医療セミナーについて(1月開催分)【後記Ⅰ】
2017年3月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療セミナー2017

今回は、2017年1月に開催された医療セミナー2017のセミナー後記Iとしてお話をしたい。
今回のセミナーは、各会場において、以下の内容にて行われた。

  • 1月25日(水):大阪会場【新病院へのステップアップ 電子カルテ導入事例 - 電子カルテシステム導入達成はゴールではなく、業務改善へのキックオフ -】
    医療法人社団御上会 野洲病院 常務理事 事務部長 小川 栄次 氏
  • 1月26日(木):名古屋会場【戦略的投資としての電子カルテ・DACS導入と業務改善について】
    医療法人社団さくら会 世田谷中央病院 法人管理部 部長 大森 均 氏
  • 1月27日(金):東京会場【中規模病院における電子カルテシステム導入経験】~導入後、各部門で実施したアンケートから~
    長生郡市広域市町村圏組合 公立長生病院 副院長 小笠原 明 氏

筆者自身は、各会場にて「ペーパーレス化による院内業務の改善と効率化に関する考察~文書管理の在り方とその重要性~」について講演を行った。

主な内容としては、院内文書における現状、院内帳票の整理の仕方、ペーパーレス化における事例、マニュアルの在り方と活用に関する注意点、文書管理システムの解説等についてお話しした。

その中でも最初の問題点として挙げられるのは、院内文書の在り方である。院内における文書の整理という観点から、各部署独自で文書が作成されていることがあり、しかも管理が不十分の状態である点が認められる。また、院内帳票の一元管理ができておらず、全体を把握している部署がないなどの問題が大きい。さらには、院内文書管理規定等がない医療機関も多く存在しているため、一定の文書管理ができていないケースも目立つ。同じ文書が複数存在していて、利用についての整理がついていない状況等も見られる。

そこで、院内帳票についての整理の仕方の基本として、まずは、各部署から収集した文書に対してのナンバーリングから始めることを推奨する。初診や経過記録等の分類コード、システムからの出力などの出力(使用)区分コード、部署統一通しコード、初期作成年月日等、文書ごとに一目でわかるようなコード体系が望ましい。これらの作業だけでも大変なボリュームではあるが、一度整理しておけば、院内の文書一元化にも役立ち、しいては、機能評価で求められている項目の達成にも役にたつ。

その他、システム導入時における準備方法の違いからペーパーレス化の結果割合が変化した事例や実際の医療機関で行ったペーパーレス化への事例(考え方や方法)についてもお話をしたが、これらの件の詳細は、機会があれば改めて記述したい。

電子カルテ及びDACS(診療記録統合管理システム)の導入事例

今回のセミナーは上記の通り、各会場にて導入事例を中心とした内容で、電子カルテ及びDACS(診療記録統合管理システム)の導入について、各医療機関の取り組み方法や様々な工夫、検証等に関しての講演が行われた。
今回の講演の中から、いくつかのキーワードについて記述したい。

  • A:電子カルテシステム導入達成は、ゴールではなく、業務改善へのキックオフ
  • B:失敗をして、5年後10年後につながる経過の道を歩んでいる
  • C:電子カルテシステム導入後の効果と問題点

A:電子カルテシステム導入達成は、ゴールではなく、業務改善へのキックオフ

「業務改善へのキックオフ」この言葉は、院内体制の改革等においても、とても重要なキーワードの一つである。電子カルテの導入に限ったわけではないが、病院機能評価の受審やその他のシステム導入・更新等のイベントは、現在の運用を見直す良い機会であり、悪しき習慣からの脱却とともに業務の効率化を推進することが可能となる。

このキックオフを最大のチャンスととらえ導入を行う姿勢は、とても重要なことであると考える。以下、講演の中からキーワードとなるいくつかの内容を列挙したい。

新システム導入のコンセプト

  1. 新病院移転建設に準拠するシステム構築(3年後へのステップアップ)
  2. オーダーから電子カルテへ全職員の医療情報共有化による意識改革
  3. 現病院段階での業務改善と新病院建設時システム構築の見極め
  4. 選定検討は、現場業務担当者レベルで行い、導入意義、対費用効果等を認識し選定する
  5. 導入検討は慎重かつ明確に、導入期間はできるだけ迅速・短期間に

ベンダー選定から本稼働までのキーポイント

  1. システム導入・更新は院内業務見直し、改善への最大のチャンス
  2. ユーザー目線で現場の課題を理解し、パッケージシステムとの妥協点を見出す
  3. ベンダー(システム業者)担当者と院内導入担当者の意思疎通が不可欠

新システム導入6か月後の検証

  1. 外来診療部会(導入前運用との比較、検討時判明できなかった事象検証等)
  2. 入院診療部会(端末使用状況検証、医師記録統一化検証等)
  3. 看護支援部会(看護記録及び看護汎用オーダー検証等)
  4. 医療支援部会(付箋機能検証、導入前後業務比較検証等)
  5. 医事事務系部会(レセ算定漏れ検証調査、修正依頼検証等)

新システム導入から今後の展開

  1. 導入システムの1年後検証及びシステム活用提案
  2. システム導入から業務改善へのさらなる展開
  3. 医療情報システムの新たな活用戦略
  4. 新病院医療情報システム構想への実施計画策定
  5. 新病院移行を見据えた医療情報資源蓄積
  6. 介護事業システム化のさらなる強化(ステップアップ)

まとめ

平成32年開院予定の新病院へ向けて、現状の把握を行い、改善を強力に推進していく姿がよく理解できた。また、業務改善の方法等についても詳細に解説されたため、他の医療機関にとっても大変役に立つ内容が数多く盛り込まれていたのではないだろうか。民間病院の組織変更を経て、公的病院への転換を実現する。電子カルテの導入を機会に取り組まれている業務改善の過程と実現において大変興味のあるお話を拝聴できた。

今回は、医療セミナー2017のセミナー後記Iとして「A:電子カルテシステム導入達成は、ゴールではなく、業務改善へのキックオフ」を中心に記述した。次回は、セミナー後記IIとして、「B:失敗をして、5年後10年後につながる経過の道を歩んでいる」と「C:電子カルテシステム導入後の効果と問題点」について、記述したい。少しでもお役にたてれば幸いである。

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