職場におけるパワーハラスメントについて考える(第1回)
2018年6月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

はじめに

今回からは、最近メディアでも数多く取り上げられている「パワーハラスメント」について、お話をしたい。筆者自身も数多くの医療現場に出入りする中で、そんな場面に遭遇することもあったが、内容については、事例として後記する。

さまざまなハラスメントの定義

まずは、一般的な定義について記載したい。

そもそもハラスメントとは、何を意味するのかというと、「苦しめる、悩ませる、困らせる、攻撃する」行為を意味する。また、「いじめ」との相違は、意図についての有無は問わないという点である。ここで、ハラスメントの種類について記述する。一般的には、次の3つであろう。

1.パワーハラスメント

同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。(厚生労働省ホームページより抜粋)

2.セクシャルハラスメント

職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したり抵抗したりすることによって解雇、降格、減給などの不利益を受けることや、性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じること。(法務省ホームページより抜粋)

3.モラルハラスメント

主に言葉や態度によって、巧妙に人の心を傷つける精神な暴力。身体的暴力だけでなく、無視などの態度や人格を傷つけるような言葉など、精神的な嫌がらせ・迷惑行為を含む。(モラルハラスメント対策室ホームページより抜粋)

それ以外にも、マタニティーハラスメントやキャンパスハラスメント、アルコールハラスメント等、いくつものハラスメントがあるが、基本は、先に記載した定義全般に係る行為すべてが適用される。

パワーハラスメント

その中で、今回は、「パワーハラスメント(以下、「パワハラ」という。)について、記述したい。

まずは、何がパワハラになるかというと、正当な業務の範囲内なのか否か、社会的・職場的に相当な範囲なのか否か、権利を侵害しているか否か、損害が発生するか否か、故意過失があるか否かなどの不正行為に当たるかどうかである。その中で、暴行などの身体的攻撃があったのか、暴言等の精神的な攻撃があったのか、無視などの人間関係からの切り離しがあったのか、実行不可能な仕事の強制など過度な要求があったのか、逆に能力とかけはなれた容易な仕事を命じられるなどの過少な要求があったのか、家族や家庭のことについて私的なことに過度に立ち入る個の侵害があったのかなどがある。

実際に、皆様の周りではどうであろうか。このくらいは問題ないというか無意識の中でパワハラと呼ばれる行為は、行われていないであろうか。特に、昔ながらの気質や慣習が染みついている人は、特に注意が必要である。昔とは違うのである。今は、上司から部下に対してだけでなく、先輩や後輩、同僚及び部下から上司に対しても配慮が必要な時代となっている。

また、従業員調査の結果を見ると、過去3年間にパワハラを受けた経験があると回答した比率は、平成28年度では32.5%と、平成24年度の25.3%を大きく上回っている。この数字の変化は、単に関心が高まっただけではなく、メンタルヘルスの不調を訴える従業員の増加にもつながり、しいては、優秀な人材の損失及び企業・団体の不利益にもつながることが考えられる。

労働局への相談件数も年々増加の一途であり、パワハラに対してより慎重な発言や態度が重要となっている時代である。厚生労働省の調査によると、3年前と比べたパワハラの相談件数が、増加した(または変わらない)と回答した企業が約30%あったということである。これは、実際問題として、パワハラに対しての意識の向上がもたらした結果であり、企業側は、相談窓口を設置するなどしての対応を強化しなければならない状況になっていると言える。平成28年度の調査結果では、パワハラの予防・解決のための取り組みに関し、「実施している」と回答した企業の比率は52.2%で半数を超えていた。その一方で、「特に取組を考えていない」の比率は25.3%であった。これも1,000人以上の企業が9割の取り組みに対し、100人未満の事業所では3割程度と格差が大きい事実がある。全ての企業において、パワハラに対して、社内・社外を問わず相談窓口を設置することや、研修会・講習会を実施する等、何らかの対策を講じる必要があると考える。

医療業界において

では、医療業界においては、どうであろうか。医療業界におけるパワハラも深刻な状況にあると筆者は感じている。職場の上司からだけでなく、医師や患者からのパワハラなど、多くの場面で様々なパワハラに遭遇する機会が多いためである。そのため、医療機関においても、慎重かつ積極的にこのパワハラ対策に取り組む必要があると考える。最近は、研修会や講習会を開いて積極的に取り組んでいるところも増えてきているが、残念ながら、研修内容が結果として結びついていない現状もまだ多く見受けられる。最終的には、個人の意識の問題かもしれないが、組織をあげてこの問題に積極的に取り組み、より良い職場環境の構築に努めていく必要がある。それらの取り組みにより職場環境が良化し、優秀な人材の流出を防ぎ、組織の成長と確立に寄与することとなる。

次回もパワーハラスメントについて、事例を交えて記述したい。少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。

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