病院におけるペーパーレス化事例と病院機能評価での重要性
病院内業務のペーパーレス化による改善と効率化に関する考察(第2回)
2019年3月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

病院におけるペーパーレス化事例と病院機能評価での重要性

前回、以下の項目について記述したが、今回は、病院のペーパーレス化について、実際の導入事例を中心に記載する。

前回項目

  • 院内文書の管理に関する現状
  • 院内文書の整理の仕方
  • システム導入時における文書振り分けについて
  • 院内文書のシステム化に関するデータ例

病院導入事例

下記は、文書管理システムを導入した病院におけるフェーズ毎の主な作業内容である。

構築フェーズ:導入ベンダー決定前

1.方針決め

システム更新にあたり、原本を「紙」「電子」「紙と電子の併用」のどの区分とするのか。さらに、電子媒体を原本にする場合、スキャン後の紙の保存方法はどうするか等の方針を定める必要がある。

※ 当該医療機関は、電子カルテの更新に際し、ペーパーレス化したいという方針から、文書管理システム(タイムスタンプ付)の導入を決定。それに伴い、スキャン後の紙の管理方法も患者フォルダでの保管から、スキャン実施日ごとの段ボール保管に変更した。

※ 方針決めの必要性としては、運用方法に合わせてシステムの導入レベルを検討・決定するためである。

構築フェーズ:導入ベンダー決定後

2.院内の紙文書の洗い出し

「分類」「文書名」「発生場所」「現行運用」「次期運用(現場での参照方法、スキャン取り込み[取込場所、タイミング、ツール、原紙一定期間の保管等])」を整理した。

※ ここでの洗い出しは「説明同意書」「診断書」のレベルで行い、スキャン運用の整理のために実施。電子化のための細かい文書の洗い出しは別途行った。

※ 次期運用の整理とは、スキャンを「どこで」「どのシステムに」「どのタイミングで」「どのように取り込み」「最終的にどのように閲覧するか」を決めるものである。

※ 分類(格納先)の必要性は、担当者によって電子データの格納先(分類場所)がまちまちとならないようにするため、ここで決められた紙の文書分類に従って現場が仕切り紙を出すことで、スキャンした後に統一したデータフォルダへの格納を実現させるものである。

3.運用決め

ベンダー決定後、スキャン方法については、文書管理システムを活用した直接スキャンとなったため、それに従って運用方法を整理した(ここでは、外注検査結果など、各部門でシステムに取り込むものは考慮していない)。

(1)仕分け

  • 一次元バーコード文書:まとめてホッチキス止め
  • 二次元バーコード文書:仕切り紙を出してホッチキス止め
  • 地域連携文書    :搬送シートに患者ラベルを貼りホッチキス止め

(2)搬送方法

それぞれの紙文書を1患者1フォルダにまとめ、診療録管理室(スキャンセンター)に送付。

(3)送付時間

午前中の分は午後まで、午後の分は翌日朝までにまとめて送付。

※ 上記手法については、プロジェクト会議で運用を承認後、クラークへの研修を行い、手順の統一化を図ったものである。

※ ペーパーレス化を推進するために必要な文書管理システムの機能によっては、院内の運用が変わることがあることから、事前に決めた方針に沿った運用決めが重要となる。

ペーパーレス推進のメリット・デメリット

文書管理システムの導入にあたり、ペーパーレス化推進のメリット・デメリットとしては、以下の事が考えられる。

1.メリット

  • 貸出管理の必要性がなくなった(カルテ以外)
  • 診療録管理室が開いていない時でも常にすべての情報が一元化されて閲覧が可能となった
  • 量的監査が簡素化された
  • 全ての職員が同じ情報をどこからでも閲覧可能となり、情報の共有化が進んだ
  • 紙保管の必要性がなくなり、管理スペースの有効活用が可能となった
  • 一時利用の幅が広がる⇒データのコピーができる(前回同意書複写新規が可能)
  • 内容の再入力の必要性がなくなった(文書作成機能を利用している場合)

2.デメリット

  • スキャン業務の負担が増えた(業務に追われるケースが多い)
  • 別途、文書管理システムが必要である
  • 事前準備におけるテンプレートの作成作業がかなりの負担となる

その他、システム導入にあたっての重要事項

  • スキャンについては、スキャンセンターで集中的にスキャンを行い、急ぎの文書等のみを各現場で分散的にスキャンする方が効率的である。
  • 作業の効率性を上げるためには統一的な運用が重要であり、そのためには、スキャン規程をしっかりと作成することが必要である。
  • 事前にスキャナ機器の性能(読取速度や解像度など)確認を行うことにより、より効率的な作業を実現させる必要がある。
  • バーコード文書については、その用途に応じた区分規定を整理し、文書属性の統一性を図っておくと後々便利である。
    <一次元バーコード文書>患者情報(ID等)及び保管場所をインプットする文書
    <二次元バーコード文書>仕切り紙を利用する文書(一次元の内容に加え、分類や文書名及びコメント等の各種情報を格納できるため、用途によっての使い分けが可能)

今回は、ペーパーレス化対策として、病院でのシステム導入事例を中心に記載したが、病院機能評価においても「文書の一元管理」に関する項目があることから、最後に、その概要を記述したい。

1.評価の視点

  • 病院として管理すべき文書が明確にされ、文書管理規程に基づき組織として管理する仕組みがあることを評価。

2.評価の要素

  • 管理責任部署または担当者
  • 院内規程、マニュアル等の承認の仕組み
  • 発信、受付、保管、保存、廃棄の仕組み

3.評価のポイント

  • 各文書が適切に作成され、承認されているかは、それぞれ該当する評価項目で評価し、本評価項目では、院内文書を管理する仕組みが適切であるかを評価。
  • 院内で使用しているマニュアルの一覧がなく、それぞれの改訂履歴が把握されていないなどは、本項目で評価。

4.C評価となりうる状況(例)

  • 文書管理規程に基づき組織として管理する仕組みがない。

まとめになるが、ペーパーレス化を推進する上で、文書の一元管理は必須である。その作業を効率的に行うためにも、事前の調査とシステム化は重要であると考える。

次回は、医療セミナー(後記)について記述したい。少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。

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