医療機関における統計データの活用に関する考察(3)
2016年11月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

室料差額データの分岐がもたらした効果

今回も、「医療機関における統計データの活用に関する考察」としてお話をしたい。

医療機関には、様々なデータが存在する。診療データから看護、薬品、放射線、検査、物品、会計、経理、その種別は数多くあり、各種データが持つ意味や意義も多岐にわたる。その中から今回は、データの二次利用に関する事例として、室料差額データの分岐がもたらした効果(意識改善と収入アップ)について、お話をしたい。

近年、病院の老朽化に伴い建て替えが多く発生している。その中で、急性期の医療機関を中心に、個室対応の病室を増やす医療機関が増加している傾向がある。患者のアメニティー向上を図る目的と医療機関独自の特徴を明確に打ち出すことでの施設としてのステータスアップによる集客効果を見込んでのことであろう。全室個室の病院も多くなってきている。

この件については、看護師側からは、患者のケア・観察が煩雑になり、業務負荷が大きくなるため当初は反対の声が多く聞かれたとの話を聞くが、実際にその後の現場の声を聴くと多少の負荷はあるが、当初の想定よりも大きくなく、患者のプライバシーを尊重することができるため、患者のためにはとても良いという話もあった。

では、収益的にはどうであったのであろうか。室料差額を支払ってまで個室を選ぶ患者はどのくらいいるのだろうか。当然、個室を増やすことに対して、事前にシミュレーションは実施しているであろうが、その想定と実際の結果は?

今回、実施から16か月を経過した医療機関協力の基、そのデータを分析してみた。開設当初の室料取得割合は、全体で79.5%であった。それが、1年後には、85%まで増加した。特出すべきは、当初49.1%であった病棟が、68.2%まで引き上げたことにある。

その原因は、室料差額についてのデータを各病棟担当師長及び入退院管理室に提示したことが大きな要因となった。病棟の特性や患者の状況によって、一概には言えないのだが、担当する職員の意識も影響がないとは言えないと思われる。実際に、現場の話では、減免についての報告意識が変わったという。室料差額の取得金額とその理由ともなる減免申請書の提出及び内容を明らかにすることで、きちんとした分析可能なデータが取得できるようになったとのことである。

それまでは減免理由もなく、担当者の采配のみで金額が決められていたことがあったらしい。各医療機関によって、減免の理由は、治療上の問題、看護上の問題、感染症や差額なし室の埋まり具合等、多種あるであろうが、患者第一主義は守りつつも病院経営に寄与できる意識も重要である。

医療機関におけるAI(人工知能)利用について

前回は、放射線機器についての分析をお話ししたが、最近は、AI(人工知能)が医療機関でも活発に開発・利用されるようになってきている。そのために必要な正確なデータを整備することが、今後の病院経営や診療の質の向上に寄与できる重要なファクターのひとつとなる。

例えば、先日のホスピタルショウでも展示されていたが、AIを活用した病名予測等も研究されていた。今後、更なる進化や活用の幅が広がる時代となるだろう。

先日、NECのAIについて、お話を伺った。NECでは、機械学習の分析技術として、4つの独自分析技術があるという。

  1. 入力した情報にマッチする対象を最適に提示するRAPID機械学習
  2. 異なるパターンや規則を自動で発見する異種混合学習
  3. 相関関係を自動で発見し、いつもと違う挙動を発見するインバリアント分析
  4. 2つの文章が同じ意味を含むかを判定できるテキスト含意認識

特に、筆者が関心を抱いたのは、異種混合学習とインバリアント分析である。医療情報を活用して、どのようなパターンや規則を発見できるのか、その他にどのように病院経営や現場改善に活用できるのか、興味は尽きない。
(医療情報の可視化を行い、データの定量化や改善に役立てるための結果をAIがどのように判断するのか、それらをどう生かせば、標準化されたデータとして活用できるのか、興味は尽きない。)

今後、間違いなく医療の業界にも、AIを活用した診療行為や看護、病院経営への貢献の波はやってくる。少しでも早く一般が利用できるツールとして、広がることを願っている。

最後に、来る11月17日(木)に九州ホスピタルショウにて、講演をする機会をいただいた。「医療機関におけるデータの二次利用」についてお話しする予定である。
少しでもお役に立てれば幸いである。

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