病院経営セミナーについて(1月開催分)【後記】
2016年3月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

病院経営セミナー(1月開催分)について

今回は、2016年1月に開催された病院経営セミナー2016のセミナー後記としてお話をしたい。

今回のセミナーは、各会場において、以下の内容にて行われた。

  • 1月20日(水):大阪会場、1月21日(木):名古屋会場
    「地域包括ケアシステム時代におけるICTの上手な活用方法~医療・介護の効率的な情報連携を目指して~」
    社会医療法人 高橋病院 理事長 高橋肇氏
  • 1月22日(金):東京会場
    「中規模病院におけるオーダリングから電子カルテへの移行事例~現場がリードした導入準備から1年後のバージョンアップ奮闘記~」
    東宝塚さとう病院 看護部 統括部長 山田聡子氏

筆者自身は、各会場にて「医療機関におけるマイナンバーと個人情報保護に関する研修会支援~院内研修会:個人情報保護と情報セキュリティーの重要性~」について講演を行った。近年、個人情報保護という観点から“守る”事の重要性が高まってきている。しかしながらその現状は、個々人における意識の格差が大きく、漏洩問題が後を絶たない事実がある。そこで、改めて院内における個人情報保護の重要性を認識していただく事と、研修会に活用いただける内容と資料の提供を目的にお話をさせていただいた。

院内における個人情報保護の重要性

主な内容として、マイナンバーと医療番号制度については、概要から個人及び事業者における取り扱いにおける注意点や社会保障・税番号制度におけるQ&Aの項目を解説した。併せて、昨年末に発表された「医療等分野における番号制度の活用等に関する研修会報告書(概要)」についての話をさせていただいた。

医療番号制度については、まずは、オンラインでの資格確認から始まり、その後、個人の健康情報等に関するポータルへと進化していく予定である。医療に関してもマイナンバーとは別の番号での管理が平成30年から行われることになった。この件については、今後も機会を設けて情報の提供や解説等をしていきたい。

個人情報保護と情報セキュリティーについては、各医療機関にて個人情報保護委員会等の主催で、毎年、研修会が開催されていると思うが、その実施例のひとつとして、具体的内容(質疑等)を入れて研修会を行う事例をお話しした。

紙面の都合上、全てを記載することはできないが、一つの例として、「個人情報の漏洩が発生した場合、従業者も個人情報保護に基づき罰せられるか」という問題に対し、回答は、「罰則はない。個人情報保護ではなく、刑法及び各資格法における守秘義務違反での罰則となる」である。こういった内容を質問形式での研修を行うことで、意識の向上が期待できる。いくつかの医療機関でも同様の講演を行ったが、全てを承知している職員は、ほとんどいないのが現状であり、改めて認識を深めたという感想もあった。

その他、医療情報システムにおけるチェックポイントやインターネットセキュリティー(ウイルス対策等)についてのお話をさせていただいた。これらに関する定期的な研修会は、個人情報保護規定の遵守という観点からは必須事項であり、この機会に様々な情報を職員に提供し定着を図ることが、“守る”という観点からも重要な事項であるということを述べておきたい。

実際の医療現場におけるICT導入に関する取り組み

今回のセミナーは上記の通り、実際の医療現場におけるICT導入に関する取り組みについての講演が行われた。その中からいくつか記述したい。

まず、地域包括ケアシステムについてであるが、講演の中に、「今後の視点のひとつとして、自院のことだけを考えていると点数が落ちる時代である。医療側と介護側の連携が必要である。」との話があった。以下、要旨を記載する。

要旨

シームレスな医療介護連携が求められて久しいが、その基盤となる情報共有は思った以上に進んでいない。情報連携を阻害する要因を把握し理解した上で、情報共有を円滑化するためには何を行えばいいかを考えなければならない。どこに住んでいてもその人にとって適切な医療・介護・生活支援サービスが受けられる「地域包括ケアシステム」を実現するためには、生活者の視点に立った上で医療・介護双方からの情報発信をわかりやすく可視化することが求められる。予防も含め、医療と介護がその垣根を超えるためには、EHRとPHRが統合した“生涯カルテ”の開発が望まれる。

今後は、「地域医療構想策定」の方針に基づき、各所で様々な連携が必要となってくる。その中で、自院の機能を高めることはもちろんのこと、生活支援という観点からのネットワークの構築も重要なポイントの一つであると考える。

また、同じ講演の中で、ウエアラブル・ロボット・人工知能等についての話もあったが、まさしくこれからの時代は、医療・介護・生活支援のサービスにおいて、システム化が急速に進んでいく時代となる。すぐに形になるものから時間がかかるものまで、様々であろうが、常に、情報収集とシミュレーションを怠らないことが重要である。

その他、電子カルテの導入についての話があったが、ここでも興味深い話があった。それは、電子カルテ導入後の成果を考えていくことである。現状は、導入に関しては、積極的な検討や準備が行われているが、導入後の評価については、実施されていることが少ない。今後、医療情報システム全体に求められてくることは、導入後の評価と監査である。

システムはお金を生まない、導入効果を見出せない、明確な効果が不明であるということが、まだ言われているところがある。それは、間違いである。導入後にきちんとした評価と改善をしていないことが大きな問題であるという認識を持つ必要がある。例えばインシデントアクシデントの件数及び内容(レベル)の変化でもよい。必ず、何らかの効果は上がっているはずである。それを数値化し、費用化することで、医療情報システム導入の効果が見いだせる。是非、各医療機関において実施していただきたい項目のひとつである。

今回は、病院経営セミナー2016のセミナー後記としてお話をした。少しでもお役に立てれば幸いである。

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