医療経営戦略セミナーについて
～看護師不足対策なんてない。みんなの幸せをめざします。～（高知開催分II）
2017年1月

今回は、2016年11月に開催された医療経営戦略セミナーについてお話をしたい。
前回、筆者の講演内容についてお話ししたが、今回からは、他お二人の講師の講演の中から、「看護師不足対策なんてない。みんなの幸せをめざします。」、「データを読み・解く」について、お話しする。

まず、「看護師不足対策なんてない。みんなの幸せをめざします。」では、病院の専務理事がお話をしたのであるが、その信条の1つ目は、「物事を成功に導くためには、複数の目的を持った仕組みを作ったり行動したりすること。」だそうだ。その理由のひとつとして、効率的であること。更には、仕組みや制度においては、複数の層が喜ぶものであれば、反対者は少なく、賛同者は多くなる。ということである。そして、信条の2つ目が「いろんな制度や仕組みには、必ずメリットがあり、また必ずデメリットもある。そのバランスが大切」ということである。

病院の現状としては、看護師不足の状況（新規採用ができない、高齢者の中途採用に頼る）が続いており、問題解決の優先事項としてとらえられていた。主な辞める理由としては、人間関係、スキルの問題、育児等の家庭の問題、自分の人生の先が見えない、ストレスの問題、などがあり、それらを解決するために以下の対策に取り組んだ。

理由・原因の解決

人間関係の改善、メンタルヘルス対策の充実、子育て・介護支援、資格取得の支援、短時間正社員制度の導入、先行目的を与える

人間関係の改善

防止規定（パワハラ、セクハラ、いじめ）の策定、禁止・根絶宣言、接遇委員会の徹底（相手への敬意の啓発）

• メリット：いじめ・パワハラはなくなった。患者への言動も改善。
• デメリット：管理者のストレスは大きくなった。（業務で叱っても良いが、感情的になってはいけない）一部のいじめが地下に潜った可能性もある。

メンタルヘルス対策の充実

「こころの相談窓口」設置（カウンセリングの実施）、週一度予約制で実施（外部の看護資格者に依頼）、心療内科につなぐ（院内）

• メリット：早期対策が可能（回復が早い）、うつ病による長期休職が少ない。
• デメリット：カウンセリングを拒否することもあるため、全面解決は難しい。処方薬に依存する気持ちが残る可能性があり、時間がかかるケースもある。

多重債務者への救済・財務面の支援

退職金の範囲内で病院が肩代わりする。毎月の給与から分割返済型を設置。教育資金・生活資金の貸付を支援。

• 目的：不祥事への誘惑から職員を守る。
• メリット：退職者の減少、不審な電話がなくなった。
• デメリット：貸付金の焦げ付きリスクは残った。

事故・苦情・トラブルへの対応窓口の明確化

報告義務の徹底、報告メモの採用、窓口を1本化。目的：病院としての対応、個人が責められることを防ぐ。

• 注意事項：必ず報告、窓口の一本化、原因を分析するアプローチ（原因究明の重要性）。
• メリット：情報の共有化、職員ストレスの減少、患者からの評価のアップ。
• デメリット：報告作業が増加、職員の意識の欠如が増加（自己責任の希薄さ）

短時間正職員制度の導入

出産・育児や介護のために休職された看護師等の家庭と両立して働くための制度であり、職場復帰や資格取得を支援する制度。身分は正社員で、賞与・退職金制度あり。

• 目的：子育て・介護用の制度（退職者の引き止めに役立つ、潜在有資格者の確保）、資格取得用の制度（奨学金制度とのセットで将来の人材確保、資格取得による昇給・昇格への道筋）
• メリット：人材の確保が容易になった。モチベーションが上がった。
• デメリット：病院の資金繰りに多少の影響、勤務構成等で管理職への負担が増加等

まとめ

働くあなた方を大事にする。あなた方に幸せになってもらいたい。働きやすい職場を作りたい。
⇒看護師不足対策なんてない。みんなの幸せを目指します。

• 働く者が幸せなら、人は集まる。
• 働く者が幸せになる職場を作るには、必要なもの ⇒ 経営の覚悟が必要

各医療機関が職員の確保のために様々な制度や取り組みを行っていると思うが、成果が出ている実例として、とても参考になる講演であった。

今回は、医療経営戦略セミナーでの講演内容についてお話をした。事例の報告の中には、多くのヒントや方法が示されている。各医療機関において、活きた情報として、ご活用いただけるのではないかと考える。次回は、もう一題の「データを読み・解く」について、お話ししたい。少しでもお役に立てれば幸いである。