病院経営分析と原価計算
第6回 「原価計算:その3」
2014年2月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

本コラムで病院経営改革について考えていきます。第6回は前回に続き「原価計算」がテーマです。原価計算を適正におこなうには、タイムスタディ票を作成し、各個人の活動状況を明確にすることが必要だと筆者は語ります。

「原価計算」におけるタイムスタディ~各個人の活動状況を明確にするために~

今月は、「原価計算」におけるタイムスタディと収益の算定についてお話をしたい。

基本、給与費の配賦については、人事上の所属部門別に給与費を算定することが原則である。しかしながら、病棟や外来、手術室など部門をまたぐ動きをしている医師の給与費は、その活動に応じて各部門に配賦をする必要がある。

同様に、部門間を兼務している看護師においてもその対象とする。また科別原価計算を行う場合などには、部門での業務を横断的に行っている各病棟の医療機器メンテナンス担当の臨床工学士なども含む必要がある。

その方法だが、タイムスタディ票を作成し、各個人の活動状況を記入し、集計して配賦割合をはじき出す。タイムスタディ票には、累積型と行動型があるが、行動型のほうが記入しやすい(下記※1参照)。

この作業を対象者全員に対して行うわけだが、調査時期等については、年2回各1週間程度を基本として行う。不確定要素が多いICUなどを1か月単位で行うケースもあるが、現場の負担が大きいため現実的ではない(後日、患者数などを考慮して、時間を調整することは可能である)。

まずは、1週間の行動タイムをベースに考えていくことが賢明である。時期については、繁忙期と閑散期の2期に設定して行う事を推奨する。それらの平均をもって、タイムスタディの設定を行う。一度設定すると大幅な組織変更や診療体制の変更がなければ固定化されることになるため、設定には十分な配慮が必要である。

当然のことながら、このタイムスタディの実施には、病院全体の協力が不可欠である。

そのため、院長をはじめとした病院トップの強いリーダーシップが必要である(なぜ、こんな面倒くさいこと、そんな時間はない!...必ずと言ってよいほど出る現場からの声)。

また、給与に関することで、タイムスタディとは離れるが、個人別時給算出を検討することも一考である。近年は年俸制が増えてきている。医師や管理者もほとんどが年俸制に移行し、今後は、その職種も拡大していくこととなるであろう。

その際に、個人別に該当者はどのくらいの時給になるのかを算出し、本人に意識させることも重要な意識改革になると考える。年功序列から成果主義へ、医療業界には、まだまだなじめない部分も多いが、人事考課制度と合わせることで経営及び業務効率に相乗効果が期待できるのではないかと考える。

※1 タイムスタディ記入票例:行動型
[図] タイムスタディ記入票例

収益の算定

原価計算の最後に、収益の算定について少しお話をしたい。

原則、収益の算定は、形式ではなく実質が重要となる。たとえば、入院収益において入院期間中に診療担当医が変更となった場合、通常のレセプト処理では最終診療科の収益として計上されることが多い。

しかしながら実質は、移動が発生する場合があるため、収益データを日単位で計算し、該当部門に帰属させる必要がある。

また、麻酔科の収益としては、麻酔科医が診療を行った分を麻酔科の収益とする。手術室内で行われる麻酔の手技は、麻酔科の収益となるが、局所麻酔や神経ブロックなどで麻酔科医が行わないものは、麻酔科収益とせず、その診療行為を行った診療科の収益とする。

これらの算定には、しっかりとしたマスタ設定が必要不可欠である。

今後、機会があればマスタ化にあたっての注意点(各種ID設定)とシステム化についてお話をしたい。

総括

総括として、医療機関における原価計算においては、事前に病院の方針や基本的な総括として、医療機関における原価計算においては、事前に病院の方針や基本的な考え方及び計算方法を確立する必要がある。

その上で、全部署の協力の基、配賦基準やルールを制定し、よりよい病院経営に導くための指標として位置付けられた原価計算を構築したい。活用され意味のある原価計算となるために...

来月は、「セミナー後記」としてお話をしてまいりたい。

少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。

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