる事とできない事」があると思いますが、「できる/できない」より病院側が患者様の意見に対して真摯に誠実に向き合っているかどうかが問われています。

最後に

これまで述べてきた初期対応や事実確認のポイントや努力していること「見える化」は、患者様からのクレームや指摘事項に対し真摯に誠実に向き合う事が大前提です。
患者様がクレームに対して真摯に向き合う病院の姿勢を評価してくだされば患者満足度向上にもつながります。

ぜひ、患者様からのクレーム対応については病院組織全体で真摯に誠実に向き合う独自のシステムを確立して頂きたいと思います。

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