医療安全対策と機能評価に関する考察(第3回)
医療安全対策について
2015年2月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療従事者と患者のギャップから生じたトラブルの事例

前回は、医療従事者と患者のギャップから生じたトラブルの要因についてお話ししたが、今回は、その事例についてのお話をしたい。

誤嚥という言葉の認識のギャップ

最初は、誤嚥性肺炎で亡くなった患者の例であるが、そもそも誤嚥という言葉の認識に、一般の人と医療関係者とでは違いが大きい。

  1. 患者は高齢で、慢性心不全、糖尿病の悪化により入院をしていた。嚥下機能も低下していた。
  2. 患者の家族側の主張は、食べさせてはいけないものを食べさせるミスがあった(実際は、飲食はない)。常に気を付けて監視していないからこうなった。
  3. トラブルになった要因は、患者の家族側が誤嚥の意味を理解していなかった点と病院側の説明が遅れ(その時の対応が迅速ではなく、放置された印象を患者家族に持たれてしまった)隠し事をしているような印象を与えたことである。
  4. 医療側は常に、病態に応じたリスクの説明を丁寧に行うべきであり、説明した相手がしっかりと理解しているかを確認した記録を残す必要がある。説明したからと言ってそれで終わりではない。専門用語の使用については、特に注意が必要である。
  5. ※誤嚥という言葉については、飲食を誤ったらおこる現象ととらえられており、神経が弱って、唾液さえも肺に入るリスクがあることを一般の人々は知らない。

高齢者の転倒による骨折に関するトラブル

次に、高齢者の転倒による骨折に関するトラブルである。転倒転落によるアクシデントは、医療安全の観点からもほとんどの医療機関において重点的に対応をしているはずである。

  1. 患者は高齢であったが、自立、歩行にも問題は無く、ケアの視点からも特に注意が必要な状況ではなかったが、院内にて転倒し大腿骨を骨折した。
  2. 患者の家族側の主張は、病院側が監視義務を怠ったことが事故の要因であり、後遺症まで残ってしまったのは、病院側の責任、補償を求めた。
  3. 病院は、安全で安心な場所であるという思い込みをしている一般人も多いのも事実である。しかし、通常の生活と同様に様々なリスクは常に存在する。事前の説明不足と事後の対応の遅れが、トラブルとなった要因である。
  4. どんな疾患の患者に対しても入院時の説明は、すべてのリスクを含めて、丁寧に行う必要がある。しっかりと説明していても患者及び家族は聞いていない、理解していなかったということもある。職員研修等で事例による対処法の例を実際に見せることも若手の看護師には有効な方法である。

その他、「手術における合併症のリスク」という言葉の認識や理解度の違いにより、トラブルとなったケースや若手の医師が安易に発言した「癌の可能性」という言葉による患者の早合点でのトラブル等、言葉の使い方と理解度の相違が原因となる場合が多い。

最近は、メディアなどで医療に関する情報提供が多くされるようになり、それなりに一般の人々でも「知識」という点では、ギャップが少なくなってきているのかも知れない。(個人的には、過剰な演出や過度な情報提供で、かえって不安をあおっている感のある番組もあると思うが。。。)理解度については、個人差が大きいため、個々の対応をしっかりと行う必要がある。

今回、医療安全に関するお話をしたが、医療の現場には、多種多様な問題やリスクの因子が多く存在している。大げさかもしれないが、医療従事者たった一人の不注意が、その医療機関の屋台骨を揺るがすことにもなりかねない。
「慣れ」ほど、怖いものはない。常に、人の命と生活を預かる職に就いている意識を持って、安全と質の向上に努めていくのが医療人としての使命ではないかと考える。

尚、今回の内容は、新人看護師向け医療安全研修の内容から抜粋してお話をさせていただいた。少しでも皆様のお役に立てれば幸いである。

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