平成27年10月
-病院に関係する様々な制度の施行や変更(2)-

2015年12月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

はじめに

前回は、平成27年10月から施行及び変更が行われた様々な項目の中から医療分野に関係する内容の一つとして「医療事故調査制度」についてのお話をした。今回は、もう一つの「特定行為に係る看護師の研修制度」についてお話をしたい。

特定行為に係わる看護師の研修制度とは

厚生労働省によると「2025年にむけて、さらなる在宅医療等の推進を図っていくためには、個別に熟練した看護師のみでは足りず、医師又は歯科医師の判断を待たずに、手順書により、一定の診療の補助を行う看護師を養成し確保していく必要がある。このため、その行為を特定し、手順書によりそれを実施する場合の研修制度を創設し、その内容を標準化することにより今後の在宅医療を支えていく看護師を計画的に養成していくことが本制度創設の目的である。」とある。

※ 手順書:医師又は歯科医師が看護師に診療の補助を行わせるためにその指示として作成する文書であって、看護師に診療の補助を行わせる『患者の病状の範囲』及び『診療の補助の内容』その他の事項が定められているもの

※ 診療の補助:例)脱水時の点滴(脱水の程度の判断と輸液による補正)等

そもそも特定行為とは「診療の補助であって、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解度、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるもの」であると示されている。下記にその内容の一部が掲載されているので、ご参照いただきたい。

看護師の特定行為に係る研修制度に関するリーフレット(厚生労働省)より抜粋

看護師の特定行為に係る研修制度に関するリーフレット(厚生労働省)より抜粋

※9月の「医道審議会看護師特定行為・研修部会」において、気管挿管除外され、14区分41行為から21区分38行為に変更がなされた。

現状でもそれと同等の行為が行われているが、その実情は、標準化された手順書に基づいたものではなく、医師の指示の下、今までの経験に基づいた行為であるケースが多いように思われる。

では、この制度に関する現場の反応はどうなのであろうか。各方面への情報収集を行っていた際、医師を対象とした調査で、56%の医師が現場の看護師に特定行為研修を受講してもらいたいとの結果が掲載されてあった。その反面、必要ないが20%、制度そのものを知らないが24%であった。診療サイドの大半が看護師の支援を期待しているようである。

また、何人かの看護部長にこの特定行為研修制度についての意見を求めたところ、「受講させたいのはやまやまだが、研修制度にかかる研修時間が長く、スタッフ配置等での調整ができない(看護師が足りていないを含む)」が大半であった。

研修制度の受講には、共通科目315時間、区分別科目15時間から72時間の研修が必要であり、概算で3か月から6か月が研修期間となる。また、「新たな資格を取得できるわけでもなく、診療報酬上のメリットもないため、この制度そのものが一般の医療機関に浸透するかどうかにも疑問が残る」との意見があった。

とはいえ、患者の診療行為を行う上において、看護師の役割は非常に重要である。特定行為の研修を受け、看護と治療の両面から患者にかかわることができる看護師の育成は、今後の医療現場においても診療の効率性に向上をもたらすことが期待される。ただし、診療サイドの適切な理解と協力が得られない場合は、看護師の負担が増すばかりで、何の向上にもつながらないことを付け加えておきたい。

診療と看護及び診療支援の三位一体がよりよい医療の提供をもたらすことは言うまでもないことである。この制度は始まったばかりで、まだまだ、制度に対する関心や対応の格差が大きい状況ではあるが、今後、診療報酬上の配慮やしっかりとした資格制度の導入などが検討され、実行されることを望みたい。

参考までに、厚生労働省からこの制度のQ&A(注1)について掲載がされていたので、末尾にリンクを記載させていただいた。

2025年に向けて、今後も様々な改革や制度の変更が実施されていく。今月には、2016年の診療報酬の改定についての素案も固まるであろう。マイナス改定が既定路線の中、益々、経営が厳しい状況となる可能性がある。各医療機関は、自院の置かれた環境と今後のビジョンを早期に設計し、素早い実行が重要となる。

データの分析と活用が重要

最後に、今回のテーマとは関係ないが、最近の医療機関の経営に関する印象から、データの分析と活用の重要性を強く訴えたい。

しっかりとしたデータの整備と活用ができていない医療機関が多いのである。
体系・区分が整ったデータマスタになっていない、抽出したデータの信憑性を検証していない、どこに何のデータがあるかを一括して把握している部署がない、院内データの一括管理ができていない等、各科管理で各科・各システム任せである。そのため、分析を行う際にデータ収集から分析までに余計な作業と時間を要している。

また、データの活用においては、通り一遍のデータを毎月提出しているだけで、意味のある討議が出来ていない。
現状把握⇒分析⇒問題点の抽出⇒解決策の検討⇒解決方法の実施⇒結果の検証、このすべてを継続的に実施することが重要である。今後益々データ分析と活用が重要となってくる。そのためにもしっかりとしたDWH(データウェアハウス)の構築と活用を推奨したい。

機会があれば、この件についての構築及び活用事例についてのお話をしたい。
少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。

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