平成27年10月
-病院に関係する様々な制度の施行や変更(1)-

2015年11月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

平成27年10月に行われた病院に関係する様々な制度の施行や変更について

今回は、平成27年10月というテーマでお話をしたい。
皆さん既にご存知の通り、10月から様々な制度の施行や変更が行われた。

その筆頭と言われるものは、「マイナンバーの通知カードの発送開始」であろう。各方面からの情報によると中小規模の企業における体制がまだまだ不十分であり、医療機関においても準備及び体制の整備ができていないところが多いと聞く。特に、職員向けの研修については、個人情報保護の研修と重ねて、実施していない機関も多いようである。この件については、次回開催予定の1月のセミナーで、「医療機関職員向け:マイナンバー制度における注意点と個人情報保護に関する研修会支援(仮)」と題して、講演をさせていただきたいと考えている。

その他、10月からの変更点として主なものを挙げると「厚生年金保険料率の引き上げ(0.354%引き上げられ、標準報酬の17.828%となる)」、「新最低賃金の適用」、「改正労働者派遣法の施行(派遣者の1職場労働期間が3年まで)」、「公務員の共済年金と会社員の厚生年金の一元化」などがあり、その他にも「火災保険料の引き上げ」や「3万円以上の領収書のスキャン保管での承認」などがある。

そんな中、医療関係という観点から注目したいのは、病院や診療所で起きた患者の死亡事故の原因を究明する「医療事故調査制度」のスタートと「特定行為に係わる看護師の研修制度」の施行である。

医療事故調査制度とは

医療事故調査に関しては、医療法第六条の十から「当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものが発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び状況、その他厚生労働省令で定める事項を第六条の十五第一項の医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。」とある。

従って、事前に予期できたもので、説明済みのものや診療録に記録されていたものは対象とはならない。
該当事例が発生した場合においては、医療事故の判断⇒遺族への説明⇒センターへの報告⇒調査開始(院内調査)⇒遺族への結果説明⇒センターへの報告といった手順を踏むこととなる。院内調査においては、支援団体に必要な支援を求めることも可能である。

大学病院を始めとした基幹的医療機関においては、第三者機関の支援を得て、これまでも行われてきたことではあるが、その範囲が診療所を含む規模まで拡大されることによって、医療事故調査制度の目的でもある、「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」が大きく推進されることとなる。そのため、今後全ての医療機関において、しっかりとした医療事故調査体制の構築が必要となる。一般的には、院内の医療安全委員会において、医療事故が発生した場合は、院長が委員長となり、医療事故安全調査会が発足という段取りになっていると思われる。

これらの件について、筆者が感じていることは、果たして本当に中身の伴った体制になっているかである。今回の医療事故調査制度の内容を読み込んでみると、これら全ての意味を理解し、体制を構築している医療機関は少ないのでないかと感じている。予期しなかった死亡の定義から医療事故調査・支援センターへの報告体制など、院内体制の見直しやマニュアルの改訂等、医療機関が速やかに取り組まなければならないことが数多くある。

その中でも注意が必要と思われる点は、一部の医療安全関係者(もしくは担当者)だけで体制等を構築してしまい、院内の医師及び看護師、診療技術者に対しての説明と教育・研修がおろそかになっていないかという点である。もちろん、既に院内研修会として、「医療事故調査制度における概要と医療安全の推進」なる勉強会を実施されている医療機関もあるであろうが、現実、複数の医療機関にヒアリングと確認をした印象からは、まだまだ準備と構築が不十分であるという印象が強かった。院内医療事故調査手順についても不足が見られ、改訂が必要なマニュアルも散見された。特に、200床未満の医療機関においては、その傾向が顕著であった。

今後、ますます重要性を増す「医療安全と感染対策」に向けて、更なる体制の強化が求められていることを再認識したうえで、速やかな体制の構築を実施されることを推奨したい。もう一つの「特定行為に係わる看護師の研修制度」の施行については、紙面の都合上、次回へと持ち越させていただきたい。
少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。

※ 医療事故調査制度における保険としては、日本医師会が全ての診療所と100床未満の病院を対象に、医療事故調査制度に伴う「院内調査費用保険」を創設し、また、全国公私病院連盟が、損保ジャパンを引き受け会社とする「医療事故調査費用保険」の販売を行っている。

※ 余談ではあるが、先日の財務省財政制度等審議会の分科会において、「かかりつけ医以外を受診した場合の定額負担を求める制度の導入」という記事があった。国の思惑が一向に進まないための制度変更であろうが、その記事の中には、7:1の厳格化や民間医療機関の病床削減命令(今までは、要請)があり、2025年へ向けて、強く本格的な実力行使の姿勢が垣間見られる。次年度の診療報酬改定は、これらの意向をくみ取った形となるであろう。十分な情報収集と早期の体制及び方針の確立が必要不可欠である。

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